【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
田植えの時期になり、俺は各地を巡りながら正条植えをやられているか確認するが、普及率は五割程度。
やはりと言うかまだ俺の事を信用できてない農民は既存のやり方を貫き、俺に心酔している美濃から連れてきた農民達はほぼ全員が新しく割り振られた農地で正条植えだったり、小麦や大豆、蕎麦などの穀物類や野菜を俺の教えたやり方で行っていた。
今年、彼らが豊作になれば否が応でも農法は広がっていくことだろう。
農業による税収も収入の支えであるが、商人達がもたらす税収も馬鹿にできない金額である。
養蜂や米油、それから取れる副産物の蝋。
これらを領主である俺の専売とすることで莫大な富を稼いでいたし、最近では数を増やした豚や牛の売買でも利益を出している。
それに保護した旧朝倉の職人軍団の上納金に越前商人達からの上納金……これらが越前半国を治める俺の主な収益となっている。
これに将来的には密貿易の利益も出てくるだろう。
問題と言えば加賀方面の事だろうか……。
一度ボコったとは言え、まだまだ余力を残している加賀一向一揆。
これを倒すにはこちらの兵数が足りない。
なので俺は軍事改革を実行に移すのだった。
前世の俺は自衛隊で働いていた事があったし、織田軍で働く中で軍の命令系統を色々学んできたが、どれだけ素早く情報伝達をして、相手より有利な場所で戦うか……これに尽きる。
それをするには指揮統率を十分にしなければなならないし、何より素早く動かせる兵でなければならない。
朝倉、浅井との一連の戦闘で俺の直轄兵は5千ほど。
この将兵達を中核人材として育てつつ、有事の際に招集する足軽の質を上げていく必要がある。
俺は頭から軍事関連の記憶を引っ張り出してきて、どうすれば強い軍が作れるかを考えた時に、行き着いたのは鉄砲による集団戦であった。
競馬場を作って騎兵の質を上げる計画も進めているが、今の時代だとどうしても鉄砲の量と質での勝負になるだろうと考え、いかに鉄砲を揃えるかに意識が持っていかれていたが、ここでマリアこと松永久秀がストップをかけた。
「鉄砲は大量の火薬が必要になる。美濃で製造していたのは知っていたが、管轄が織田家に移った今、再び火薬の製造を始めると数年単位で生産することになるが、敵は待ってくれんぞ」
そりゃそうだ。
しかし、鉄砲は兵の質を上げるのに有効だと思ったが、そうなるとやはり馬産に力を入れた方がいいか?
俺が悩んでいると
「答えは歴史にある」
マリアは石弓と呼ばれる弓の設計図を見せてきた。
「日ノ本では石弓、大陸では弩と呼ばれる弓で、鉄砲が無い頃から大陸で使われておったのじゃ。鉄砲と共に日ノ本に伝わってきたが、鉄砲より威力が低く、射程も半分程度と短かった為に普及しなかったのじゃが、儂はこれに前々から目をつけていた」
マリア曰く利点として鉄砲よりも安全かつ、訓練時間が短く済むと言うのを挙げられた。
鉄砲の場合火薬の関係で、実際に射撃しての訓練は複数回行うことが出来ないが、石弓は主に木材で出来ているため、壊れなければ何回でも訓練をすることが出来るのである。
農民を弓兵として扱えるのは大きな利点だろう。
それに石弓は普通の和弓には連射性は劣るものの、鉄砲より素早く次の弓の装填をすることができ、構造を工夫すれば2発連射することも出来るのである。
鉄砲の様に爆音を鳴り響くことは無いが、それは馬へのストレスをかけなくて済むというのもあり、騎馬兵と組み合わせれば一撃離脱の作戦をスムーズに行えるのではないかと言われた。
「マリア……流石だね」
「兄弟が困っておるからのぉ……なに、老人の知恵じゃ」
「老人って……今若いじゃん」
「それもそうじゃな」
マリアが渡してくれた設計図を元に、一乗谷の木工職人に石弓の製作をお願いすると、10日もかからずに試作品が提出され、家臣達に意見を求めた。
「又兵衛様が動いていると知っていましたが、なるほど、石弓を製作していたのですか」
現物を色々弄りながら稲葉重通が言ってくる。
なんだかんだ菊八達や霧丸を除くと俺の家臣では古参である重通は三十歳を超え、武将として脂の乗っている時期に突入。
姉川の戦いや武田との戦闘でも部隊長として作戦指揮を執っていた。
「雑賀の僕としては鉄砲を使って欲しいのはあるんだけど」
「致し方なかろう。火薬の調達が難しいとなれば鉄砲だけを増やしても、訓練ができなければ最大限威力を発揮できないからな」
的場の不満に土橋守重はそう答える。
鉄砲の増産はしているが、現実的な運用可能な量は2500丁が限度だろう。
火薬の製造は勿論始めていたが、採取できるまで4年から5年かかる。
採取できるようになれば1万丁以上の鉄砲運用が可能になるけれど、どうなることやら……。
「又兵衛様が前に言っていた常備兵と言う概念。末端の兵も武士並みに強くなれば数倍の敵にも勝てると言うが、それには鍛錬が必須。訓練できない鉄砲より数が揃えられる石弓の方が役立つだろう」
島も納得しているらしく、俺が石弓を軍に導入しようとしているのに賛成らしい。
「又兵衛様、これを作るとなると、どれぐらい作れるのでしょうか」
熊部が聞いてきたので、今だと日産で3張、職人を増やせば日産20張にはなるだろうと説明する。
「恐らく秋にはまた一揆勢が攻めてくると思うが、そうなると揃えられるのは500張くらいか?」
「いや、職人を増やすのに時間がかかるから400張くらいになるだろう。優先するのは騎馬隊になるだろうが」
菊八の意見に俺が正確な数と運用方法を提示する。
まぁ秋の戦は農民を徴兵して兵数的には約1万5千、鉄砲1500丁、和弓2千張、軍馬千頭……そして石弓400張……一揆勢が数万と考えるとなかなか厳しい戦いになるだろう。
「そもそも本当に攻めてくるのですか? この前叩いたばっかりですよね?」
津田信澄殿が聞いてくるが、俺は必ず攻撃してくると断言する。
理由としては幾つかあるが、朝倉旧臣が一揆勢を煽っていること、一揆勢の指導者層が織田家と敵対を続けていること、それに俺が全体税率を下げたことで農民達が個々人で蓄える食料だったり金銭が増えていることが挙げられる。
加賀の一揆勢にとってそれは各地に散らばる宝箱に見えるだろう。
それにここ数年加賀での米の収穫量が安定していない事実もあり、今年の気候次第では食料を求めて攻撃してくるだろう。
俺としては上杉家が本腰を入れて一揆を殲滅しにかかる前に加賀を平定したいので、今年か来年には勝負を決めるつもりである。
そのためには攻めてくる場所を誘導して有利な土地に追い込み、殲滅するしか無い。
「正直、一揆勢を蹴散らせなければ、将来激突するであろう越後の上杉謙信とは戦うことも出来ないだろう。一揆勢には悪いが、色々実験相手になってもらおうぞ」