【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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長篠の戦い 中編

 織田、徳川連合軍の兵士達は夜のうちに馬防柵を建てたり、土塁の設置を急ぐ中、俺は自分の陣で家臣達と作戦を立てていた。

 

 今回連れてきた家臣は最近改名した島左近(島清興)、的場昌長、土橋一族、菊八と熊部、栗犬に与力の前田利家とその家臣達、あとは忍び頭の霧丸に津田信澄も居る。

 

 あと今回の長篠城救援部隊の隊長を務める酒井忠次もこの場に居てもらっている。

 

 加賀方面を守ってもらっている稲葉重通と政務組の武田恵瓊、大蔵長安、そして織田信道様も越前にてお留守番。

 

 勿論マリアこと松永久秀も今回の戦には来ていなかった。

 

「忍び衆が調べたところによるとここ長篠一帯の山々を北に抜けるか南に抜けるかで武田の警戒網を突破して後ろに回り込むことができそうですなぁ」

 

 島が地図に駒を置いて指示棒を手にどう軍を動かすべきか指示をする。

 

「酒井殿、この辺りに詳しい者はおりますか」

 

「ああ、この地に詳しい猟師が複数人居るから道案内は任されよ」

 

「となると問題は襲撃する時刻ですな」

 

 今回の戦、織田の各部隊が武田を釣り出さなくてはならず、釣り出して手薄になったところで長篠城を救援し、武田の退路を断たなくてはならないため、襲撃が早すぎれば武田の本隊とかち合ってしまうし、遅すぎれは武田が決戦を取りやめ、退路から逃げるか、長篠包囲に兵を戻してしまうかもしれない。

 

 俺達救援部隊のタイミングがこの戦いの戦局を左右するのである。

 

「本当に武田は釣れるのであろうか……」

 

 酒井忠次殿が不安を口にするが、俺は信長様の読みは当たっていると答える。

 

「武田信玄が三河戦役の陣中で没した際に家督は武田勝頼に譲ったらしいが、信玄は勝頼をあくまで陣代(中継ぎの当主)とし、嫡男の武王丸を後継者に添えたかったらしい」

 

 武田勝頼と家臣達の不和の原因は武田勝頼が代理の当主であると武田信玄の遺言で言われてしまっていたことや、武田家の子息は信の字を使う習わしがあったが、諏訪家の当主候補となっていた勝頼には信の字が入っておらず、諏訪家の人間として育てられたのである。

 

 その諏訪家は武田家に滅ぼされた経緯から武田を憎んでおり、武田家の血の入った勝頼を諏訪の人間とは見なしておらず、かといって武田も武田の嫡流を継ぐべき人物とは見ていない双方からも外様の人扱いされてしまったのである。

 

 しかし、武田家の家督を継ぐべき長男は親今川だったために反乱の疑いで粛清、次男は盲目、三男は夭折……結果四男だった勝頼に武田家家督が回ってきたのである。

 

 ただ武田家家臣の中には仁科盛信という武田信玄の五男に家督を継がせるべきという勢力が一定数おり、この盛信は武田家の信の字が入っていること、妻に武田信玄の弟の娘を2人も娶っていたりと血統的に武田の血が凄まじく強かったのである。

 

 武田信玄も死ぬ間際までどちらに継がせるか迷った挙句、妥協案として武田勝頼を代理当主とすると決めて亡くなったのだった。

 

 そんな状態の武田勝頼はそれでも偉大な父の武田家を守ろうと努力し、西上作戦を今一度と徳川領内に侵攻し、信玄の西上作戦と同等の勢力を築きあげ、ようやく家臣達を納得させるに至っていたため、武田勝頼は家中を纏めるために勝ち続ける必要があったのである。

 

 三方ヶ原の仕返しに武田の内情を詳しく知るため、武田のくノ一軍団を引っこ抜き、内情を丸裸にして信長様とも共有していた俺は、武田勝頼の心理状態から戦をしないでの撤退はありえない事を理解していた。

 

 撤退するにしても何かしらの武功が無いと、織田が援軍に来たから逃げ帰ったと悪評が広まってしまい、自身の求心力が低下することを理解していたからである。

 

 俺自身も方面軍を指揮する将として家中統制の難しさは理解しているが、俺が一から集めた家臣でも時々軍略関係で口論になることがあるのに、先代から引き継いで、しかも最強と呼ばれる軍団を代理で継承した武田勝頼の心労は凄まじいものがあるだろう。

 

 だから武田勝頼は織田や徳川の大軍を前にしても逃げないのである。

 

「本隊との合戦が始まる前に移動を進め、長篠城に四半刻(30分)で駆けつけられる位置で待機、武田と織田徳川の本隊が戦闘を始めた情報が得られ次第長篠城に取り付く武田軍を撃退して長篠城を救援。長篠城兵も率いて鳶ヶ巣山砦を落とし武田の退路を塞ぐ……これでいかがか……酒井殿」

 

 島が作戦を説明し、酒井忠次殿に同意を求める。

 

「……それで行こう」

 

 作戦が決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 酒井忠次隊に率いられながら山の中を進み、戦闘になる前の小休止を取っていた。

 

 早朝から移動していたので兵達は腹を空かせている。

 

「食事にしたいが、火を使うわけにはいかないからな」

 

 酒井忠次殿が言うように、火を使えば煙で敵に位置をバラしてしまう。

 

 なので火を使うことができないのであるが、津田軍はこういう時の為に携行食を開発していた。

 

 芋餅である。

 

 昨日のうちに俺の部隊にいる調理班が芋餅を作っており、それを各兵士達に配っていたのである。

 

「酒井隊の分も作ってあるのでもしよかったどうぞ」

 

「う、うむ……むむ、餅というが餅とは食感がだいぶ違うのであるな。ただ味噌の味がしていて腹に溜まる。うむ、これは力が湧いてくる!」

 

「これに少し乾酪(チーズ)を一緒に食べると更に力が湧きますよ」

 

「乾酪……牛の乳で作った物か、確か織田家では流行っていると聞いたことがあるが……」

 

 俺は携行食として紙に包んだチーズキャンディーを酒井忠次殿に渡した。

 

 彼は紙を取ると、恐る恐る食べてみて、口の中で柔らかく、そしてほのかに乳の味がするのに驚いていた。

 

「うむ……悪くないな。いや美味い」

 

「でしょ!」

 

「織田は携行食も進んでいるのか……」

 

「織田というより津田だけでしょうが、戦場でも美味い飯を食えばそれだけ士気が高く、長持ちしますから」

 

「確かにそうだな」

 

 そんな事を話していると、設楽原方面から鉄砲の鳴り響く音が響き渡った。

 

 数分もしないうちに忍びの1人が俺の前に現れ、織田、徳川軍と武田軍の戦が始まったと報告が入る。

 

「よし、我らも今こそ長篠城兵を救い出す時ぞ!」

 

 休憩モードから一転、臨戦態勢を整えた救援部隊は一気に長篠城を囲む武田軍に近づき、騎馬隊を突撃させた。

 

「かかれぇ!」

 

 騎馬隊を指揮するのは勿論俺。

 

 先陣を切って俺が突っ込み、副将の島が全体指揮を執る。

 

 これが俺こと津田軍の必勝パターンである。

 

 品種改良され武田の馬に比べて2回りも3回りもデカくてゴツい津田騎馬隊の突撃は地響きが起こっているように聞こえ、長篠城を囲んでいた武田軍が気がついた時には距離が200メートルを切っていた。

 

 騎兵にとってその距離は10数秒で到達できる距離であり、弓を構え狙いを定めたり、火縄銃を構えたり、隊列を整える時間は無い。

 

 勢いよく突っ込んた騎馬が敵兵を轢き殺していき、刀や槍で馬を攻撃しようとする敵兵は馬上から刀を振るって弾いていく。

 

 弾かれた瞬間に敵兵は別の騎馬によって轢き殺される。

 

「父上、騎馬突撃は相変わらず壮観ですね!」

 

「なんだ高貞、お前も騎馬隊に来ていたのか」

 

「酷いですよ、最初から居たのに……おっと」

 

 高貞は大太刀を振るい、目の前に居た敵騎兵の胴体を横に真っ二つ。

 

 上半身と臓物を飛び散らせながら武田の将が馬上から転がり落ちる。

 

「武田の主力でなければこの程度ですか……三方ヶ原の恐ろしい武田も落ちたものですね」

 

「まぁここに居るのは2線級の部隊だろう。武田信玄や武田の重臣達が率いていたら、俺達が突撃する前にもっと対応していただろう」

 

「このまま敵陣を突破しますか?」

 

「そうだな。敵中突破で武田の陣を滅茶苦茶にしてやろうか」

 

「わかりました!」

 

 俺達騎馬隊は武田の陣を突破し、その光景を見ていた長篠城兵が城門を開いて、俺達を迎え入れ、城兵達を激励する。

 

 更にぐちゃぐちゃに陣を掻き回された武田軍に島が指揮する救援本隊が到着し、鉄砲隊と石弓隊が射撃を開始。

 

 有効な対応ができなかった武田軍は次々に矢や弾丸に倒れ、総崩れ。

 

 この包囲に武田軍は3000ほど兵を割いていたようだが、2500名近くが討死し、残った兵達も散り散りに逃げ去っていった。

 

 城兵と合流した俺は酒井忠次殿と鳶ヶ巣山砦を急襲。

 

 ろくな防衛施設が無かった鳶ヶ巣山砦はあっという間に陥落し、本戦で戦っている設楽原の敵味方に向けて狼煙を上げる。

 

 これで武田本軍は退路を失ったと気がつくだろう。

 

 

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