【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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ば、馬鹿な……餅と納豆のキャベツ包みだと……

 年が明けて天正4年……1576年が始まり、正月三が日は信長様の居る岐阜城に挨拶に向かい、それが終われば越前にとんぼ返りし、津田屋敷にて家臣や家族達と正月の挨拶を行った。

 

 今年はもち米も豊作でせっかくだからと俺は屋敷の庭で餅つきをしたのである。

 

 餅つき役は勿論俺で、合いの手役は前田利家にやってもらう。

 

「利家悪いな」

 

「いやいや、又兵衛と餅つきやるなんて一緒に住んでいた頃以来じゃないか? 懐かしいな」

 

「確かに……今日は来客が沢山居るからいっぱいつかないといけないから、よろしく頼むな」

 

「あいよ!」

 

 臼と杵を事前にお湯で温めておき、そのお湯を捨てると、中に蒸したもち米を投入する。

 

 もち米を最初は杵でグリグリと潰し、合いの手役の利家がこぼれそうになったもち米を中に入れていく。

 

「よっしゃあ行くぞ!」

 

「うっし! 始まりだ!」

 

「「せーのっせ」」

 

「えっさ」

 

「ほーら」

 

「えっさ」

 

「ほーら」

 

 俺がえっさと掛け声と共に杵を下ろして餅をつき、ほーらと利家が言うと餅を均していく。

 

 時々引っ張ってから折りたたみ、餅が均等につける様に手を入れるタイミングを見極めながら利家が合いの手を入れてくれる。

 

「流石前田殿と又兵衛様、絶妙な駆け引き……」

 

 いつもは島にやってもらっていたが、今年はせっかく利家が与力として来ているのだから、利家とやりたいと俺が言って代わってもらっていたのである。

 

「利家、手をつかれるなよ!」

 

「わかってる!」

 

 茶々を入れたのは利家のライバルである佐々成政で、手には器の中に醤油と海苔を数枚入れてスタンバイ。

 

 海苔で餅を巻いて食べることで手がベタつかずに食べれる上品な食べ方を選ぶとは、流石信長様の親衛隊を務めたエリート侍……実用的かつ気品がある。

 

「そろそろかな?」

 

 箸を持って待機しているのは食べ盛りの津田信澄殿。

 

 器にはバター醤油を付けて食べようと待機している。

 

 バター醤油は最新の食べ方……バターの生産をほぼ津田家が独占しているから津田家の者はベターな食べ方であったが、津田家に来たばかりの信澄殿がやるとは……馴染んだと言うことか? 

 

「早く食べたいな!」

 

 信道殿が手にしているのは……ち、チーズだと! 

 

 餅の熱でチーズを溶かして食べるその食べ方は極上の一品。

 

 信長様が好物としていたチーズ故に、恐らく織田家の中で餅にチーズをかけて食べるというのが広まっていたのだろう。

 

 王道ではないが邪道でもない……中道的食べ方といえば良いか……。

 

 その中でも一際異質を放つ者がそこに居た。

 

「若いの、傾くというのはこういうものじゃ!」

 

 ま、マリア……その手に持っているのは……キャベツと納豆だと! 

 

 冬が旬の冬キャベツは葉がしっかりしていて、春キャベツより水々しくはないが歯ごたえは抜群。

 

 そこに納豆で味と風味を調えることで抜群の美味しさを発揮する、邪道中の邪道……餅と納豆のキャベツ包みである。

 

 マリアの狂気とも言える食べ方に一同ドン引きであるが、マリアは何くわぬ顔で餅をもらうために最前列を陣取る。

 

 つき終わった餅は器に移して侍女達が客人達に配っていく。

 

 一部の餅は雑煮の中に入れて、振る舞われる。

 

 家臣やその家族、俺の妻達や子供達も美味しそうに食べていく。

 

「1回じゃ全然足りないな。利家、2回戦行くぞ」

 

「おう!」

 

 俺達が餅つきを再開するが、客達はマリアの食べ方に拍手が湧いていた。

 

「うむ、玉菜のシャキシャキとした歯ごたえに餅のもちもち食感、そしてそれを納豆の粘りが混ざり合い、それぞれを殺すことなく、引き立てあっておる。一見合わなそうな食べ方であっても試してみるものであるのぉ……」

 

「か、傾奇者だ……本物の傾奇者が居る!」

 

 利家も合いの手をしながらマリアが食べる光景を見てそう呟いた。

 

「ちなみに利家は何で食べるんだ?」

 

「俺は大根おろしで食べるのが好きだな。又兵衛はどうだ?」

 

「俺はそうだな……大根おろしに醤油をかけて食べるのときな粉に蜂蜜をかけて食べるのも好きだな」

 

「蜂蜜って……凄い贅沢な食べ方だな」

 

「まぁ家では養蜂が盛んだからな。記念日に食べるくらいは確保しているから、利家も家族と一緒にきな粉と蜂蜜の餅を食べてみたらどうだ」

 

「良いのか?」

 

「せっかくの正月だ……少し過ぎてるけど、楽しんでいけや」

 

「悪いな又兵衛」

 

 10回ほど餅を作ったら、俺も腹が空いてきたので、利家と一緒に交代。

 

 つき役は熊部、合いの手は菊八が担う。

 

 2人も正月餅つきする時の鉄板の組み合わせで、ふっくらもちもちの餅を作り出すのが上手いんだよな。

 

「せいや!」

 

「ほいさ!」

 

「せいや!」

 

「ほいさ!」

 

 俺と利家の餅つきも早かったが、2人の餅つきは更に早く、ドスペタンドスペタンと音が途切れない。

 

 300回くらいつくのを5分で終わらせ、餅を待っていた人達が俺のついた餅と食べ比べていく。

 

「又兵衛様達の餅と熊部達の餅だと、又兵衛様の方が滑らかと言いますか、もち米の甘さが残っていると言いますかね……熊部達のは粘りとコシが凄い」

 

 そう評価したのは島であり、的確に俺と熊部の餅を比較する。

 

 まぁどちらも美味しいのには変わりなく、俺は大根おろしに醤油を少しかけていただく。

 

 大根おろしの辛さと餅のほのかな甘さ、そして醤油がそれらを引き締めて、これが美味いのなんの……そこに雑煮も食べていく。

 

 雑煮には鶏肉、ゴボウ、大根、餅菜、そして餅が入る。

 

 餅菜というと分かりづらいかも知れないが尾張では普通に栽培されているアブラナ系の葉野菜の一種で、雑煮といえば餅菜だよなと言うくらい織田家の人達には定着している野菜で、越前だと寒さで育ちが悪い為、普段は小松菜を使うのであるが、今回は尾張から餅菜を直接取り寄せていたのである。

 

「おお、この食感……久しく食べてなかった餅菜だ……又兵衛、取り寄せたのか!」

 

「ああ、利家。このために今年は取り寄せた。やはり雑煮と言えば餅菜であるよな」

 

「ああ、越前では取り扱ってないから小松菜で代用していたが……やはりあると嬉しいな」

 

 鶏肉が入っていることには誰も驚かなくなり、餅と雑煮を楽しむ俺達であった。

 

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