【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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一揆の余波

「住職! 金沢御坊が落ちた様です」

 

「さようか……」

 

 儂は加賀で浄土真宗の教えを広めていたとある寺の住職である。

 

 元々は石山に居たのであるが、石山の教えに従わないで暴走を続ける加賀の一向一揆を制御するために遣わされた何人も居る僧侶の1人であった。

 

 加賀の一向宗の制御を任された儂らであるが、加賀の支配を担ってきた坊主達は主戦派が多く、石山から織田には牽制程度で留め、侵攻してきた際に長期防衛できるように砦の構築や各地の寺の要塞化を進めよと命令されていたのであるが、主戦派達は朝倉の残党にたらし込まれて越前へと富を求めて侵攻をしてしまったのである。

 

 これに武田信玄をしても名将と褒め称えた織田随一の若き勇将津田又兵衛が立ち塞がり、一向宗の侵攻を散々に打ち破って見せた。

 

 儂達はこれを機に防御力を高めるべきであると忠言したのであるが、主戦派は聞く耳を持たず、儂達非戦派を閑職や小さい寺の住職へと飛ばしてしまった。

 

 そして主戦派は続く戦いで5万人以上の民を巻き込む大敗を喫し、そして今、また多くの民を巻き込んで加賀の支配者としての地位から転落していった。

 

「儂の首でこの村の民が救えるのであれば喜んで首を差し出そう」

 

「住職……」

 

「済まないが最後までこの老いぼれに付き合ってもらうぞ」

 

「はい!」

 

 儂に付き従ってくれた坊主に村を守るために儂と共に最後まで抗ってくれと頼むと、彼は喜んでと答えてくれた。

 

 ……津田又兵衛殿は織田の中でも特殊な存在だと聞いている。

 

 敵対した北伊勢では寺が戦災に巻き込まれないように保護したり、下賤な者と呼ばれていた忍び衆に優しかったり、農民から方面軍司令官まで出世した出で立ち……。

 

 そして美濃の領地や越前では現人神と崇められるほどの人徳があるお方。

 

 話すことができれば儂の首だけで檀家や村民を守ることもできよう。

 

 もっとも津田の家臣が来て問答無用に斬首される可能性もあるが……。

 

 村の衆に加賀の支配者が変わったこと、津田の殿様には逆らってはいけないことを徹底させるように会合を開いて説明する日々を送っていると、巨大な馬に乗った巨漢が十数人の大男を率いて村にやって来た。

 

 何用かと村の衆が大男に尋ねると津田の使い者だと言われ、住職に会いたいと言われたので寺へと案内させた。

 

「この寺の住職の元白と申します」

 

「津田又兵衛の息子、毛受継成と申します」

 

 貫禄ある若武者であると思ったが、まさかこんな辺鄙な村に息子を送り込んでくるとは……。

 

「元白殿が石山から派遣された御坊であることは調べがついております」

 

「左様ですか……どうかこの老いぼれ坊主の首で村の衆や寺の坊主は許すことはできませぬか……虫の良い話であるとは思っておりますが」

 

「それはできん」

 

 断られてしまったか……周りに居た坊主達も覚悟を決めた顔をする。

 

「いや、何か勘違いをされておるが、これ以上は誰も命を落とす必要は無いと思っておる」

 

 継成殿はいきなりそんな事を言い始めた。

 

 津田家としては一向一揆に協力的だった民の殆どは討死しており、残った者は一向宗に無理矢理従わされていた民や非戦派の坊主のみ。

 

 一向宗を禁止することも考えたらしいが、土着した宗教を捨てるのは辛いだろうと考え、残った各寺は各種利権を放棄し、運営費用を津田家から貰うこと、武装の類は一切を禁止すること、津田家の統治に協力することの3つを飲むのであれば寺を壊したり攻撃したりすることは無いと伝えられた。

 

「随分と手ぬるい処置で……」

 

「そうかな? 民に癒やしを与えるのは寺の役目であろう。それに父はよく言っておられる。宗教とは薬であると。薬は適切に処置すれば体を癒やすが、多すぎれば毒になると……今までの加賀は毒が回っていた状態だったが、今は十分に毒抜きができたと思われる」

 

 それに……と継成殿は続けて津田又兵衛を神格化する宗教が流行っているのに危機感を又兵衛様自身が思っているらしい。

 

 曰く、又兵衛様は信長様の家臣であるのに、自身を頂点にする宗教など織田家の統治に害を与える可能性が高く、織田家の支配が固まれば土地換えも行われるだろうに、他の人では統治不可能になる宗教が土着するより、浄土真宗にある程度力を持っていてもらいたいらしい。

 

「よろしいのでしょうか……」

 

「構わん構わん。父もそう言っているからな。さてと仕事は終わりだ。友好の証として私が料理でも振る舞おう。台所を借りるぞ」

 

 継成殿はそう言って寺の台所に立つと道中で狩った猪や山菜を使った鍋を作ってくれた。

 

 儂はその味を忘れることはないだろう。

 

 この老いぼれ坊主……残りの人生を残った民の為に尽くすことにしようぞ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「継成様、お見事でございました」

 

「なに、腹を割って話せば人は案外わかってくれるものよ」

 

 我が主の毛受継成様はまだ14歳(数え年)と若いが、既に将としての才を開花させている素晴らしいお方である。

 

 6尺を超える巨漢(180センチ)にがっしりとした肉付きの良い体。

 

 更に色白で美形で継成様が作る料理は又兵衛様に劣らない素晴らしい出来で、度々我々側仕えの家臣も食べさせてもらっている。

 

 本人は前線であまり戦わないが、戦場で兵に食事を作ったり、補給部隊を率いて前線を支える役割を担っているが、敵と当たれば鬼のように強く、ある時補給部隊を襲いかかった50を超える敵兵のうち、30名をあっという間に打ち捨てた武芸を持ち合わせている。

 

 本人曰く兄弟の中では弱い方であると言っているが、又兵衛様のご子息達は皆化け物の様に強いと再認識する。

 

 この度は寺への武装解除交渉を任されたが、寺の坊主達の心を掴み、平穏に交渉を進めることができた。

 

 まだ14歳の少年の胆力とは思えない。

 

「帰ったら嫁と一緒に子作りしないとな〜。津田家の分家として宗家を支えないと」

 

「失礼ながら……継成様が津田家を継いだ方がよろしいのではないのでしょうか……」

 

 私は心で思っていることを口にする。

 

 すると継成様は呆れた顔をして

 

「私が当主? ないない。そんな器は私にはないよ。毛受家は近国が継ぐし、津田家はお市さんの息子さんが継ぐ。大丈夫、俺の弟だぞ。ちゃんと有能だよ」

 

「しかし……継成様はそれで良いのですか? このままでは歴史に埋没してしまいますよ」

 

「それで良いんだよ。別に俺くらいの者が歴史に名を残す方がおかしいんだ。平々凡々な生活を嫁とできればそれで良いの」

 

「……私は継成が国主になれる器だと信じております」

 

「その気持ちだけ受け取っておくよ」

 

 我が主……継成様が国主になれるように私は頑張るのであった。

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