【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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戦場での茶会

 戦場の真ん中で茶を点てる俺とそれを座って飲もうとする上杉謙信。

 

 両軍の兵士や将達はその姿を固唾を飲んで見守る。

 

「改めまして謙信公、私は織田家北陸方面軍を任されている津田又兵衛でございます」

 

「関東管領……上杉謙信である。此度はこの様な催し……戦の中で行うとはな。軍記物となるのではないか?」

 

「ええ、生き残って後世の為に書き記したいものですね」

 

「それはできんな……私が貴様を討ち取る故に」

 

「流石軍神と呼ばれるお方だ」

 

 俺は棒を雪の上を転がし、雪玉を作り、それを縦に置いて雪玉から棒を引っこ抜く。

 

 そのまま横から雪を削って穴を開け、そこに乾燥した藁や薪を入れていく。

 

 火打石で火をつけて、燃やし始めると、雪窯となる。

 

 俺はその上に茶釜を置き、湯を沸かす。

 

「ほう、雪で窯を作るか」

 

「ええ、これが案外崩れないんですよ」

 

 湯が沸き始め、抹茶の粉末を茶器に入れてシャカシャカと竹製の茶筅と呼ばれるかき混ぜ器で茶を点てる。

 

「毒見は必要ですかな?」

 

「そんな野暮なことは不要」

 

 俺が点てた茶器を謙信公は手に取るとぐいっと飲んでいった。

 

「うむ、実に美味であるな」

 

「茶菓子もありますが」

 

「では頂こうか」

 

 俺が出したのは塩大福で、程よい甘さと塩っぱさが苦味の強い茶の味を整えてくれる。

 

「うむ、美味いな。大福は塩っぱいものであると考えていたが……随分と甘いな。ただその甘さが塩っぱさを引き立て、茶を飲みたくなる」

 

「砂糖が使われているので量は入手できませぬが、織田が天下を統一すれば、庶民でも口にすることができることでしょう」

 

「ふむ……その頃には私は居ないだろうがな」

 

「やはり何処か体が悪いので?」

 

 俺は大きく踏み込んでみる。

 

「さて、又兵衛、お主から見て私は病人に見えるのか?」

 

「そうですねぇ……一見健康そうに見えますが、だいぶ味覚がおかしくなっているかと」

 

「ほう?」

 

「実はこの塩大福、本来なら塩の量はごく僅か、甘さを引き立てるための塩っぱさなのに謙信公は逆を言われた……だいぶ塩気の味覚が分からなくなっているのでは?」

 

「ククク……大福1つで体の状態を見抜くか……又兵衛、茶と茶菓子の礼だ。私からはこれを贈ろう」

 

 謙信公から渡されたのは笹包みであった。

 

 俺は開いてみると、中には梅干しが入っており、表面に塩の結晶が付いている。

 

 口に入れてみると酸っぱいよりも塩っぱさが広がり、咳き込んでしまう。

 

 これを日常的に摂取していたら健康的に危ないだろう。

 

「これを食べていたら死にますよ」

 

「家臣が居ないから言うが、正直死期は見えておる。長くてあと数年……早ければ1年も持たずに私は死ぬだろう。指や足が言うことを聞かなくなってきていてな。指摘された通り味についてもぼやけてきている」

 

「随分と初対面の私に話しますね」

 

「なに、私の好敵手であった信玄が認めた相手だ。こちらも人柄については草(忍び)を使って調べてはいた。何やら神格化されているみたいではないか」

 

「統治者としては利用できるんでいいですけど、織田家の家臣という立場と私個人としては勘弁してほしい限りで……生きている人を神格化って仏様や既存の神様達に対して申し訳ない思いですよ」

 

「ほぉ……そう考えるか。私も周りから軍神だの色々言われていてな、大名としてはその名を使うのが有効であったが、個人としては毘沙門天に申し訳なく思ってな」

 

「なるほど」

 

 ちゃっかり俺は茶釜を退かして鍋を置き、雑煮を作り始めた。

 

「なんだ、飯も作るのか」

 

「茶と大福だけでは腹が膨れないでしょ……体に良いの作りますから待っていてくださいな」

 

 俺は背負い袋から食材を取り出して、まな板で色々調理していく。

 

「その肉と卵は何だ?」

 

「鶏ですが、謙信公も食べない感じですか?」

 

「……いや、食べないことは無いな。ただ寺に居た時に捕まえて食べたら住職にこっぴどく叱られてな。他の者からも鶏は食べるべきでないと色々言われたな」

 

「幼き頃の謙信公は信長様みたいですね。私も知り合いから幼い頃の信長様を聞いたのですが、それはもう悪童だったようで」

 

「ほう……幕府を滅ぼした信長公が私と似ているか」

 

「寺とか燃やしまくってますが、案外神頼みや自身が信じる仏神は信仰深いんですよ。確か……牛頭天王だったかな?」

 

「あの牛神か」

 

 仏像とかでは人の姿をしているが、元をたどると牛の頭をしたミノタウロスの様な神様であり、仏教が伝来した時に朝鮮の民話などが混ざり、日本のスサノオの神話とも混ざり合って誕生した神様とされている。

 

 まぁ諸説が色々ある神様なのであるが、信長様は牛の頭を持つ神様とか凄いかっこいいと少年が怪獣の話を聞いた様な感覚で、少年時代の信長様にクリティカルしたらしく、その神様を敬っていた。

 

 あとは領主として厄災を祓う神様であるというのも領民達を安心させるために選んでいたのかもしれない。

 

 あまり信長様は宗教は薬と毒であるという近代的な考えを持っているので、謙信公みたいに毘沙門天が絶対であるというのとは違う気がするが……。

 

「なるほどな。主があって、家臣もか」

 

 謙信公は静かに呟くと、俺が作った親子雑炊を食べ始めた。

 

「ほっほっ! これも美味いな。そうか……鶏とはこれほどまでに美味かったのか」

 

「本来の仏教に鶏を食べてはいけないなんて話は無いですから。日ノ本の僧達が自分達の取り分を減らさないために鶏を食すのを禁じただけなので……というか鶏は肉も卵も人の血肉を作るのに大切な素材で、火を通した卵を毎日1個食べていればある程度の病は回復しますし」

 

「私の寿命を延ばして良いのか?」

 

「正直、謙信公が幾ら強かろうと武田が短期で滅亡した事で、上杉の命脈も終わりに大きく近づきましたし」

 

「だろうな」

 

 謙信公も軍神と呼ばれるくらいの武将故に大局も見えているのだろう。

 

「謙信公はどうしたいのですか? 織田家とこのまま敵対を続ければ、雪解けと同時に信濃方面からも軍が送られますが」

 

「なに、その前に又兵衛の首印をあげれは良かろう」

 

「いや、この大雪で本来の力を発揮できていない上杉軍では守りに徹すれば抜けませんし、こちらは後詰めの軍もあるので、連勝するしかないですが……全力で抵抗しますよ」

 

「だろうな……正直色々手を考えてはおるのだが、雪が邪魔だ」

 

「なんで雪がある中で進軍したんですか……」

 

「それは今を逃せば又兵衛とは戦えぬと思ったからな。強敵と戦うのが軍神としての生き様よ」

 

「なるほど……」

 

 親子雑炊を食べ終えた謙信公はドカっと箸を置き

 

「美味かった! この礼は戦場で晴らすとしようぞ」

 

 そう言うが、俺は謙信公に竹筒の水筒を投げ渡す。

 

「これは?」

 

「もし本当に体調が悪くなったらそれを飲んで顔を隠せ。体に変化が起こるが、体調は確実に良くなる秘薬だ」

 

「……受け取っておこう。ではな又兵衛、良き戦を」

 

「ああ、謙信公、良き戦を」

 

 戦場での茶会はこうして幕を下ろすのであった。

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