【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
「ふぅ……帰った」
「「「又兵衛様!」」」
家臣達は俺の身を案じてくれたが、俺は大丈夫だと制して、本陣に向かう。
本陣では前田利家がケタケタと笑っていた。
「又兵衛、軍神はどうだったか?」
「迫力凄かったわ……伊達に軍神って言われてねぇわ」
「そりゃ凄いな……無理言ってついて行けば良かったかもな」
「利家連れて行って喧嘩にでもなったら困るからな。俺だけで行って正解だったよ」
「なんだと!」
利家とのじゃれ合いもほどほどに、探った感じ、上杉軍の目的は雪解けまでに北陸方面に大打撃を与え、信濃から攻め上ってくる柴田勝家軍に二方面作戦をしないで済むように、各個撃破が目的であることが判明した。
この場で採れる選択肢は幾つかあるが、持久戦か、決戦か……そのどちらかである。
ここからは島の方が作戦を練っているだろうと、島に作戦を話してもらう。
「持久戦の利点はこの大雪を生かした防御陣に立て籠もれることです。上杉軍とはいえ、この大雪での攻勢は至難の業であり、現に自分は寡兵でも数倍の上杉軍の防衛戦に成功しました。数の差が縮まった今ではより防御に向くでしょう」
しかし懸念点も存在する。
上杉軍も分かっているように守り側の補給線を攻撃してくると思われる。
1万人以上の兵站を支えるため、相応の荷駄隊を動かす必要がある。
雪が無ければリアカーと自転車をくっつけた輸送車両がガンガン輸送することもできるが、大雪の為ソリによる輸送が行われている。
馬も種付けおじさんの力でどんどん大型になるように繁殖させていた為、雪国でもパワフルさを発揮して、ソリを馬達は運んでいたが、それでも雪のため輸送量は落ちているし、速度も出ない。
ここを上杉軍に狙われた場合撤退に追い込まれる可能性が存在した。
じゃあ上杉軍にも同じようなハラスメント攻撃をすればいいじゃないかと思うが、上杉軍は能登を陥落させたため、越中方面と2方向からの輸送経路を確保することができている。
それに上杉軍は一揆勢と和睦しているため、まだ情勢が不安定な加賀では上杉軍に協力する村が出てきてもおかしくないのである。
ただ補給線さえ守りきれれば持久戦の方が勝率は高いと思われる。
対して決戦を行えば勝敗は一気に決して、上杉軍が勝てば加賀中部まで押し込まれることになり、一方で津田軍が勝てば能登と越中中部まで押し込むことができるし、上杉軍に致命傷を与えることができる。
ローリスク・ローリターンかハイリスク・ハイリターンどちらを取るかという戦いである。
「恐らく上杉軍は決戦を望んでいるでしょう。対する我々は雪解けまで守っていれば勝ちです。通常の戦であれば持久戦を選択したいのですが……こちらも大雪での長期戦は未経験なのと、加賀統治の事を考えると短期決戦で勝負を着けたい気持ちもあります」
島の説明に将達は腕を組んで悩んでしまう。
勝率が高いといっても必勝ではない……かといって決戦を挑んだ場合も不確定要素が多く、決め手に欠ける。
「又兵衛様に委ねます」
利家が代表してそう言うと、俺は悩んだ末に
「後発組と合流次第決戦といこう」
そう宣言するのであった。
俺は大きな博打に出るのである。
なぜ後発組と合流してから決戦に挑むか……これは幾つかの要素が存在する。
まず天候。
謙信公との茶会の後、軍議の最中から天候がどんどん悪化していき、ホワイトアウト状態になってしまった。
これでは軍事行動を普通ならできない為、こちらは守りに徹する。
天候が回復したとしても新しい雪が積もっているので、雪に埋もれて進軍速度も遅くなるだろうから時間は稼げる。
何より寡兵でわざわざ決戦に挑めば軍神と呼ばれる上杉謙信公の戦術に大きな打撃を受ける可能性が高かった。
よって数が揃ってから決戦に挑み、得意の火力戦に持ち込んで削っていくという無難な戦い方を選択したのである。
「ただなんか嫌な予感がするんだよな」
「虫の知らせと言うやつですかな?」
「かもしれない」
「いや、そういう感覚は素直に従った方が良いですよ」
島に嫌な予感がすることを伝えると、島は感覚に従った方が良いと答え、俺は感覚に従って、兵達を鼓舞するために上杉軍と一番近い防衛陣地に赴いた。
「又兵衛様だ!」
「又兵衛様!」
「神のご加護を!」
末端の兵士にも神仏ガブリエル教が浸透し始めているのか、俺を神様の様に扱い始める。
「俺は人だぞ! 神のように敬うな!」
「「「はは!」」」
ホワイトアウトしていて視界が真っ白、しかも吹雪いているため遠くの音も聞こえない。
「……む!」
俺は刀を抜くと上杉軍の兵士が俺に斬り掛かってきた。
即座に反撃し、真っ二つに斬り捨てる。
「やられた! 既に接敵している! 本陣に伝令を送れ! 上杉軍が既に攻め寄せていると!」
「は!」
まさか俺と茶会をした後直ぐに動くとは……流石軍神。
相手の油断を突くのが上手い。
距離的に、俺が軍議をしていた頃には前進を開始していたな!
「俺についてこれるやつは付いてこい! 逆に敵軍に浸透する!」
俺はそう叫ぶと、視界内に捉えていた味方約50人あまりを即座に掌握し、逆浸透を開始。
ホワイトアウト状態の為、矢が飛んでくる心配はしなくて良いので、目の前の敵に集中する。
乱戦の最中、20人ほど俺が敵兵を斬り捨てて道を作ると、兵を鼓舞している将を見つけた。
「津田又兵衛いざ参る!」
「つ、津田又兵衛!? 敵の大将がなぜここに!」
「知らんでよろしい!」
馬に乗っていた敵将を横一閃。
臓物をまき散らし、周囲を赤黒く染めながら将は落馬し、群がった兵達により首を取られる。
「進め! 進め! 敵中枢に打撃を与える!」
視界不良、音も吹雪で聞こえない状況下だと指揮もへったくれもない。
ほぼ個人の武勇で勝敗が決してしまう。
「津田又兵衛の武勇ご覧いただこう!」
先ほど倒した敵将が持っていた槍を掴んで思いっきり振り回すと、槍に当たった敵兵達が吹き飛んでいく。
しかし、数度振るうと柄がポッキリ折れてしまい、槍を投げ捨て、刀に切り替える。
時に蹴り殺し、時に頭を刎ね、全身に返り血まみれになり、ここまで個人で戦ったのは桶狭間以来な気がする。
「しかし! 弱かった桶狭間と違い! 今は全盛期なり!」
俺に向かって槍を突いてきた兵達が居たが、一瞬で穂先を斬り落とし、柄を掴むと怪力に物を言わせて薙ぎ倒していく。
そのまま前に進み、倒れた敵兵の頭や胴体を踏みつぶし、雪で圧死や窒息死させる。
どんどん進んでいくと、軍馬に乗った白頭巾が見えた。
「謙信!」
俺は叫び声をあげて、彼に斬りかかると、謙信公は軍馬から飛び降りる。
その瞬間に軍馬は真っ二つにされ絶命。
ここに戦国時代でも稀な大将同士の一騎打ちが発生するのだった。