【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
家畜の世話ばかりしていたわけではなく、織田家の家臣としても俺は十分に働いていた。
その第一歩としたのが美濃の地図作りである。
忍の里で同じ歩幅で歩くことで距離を測る方法を学んだ俺は、敵地である美濃国内を行商人に扮して、約3ヶ月かけて地図を作り上げたのである。
道中、山賊と出会っては返り討ちにし、裏道のありかを教えてもらったり、村の人々と仲良くなって、村娘と一夜を過ごしたりしながら、結構充実な旅であった。
で、俺が作り上げた地図は現代の知識を使ってなるべくわかりやすく描き、左近様に提出すると、美濃の内情が丸わかりであると大いに褒められた。
「流石又兵衛、よく出来ているじゃないか!」
「ありがとうございます」
「これは信長様に提出しておくからね」
「はい!」
そうは言っても左近様の手柄になるんだろうな〜と思っていたら、後日に信長様から呼び出しがあった。
「この地図を作ったのはお主か」
「は、はい!」
「よく出来ているではないか。道だけでなく、川や山、城や砦の位置が書き込まれていて見やすい。美濃攻略に使える資料だ」
「お役に立てれば幸いでございます」
「褒美に何か欲しい物はあるか?」
「褒美……でしたら教養を身につける場を設けて欲しいです」
「ほう?」
「将来信長様は天下を治めるお方、ならば私も将として活躍するには教養を身につけることが必須と思われます」
「目先の利益より将来の投資か……気に入った。名を又兵衛と言ったな」
「は、はい!」
「当分は大きな戦も起こらないであろうから、林の下で教養を学んでおけ」
「は!」
という事があった。
そのため左近様の部下であるが、教養を学ぶために林秀貞……現在織田家の筆頭家老の人物に教えを請うことを許された。
最初は俺が桶狭間や森部で武功を挙げていたことで、兵としては優秀かもしれないが、将や政務官としての才能は未知数と思われ、林様より邪険に扱われていたが、決算資料から炭の値が実際の数より不当な値動きをしていると気がついた俺は、炭を卸している商人の帳簿を確認させてもらう。
商人の方は不正がなかったので、炭当番の者が着服をしていると気がついた俺はそれを林様に告発。
不正の証拠付きで示された数値に納得した林様は城の炭庫を抜き打ちで検査すると、確かに炭の在庫数がおかしく、炭当番が着服している現場も押さえられた。
これにより林様より信頼を勝ち取った俺は、林様が習得していた武士道の生活規範を習うことで、社交性を身につけることが出来た。
一応左近様にも色々教わっていたが、外交畑で家老として長年働いていた人は教養についても細かく、現代で言うところのマナー講座みたいなのを林様は頻繁に教えてくださった。
そんなこんなで夏が過ぎて秋となる。
今年も田んぼは黄金の稲穂が大量に並び収穫作業が待っていた。
ただこの頃嫁達は皆お腹を大きくしていて、とてもでは無いが収穫作業を手伝わせることは難しい。
なので、俺がやるしか無いと日の出と共に収穫作業を始め、夕方の日が沈むギリギリの時間で5反分の収穫作業を終えた。
そして収穫した米は干してから脱穀作業が待っている。
有り余る体力で脱穀をし、その脱穀したのをふるいにかけて石等と分別し、直ぐに食べる分は精米、食べないのは俵に詰めて暗所で保管する。
特に虫が沸かないようににんにくを米俵の中に忍ばせておくと、虫を寄せ付けない効果があったりする。
現代日本でも唐辛子で同じ効果があるのでにんにくでも効果が無いかと思って、去年試したら効果抜群であった。
なので今年も同じ様にして、忙しい収穫作業が終われば、年貢の徴税の時期。
昨年は城で年貢米の俵の確認作業や城に勤めている人の給料の分配作業を主にしていたが、今年は村を巡って徴税する係りに任命された。
「なんだ又兵衛が今年の徴税人か」
担当する村は俺の家から尾張上野城に向う道中にある村で、顔馴染みが多かった。
「今年の年貢は支払えそうか?」
「問題なか! ただ清洲の近くの村は水害が酷かったらしくて厳しいようだな」
「ああ、夏に川が氾濫していたからな」
清洲城の近くでは川の氾濫が多発し、2年に1回は川が決壊する有様。
信長様が清洲から拠点を移したがっているのはこの水の便の悪さもあったりする。
「村長に挨拶してくるわ」
「おう、村長は自宅に居ると思うぞ」
「そうか、ありがとうな」
足軽と農民の身分差はほぼ無く……というか半農半士の方が殆どであった。
信長様はこの半農半士の状態を快く思って居らず、職業軍人に移行させたいらしいが、改革は上手くいっていなかった。
というのも信長様の直轄地が少ない問題がある。
この時代に住んでみてわかったが、戦国大名と家臣である領主だとどちらが兵を動員出来るかと言うと家臣の方である。
信長様は直轄の兵が約1000名ほど居るが、尾張1国で出せる兵数は約1万、この内の1割しか大名としては管理出来ていないのである。
残りの兵は普段は農民をしている足軽達で、彼らは自分達で武器を保有している。
なので徴税人と揉め事があると武装蜂起……一揆に発展する場合もあるのである。
「村長いるか?」
「おお、又兵衛か、ちょうど年貢の計算が終わったところだ。確認を頼む」
俺は年貢の書類を確認しながら、集められた米俵の数と確認していく。
「……うん、問題なし」
「いやぁ何度も計算したから間違いは無いと思っていたがね」
「年貢の間違いは死活問題になるからな。村長も大変だったろう」
「まぁね、ただ信長様も領主である左近様も他の国の領主に比べたら低い年貢率で助かっておるよ。今川領なんかは地獄だと聞くし」
俺も噂で聞いたが、桶狭間で負けた事で統制が破綻し、少しでも損害の補填のためにと増税したら遠江で大規模な反乱が発生したらしい。
織田家は東を松平家も挟んでいるお陰でこの反乱に巻き込まれなくて済んだとのこと。
「遠江は凄いらしいねぇ」
「尾張は信長様が強いから安心だが、弱い大名の国は大変だな」
戦国の時代で生きていて特に弱肉強食であると身に沁みて感じることは多い。
戦だけでなく私生活においても強い者が色々有利になる世の中であると感じていた。
それは戦国大名も同じ、信長様が強いから尾張は纏まっている。
弱くなった今川は統制が利かなくなり、反乱が起こる。
全ての者が成り上がれる可能性があるのが弱肉強食の戦国時代なのである。
「よし、城に運ぶから手伝ってくれ」
「あいよ!」
年貢を馬に乗せて、城の蔵まで運んでいき、蔵に納めていく。
そして城で年貢米を管理する人に引き継いで年貢米の徴税の仕事は終わりである。
「はぁ……終わった……」
「又兵衛、年貢米を管理する奴が算術が不得意過ぎて戦力にならねぇ! 手伝ってくれ!」
「……こりゃ徹夜だな」
今年も年貢の徴税はまだまだ続くのであった。