【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
「ほほぉ! 津田軍は戦でもこれだけの食事が食べられるのか」
「えぇ、まぁ……」
なんだかんだ捕虜みたいな形になった上杉謙信(女バージョン)であるが、他の将達からは俺がまた女を捕まえてきたよ……とあんまりツッコミを入れる人物は居なかった。
前に戦場にマリア連れてきちゃった事があったので、それも影響しているかもしれないし、今回勝手に出陣して血濡れで帰ってきたので、女がいれば勝手にいなくなることも無くなるだろうと言うのも込みで謙信が来ても問題にならなかったのである。
謙信が食べているのはぼっかけと言う料理である。
俺が前世で北陸の友人を訪ねた際にぼっかけと言う料理を出された事があった。
福井県の郷土料理で、大正時代から広まった料理らしく、厚揚げ、糸こんにゃく、人参、ごぼう、家庭によっては大根やカブなんかも入れて、鰹節と醤油で煮込み、それをご飯にぶっかけて食べる。
鰹節は高級品の為、魚のアラ汁で出汁を取って代用としていた。
糸こんにゃくは越前で作り始め、人参もルイス・フロイス達から入手して栽培を広められていたので材料は揃っていた。
なので越前でも広まるかなと思い、俺が作ってみたところ、材料の保存が効くし、魚さえ入手できれば戦場でもできると戦場飯の1つになっていた。
更に改良が進められ、干物で出汁を取って汁を作るというのを(毛受)継成の部隊長が考案し、現在に至る。
「食の質でも私は負けていたわけか……」
「謙信公は食にこだわりが?」
「公はやめろ……それにこの体だ。謙信の名を名乗るのもまずいだろう……又兵衛、何か名前を付けろ」
「そうですねぇ……銀髪……銀子とかにでもしておきます?」
「安直だな……まあいいが」
謙信は語り始めるが、食は軍を動かすにおいてとても重要なことであると認識していたらしく、兵や将の士気を高めるために食事には色々苦労したと話してくれた。
「普段の食事は一汁一菜だったのだが、出陣する時の飯には気を使った」
出陣する前の食事……勝ち鬨飯という出陣前に大勝を祝うゲン担ぎの様な食事であり、その時は刺身や魚の煮付け、旬の野菜の漬物や具沢山の汁物などの豪華な料理が振る舞われた。
「とにかく戻ってきてまた食べたいという食事を用意するのに苦労したな。又兵衛の軍には勝ち鬨飯はないのか?」
「一応ありますね」
津田軍で採用されている勝ち鬨飯はカツ丼である。
養鶏や養豚が盛んに行われていることで、トンカツ料理が広まりつつあり、その中でもカツ丼は未来でもゲン担ぎとして食べられる料理だったが、この世界でも縁起が良いとして美濃時代から広まっていたが、越前に越してから稲葉重通が年中食べようと思えば食べれるからと強行して勝ち鬨飯として採用されてしまった。
まぁ種付けおじさん的に豚との相性が良いので、それも込みでゲン担ぎになっているが……。
「カツ丼か……食べてみたいな」
「流石に戦場では食べられませんからね……来ます? 越前に」
「何もかも投げ出して又兵衛のところに行きたい気持ちもある。この体になってしまったからな。しかし、私は長尾家……いや、上杉家の当主として行く末は見届けなくてはならない。毘沙門天の教えに反するからな」
「……津田軍……いや、織田北陸方面軍は越中までしか侵攻する予定はありません。越後は上杉の本拠地。しかも事前の取り決めで柴田勝家……柴田のオヤジ殿が切り取る手筈になっていますからね」
「私が居なくても上杉が纏まれば良し……纏まらなければ……」
「正直に言いますと、上杉謙信はあの場で死んだと思った方が良いですよ。今ここに居るのはただの銀子です。重責を散々背負ったのですから楽になりましょうよ」
「……そう言って私を堕落させようとしているな! その手には乗らんぞ」
「ダメですか……」
「ああ、駄目だ!」
俺と謙信こと銀子はその後、戦場での茶会で喋れなかった事を色々話した。
互いの幼少期の事、信長様の事、上杉家のこと、そしてこれからの日ノ本の事……。
「又兵衛は織田信長がこのまま天下を統一すると?」
「統一しなければならないのですよ……信長様に何かあれば戦乱は20年は続くでしょうし……」
「そうか……」
謙信こと銀子はぼっかけを食べながら俺に話し続ける。
「私と同じ境遇の者は居るのか? 性転換した者は?」
「松永久秀が今マリアという名前で活動していますよ……今元気に子育てしてますよ」
「ほう? 子供まで産んだのか?」
「ええ……性転換して腰痛とか肩こりが消え去って、今すごい元気ですけどね……彼女」
「ほう……会って話したいな」
「越前来ましょうよ……銀子」
「うーむ、悩ましいな」
まぁ謙信こと銀子は本人の意思はとりあえず無視して越前に連れて行くことは確定である。
というか女になったとはいえ健康体になった謙信を野放しにはできない。
「さてさて、この戦はどうなるか……」
対峙していた上杉軍は1週間ほど留まっていたが、撤退を開始し、押野の戦いは終結。
上杉軍は兵の損失以上に、上杉謙信を失うという大きな痛手を受けて、越後へと撤兵していった。
一方で津田軍も1万2000人ほどいた兵のうち、奇襲によって1000名近くの死傷者を出したものの、武将クラスの戦死者は居らず、上杉謙信との戦闘にしては死傷者が少なかった。
津田軍は島に指揮権を委託し、能登へと侵攻。
上杉軍に降伏していた畠山家の家臣達のうち、上杉に通じていた将達は能登から追放し、他の城も接収。
能登の1国の統治は不破光治に任せて越中国境付近で戦線は停滞。
大雪の為、無理した侵攻は危険と判断しての停止であった。
「ふう、これで今冬の侵攻は停止か。全く……何処かの軍神様のせいで酷い目にあった……」
「仕方がないだろ。今しか又兵衛と戦うことはできなかったのだから。私から見たら今しか勝ち筋が無かったのだからな」
「お互い様か……」
俺は上杉軍との決戦が終わると加賀の仮拠点に戻り、戦後処理をした後に越前へと戻るのだった。
「なんで戦が終わると嫁が増えるのよ!」
「私は嫁ではないぞ!」
「え!」
雫がいつもの通り、俺に違う嫁が増えていることにツッコミを入れるが、銀子の発言に驚愕した顔をした。
「え? あんた又兵衛と寝てないの!?」
「寝ておらんぞ! 神仏に誓ってな」
「嘘!? 又兵衛性欲魔人なのに襲われなかったの!?」
「雫から見たら俺は何なんだよ……」
「妖怪種付け」
「……何も言えねぇ」
とりあえず銀子こと謙信は家に居候することになるのだった。