【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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銀子と又兵衛の買い物

 津田家で暮らすこと数日後、町に出ても良いと又兵衛から許可が出たので、又兵衛と一緒に出かけることにした。

 

「なぁ、又兵衛が仕事をしなくても大丈夫なのか?」

 

「内政の仕事は殆どが文官達によって回されているから、俺は何か問題が起こった時の尻拭いをするくらいだ。それに俺の息子達や家臣達にも経験を積ませないといけないからな」

 

「ふむ……分業が進んでいるのだな」

 

 上杉家では分業ができておらず、大名である私が色々手を回すことが多かった。

 

 特に金策に関しては色々苦心した思い出がある。

 

 長尾家(上杉家の前身)時代から金稼ぎに勤しんでいた。

 

 武士の中には金が汚いと言う輩もいるが、越後では米があまり取れなく、周辺地域から食料を買わなければならなかった。

 

 なので金稼ぎに私は力を入れており、青苧と言う繊維に着目し、幕府との繋がりを深めることで青苧座を掌握し、長尾家の独占とし、保護したことで莫大な金を生み出してくれた。

 

 他には畳のい草の栽培、製塩、港の整備とやれることは色々やって軍事費を抽出し、各種軍事行動を行った。

 

 その金稼ぎを主導したのが私自身である。

 

 他にも政務に関しては私がやることも多く、これが家臣同士のいざこざの仲裁や水利権の分配など色々手を回したものである。

 

 今思うと今川家や武田家、北条家などがやっていた分国法を作れば良かったと思ったのだが、家臣達の権利を侵害してしまうので、私の権限をもってしても押し通すことができなかった。

 

 お陰で家督継承権も大筋までしか決めることができず、今頃家臣達が誰を私の跡目にするかで揉めているのではないだろうか……。

 

 それに比べて文官達で国の政務が回るというのはそれだけ又兵衛の領国経営が上手くいっている証拠である。

 

 それに又兵衛曰く、越前の領国経営を手本に北陸各国の統治を他の武将達が担うらしいが、十分に回せるだけの文官やその候補生がいるらしいので……羨ましい限りだ。

 

 又兵衛が何やら肩から荷物入れをぶら下げている。

 

 それはなんだと聞くと

 

「鞄だよ。肩掛け鞄。ここに色々荷物を入れられるんだ」

 

「ほう……」

 

 触らせてもらうと、動物の革でできているみたいで、想像よりも頑丈で柔らかい。

 

 軍でも活用されているらしく、銃兵が鞄の中に弾薬を入れて、保管していたり、携行食を入れておいて持ち運んだりするのだとか。

 

「日常使いにも便利だな」

 

「だろ?」

 

 あとは私は草履を履いたが、又兵衛は足袋……又兵衛曰く靴下という木綿で作られた足を守る履物に革靴という見たことがない履物を履いていた。

 

 靴の裏はゴムと呼ばれる樹脂が使われており、草履よりも足が痛くならず、速く走ったり、長時間履いていても足が痛くならないのだとか。

 

 軍では革靴ではなく、長靴と呼ばれるふくろはぎ付近まで守られている靴が取り入れられているらしく、足に圧をかけると血の流れが良くなり、疲れにくくなるのだとか。

 

 細かいようであるが、こういう細かい装備の違いが大きな戦力の差になっていく。

 

 又兵衛は常備軍と呼ばれる……農業をやらせない専門の兵の維持にも成功しているため、それを養える国力と装備品を統一することで戦力を引き上げることができている。

 

 一方で上杉家は各家臣達が兵を集めてくるので、兵の装備や質がバラバラであるため、作戦を立てるときにどれだけ戦力になるか見極めるのが大変であった。

 

「なるほど……敵将である島清興が名将であるのは勿論、兵の質によって上杉家は又兵衛率いる本軍が来るまで粘られてしまったのだな」

 

 戦場でも暖かく美味しい飯が届けられる兵站、装備の質、兵士の精鋭化……それに又兵衛の神からの加護があれば……なるほど、私が負けたのは自然であるな。

 

「負けるべくして負けたか……こんな将から慕われる織田信長はさぞ有能なのであろう」

 

「それは勿論。中華の皇帝にも負けない名君ですよ。信長様が今の時代に現れなかったら戦乱はあと100年は続いていたんじゃないですかね?」

 

「戦乱を終わらせる者か……それを信じて付き従う家臣が私に足りなかったものなのであろうな」

 

「銀子は天才過ぎたんですよ。戦もそうですが、大名としての能力も高すぎたので家臣に任せられずに分業に失敗した……戦国大名なら良いですが、日ノ本を全て統べるとなると……残念ながらそれでは駄目です」

 

「言うではないか」

 

「そもそも室町の支配体制が崩壊している以上新しい統治をしなければならないのに、国人の寄り合いや個人の資質で全てを回すやり方では国は統治出来ませんから」

 

「なるほどな……」

 

 又兵衛の考える国について町に移動しながら聞いてみたが……畿内を治めたら天下を取ったと私は考えていたのだが、又兵衛は日ノ本68国だけでなく、蝦夷地や琉球も日ノ本にしてしまいたいらしい。

 

「本当に日ノ本68国を織田信長は支配できると思うのか?」

 

「できますよ。できなければ日ノ本は異国によって支配される可能性もあります」

 

「異国……元寇の様なのがあると?」

 

「侵略はすでに始まっていますよ。キリスト教が教えを広め、信徒を増やしているのは来たるべきに南蛮人達の軍が攻めてきた時に内側から現体制を崩壊させるための者ですし……」

 

「異国人が日ノ本で異教の一揆を起こすと」

 

「まぁそうなります。そうならないために私は嫌々ながらも新しい宗教の象徴になり、キリスト教を分裂させたのですから」

 

 ここまで聞いて、私は又兵衛と見えている視点が違うことに気がつく。

 

 視野が私よりも高次元にあるのだ。

 

 なるほど……これでは既存の戦い方しかできない上杉家は負けるのであるな。

 

 戦で負け、思想でも負けているとなると、勝ち目はない。

 

 又兵衛と歩いていると、周囲の活気が溢れかえっていた。

 

 町民や武士達が笑いながら商品を売り買いしている。

 

 一乗谷は朝倉の本拠地であったのに、又兵衛はそれを壊すことなく発展させたのであろう。

 

「これが越前硝子か」

 

 又兵衛と一緒に硝子の店にふらりと立ち寄ると、色々な硝子の食器が売られていた。

 

「元々朝倉では硝子工房があったからな。支援して規模を拡大させた。お陰でなんとか庶民でも手が出せる値段まで値下げすることができるようになったな」

 

「ほぉ……」

 

 眺めている硝子の器……これに酒を注げばさぞ美味いことだろう……。

 

 冷やかしも程々に、別の店に移動し、そこでは呉服が売られていた。

 

「反物か」

 

「銀子の服が借り物ばかりも不便だろう。ある程度買ってるから」

 

「随分と太っ腹だな」

 

「まぁ今は居候と言うよりは客人だからな」

 

 呉服屋に入ると値札が並べられていた。

 

「値札が並べられている!? 品の値は店員に聞いて確認するものではないのか?」

 

「それをすると店員の負担も大きいし、店員の裁量で値段が変わったりするから、買い手側も不信感を抱く。交渉するから売り買いに時間がかかるのもよくないからな」

 

 現金掛け値なし……又兵衛が領地経営で余裕が出てきた時に導入したやり方らしい。

 

 又兵衛に聞いたところによると、最初商人達は信用取引の方が良いのではないかと疑い、導入を見送る店もあったが、導入した店の売上が目に見えて上がると、周囲もこぞって導入し、今では一乗谷だけでなく越前全域から、仲の良い織田家臣の間(秀吉と丹羽殿)の領国にも広がり、近江や若狭でも行っているのだとか。

 

 お陰で商人達も活気づいていたし、景気が良ければそれだけ税収も良くなるので、こちらとしても導入して良かったと思ってるらしい。

 

「しかも随分と安い値段で質の良い反物が多くあるな」

 

「繊維工場があるからな」

 

 又兵衛は木綿を越前でも栽培できるようにし、流民を働かせて大量に布を作っているのだとか。

 

 ここ数年青苧の売上が落ちていたのはそういう理由か……。

 

 経済でも又兵衛に負けていたことを知り、私は項垂れてしまうのであった。

 

 なお、その後反物や靴や鞄を買って、私は機嫌を直したのだった。

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