【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
媚薬チョコレートという劇物が誕生していたが、とりあえず俺の部屋の棚の中に、袋に包んで試作品をしまっておく。
使い道は色々あるし、量産できてから考えれば良いな。
うん……。
雪も溶けてきて春真っ只中。
農民達は田植えの準備をしているが、加賀だけでなく、能登や最前線の越中でも津田式農法が代官を通じて広められていた。
能登も越中も上杉謙信が支配者層を打ち倒して、上層部が粛清済みだったので、人口ぐちゃぐちゃな加賀とは違って支配はしやすかった。
支配地域が越中まで拡大したことで、忍び衆も領内の移動が楽になり、越後の方にも諜報網を拡大することができた為、上杉家の様子も入ってくるようになっていた。
どうやら、上杉謙信が居なくなったことで後継者争いが勃発し、上杉景勝を推す譜代家臣達と上杉景虎を推す外様家臣で武力衝突一歩手前まで発展しているとのこと。
一応上杉景勝は上杉謙信の異母姉の子供であり、上杉家の前身である長尾家の血を引いていた。
一方で上杉景虎は、北条氏康の七男であり、人質として上杉家に送られたところ、謙信が気に入り、謙信自身の幼名である景虎を名乗らせていた。
「銀子の本音聞かせてもらっていい? 正直どっちに家督を譲るつもりだったの?」
俺は銀子こと上杉謙信に質問すると、苦々しい顔をしながら
「景勝も景虎も本人の性格は甲乙付け難い。私は両者同じように可愛がったからな。ただ軍略に関しては景勝がやや才能に溢れている様に思えるが、政務に関しては北条譲りの内政力を持つ景虎に軍配が上がるだろう」
そう両者を評価した上で、ただと付け加える。
「私と景勝の母親……姉とは正直喧嘩ばかりしていた。私が元気なうちから家督を景勝に譲れと煩かったし、凄く我の強い人物だった。私に度々口出ししていたので、正直辟易していたんだ」
「一方で景虎はと言うと、可愛がってはいたが仇敵北条の息子だから可愛がっても御家騒動になるような勢力は持ち得ないと思っていたが……外様家臣達は上杉家よりも北条の方が未来があると思ったのだろう」
と、銀子は分析しているが、景虎の勢力が拡大したのは織田家の影響も多大にある。
景勝はどちらかと言うと、織田家と抗戦派の家臣を多く抱えており、一方で景虎は和睦派の家臣が味方に付いていた。
北条を介して和睦を願い入れようという魂胆なのであろう。
それにより俺や柴田のオヤジ殿には上杉家から和睦願いや内応に関する手紙が連日届けられており、正直どれが本当で、どれが罠なのか判断に困る。
上杉家が戦国大名と成り得ていたのが上杉謙信のカリスマによってだということがよくわかる。
個人の能力に依存している戦国大名は当主に何か起こると一気に弱体化してしまうのが弱点だな……。
まぁ俺の津田家も、上司である織田家の信長様も人の事は余り言えないけどさぁ……。
「私が居ないだけでここまで上杉家はボロボロとなるのか……」
銀子も数ヶ月居なくなっただけで急速に弱体化していく上杉家の話を聞いて、なんとも言えないような表情をしていた。
「まぁ銀子と約束した通り、信長様に話して当面の間は上杉家に手出しはしないから、その間に纏まれば良し、分裂するようであればそれまでと思ってくれ。……銀子自身もだいぶ上杉家の事を見限っていたんじゃないか?」
「……」
俺の問いに銀子は答えずに、部屋から退室していったのだった。
「又兵衛様も物好きですねぇ、こんな暑い場所にいらっしゃるとは」
「いやいや、ちょっと作りたい物があったからな。来てみたんだが」
ある日、俺はガラス職人のところを訪ねていた。
作りたい物があったからである。
「眼鏡の技術を応用して遠方を見ることができる物を作ることができないか?」
という職人とのやり取りから話は始まった。
神仏ガブリエル教で神主? 宣教師? に改宗したルイス・フロイスが前に眼鏡を俺に贈ってくれた。
そのレンズ作りのやり方を断片的に教わり、職人と複製を試みた事があり、今話している職人は眼鏡作りに協力してくれたガラス職人の1人であった。
現在は自分の工房を持って、棟梁として弟子達をまとめ上げてもいる。
「大きさの違う湾曲したガラスを組み合わせて光を集め、遠方が見えるようにするねぇ」
「あぁ、まずは手鏡の様な形にして、1枚のガラスを湾曲させながら作ることができないかな?」
俺は虫眼鏡の設計図を書いて、職人に渡した。
「ふむ……やってみましょう」
職人は俺の前でガラスを作り出し、それをヤスリで削ってレンズにしていった。
「こんな感じですかね?」
「ちょっと試してみるか」
見てみた感じ、少し近く物が見えるような感じがする。
おが屑を集め、太陽にレンズで光を集めると、おが屑に当たった焦点から煙が出始めて、一気に火がついた。
「おお! 直ぐに火が付いた!」
職人は感心していたが、これでは俺の求める精度で作れてない。
やり方はわかったし、自分で作ってみるか。
俺は自分でも作ってみても良いかと職人に許可を取ると、どうぞどうぞと言われ、俺もレンズを作ってみる。
ガラスの材料を熱して、塊を作り、くるくる回したり、水で濡れた紙を熱せられたガラスに当てて整形し、そのまま徐々に冷えるのを待つ。
その間に大きさの違うレンズを幾つも作っていき、冷えた物からヤスリや紙を使って磨いていく。
すると透き通るレンズが出来上がっていった。
大小20枚のレンズが出来上がった後に、俺は職人にガラスを使った品としてこんな物作れないかと提案した。
それはガラスペンである。
ペン先の中に毛細血管の様な細い管を作ることで、墨を付ける時は吸い出して、紙に当てると徐々に滴っていき、文字が書けるというペンである。
前世で子牛を買い付けに地方に行った道中立ち寄った町で、工芸品として売られていたので購入し、年賀状を書く時に重宝したことがあったので、作れないかなーと思い、職人に仕組みを教えてみたところ、工芸品の1つとして作られていたとんぼ玉の技術を応用すればできるかもしれないと言い出し、作ってくれることになったのだった。
「どうでしょう?」
「おお、スラスラ文字が書ける!」
職人が作ってきたガラスペンを使い、紙に文字を書いてみると、筆では書けない細い文字を滑らかに書くことができた。
「これは売れるぞ!」
「はい! 使うガラスの量も少ないので、弟子達も動員して量産できるように頑張ります!」
こうして越前ガラスで作る伝統工芸品の越前ガラス筆が出来上がるのだった。