【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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バレンタインSS 雫とボーロ

 私の名前は雫……毛受雫。

 

 津田又兵衛の一応正室……ということになっているんだけど、後から側室入りした市姫こと市の方が家格が明らかに高く、織田家での出世にも関わるから私と市は同列もしくは私の方が少し低い立場となっていた。

 

 私の苗字が津田ではなく毛受を使うのも、津田家は織田の縁戚である事を示し、当主である信長様の妹である市とその子供に使って欲しいと信長様自ら言っていたので、私らは津田を名乗ることが出来なかった。

 

 一応信長様から市が嫁ぐ際にこっそり頭を下げられたので、思うところはないのだが……。

 

 周りがどう思うかよね。

 

 一応私の長男の近国はちょっと不思議なところがあるけど、市の子供を押しのけて、津田家当主になろうって野心がないのが安心できる。

 

 私の子供が野心を持つと、家中が割れる可能性が出てくるから、それだけはいけないと口酸っぱく言っていたのが功を奏したと思われる。

 

 ……又兵衛と出会った時が11歳(数え年)の時で、今私は27歳。

 

 かれこれ16年も又兵衛と一緒に生活し、8人の子供を授かってもいる。

 

 武家の女としてやるべきことは十分にやっているとは思う。

 

「まぁ又兵衛のお陰で若さを保つことができているし、母様と同じくらいまで子供を産みたいな……」

 

 40歳を超えても20代の様な若々しさを保っている母様こと望は41歳で子供を産んでおり、周りからも高齢出産を讃えられていた。

 

 なので、今の目標は母様と同じ年まで子供を産むことである。

 

「今の2年に1人の間隔だと……あと6人は産める!」

 

 そんな事を考えながら日課になっている事をやっていく。

 

 チクチクチクと布を縫い合わせて手ぬぐいを作ったり、子供達の服を作っていく。

 

 布は奈々が織ってくれるので、それを使いやすい大きさに加工するのは私のやること。

 

 又兵衛の立場が偉くなってから、身の回りでやること……掃除だったり、裁縫だったりも侍女がやってくれるようになったのだけど、貧乏性というか、働いてないと落ち着かなくて、結局津田家では又兵衛が頑張って働いているのだから、嫁である女達も働く……というのが当たり前になっていた。

 

 勿論子供達もそう。

 

 自分達で出来る範囲で手伝ってもらう為、嫁いだ娘達はよく働いて旦那を立てるから貰い手の家から歓迎される子が殆どだった。

 

 まぁ性行為で旦那が悲鳴を上げるって言うのも聞くけども……。

 

 私は服の裁縫と畑の管理を主にしている。

 

 屋敷の裏に広がる畑で南蛮瓜……かぼちゃという野菜を育てたり、今の時期だったら大根が程よい大きさになっている為引っこ抜き、泥を拭って台所に運んだ。

 

「あ、母様」

 

「あら雫。大根収穫したの?」

 

「そうなの。良い大きさに育っていたし。母様は何しに台所に?」

 

「子供達のおやつ作りにね」

 

「手伝うわよ」

 

「あら、ありがとう」

 

 大根を洗ってから、軒下に吊り下げておく。

 

 これをして天日干ししておけば漬物とする時に味が染み込むからね。

 

 母様の手伝いに移行し、母様は又兵衛に習ったボーロという南蛮菓子を作るらしい。

 

 乳幼児も食べられるお菓子で、この菓子にははちみつではなく、貴重な砂糖か、無いときは栗などを使って甘さを出していく。

 

 乳を飲んでいる赤ん坊にははちみつが毒になると又兵衛から口酸っぱく言われているので、高くても砂糖を使う。

 

 材料としては馬鈴薯……じゃがいもから作った片栗粉に、牛乳、砂糖、卵を使う。

 

 それらを混ぜ合わせた生地を玉状に形作り、平鍋(フライパン)に並べて弱火で黄金色に固まれば完成である。

 

 片栗粉で作ることで、口の中で溶ける様な味わいとなり、赤ん坊でも食べられるようになる。

 

 小麦粉で作るとサクサクのおやつになり、そば粉で作ると腹持ちがよく、領民の間でも専門の店が開かれるくらい人気のある菓子だった。

 

 まぁ領民は砂糖が手にはいらないので栗や水飴を混ぜて甘みを出していたが……。

 

「できあがりっと」

 

「私はもう少し作っておくから、雫は子供達に食べさせてあげて」

 

「はーい」

 

 出来上がったボーロ菓子を布で包むと、台所から赤ん坊達がいる部屋へと移動した。

 

 そこにはマリアと玉が子供達に授乳をしている最中であった。

 

「おお、雫! 良いところに! 赤ん坊達が一斉に乳をせがんできてな! 儂と玉だけでは足りんのだ。お主の乳も分けてはくれんか!」

 

「はいはい、あとボーロ作ってきたから、離乳が近い子にはこれを食べさせて」

 

「助かる!」

 

 玉とマリアはとんでもなくデカい乳をしていて、出せる乳の量も多い。

 

 又兵衛の子供達は皆乳をよく飲むが、玉なんかは赤ん坊3人から4人分の乳を1回の授乳で出すことができて、母親の数が少ない時期や奈々があまり母乳が出なくて困った時は率先して乳を分けてくれて助かった記憶がある。

 

 今は同じくらい母乳が出るマリアがいるので負担は分散しているし、今年産まれた8人の子供達も2人が居れば乳は事足りてしまうので、だいぶ楽が出来ていた。

 

「はいはい、おっぱいですよー」

 

「あうあう」

 

 私は文の赤ん坊を抱き寄せて乳を飲ませていく。

 

 文と白の2人は歩けるようになったばかりの幼児達の面倒をみている頃だろうか。

 

 あの2人は子供の扱いが上手だからな。

 

 子供達からも人気がある。

 

 うちでは当たり前だが他所だと妻達がここまで協力して子供を育てるというのも珍しいだろう。

 

 自分の子供可愛さに家を割る者も居るくらいだからな。

 

「おーよしよし、じゃあボーロ食べようか」

 

「あうー」

 

 赤ん坊の腹を乳で満たしながら、残りはボーロを食べさせていく。

 

 口が乳で甘い香りがするが、手ぬぐいで拭いてあげて、又兵衛が作った赤ん坊用の寝台(ベビーベッド)に寝かせてあげるのだった。

 

 これが最近の私達の日常だ。

 

 

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