【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
「流石に夜に狙撃はうちの練度でも難しいか」
的場隊と土橋隊が腕利きの鉄砲衆を率いて、先に鈴木家に夜襲を仕掛け、発砲音が響き渡るが、鈴木家にそこまでダメージは入っていなさそうである。
「又兵衛、これでは朝駆けの効果も薄いと思われるぞ。私が一撃加えてこようか!」
「銀子、狂犬みたいになっているぞ……まぁ相手に負荷を掛けられれば十分だから、今回は俺の指示に従ってくれ……朝大暴れさせてやるから」
「そうか……それなら仕方がないな。又兵衛の手腕を見させてもらうことにしよう」
銀子とはそんな会話をするが、島に命じて、俺自身も朝駆けの準備に入る。
(島に囮をやってもらう。兵数有利を活かした多方面奇襲は支えきれんだろう)
俺は更に一工夫として、久しぶりに種付けおじさんの能力であるモザイクを発動する。
身体から煙が沸き起こり、周囲を霧で覆っていく。
早朝、周囲の視界は霧が充満していて外からはこちらの動きが見えなくなっている。
そんな最中、島の部隊が突如鈴木家の陣に現れ、奇襲を開始したのである。
「島がやってくれた! 俺達も突っ込むぞ!」
「「「「おお!」」」」
混乱する鈴木家の陣に津田本隊も突入していく。
俺が最前列で突っ込み、霧によって孤立した鈴木家の兵達は突如現れた津田軍に轢き潰されていく。
「父上に続け!」
一端の武将へと成長していた息子の高貞が弟達を鼓舞し、槍や大鉈、大太刀等を担いで突っ込んでいく。
その脇を固めるは菊八や熊部等の古参家臣達。
そして津田家お抱えの常備兵達である。
種付けおじさんの俺の力が宿った食事を食べ続けた結果、戦国時代の平均身長を大きく超えた180センチクラスの巨人軍団が大きな武器を担いで突撃してくる。
これに恐怖を感じない兵は居ない。
手にしていた鉄砲の火縄に恐怖で手が震えて着火できずにいるうちに、次々と鈴木家の兵達は討ち取られていく。
モザイクの煙は敵兵の血により赤……いや、黒塗りへと変色していき、雑賀城に到達する頃には、敵兵は動かぬ亡骸へと変わり果てていたのである。
「音将」
「おうよ! 父上! 吹き飛ばすか!」
「ああ! 盛大にやれ!」
「野郎共! 城を吹き飛ばしてやれ!」
大筒隊を前に出すと、霧の中から次々に砲弾が飛んできて構造物を破壊していくのは鈴木家にとっては恐怖そのものであっただろう。
自慢の鉄砲も霧の為に狙いが付けられず、探り撃ちでもすれば、津田の鉄砲隊から数倍の射撃が正確無慈悲に飛んできて、蜂の巣にされてしまう。
ことここに至り、鈴木家の大将格である鈴木孫一は指揮下に居る兵だけでも率いて、潜伏しようと城から脱出しようとするが
「お前さんのやりそうな事だよなぁ! 孫一よぉ!」
そこは土橋隊が網を張っており、出てきた孫一共々射殺。
ルイス・フロイスが過去に紀伊は共和国の様になっていると称した国人及び宗教勢力が根付いて居た紀伊は今回の織田家の攻撃により崩壊。
しかし、海上より新たな敵が近づきつつあった。
紀伊の海上封鎖を任されていた九鬼水軍と滝川水軍は紀伊から大坂湾までの広い範囲を封鎖し、本願寺勢力が救援に駆けつけられないようにしていたのであるが、その封鎖網を突破しようと挑む勢力が居た……村上水軍である。
「ここで毛利が動くか……」
報告を聞いた津田軍は鈴木家の残党狩りをしつつ、海岸沿いに進出したが、そこには逃げ延びてきた滝川水軍と九鬼水軍を収容する丹羽殿の軍の姿があった。
「丹羽殿これは……」
「ああ、又兵衛か。海上封鎖に失敗した。雑賀は倒せたが、毛利を刺激し過ぎたみたいだ……秀吉が信長様に毛利攻めを命じられたよ」
「そうですか……」
詳しく情報を収集していくと、信長様が追放した足利義昭がまだこちらの足を引っ張っているらしい。
京から追放された足利義昭は畿内では信長様に敵対してくれそうな勢力が本願寺以外居ないと判断し、自身の影響力がまだあるうちにと畿内を脱出。
そのまま毛利に転がり込むと、毛利に上洛の軍を起こし、幕府再興を願い出たらしく、最初は毛利上層部も足利義昭の扱いに困っていたらしいが、伊達に将軍として各勢力を動かしてきた煽動家としての能力をフル活用し、毛利に与している国人衆を反織田家で意識統一してしまったのである。
織田家の様に信長様のトップダウン式の中央集権が完成した戦国大名ではなく、国人衆の寄合であくまで纏め役という立場で家を大きくした毛利家では国人衆の意見次第で家の方針を動かすことが可能だった為に、毛利本家も織田家との敵対の道を辿るしか無くなったのである。
その手始めとして本願寺の救援が行われ、明智光秀の陸上包囲によって干上がりつつあった本願寺に今回の封鎖突破による海上輸送で物資が補給されてしまったのである。
一応、雑賀の息の根は止める事が出来たが、本命は本願寺にトドメを刺す事を戦略目標としていた織田家では、毛利の水軍を倒さなければ本願寺は屈しないと長期戦が確定してしまい、信長様の機嫌は一気に急降下。
ブチギレまくって、周りの将達が恐怖しているから又兵衛早くカムバックと秀吉から手紙が送られてくるのであった。
「信長様、怒っても状況は好転しませんよ、落ち着いてくださいな」
「又兵衛! しかしだな!」
「愚痴は寝所で聞きますので、一旦落ち着いて状況を整理しましょう」
戦後処理は丹羽殿に任せて、俺は怒っている信長様の陣に向かうと、やはり不機嫌そうな信長様がそこに居た。
本願寺を倒すために練っていた戦略が根底から覆されたら……そりゃ機嫌が悪くはなると思いつつも、落ち着かせてからどうするべきかを話し合う。
他の諸将は信長様の逆鱗を恐れて意見出来ないとは……これはこれで問題だなと思ったり……。
「まずことここに至り、本願寺に明智殿を縛りつけておくのは彼の能力を考えれば勿体ないと思います。なのでここは塙殿に活躍してもらうのはいかがでしょうか」
「塙か」
塙直政……少し前まで原田直政と呼ばれていた母衣衆にも所属していた人物であり、信長様の側近官僚という立場を務めていた。
なお昨年信長様は権大納言・右近衛大将という役職を朝廷からいただき、天下人と呼ばれるようになっていたが、その朝廷工作を林殿と共に務めていたのがこの塙直政殿であった。
その時の働きを朝廷側からも認められ、信長様経由で塙という苗字を名乗ることが許され、原田から塙直政に改名した……という経緯を持つ人物で、筒井や松永久秀が不在となった大和国の国守にも任命されていた文武両方で高い能力を持っていた人物である。
彼であれば本願寺の包囲の役目を全うしてくれるだろうし、佐久間殿が粛清されて浮いている重臣の引き締めを担ってくれるだろうと提案したのである。
「彼には摂津の荒木殿も補佐に付ければ問題ないと思いますが」
「そうだな……空いたキンカン(明智光秀)は丹後方面に回すか。猿(秀吉)は播磨を抑え、畿内は細川を使うか」
徐々に冷静さを取り戻した信長様は次々に指示を出していく。
「うむ、滝川は関東の抑えに使おうと思ったが、水軍の立て直しに甲斐を取り上げて紀伊を与えよう。アヤツも畿内に近い方がやりやすいだろう。空いた甲斐は権六(柴田のオヤジ)の所領に追加して埋めるか」
次々に空いていたピースを埋めていき、俺には上杉の混乱が落ち着き次第越後へ攻め入れと命令され、越後の切り取りを約束された。
「越後統治は又兵衛でないと出来ないだろうから、そのうち能登と越中は別の者に任せる。希望者は居るか?」
「でしたら越中は利家に」
「犬か、アヤツも国持ちに十分な能力があると馬が判断するのであれば良い。能登は今不破に任せているのであるな」
「は!」
「なら不破のままで良いだろう。それと佐々(成政)に加賀が安定したら土地を回してやれ」
「御意」
「さて……じゃあ寝所に参ろうか!」
結局これか……と俺は思いながらも、信長様の機嫌を直すために腰を振ることになるのだった。