【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
冬が始まったが、今年の収穫は越前では例年通りの大豊作。
加賀でも高貞や代官達が毛受式農法を広めたことと、俺が川の上流で精子を放流させるファラオ式をやった事もあり、人手が足りている場所では例年以上の収穫量となっていた。
ただ加賀はどうしても男手が足りていないので、復興には10年単位でかかるだろうが……。
それでも越前1国で175万石近くの収穫量になったことは誇れるだろう。
能登や越中は農法がまだ広まってないし、津田家が品種改良した寒くても美味い米が大量に実る種籾を来年からは配るので、収穫量は一気に多くなることだろう。
まぁ能登に関しては不破の手腕にもよるだろうが……。
それに織田家の領地でも津田家が品種改良した米や小麦が広がりを見せていて、特に米処と呼ばれている近江を管理している秀吉殿と明智殿の2人は俺と距離が近いこともあり、新しい農法を取り入れたり、積極的に開墾や復興に尽力したこともあり、両者数年で3倍近くまで収量が増えていた。
織田家お膝元の尾張や美濃もそうであり、両国合わせると200から250万石ほどの米を生産していた。
農法の広まりは美濃の加茂村の住民達の手腕も大きかったらしいが……。
お陰で織田家は既に1000万石を超える石高……国力を有し、対抗しうる毛利が250万石、北条が200万石というのを考えると、国力がいかに乖離しているかがわかる。
「例え全ての大名が敵になったとしても殴り倒すことができる国力を織田家は有している……チョット人材が不足気味という点を除けばな」
それに加え、織田家は南蛮貿易や明との密貿易も盛んであり、更にトップである織田信長本人が経済を分かっている為、積極的に戦地復興や道や川の整備に金を投入していた為、景気が刺激されて復興特需、開発特需による好景気となっていた。
「となるとそろそろ信長様に通貨を発行した方が良いと伝えた方が良いな」
この時代の通貨は日ノ本独自の通貨では無く、明から輸入する通貨に依存していたのである。
日明の勘合貿易が安定していた時代は良かったのであるが、今から25年前……1551年に勘合貿易を取り仕切っていた中国地方の大大名にして、応仁の乱唯一の勝者と評された大内氏の当主が嫡男と共に家臣によって殺される大寧寺の変という事件を契機に、貿易がストップしてしまい、密貿易以外で明とのアクセス権を失ったのである。
これをなんとかしようと足利義輝公や三好政権と呼ばれる畿内で権威を誇った三好家でも明との外交権は復旧できずに没してしまい、通貨が輸入できなくなっていたのである。
なお、この大寧寺の変の直前に朝廷では山口町……現在の山口県に遷都しようと動いていたのだが、大臣クラスを含め朝廷の実働要員の多くがこの変に巻き込まれて亡くなってしまい、朝廷が困窮する原因にもなっていたり……。
で、ある程度回復したとはいえ、朝廷で銭の発行をする体力はまだ無い……となると銭の材料となる銅鉱山を多数有し、朝廷から許可を取れ、技術的にも品質の良い銭を作れるのは……織田家しかなかったのである。
俺は信長様に独自通貨を造った方が良いのではないか……という意見書を提出すると、直ぐに返信が来て、安土に来るようにと招集がかかった。
安土城に向かうと、信長様だけでなく、文官として活躍する林殿や村井殿など、俺も幼い頃に内政のいろはを教わった重臣の方々が控えていた。
「馬が日ノ本で貨幣を作るべきであると意見書を出してきた。村井、日ノ本で銭を作ることは可能なのか?」
「可能か不可能かで言えば可能です。鎌倉より以前は朝廷が貨幣を作っていた事もあるので、無理ではないです」
「では何故大陸より銭を輸入するようになったのだ?」
「その方が安かったのと、日ノ本の冶金技術が大陸より劣っていたのが原因です。日ノ本の銭は模倣されることが多かったのに対して、大陸の銭は模倣が難しく、偽物は直ぐにわかるようになっていました」
「しかし、今の世の中では鐚銭や悪銭が出回っているではないか」
「それは明との貿易が停止したことによる銭不足から来るものです。例え悪銭だとしても銭として使えるのであれば庶民は使うでしょう」
林殿も
「銭の価値を決めるのは造ったり、管理している中央に権威があるかどうかが大きいです。大陸の王朝は皆強力で、大陸から来た金というのに価値が見出されてました。それを管理していた鎌倉、室町、大内といった政権や大名も銭に一定の理解を示し、銭の価値を下げないことに努めていたのです。言ってしまえば銭は価値がなければ食えもせず、石ころと同程度になってしまいますからな」
「畿内を握っている織田家が硬貨を造ればどの様な影響が出ると思われる」
信長様は2人に問うが、自国通貨を発行していたのが500年以上前なので朝廷の一部に断片的にしか情報が残っておらず、その影響を想像して語ってみよ……というのは文官の彼らでも難しかった。
(これ転生者である俺以外だと、うちの家臣の大蔵長安くらいじゃないか? 信長様の求める回答できるの)
そんな事を考えながらも俺は信長様にメリットとデメリットを伝えていく。
メリットとしては貨幣を発行できることにより他の大名の経済力を制限することができる点である。
これはどこも金や銀といった貴金属でやったりもしているが、銅銭でもできるとなれば庶民の取引も含めてある程度コントロールすることができるし、他国が使用制限を課せば中央との取引に支障が出るため、相手の経済力を削ぐことにも繋がる。
更に経済規模に対して銭が足りず、デフレ状態に陥っており、相対的に物の価値が低下してしまって、経済停滞に繋がっているため、銭不足を解消できれば、商人や領民の取引も活発になり、巡り巡って織田家への税収も増える事を伝えた。
デメリットは織田家の信用が崩壊すると造った銭の価値も下落し、そのまま勢力に致命傷を与えかねない点である。
「ふむ……銭の扱いを間違えれば国を傾けるか」
「はい、大陸では銭の取り扱いを誤り、崩壊した国も幾つかございます」
まぁ俺が言うのは現代のジンバブエとかギリシャとかであるが……。
経済危機が起こると、ダメージは計り知れないからな……政権の力が強いほどダメージがデカくなる。
「ふむ、しかし利の方が大きいならば造る方が良いだろう。村井、お主と京に居る細川が協力して銭を造ることを朝廷に認めさせよ」
「は!」
「馬、良き案であった」
「は!」
こうして織田家でも銭を造る動きが始まるのであった。