【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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一方で猿こと秀吉は

 中国地方攻めを命じられていた秀吉は順調に播磨と但馬の2国を制圧し、中国地方の雄である毛利軍から丹波と丹後の2国の補給路を切断し、丹波と丹後を攻めていた明智光秀率いる明智軍を援護していた。

 

 戦略的に優位に立ち回っていた秀吉であるが、播磨と但馬を攻め落とすのは素早かったが、それ以降は毛利軍による激しい抵抗にあい、戦線は停滞してしまっていた。

 

「むむむ、流石は1代で安芸の弱小国人から中国地方全域を支配下に置いた毛利元就が鍛えた家臣達。なかなかに手ごわい」

 

 謀神と呼ばれる謀略を用いて中国地方にこの人ありと言われた大妖怪毛利元就は6年前に没していたものの、毛利家を支える家臣達の多くは存命であり、更に毛利両川と言われる毛利元就の2人の息子である吉川元春と小早川隆景は中国地方屈指の名将と讃えられる戦上手で、その2人だけでなく何人もの優秀な将が存在し、織田家から見ると実に邪魔な勢力であった。

 

「いやぁ、実に腕が鳴りますねぇ。私の頭脳と毛利の頭脳、どちらが上かの知恵比べになるでしょうね」

 

「流石です半兵衛殿!」

 

「半兵衛に官兵衛、敵が強くて喜ぶ変態はお前たちだけで十分じゃ。さて、どう攻める?」

 

 一方で秀吉軍も建康になった竹中半兵衛と黒田性に改めた黒田官兵衛の2名の軍師が知恵を振り絞っていた。

 

 2人は将棋や囲碁などの知恵比べが得意で、竹中半兵衛より一回り年が若い黒田官兵衛を半兵衛は大変可愛がっていた。

 

 官兵衛の方も半兵衛を大変尊敬してブンブン尻尾を振る大型犬みたいに懐いていた。

 

「既に手は打っております。官兵衛、絵図を」

 

「は!」

 

 黒田官兵衛が地図を広げると、竹中半兵衛は地図上に駒を置き始める。

 

「中国地方は毛利が急拡大して制圧していった勢力なので、敵対していた勢力の残党や有利不利で寝返りを狙っている国人勢力が無数におります。毛利が完全に支配下に置けている場所は安芸、石見、長門、周防の4国のみで、他地域は統治が不安定です」

 

「ほぉ……むむ、この出雲、伯耆、因幡の山陰3国に置かれている駒はなんだ?」

 

「はい、尼子残党であります」

 

 尼子というのは毛利が中国地方の覇権を争ったライバルの大名であり、毛利元就の晩年の殆どを使って制圧した程の手ごわい勢力であり、尼子も最盛期には山陰山陽の11ヶ国を制圧するほどであった。

 

 滅亡後尼子の家臣団は散り散りになってしまったが、虎視眈々と復興を狙う勢力が滅亡から10年が経過してもなお多く潜伏していたのである。

 

 竹中半兵衛はそんな尼子残党を信長様が匿っていた事を知り、秀吉が中国方面軍司令官に抜擢される前に接触。

 

 中国攻めが本格化したタイミングで京より尼子再興軍を編成して送り込んでいたのである。

 

「尼子が蜂起すれば山陰方面は機能不全に陥ります。制圧するにも多大な時間を毛利方は浪費することになり、その間に山陽方面の調略を進めてまいります」

 

 最前線である播磨の隣の美作と備前の2国は政情が不安定であり、特に備前の宇喜多直家は毛利元就に並ぶと言われるほど謀略に長けた大名であり、寝返らせればでかいと接触を試みていた。

 

 ただ冬が本格的に始まってきたので、今年の戦線は膠着状態で来年に繰り越し予定であった。

 

 冬の間にどれだけ謀略を練れるか……半兵衛と官兵衛は中国地方という盤面で駒を動かしていた。

 

「半兵衛と官兵衛を仲間にできて本当に良かったわい」

 

「秀吉様の人徳あって我々軍師は動きやすくなるのです。それに秀頼様も大変優秀で……秀吉様に弟の秀長様、息子の秀頼様の3人が居る間は羽柴家は安泰でしょう」

 

「そうじゃろ! そうじゃろ! 半兵衛はよくわかっておるな! 秀頼は今呂布と言われるくらいの勇将に育った。これも半兵衛達の教育によるものだ!」

 

「元々才能があったので、私はそれを芽吹かせただけですよ」

 

「それができる者は少ないのだぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことを言われている秀頼は秀吉よりも更に前線に近い城で若手の武将達を纏めていた。

 

「コラ、佐吉(石田三成)、市松(福島正則)またお前ら喧嘩して……」

 

「だってよ若様、佐吉の奴が」

 

「市松、お主はもっと銭の使い方を学べ、金も無限にあるのではないのだぞ」

 

「だからって手紙書く紙代まで削る必要はねぇだろ佐吉!」

 

「はいはい、佐吉もそこまで細かく言わなくてよろしい。人にくどく注意したら嫌われるぞ」

 

「……はい」

 

「市松は手紙代は別に良いが酒代は抑えろ。他の出費が多い事も佐吉は注意しているんだからな」

 

「申し訳ない若様……」

 

 そんな様子を政務をしながら加藤清正と大谷吉継の2人は日常風景に笑っていた。

 

「今日もあの2人は若様に注意されているよ……」

 

「飽きないのか? あやつらは……まったく、殿(秀吉)に前線の城を我らに任されたのに緊張感のないこと……」

 

 ただ皆から若様と慕われている秀頼の手腕は皆が認めていた。

 

「若様は凄いよ……俺たち武官と文官でどちらかに偏っていることが多いのに、戦上手で政務も得意。殿の様に人垂らしで人気もある。本当によくできた人だよ」

 

「清正、我らは命をかけてでも若様を護らなければ羽柴家が割れるぞ」

 

「わかっておる。若様のお子さんも居るとはいえ、若様程の器量があるとは思えん。若様に手柄を立てさせつつ、身は我ら家臣が守らねば」

 

 羽柴家は若手の武将達を秀吉の手で一から育てて、この頃ようやく戦力化していっており、津田軍よりは経験で劣るが、若々しさあふれる軍団であった。

 

 その足りない経験の部分を半兵衛と官兵衛の2人が支えるバランスのよい軍に育っている。

 

 この軍団に苦難が迫っているとはまだ誰も知らなかったのである。

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