【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
「秀吉殿ご無事か!」
「又兵衛! 援軍に来てくれたのか!」
摂津争乱発生から20日後、強行軍を行い、何とか秀吉殿の率いる羽柴軍との合流に成功し、羽柴軍の退路を確保することに成功した。
「被害は」
「毛利勢の足止めに成功したことで多くは出ておらん」
秀吉殿曰く、前線の城を守っていた息子の秀頼含めた若手の奮闘で、毛利勢の侵攻を食い止め、その間に戦線の縮小に成功したため、大きな損害もなく、抵抗を続けることができているらしい。
羽柴軍は総勢3万強であり、俺が連れてきた津田軍を合わせると4万と少しという人数になる。
毛利勢は現状4万とほぼ同数であるが、総大将の毛利輝元率いる毛利本軍も近づいており、それらが合わされば7万の大軍になる。
「信長様は」
「今摂津に入られた。播磨まで来られるには今しばらく時間がかかる……秀吉殿、決戦を行うが吉か?」
「……オイラ的には決戦をしても問題は無いと思う。ただそれは信長様の本軍が到着する前。毛利勢も数が揃う前に行いたい」
「では同数での決戦をと」
「ああ、又兵衛が物資を届けてくれたからやりようは幾らでもある。又兵衛悪いが」
「ああ、わかっている。今回の戦の主役は秀吉殿、あなただ。俺はその指示に従う」
「……助かる」
秀吉殿の他に軍師である竹中半兵衛と黒田官兵衛、羽柴軍副将の羽柴秀長、それに津田軍の副将の島左近の面々も集い、軍議を開く。
現在地は播磨国姫路城で、敵の毛利勢は備前と播磨西部に進出してきている宇喜多直家率いる部隊が目下の敵であった。
その後ろに小早川隆景、秀吉殿が戦線縮小で放棄した丹馬方面からは吉川元春が近づきつつあった。
「どちらかが足止めをしている間に主力が敵軍を撤退に追い込む必要があります。津田軍には吉川隊の足止めをしていただき、その間に羽柴本軍は播磨西部で毛利勢との決戦に挑むがよろしいかと」
「半兵衛にしては無難な策だな」
俺は半兵衛の策がずいぶん手ぬるいと思ってしまったが、半兵衛はこれでもだいぶ無茶を言っていると、俺に言ってきた。
「吉川元春は毛利軍最強と名高い猛将。吉川隊も1万強いるのです。それを半数の兵数で耐えなければならないのは並の将では無理ですよ」
「半兵衛殿言うじゃんか。俺は並の将ではないってことか?」
「ええ、正直織田軍最強の武将は又兵衛殿、貴方になりますよ」
半兵衛とは昔稲葉山城を一緒に乗っ取ったりしたり、個人的な付き合いが続いていたが、初めて彼から将としての評価を受けた気がする。
「又兵衛、悪いがババを引いてはくれんか」
「問題ない。秀吉殿は早く息子の秀頼殿を救出し、戦で勝ってくれ。北は任せろ」
「……頼むぞ又兵衛!」
「ああ、互いに吉報を持ち寄ろうぞ」
「中国地方最強の将と寡勢で戦うとはなかなか刺激的じゃないか!」
「この状況下で笑えるのは銀子だけじゃのぉ。さて、儂も死にたくないから策を授けるとしよう」
俺達は播磨と丹馬国境近くの神河という土地にまで兵を進め、廃城になっていた寺前城を早急に修繕していた。
ただ寺前城の防御力ではろくに防御できないと判断し、あくまで陣所として寺前城を機能させるにとどまり、本命は野戦である。
寺前城近くは小田原川と市川という川が流れており、丹馬方面から南下してくるとしたら川沿いのどちらかから。
陣を置く位置が侵攻してくる吉川隊よりも下流に位置しているため、水攻めも難しいというなかなか難しい地形をしていた。
「ただこれより後方で戦うと盆地となり防戦に不向き故に、儂なら山岳沿いのここらで罠を張るのぉ」
川沿いの低い土地を下ってくるため、山に鉄砲兵を伏せておけば奇襲にはなるだろうが、それで崩れるほど吉川隊は弱くは無いだろう。
「この地形であれば私の車懸りの陣がもっとも有効的に機能するな」
地図を見ながら提案したのは銀子であり、上杉軍の奥義とも言うべき車懸りの陣が出来るのではないか……と。
「車懸りの陣か」
円形の陣形で、陣を回転させることで突撃の衝撃をいなしつつ、連続して攻撃を仕掛けることで、敵の疲労を誘い、頃合いを見て前進して敵陣を崩すという陣形戦術である。
銀子曰く川中島の戦いで武田信玄と戦った際に完成させた戦法だとか。
この陣の使用条件は側面が川もしくは山で、敵兵が横に逃げる場所が少ないこと、現場判断で動ける指揮官が多数いること、総大将が突撃のタイミングを計れること、兵の練度が敵と同等以上なことの4つあり、今回はそれらの全てが満たされていた。
「車懸りの陣で行こう。撤退は考慮しない。負ければ秀吉殿の軍含めて崩壊するからな。島、将の配置はお前に一任する」
「は!」
「銀子、お前は最前線を、マリアは中段を頼む。ただ俺は……」
俺は大将として本来なら中央にいるはずであるが、別の場所にいた方が勝率が上がると、とある事を提案した。
「……わかりました。中央は私にお任せください」
「島、頼む。お前なら突撃の時を計れるだろう」
「ええ、又兵衛様は存分に暴れてください」
「おう」
こうして後々神河決戦と呼ばれる津田軍と吉川軍の戦いが始まるのであった。