【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
「明智殿、大丈夫でしたか?」
「おお、又兵衛……いや、心配かけたねぇ〜おじさんも寄る年には勝てないかな」
「またまた、お元気そうで何よりです」
近江国坂本……比叡山延暦寺の近くであり、安土に西より侵入する際の防衛拠点として機能する町である。
古くは足利義輝公が父親である足利義晴公と共に京から落ち延びた際、一時拠点にしたこともある京近くの要所であり、最近は琵琶湖の水運の終着点であることにより水運で賑わっていたり、信長様の命令で天正通宝……黄銅銭の製造所となる銭座を配置し、銭の製造も行われていた。
織田家から見ても重要拠点である坂本の町を本拠地にしていたのが明智光秀殿てある。
それだけ信長様から信頼されているということにも繋がる。
「銃撃を受けたと聞きましたが」
「ああ、足に受けてね。いやぁ参った参った……」
「見てもよろしいでしょうか」
「うん、逆にお願いするよ」
明智殿の許可を取り、銃撃を受けた右足を確認すると、ふくらはぎに弾丸が肉を抉った跡が鮮明に残っていた。
「明智殿の年齢だと回復も遅いでしょう」
「うん、おじさんもやっぱり年だね……全然痛みが引かなくて」
「今、気を送りますので楽にしてください」
種付けおじさんの精気を明智殿に送り込む。
すると赤く腫れ上がっていたふくらはぎが徐々に健康的な肌色へと変わっていく。
「おお、流石又兵衛の祈祷だね。傷がどんどん癒えていくよ」
「明智殿が元気でないと、珠子が悲しみますのでね」
「いやぁ、又兵衛に珠子をやって良かったよ。ふう……だいぶ痛みが引いた。ありがとうねぇ〜」
「それなら良かった」
元気になった明智殿は茶を点てられて、俺にお茶を勧めてきた。
せっかくなのでいただくことにする。
「いやぁ、おじさんもそろそろ引退かね。頑張っている柴田殿とかには悪いけど、衰えが隠せなくなってきたよ」
「明智殿……」
「まぁおじさんには後継者の息子が居るから継承は問題ないけれど、息子の光慶はまだ若いから家臣の統制ができるか心配なんだけどね……」
明智殿には息子が2人、娘が多数おり、荒木殿の息子に嫁いでいた娘が居たが、乱の際には生き延びて、今は坂本へと戻り、明智殿の庇護下で夫の喪に服している。
珠子からすると姉に当たる人物である。
息子は光慶殿と光泰でどちらもまだ20代前半。
明智殿と戦を転戦していたので経験は豊富であるが、明智殿程の才覚は無いと明智殿が断言していた。
それ故に60を過ぎても明智殿が引退できずに家中統制を行っているのであるが……。
「正直方面軍司令を外してもらって肩の荷が下りたよ。羽柴軍にも負けない家臣がいると断言できるけど、大将のおじさんが年で活発に動けないのはどうしょうもないね。それで足に大怪我。又兵衛のお陰で回復したけど、落ちた体力はこの歳だと戻らないからね」
「明智殿……」
正直明智殿にはもう少し……後3年は頑張ってもらいたい。
3年あれば越後平定の時間は十分に取れるし、海戦次第であるが、海上封鎖ができれば石山本願寺の降伏にも漕ぎ着けるかもしれない。
中国戦線も秀吉殿の才覚であれば滅亡まではいかなくても、だいぶ押し込めていることは不可能ではないはず。
「明智殿、申し訳ないが……後3年は頑張ってはもらえないであろうか」
「又兵衛もこんなおじさんに働かせようとするの……?」
「半年の療養は信長様も許可されるでしょうが、丹波、丹後平定は明智殿の仕事かと」
「うへぇ……嫁と坂本でゆっくりしたいんだけどなぁ……」
「荒木殿が無事であれば明智殿の負担も軽かったと思われますが……」
「仕方がない。荒木殿はもう仏になってしまったからね。又兵衛はこれからどうするの?」
「兵を整え次第越後に介入します。上杉の御家騒動で十分弱体化したのでね。もうそろそろ息の根を留めねば」
「……又兵衛」
「ん? どうした明智殿?」
「又兵衛から見て信長様は無理をしているようには思えんか?」
「無理……いや、定期的に息抜きをさせていたから大丈夫だとは思うが」
「家督を信忠様に譲ったとはいえ、明智家と同じく、織田家も信長様ありきの家だからね。信長様に何かがあれば家が割れる。それまでに天下を統一できれば問題はないけど……何か起こればその時は重臣の中で一番若い又兵衛が織田家を引っ張っていってほしい」
「そんな、明智殿縁起でもない」
「又兵衛!」
「……わかりました。何も起きないように動きますが、起きてしまったら、私が中心になって動きます」
「うん……もしその時が起これば徳川家康殿にはくれぐれも注意するんだよ」
「……はい」
「信長様に何かがあれば……か」
もう何年に起こるか忘れてしまったが、明智光秀が織田信長を本能寺にて討ち取る。
歴史に詳しくない俺は、俺によってどれだけ歴史が変わっているのかわからない。
なので本能寺の変が今の状況でも起こるのかわからないが……。
「何か起こってからでは遅い……か」
そんな事を考えていると、新しく家臣に加わった高山右近が出迎えてくれた。
「津田殿……いや又兵衛様! 改めて家臣に加えてくださり感謝します!」
「いや、右近も戦で活躍してくれて助かった。それよりも」
右近は熱心なキリスト教徒だと聞いていたが、越前の神仏ガブリエル教に汚染されところを見て正気を保っていられるかどうか……。
「又兵衛様、私は感銘を受けました。越前にも教会があると聞き、実際に行ってみると、私が教えを受けていたキリスト教よりも、日ノ本の民に寄り添ってくださる神仏ガブリエル教の教え……これこそが日ノ本に新たな光を指し示す教えであると確信しました! 庇護者たる又兵衛様の下で働けること、この上なく感謝します!」
ああ、もうダメだったか……すっかり汚染されてやがる……。
神仏ガブリエル教の狂信者に染まってしまった右近を見て、頭を抱えるのであった。