【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
どうも〜みくやで。
津田屋敷で生活することを許されたうちは、個室を与えられたし、私物の持ち込みも許され結構自由にやらせてもらえるのかなと思ったんやけど、日の出と共に足音が廊下から聞こえて目が覚めるんよね。
後をつけると奥方の玉さんと鈴さん、奈々さんの3人と家臣の方々が台所で料理を作っていた。
「奥方も台所に?」
「おや、初めて見る顔だね」
後ろから気配がして振り向くと、動きやすい格好をした女性が立っていた。
「し、失礼! みくと言います。又兵衛様の側室候補として津田屋敷に居させてもらっていて」
「あ~君がみくちゃんか。僕ははじめ。昨日所用があって屋敷に居なかったから挨拶が遅れちゃったね。又兵衛の側室の1人と言えば良いかな?」
凄い出るところ出ていて、運動ができそうな人だなってうちははじめさんのことを思った。
「やっぱり他家とは違うかな?」
「は、はい。奥方が料理をしているのは大きな家だと珍しいのではと思って……」
「まぁそうだろうね。津田家ではこれが普通なんだけどね」
「これが普通」
「みくちゃんは料理できる?」
「初歩的なのは」
「ならこれから慣れていけば良いよ。もし良かったら僕と1日行動を共にしてみないかい?」
「良いんですか?」
「うん! 構わないよ!」
というわけではじめさんと行動を共にするのだった。
朝食前に身を清めてからと言われ、温泉から漏れ出る廃湯を汲んできて、手ぬぐいをお湯につけてから体を拭いていく。
春先なので少々肌寒いが全身を綺麗にすると、いつの間にか起きて集まっていた子供達と一緒に体操をしていく。
はじめさんが手本を見せて、子供達も同じ動きを一定の間隔でしていく。
うちより1回り小さい子供も手足を動かして体操している。
体操が終わると朝食の時間。
大広間に箱型の膳が並べられ、その上に料理が並べられていた。
「又兵衛が考案した箱膳だよ。食べ終わったら箱の中に食器を収納して一度に多く運べるようにしてあるんだ」
「なるほど……」
料理を運ぶ時も料理は箱の中に収納されていて、蓋がお膳になるようになっており、中から取り出してお膳の上に置く……みたいな感じらしい。
「でもこの箱膳でしたっけ? ……大きいですね」
「皆食べ盛りだからね」
普通のお膳の倍の大きさはあり、そこに箱から料理を取り出すが、豪勢で、焼き鮭、納豆、大根おろし、たくあん、みそ汁に茶色の見たことがない料理が2個置かれていた。
「はじめさん、これなんやろ?」
「ああ、これ? 唐揚げだよ。鳥の肉を油で揚げた物」
「揚げる?」
「熱した油に浸して火を入れる方法でね。カリッとした食感になるんだ」
はじめさんとそんな事を喋っていると、お膳だけにとどまらず、丸い机の上に並べられた器に、先ほど言っていた唐揚げが山になっていた。
「ご飯おかわりあるからよく食べること! じゃあいただきます!」
「「「いただきます!」」」
雫さんが号令をすると、皆凄い勢いで食べ始める。
まるで戦みたいだ。
うちも食べ始める。
まずははじめさんに教えてもらった唐揚げを一口……。
「んん!?」
カラッとした衣にジュワっとした肉汁が溢れ出して、肉の柔らかさ、後味の良さがクセになる。
「これなんの鳥の肉なのですか!」
「鶏だよ」
「に、鶏!?」
食べるのが禁忌とされる鶏がこんなに美味しいとは……皆も普通に食べている……津田家では禁忌じゃないのか?
「ええい! ままよ!」
ご飯と一緒に唐揚げを食べていき、他の物も食べていく。
たくあんはシャキシャキしていてとても美味しく、鮭には醤油と大根おろしをかけて食べるととより美味しくなるとはじめさんに言われたので真似すると、脂の乗った鮭に醤油のしょっぱさと大根おろしのみずみずしさが絶妙。
ご飯がより進む。
「ここに口直しでたくあんか!」
改めてたくあんを食べると、鮭と醤油のしょっぱさが消え去り、口の中が仕切り直しされる。
「あ……」
鮭を半分と納豆を残してご飯が空になってしまった。
「食べるねぇ〜おかわりしようか」
はじめさんが私の器を取るとおひつの前に移動してしゃもじでご飯をよそっていく。
「はい、おかわり自由だし、前の唐揚げも食べ放題だから。早くしないと皆に取られちゃうよ」
「は、はい!」
みそ汁を口に入れる。
具は大根の葉の部分になめこが入っていた。
粘りがあって美味しい。
その後満腹になるまでご飯をいただき、朝食は終了するのだった。
食後の小休憩で皆思い思いに過ごした後、子供達は学び舎に移動して家臣の子供達と一緒に勉強をするらしい。
「学び舎……そこに津田家躍進の秘密が?」
「あー、確かに結構あるかも?」
「本当ですか!」
又兵衛様がまだ毛受を名乗っていて、美濃にいた頃から子供に勉強を教える場所を提供していたらしく、そこで育った子供達が初期毛受家を支えた家臣なのだとか。
その延長線で学び舎を作り、子供達に勉学を教えられる場を整えたのだとか。
「又兵衛曰く家臣達と同じ場所で平等に学ぶことで、協調性を身に着けたり、自立できる下地を作るんだとか……」
「はぁ……なるほど……ところでうちらは何処へ?」
「ああ、僕の仕事を手伝ってもらおうとね」
やってきたのは牛小屋。
多くの牛がモーモーと鳴いている。
「よしよし餌にするからね」
牛達の餌箱にはじめさんは転がっていた俵を鎌で切り裂くと、中から穀物が飛び出てきた。
それを器用に餌箱の中に入れていき、その後に干し草や藁を別の餌箱に入れていく。
「牛がこんなに並んで食事しているの初めて見ました」
「まぁなかなか見れない光景だろうね。じゃあこっち行こうか」
他にも牛舎で働いている人達がいるが、皆乳を搾ったりしている。
「あれは?」
「ああ、ここでは牛乳を搾ったりしていてね。牛乳って適切に処理すればとてもおいしいんだよ」
「そ、そうなのですね……」
「最初は慣れないよね……津田家ではよく飲む飲み物だから慣れていこうね」
「は、はい」
餌を食べさせ終えると、牛達がいる牛舎の扉を空けて、牧草生い茂る外へと開放させる。
牛達は外に移動して思い思いに座って眠ったりしている。
「あの牛達ももう少ししたら畑を耕したりするから働かされるんだけどね。領民に貸し出したりするんだ」
「なるほど……」
牛達が居なくなった牛舎を今度は人力で清掃を始める。
牛糞とおがくずが混じった床を円匙と猫車という道具を使って掻き出していき、堆肥場に運んでいく。
うちは今回は見てるだけで良いと言われたが、結構臭いがきつくて、はじめさんはよくこれができるなと思ってしまう。
よく見るとはじめさんだけでなく鈴さんなど他の奥方も混じっている。
「みくちゃんにはちょっと刺激が強かったかな? 一応こんな事をやっているよって見せてるだけだから、別の働き口もあるからね」
汚かった床はおがくずが敷き詰められ、綺麗になっていった。
床を綺麗にしたそばから牛達が牛舎に戻ってきて座って眠り始めた。
「牛も綺麗な方が嬉しいからね。さて、じゃあ今度は馬の方だ」
「何種類屋敷の裏で飼っているんですか?」
「裏で飼ってるのは馬、牛、鶏くらいかな? あ、裏庭の池に亀の玄武もいるけど」
「玄武?」
「バカでかい亀。子供達が上に乗って遊んでるよ」
「へぇ……」
馬の手入れはうちも武家の娘として軽く知っていたので毛づくろいをしたりしているとあっという間に昼になるのだった。
「汚れているから一度温泉に入りに行こうか」
「はい!」