【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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直江兼続という男 1

 牢に入れられた直江兼続に、俺は銀子に直江兼続について再度説明を求める。

 

「ほお、直江兼続が又兵衛を斬り殺そうとしたのか」

 

「俺でなければ死んでいたぞ」

 

「というかよく武器を持たせた状態で部屋に招き入れたな」

 

「既に降伏して暗殺等は無いと油断していたな。俺自身気が緩んでいたらしい」

 

「又兵衛らしくないな」

 

「いや、上杉を倒すまで気が常に張っていたからな。その反動だろう」

 

 そんな話をした後に、銀子から性格等の面で直江兼続について聞くと、凄く真面目な人物であると語られた。

 

 それが口下手で寡黙な上杉景勝と相性が良いと考え側に仕えらせていたが、銀子が後継者を明白にしないまま居なくなったため、苦労をしたのだろうと語る。

 

 そして恐らく暗殺に踏み切ったのは上杉景勝の遺命である可能性が高いと言われた。

 

「で、真面目に実行したと」

 

「又兵衛はどうしたい? 直江兼続の忠義は未だ上杉家にあると思うが」

 

「ふーむ、となると上杉家再興が交渉材料になりそうだな。銀子は自身の息子を上杉若しくは長尾家として再興させたいだろ?」

 

「まぁな。望むのであればしたいが……上杉謙信が子を孕むなどというのを彼が認めるであろうか?」

 

「世にも奇妙な事はこの世には多々ある。俺の周りに居ればそれが分かるだろう? それに銀子が直江兼続に昔話をしてやれば案外コロッといくかもしれないぞ」

 

「そんなものか?」

 

「たぶん直江兼続は上杉謙信を崇拝していると思うから、銀子から上杉謙信の側面が見えれば何らかの感情の変化が起こると思うし、俺は銀子が認めた才能ある青年を殺したいとは思えないからな……うちは常に人材不足だし」

 

「……まぁ、交渉材料にしてもらっても構わないが……」

 

 というわけで直江兼続君が居る牢にとある料理を作ってから2人で向かうのだった。

 

 

 

 

 牢にて縄で腕をしばられた直江兼続が床に座らされていた。

 

「又兵衛様に奥方様」

 

「席を外してくれ。3人で話がしたい」

 

「し、しかし」

 

「大丈夫だ。当主である俺が命令するんだぞ」

 

「は!」

 

 衛兵を外に出して、俺は直江兼続の前に座る。

 

「貶しにでも来たか」

 

「確認だ。誰の命令でやった。自分の意思か? それとも上杉景勝の遺命か? それとも他に誰かいるのか?」

 

「さてなぁ。仇敵に教えてなるものか」

 

「そうか……」

 

 俺は懐からひょうたんと器を取り出して、水を注いでいく。

 

「上杉は強かったよ。強いゆえにこちらは詰将棋の様に攻めるしか無かったし、搦手を多用した」

 

「……上杉の家が分裂さえしなければ織田なんかに上杉は負けなかったのだ……」

 

「いや、上杉謙信が上杉を見捨てた時点で負けていたのだ」

 

 銀子がそう言う。

 

「女……お主に何が分かる」

 

「私が生まれ育ち、大きくし、強くし、そして見捨てた家だから分からないはずもないだろう」

 

「又兵衛……この女は頭がおかしいのか?」

 

 直江兼続は俺に問いかけるが、銀子の口は止まらない。

 

「そもそも私は上杉家が一丸となるように何度も小言を言っていたが、国人衆や家臣達は自らの利権ばかり気にし、私の言うことをろくに聞かなかったではないか。私が出奔しようと家が一枚岩になれないような家は滅んで当然ではなかろうか?」

 

「貴女! 言わせておけば! 上杉の何が分かる!」

 

「長尾を上杉へと押し上げたのは私だぞ与六。樋口家から養子縁組を行ったのを後押ししたのは私なのだぞ。貴様に軍略を教え、上杉の家中統制をできると信じていたのに、割れた家をかき乱すばかりで、結局主君である上杉景勝を死に追いやりおって」

 

「お前! ……なぜ私が樋口家の者だと知っておる?」

 

「あの日は鷹狩りをしたな。与六がまだ馬の扱いに慣れておらず、暴れる馬に振り落とされ、その馬を御したりしたな。その時の獲物は兎が2羽だったか」

 

「……」

 

「雪の日、寒がっていた与六に笠を与えたな。あの笠をお主は私が居なくなったあの日も愛用しておったな」

 

「!?!?」

 

「ここまで言えば分かるか? 津田又兵衛は神通力が使える。それを私はあの吹雪く戦場で受けた」

 

「……まさか……謙信様なのですか?」

 

「兼続。上杉への忠義ご苦労であった」

 

 色々な感情が混ざり合った直江兼続は地面に顔を付けて声を殺して涙を流し始めた。

 

 俺は牢の中に入り、直江兼続の手の縄を小刀で切る。

 

 しかし、直江兼続は土下座の様な姿で頭を下げたまま涙を流し続けた。

 

 顔や耳が真っ赤になり、一通り涙を流した後に、なぜ帰ってこられなかったのかと直江兼続は銀子に質問する。

 

「私は又兵衛の神通力を喰らって女に性転換し、更には若返っているのだぞ。この状況下で上杉を統制できると思うか?」

 

「できません……ね。謙信様が存命の時より蠢いていた者が多かった故に」

 

「何より私は上杉への愛想がほとほと尽きていた。晩年なんかは酒に溺れなければ正気を保てられないほど疑心暗鬼でもあった」

 

「……しかし、戻ってくだされば景勝様が失意の中で亡くなることもなかったのでは」

 

「景勝は私も評価はしていたが、私の姉との関係を考えよ」

 

 上杉景勝は銀子こと上杉謙信の姉の子であり、その姉が無理矢理謙信の養子として景勝を押し付けた経緯があり、姉との関係は冷え切っていた。

 

 そして上杉家の家中の派閥争いと家臣達が上杉家の未来を思うあまり暴走し、中には謙信の兄を暗殺する者すらいた。

 

 肉親を家臣に殺され、普段は自分を軍神だと崇め、そして後継者の任命すら自由にさせてもらえない……そんな上杉謙信は酒に溺れ、戦いにだけ生を実感する化け物へと変えていたのは上杉家という組織そのものであった。

 

「私は謙信という名と身を捨てることによって初めて自由を得ることができたのだ。敵であったはずの又兵衛のお陰でな。上杉が崩壊していく様を私は眺めていた。色々な思いが沸き起こったが、結局はその滅びすらも私は受け入れてしまった」

 

 銀子は作ってきた笹の葉で包んだ寿司を直江兼続の前に差し出した。

 

「笹ずし……しかもこの具材は上杉の者しか知らない……ああ、申し訳ありませんでした。謙信様……私は……無力でした……」

 

 真面目故に色々理解してしまった直江兼続は正気と狂気の狭間を生き来しながら、感情をぐちゃぐちゃにかき乱され、そして銀子に謝罪を繰り返すのであった。

 

 

 

 

 

 

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