【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
津田軍団が自転車で越前から安土に爆走している最中、俺こと又兵衛は亀山城から出発し、摂津国へと入っていた。
「摂津か……」
「又兵衛にとって池田の乱というか荒木の家臣達が乱を起こした場所という印象が強いかい?」
明智殿が聞いてくる。
ちなみに信長様は俺と一緒に馬に乗っている。
俺が後ろで信長様が前の状態。
馬に後ろから抱きしめられる感覚は床以外だと初だなとか冗談言って余裕そう。
だいぶ時間が経過して落ち着いてきたのかな?
「金柑」
「は! なんでしょう信長様」
「猿が来たときに余のことは伏せろ。恐らくややこしくなる」
「わかりました。配慮感謝します」
「うむ!」
短いやりとりのなかで察せられる能力は流石明智殿だな。
ちなみに今の信長様の説明をわかりやすく紐解くと、秀吉殿に女体化した自身のことを説明するのも現状は惜しいので、自身の事は伏せて、仇討ちという名目で軍議を進めろ。
ということである。
信長様の圧縮言語には慣れたつもりではあるが、緊急時とかは普段よりも圧縮するので読み解くにもコツがいる。
というか上層部は信長様の意図を読み解くのが上手い奴が残った気がするが……。
「斥候を出す。まずは京周辺の情報を探り、塙直政の軍勢がどの場所に移動したのかを割り出す」
明智殿は手堅くいったな。
あと本願寺包囲を行なっている滝川殿と丹羽殿にも援軍要請の書物を持たせた家臣を走らせて、秀吉殿の到着と周囲の織田配下の家臣達が集まるのを待つ。
「伝令、羽柴様からです」
「どれ!」
家臣から明智殿に秀吉殿からの書類が手渡された。
「又兵衛、お前も呼んでおけ」
明智殿、信長様、俺の順番で書類が回され、それによると、毛利との和議を結ぶことに成功し、3日後には合流できると書かれていた。
「羽柴殿の軍勢が通りやすいように街道の宿場に食料や松明などの手筈を、そして堺に蓄えてある食料を提供するように堺衆に圧力をかけよ」
明智殿はテキパキど周りに指示を飛ばす。
その姿を信長はじっと見ているが、何かを品定めしているかのようであった。
明智軍は南下を続け、池田城跡地に陣を張って味方の軍勢が集まるのを待った。
池田城は奇しくも荒木村重達が謀反によって殺された際に反乱軍によって拠点化された城の1つで、廃城となっていたが、適度に軍勢を集められる広さの場所も少ないので、この場所で集まることになった。
最初に駆けつけたのは摂津争乱後、摂津半国を任されていた中川清秀が3000の兵を率いて明智軍に合流を果たした。
「中川殿、応えに応じてくださり感謝します」
「なに、京にて事変を聞きつけ、既に明智殿が動き始めたと聞いて驚いた次第で……なぜそれほどまでに早く動くことが」
「それは又兵衛が京から脱出し、おじさんに教えてくれたおかげです」
「なんと! 又兵衛殿が! 生きて脱出なされたのか!」
俺は明智殿から呼ばれ、中川殿に顔を出す。
「中川殿、お久しぶりでございます。この様な形で再会するとは思いもよりませんでしたが……」
「信長様は」
「生きてはおりますが、予断を許しません。(という事に対外的にはなっている)」
「そうか……又兵衛殿が居て死ぬことはないだろうとは思ったが……生きておられたか……」
「負傷していることにはかわりなく、指揮をとれる状態でもないため、現在明智殿に軍権を委託されている状態になります」
「しかし、このあとに秀吉の軍と合流すれば軍の指揮権で揉めるのではなかろうか?」
「ええ、なので一応の総大将に信長様の兄であり、摂津に領地を持っておられる織田信広を担ごうかと」
「なるほど、それは妙案ですな」
織田信広様……織田家一門では信長様の兄にあたる人物で、多くの合戦にも従軍してきた織田家の縁の下の力持ち的な存在である。
継承権争いからは一歩引いた立ち位置にいるが、織田家の長老として一定の格を有していた。
荒木村重の乱後の戦後処理で蒲生氏郷が中川と共に摂津半国を領有することになっていたが、その補佐役として織田信広殿が中川殿と蒲生殿の重しとして機能していた。
というより摂津という重要な場所を若手の蒲生氏郷が経営するのは荷が重いという信長様なりの配慮での派遣であるが信広様からしたら左遷の様に見えたであろう。
だが、この配置が結果として今生きてくる。
「蒲生殿、信広様も池田城に向かっていると報告はあります。信広様を総大将であれば羽柴殿も納得するでしょう」
「うむ、あとは連絡が付いてない細川殿が無事だと良いが……」
明智殿の親友である細川藤孝殿と連絡が取れてないというのも気になる点であった。
一応明智殿は家臣を派遣して連絡を取ろうとしていたが、細川殿も京の近くに所領があるため、巻き込まれている危険性が高かった。
「細川殿が動けるのであれば、ここの軍勢も2万近くに膨らむのだが……」
「居ない者を言っても始まりません。とにかく明智殿は信広様の受け入れの準備を」
「うむ、そうだな」
中川殿に言われた明智殿は家臣に指示を出して受け入れ準備や兵糧集めに奮闘する。
俺はできることが少ないので、信長様の相手をしながら、今後の動きを注力するのであった。
一方で、安土城に到着していた津田軍は、安土城を占領しようとする塙直政の別働隊と遭遇し、激しい戦へと発展していた。
「津田軍の精強さを謀反人共に見せつけてやれ!」
「「「おお!」」」
(織田)信道の号令で始まった戦であり、安土城内に居た織田信雄の軍勢も津田軍に合流して戦い始めたのであるが、信雄の軍勢がまぁ弱い。
信雄が指揮している部隊がどんどん溶けていき、逆に信道が指揮している津田軍本隊が反乱軍を大いに押し込んでしまったので、回転ドアのように両軍の位置が逆になるという珍事が発生したりもしたが、毛受音鳴率いる砲兵隊が到着し、反乱軍に熾烈な砲撃を開始すると、元々士気が高くなかった反乱軍は大崩。
そこを逃すような甘い訓練をしていない津田軍は苛烈な追撃を敢行し、反乱軍のうち指揮官と思われる将を何人も討ち取ることに成功したのだが……その者の中にこの場に居てはおかしい人物が含まれていた。
「この人物……なんで徳川の酒井忠次殿がこんな場所に?」
亡骸は何も語らないが、彼が身につけていた脇差に徳川家の家紋が入っていたため、徐々に誰が黒幕であるかの片鱗に気づき始める者がではじめていた。