【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
ちょうどこの頃、去年祈祷と称して男性には精力を、女性達は体内の不調を治し、孕みやすい状態にしたことで、織田家家臣達は空前のベビーブームに沸いていた。
日を逆算すると、俺が祈祷をした日の前後になるので、俺の祈祷は本物、凄い力があると家臣達からも噂が広まり、俺が小牧山城に勤めていると、コソッと俺に近づいて相談してくる人が絶えなかった。
中には賄賂を贈ってくる人もでてきたので、これは人間関係に多大な影響が出るとすぐに信長様に現状を報告する。
信長様的にも10年近く子供ができなかった帰蝶様が俺の祈祷後に1発で孕み、更に元気な男の子を産んだとなると、俺の祈祷の技術は本物と認識。
「馬は賄賂を受け取って私腹を肥やすことも出来たが、それをしなかったのはなぜだ?」
「正直に言いますと、金銭や贈り物等のやり取りで私腹を肥やした場合、他の家臣達から攻撃される口実を与えてしまいます。それよりは無償で祈祷することにより縁を強くしていくほうが将来の利益になると感じた次第で」
「ふむ……よく考えておるな! 余的には好感度高いぞ! ただ確かに大量に依頼が来るのも考えものだな……よし、余がこの件は預かろう」
というわけで即日、信長様よりこんな御触れが発表された。
『以後の毛受又兵衛による祈祷は、余の許可を貰った者のみに限るとする』
つまり俺の祈祷を受けたければ偉くなるか、戦で功績を挙げて褒美として受けるかに限ることとなった。
俺的にはありがたいが、これだと信長様にヘイトが向きそうであるが、ちゃんと功績があれば良いだけの話とキッパリ。
加藤等の若く精力の溢れている小姓達は祈祷と言って信長様や重臣の方に取り入る姿を苦々しく思っていたが、中年以上で子供が少なかったり、居ない精力が衰え始めた家臣達はお家を残すための死活問題なので、今まで以上によく働くようになる。
中年上司の方々が必死に働くのを見て、出世を望む若者達は中年の方々よりも成果を挙げないといけないので更に必死に働くようになり、御触れ1つで織田家全体の業務効率を少し上げることに成功したのだ。
「馬よ、人を扱う時には少しのことの影響も考えないといけないぞ、これでよくわかったであろう」
「はい、御触れ1つで織田家全体の士気を上げるとは……流石信長様です!」
「うむうむ! そう言えば市とも仲良くなったのか?」
「え、あ、はい。帰蝶様の祈祷をする際に出会い、よく祈祷の時に信長様にもお話するような物語だったり三味線による演奏を聴くのが気に入ったらしく」
「ふーむ、仲良くする分には良いが、手は出すなよ。出したら流石に庇えんからな」
「はい、気をつけます」
「市はなぁ……浅井との同盟に使うことが決まっておるからなぁ」
「浅井ですか? 北近江の大名でしたっけ?」
「うむ、将来美濃を手中に収めれば、京を目指す。その時に浅井と同盟を結んでおけば京への道のりが楽になるからな! それに浅井長政という男は良いぞ! 余が桶狭間で今川を打ち破った様に、浅井長政は六角の大軍を撃退して独立を勝ち取ったそうな! 手紙でも幾らかやり取りをしたが、教養もあり、有能さが隠しきれてない! しかも美男子だ!」
「信長様……まさか浅井長政殿と一晩を共に過ごしたいと?」
「出来たら良いが、流石に無理だ。でもそんな男を義理の弟にできれば最高と思わないか?」
「いえ、私は信長様に言われなければ衆道への興味は薄いので……」
「連れないのぉ……」
ちなみに信長様の言う美男子とは今のガチムチマッチョのことであり、爽やかな美男子というのではなく、レスリング部で汗水垂らしながら野太い声を上げているようなタイプである。
最近は俺の体型もそっちに近づいているので、多分信長様が俺を床によく呼ぶのは気持ちよさだけでなく、顔が好みというのもあるだろう……。
「そう言えば、馬、実は猿(秀吉)に預けていた与力をこの前水揚げした!」
「そんな魚みたいに……って水揚げってことは捕食したんですか?」
「ああ、やっぱり馬に比べたら大きさも長さも物足りないが、幼いなりに一生懸命腰を振って大変愛を感じた」
「腰は女性に振りたいものです」
「それはそうであるが、男も味があって良いのであるがな……堀、堀はいるか!」
信長様が叫ぶと、横の部屋で政務をしていた美少年が室内に入ってきた。
「紹介しよう。お主が小姓を解任した時と入れ違いで入ってきた堀秀政だ」
「堀秀政です! 毛受様の活躍や織田家への貢献をいつも凄いと思い、負けないように励んでおります!」
「又兵衛で結構ですよ、堀殿。得意は槍ですかな?」
「み、見ただけで得物が分かるのですか?」
「体の重心や手のマメの位置、歩き方……推察できる要素は多々ありますのでね」
「はぇ……信長様、又兵衛様は凄いですね!」
「そうだろそうだろ! 余のお気に入りだからな! いやぁ、もっと早く見出すべきであったな」
「そう言ってもらえるだけで誉れです!」
「今の小姓達もだいぶ年齢をいっているから、若い世代に世代交代をしなくてはならなくてな、堀は優秀であるから加藤の次の小姓頭になるであろう」
「それは優秀ですね」
「信長様の周りには優秀な人材が集まってきて羨ましいです! 私も家臣を集めていますが……なかなか」
「伊賀から忍びの者を集めていると耳にしたぞ。余的には野武士を雇い入れるより評価は高いぞ。身分を馬鹿にするものがおるが、忍びは専門性の高い職業、普段は商人や鍛冶師をやっている者も多い。情報の扱いにも長けているから上手く使えば馬の目や耳となるだろう。滝川一益も忍びの部下を集めていたし、猿(秀吉)も川衆を部下にしたと聞く……情報は大切であるぞ馬よ!」
「はい、信長様の耳の速さも忍びをお使いに?」
「まぁな。草の者は色々おる。表には出さんがな」
「なるほど……」
「堀、悪かったな、仕事に戻れ」
「はい!」
「馬、今後の美濃攻略の話でも聞いておくか?」
「はい、信長様の時間がよろしいのであれば!」
「うむ!」
信長様の今後の戦略として、斎藤龍興の評価を徹底的に下げる工作を行っている。
信長様配下の忍びを使ったり、仲の良い商人経由で斎藤龍興周辺を探りつつ、悪い噂を流すようにしているとのこと。
一番の目的は美濃の優秀な将兵を手に入れること。
尾張の兵は豊かな土地柄で兵達のハングリー精神が欠落しており、数は集まるが、周囲の国に比べて弱兵と馬鹿にされていた。
現状信長様や優秀な武将の戦術により他国と戦えてはいるものの、毎度桶狭間のような博打を打たなくても良いように、兵の力の底上げとして美濃の強兵を是非味方に引き入れたかった。
それに美濃の武将達も歴戦の猛者が多く、俺と同様に強弓で300メートル先の武将を狙撃して織田軍を敗走させた者や、トレーニングとしてやっていた1文の穴に槍の先に取り付けた針を通すのを考案し、実戦した結果、一撃で3人もの織田兵を突き刺した武将、投石で鎧を叩き壊す剛速球を投げる者と武勇伝に事欠かない人材が溢れている。
しかも美濃三人衆の様に将や領主としても優秀だったり、斎藤道三に学び、築城の名手と呼ばれる人物、今は別の場所に逃げ出してしまっているが、鉄砲の有用性をいち早く理解して、鉄砲を斎藤家に普及させようとした開明な人物も居たらしい。
「尾張は商業が発展しているが、美濃は山が多いものの、農地に適した場所も多い。美濃を得ることで織田に足りなかった物を確保することができる。だから戦で削るより、調略を優先し、斎藤龍興から民意を引き離す。猿(秀吉)や米五郎左(丹羽長秀)、林の爺や村井が得意であるから将の引き抜きはやらせている」
「では美濃では大きな戦はもうないと?」
「余の計算通りであればな。中美濃を奪った時点で斎藤家は詰みよ。あとはじわじわと毒の様に効いてくるのを待てば良い」
「なるほど」
「ただ鍛錬は怠るなよ。余は武勇に優れる馬がすきぞ!」
「はい!」