【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
さて、俺も巫女さんの家に居候をダラダラしていた訳では無く、自分の売り込み時を狙っていた。
熱田という町は尾張の中で1、2を争う商業都市であり、織田信長の財布でもある。
今信長様は清洲城を本拠地としているが、津島と熱田は戦略的重要拠点として見ていた。
そこに今川の調略が伸び、熱田とほど近い大高城を今川方が占拠し、熱田に圧力をかけていた。
そして織田家にトドメを刺すための今川挙兵である。
その熱田も今川挙兵により混乱しており、今川に降伏する案が出ている有様であった。
ちなみにこの時信長が籠城を選択していたら熱田は降伏していた可能性が高く、熱田を今川に押さえられると、海運の利権を放棄することに等しく、占領が長引けば長引くほど織田が追い詰められるという遅効性の毒であった。
信長様はそれを理解していた為に野戦での一撃に賭けたのである。
俺は歴史に疎いが、桶狭間だけは結果を知っている。
なので自身の全力をベットすることが可能なのである。
俺は熱田衆に組み込まれ、熱田宮司の千秋季忠の指揮下に入る。
この千秋季忠という青年は、信長様の馬廻り衆の1人であり、信長様からの信頼も厚い人物であった。
熱田神宮の宮司の役職を持ち、熱田の町の顔役でもあり、傾きかけていた熱田の降伏論を抑え込み、信長の出陣に合わせて熱田衆を率いていた。
で、俺は知らないうちに死地に飛び込もうとしていた……。
通説の桶狭間における今川本軍の奇妙な動き……これを理解するためには両軍の高次元の読み合いに起因する。
まず今川軍はなぜ大軍を以って織田領内に進出したのか……。
大義名分としては上洛が目的とされていたが、実際のところ領民を飢えさせないためであった。
東海3国(駿河、遠江、三河)は決して豊かな国とは言い難い。
今川による優れた統治によって東の京と言われるほど駿河の駿府を栄えさせていたが、それは流民に土地と職を与えた事による税収の増加に起因するものであり、この統治方法の欠点は土地が足りなくなると流民に職を与えられず暴徒に早変わりするのである。
そんな流民の人口のピークが来たのが1560年……桶狭間の年であり、大軍を動かし、暴徒になりうる存在を尾張に押し付ける事が今川の目的であった。
故に退きたくても退く事が出来ない……退いたら国が破綻するからである。
信長は籠城してもジリ貧であることを理解し、野戦にて今川を攻撃する作戦に出る。
そして今川は信長が野戦を選択する可能性を考慮し、部隊を分散させて本隊の数を薄くした。
本隊自らを信長を釣るための餌にしたのである。
ここで信長本隊が奇襲を選択していたら、桶狭間の合戦は今川方の勝利で終わっていたが、そうはならなかった。
「これより熱田衆単独で今川軍に奇襲を仕掛ける!」
千秋季忠が熱田衆約300の別働隊を率いて待ち構えている今川軍に突撃すると言い出したのである。
ちなみにこの奇襲戦には信長の怒りを買って現在無職になっていた前田利家も参加していた。
この前田利家は熱田神宮の職員の家に居候をしており、同じく別の家で居候をしていた俺とも交友があった。
「又兵衛、この戦で活躍できれば武士になれるかも知れんな。そしたら孕ませた巫女の娘達も生活できるんじゃないか?」
「利家殿も今回の戦で活躍して織田家に復帰を目指しているのでしょ? 頑張らないといけませんなぁ」
「おう、まつ(利家の奥さん 現在数え年で14歳、子持ち)をいい加減楽させてやらねばならんからな!」
「それもありますが……巫女に手を出したのでしょ」
「ギク! な、なぜそれを!」
「私耳が良いのでね……」
そう前田利家この時期に巫女さんに手を出して子供を孕ませていたのである。
奥さんのまつは自身が身ごもっていて性欲が発散できてない時期だったので許していたが、孕ませてしまった子供を何処かに預けるにも金がある程度いるため、ここでなんとか活躍して織田家に復帰する必要があったのである。
「ところで今から今川軍を奇襲するらしいが、300程度でなんとかなるものなのか? 信長様も奇襲に参加しないらしいが」
「知らないのか? これは信長様の本隊が攻撃する前に奇襲を仕掛けて、1度目の奇襲を防がせる事で相手を油断させる罠だぞ」
「へ?」
そんな桶狭間は奇襲で勝ったというイメージが邪魔をして、まさかの二段階の奇襲による勝利であったという事実を知らなかった俺は今か今かと待ち構えている今川軍に飛び込む格好となったのであった。
「死んでなるものかぁぁぁ!!」
絶賛俺は命のピンチに陥っていた。
絶賛乱戦中であるが、いつ撤退していいか分からないので暴れるだけ暴れている。
どうやら今川軍の本隊では無かったらしいが、別働隊の1つにぶち当たり、勇ましく斬り込んだ千秋季忠様は壮絶な討死を遂げ、指揮権を引き継いだ佐々という武将もついさっき討ち取られていた。
指揮する者が相次いで討ち取られたこと、多勢に無勢だった事で、仲間も次々に討ち取られている。
「利家殿は? あれ?」
いつの間にか居なくなっていた利家。
この場から逃げ切ったのであろうか……。
俺はこの絶望的な戦場から脱出するために力を振るう。
槍で突いてきた敵兵の穂先を避けて木製部分を掴むと思いっきり振るう。
すると持ち手側の男が浮き上がり、勢いよく横に吹き飛んでいった。
そのまま槍を奪い取ると、槍が折れるまでぶん回す。
「くらえ大車輪!」
槍を左右にぶん回し、敵の雑兵を倒しまくり、騎馬に乗っている武将が見えた。
俺はボロボロになった槍を思いっきり投げつけると、穂先が馬の上で指揮をしていた武将に突き刺さり、その武将は落馬。
俺は近づく敵兵を蹴り飛ばしながら武将に近づくと、首を刀で切り落として、頭を掴み、そのまま馬に乗って戦場から離脱しようとした。
しかし雑兵が俺に群がってくるので、乗馬しながら左右に体を揺らすと、そのままの勢いで刀を振るう。
すると周囲に居た敵兵の首がスパスパと刎ね飛ばされて宙を舞う。
その様子に恐怖した敵兵は俺から離れていき、その隙に馬に乗って戦場を離脱するのだった。
「はふー……今世で初めての乗馬だったけどなんとかなったー……」
正直走って逃げてもあんまり変わらないと思うが、とりあえず馬で逃げれるだけ逃げた。
「騎乗位が得意だから乗馬も得意ってか?」
これも種付けおじさんのチートのお陰かもしれないと思いながら、とりあえず首取ってるし部隊に戻らないと思い、腰に首をぶら下げながら織田軍を探す。
「しかし突然奪ったお前も悪かったな……」
ブルルと馬が嘶く。
そのまま俺は熱田方面に探すこと数時間、織田軍に無事合流することに成功し、俺は千秋様と佐々様の戦死を武将の方に報告する。
「その首は?」
「今川の方で名がありそうな者を討ち取った次第で」
「目付に報告。今は報酬を支払っている暇は無いからな」
ちなみに俺のことを対応してくれたのは森可成様で、俺はそのまま森様の部隊に組み込まれた。
「ところで俺と一緒に攻撃した前田利家殿はこちらに来てはいませんでしょうか」
「なに、利家も一緒だったのか」
「はい、乱戦に一緒に飛び込んで、気がついたら逸れてしまい……」
「武功は?」
「名があるか分かりませんが、私が見た限り4人ほど討ち取っておりました」
「ふむ……この戦生き残っていたら信長様に利家の復帰を願い出なければな。ご苦労であった」
ちなみに馬は格の高い人に譲り、俺は2本の刀を携えて、再び戦場へと移動する。