【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
松永久秀殿はそのまま俺率いる織田の兵と守兵を筒井城に残して大和の平定の為に軍事行動を続けることになった。
「兄弟、楽しみは大和を平定してからにいたそうぞ」
そう言って松永久秀殿は息子の松永久通殿や国人衆を引き連れて、筒井方や三好三人衆に付いた敵対勢力の城を叩きに出かけてしまった。
筒井城に残ることになった俺は守将の方と協力し、壊れた防御施設や城壁の手伝いをすることをしながら、島清興殿を口説く為に城の牢に足を運んだ。
「……また来たのか」
「おう島殿、ほら今日の飯だ」
「にぎり飯か……いただこう」
牢の檻を挟んで俺は島殿と話をする。
「悪かったな島殿、お前の主である筒井殿を討ち取って」
にぎり飯を食べながら島殿は答える。
「合戦で起こったことだ。私が殿(筒井順慶)に忠言をしていれば……いや、終わったことを悔やんでも仕方がないな」
「事実島殿が筒井本陣に居た場合結果は変わっていた……何故島殿程の武人かつ将があの場に?」
俺はずっと疑問であった。
島殿程の武人ならば護衛の為に本陣に置くのが普通。
部隊を率いる将としては任されている部隊人数が明らかに少なかった。
チグハグした違和感を突き止めたかった。
「……殿が小さい頃から側で仕えてきたのですが、教育係として口煩く接してしまい、徐々に距離を置かれていたのです。私の親族が松永久秀に協力している柳生一族であったことも悪く働きました。殿からの信頼を得れなかった……これに尽きます」
「勿体ない。島殿ほどの武士を遠ざけるなど……いや、筒井殿を侮辱する意図は無いので悪しからず」
「はは、わかっていますよ。毎日こんな私に接してくれるのです。それにあの一騎打ちの太刀筋にてそれとなく人なりは分かりますので」
「流石達人だ」
「傷は痛まないのですか? 結構深く斬ったと思ったのですが」
「気合で止血し、今ではちゃんと塞がっていますよ。ほら」
俺は傷跡を見せる。
「怪力もそうですが、回復力も人をはずれていますね」
「個人で強いだけですよ……軍を率いるのが未熟で、俺が先頭で鼓舞しなければ家臣が付いてこない」
「いや、猛将と呼ばれる素養は十分ではないか? まぁ私ならもっと上手く軍を動かしますが」
「折角だ。一局打ちません?」
「おいおい、私は牢にいるのだぞ」
「言ってくれれば俺が駒を動かすよ。ちょっと待ってろ盤と駒を持ってくるから」
俺は直ぐに将棋盤を持ってくると、牢の前に置き、駒を並べた。
「1つ決まりを追加しよう。取った駒は自分の駒として使える」
「ほう?」
現代準拠の将棋ルールで勝負しようと俺は提案する。
牢で暇していた島はこれを受け入れる。
「7六歩……なるほどこうすれば確かに口で指示することが出来るな」
パチンと俺も駒を動かす。
俺は振り飛車と呼ばれる戦法で仕掛けていく。
「7七角……何故私を毛受殿は気にかけるのです?」
「俺に実戦で初めて傷を付けたのが島殿だったから……それに立ち振舞、太刀筋、殺し合いの中でも相手に敬意を払っていた。それで……あぁ、この人を部下として欲しいと思ってしまいましたよ」
「なるほど」
何手か互いに無言で打ち続け、俺の手が止まり、悩む。
島殿が今度は俺に聞いてきた。
「柳生の技を身に着けていたってことは柳生で修行を?」
「はい、数年前に柳生の里で……それから自分なりに改良を加え、鍛錬を続けていました」
「なるほど……素晴らしい太刀筋だった。ただまだ粗削り、更に高みに到れる素養がある」
「島殿に鍛えて欲しいのですが……」
「……何故そこまで私を求めるのです?」
「だから島殿の太刀筋に惚れたんですよ。貴方が俺の足りないところを補ってくれる……そう思ったのですよ……恥ずかしいな……」
「足りないところ……」
「俺は将として未熟なんですよ。実戦、模擬戦、卓上での勉強……色々しているが、将足りうる器が育ちきっていないのがわかる。その育つ為には見本が居る……島殿に私は何故かわかりませんが、俺がオヤジ殿と慕う柴田勝家様の戦う姿が重なるのです」
「織田最強の将と重なるとは買いかぶり過ぎです。私は筒井で千の兵も任されなかった者ですよ」
「いや、やろうと思えば島殿であれば万の軍勢も率いる事が出来るでしょう」
俺はパチっと駒を置く。
現に初めてのルールのはずなのに、島殿は現代将棋のルールに適合し、未来で知っている型と戦国の世である程度鍛えた俺をジリジリと追い詰めていた。
「ふむ、8三歩をと金に成る……では聞きましょう。毛受殿の求める物は何ですか?」
「又兵衛で結構……信長様の下で天下統一の協力をし、一国を所領としたい。いや、もっと簡潔に……命の危険が無く、女性が子供を産み、育てられる世の中を創りたい」
俺は島殿を見ると、目を見開いてこちらを見ていた。
「子供の為……ですか」
「無類の女好きですが、同じくらい子供が好きなのですよ。そんな子供達が飢えに怯えることの無い世界が創れたら素敵だと思いませんか?」
島殿はゆっくりと両手を床について、俺に頭を下げた。
「個人の武で負け、戦に負け、人としての器で負けた。三度負けたのです。それでもなお私を必要としてくれている。主君として忠誠を誓うべき人物であると判断しました。末席で良いので身を置かせていただければ幸いです」
「島殿、牢の中では格好がつかないでしょう」
俺は木製の檻を手で握ると、メキメキっと檻が折れていき、島殿を抱きしめた。
「これからよろしく頼む」
「はい、又兵衛様!」
ちなみに将棋はそのまま負けてしまい、なんとも締まらない結果になるのであった。
「島殿! こうですか?」
「熊部、違うこうだ」
筒井城の守将の方に、島を俺の部下として引き取ると言い、牢人から俺の部下になった島を他の部下達にも紹介し、元孤児のメンバー達や稲葉重通も直ぐに島に懐いた。
「鍛錬もそれぐらいにしておけー、飯にしよう」
にぎり飯と鍋で飯をいただく。
鍋の周りを家臣達が囲んで、俺が皆鍋をよそっていく。
「大将自らが飯をよそうとは」
「まぁこれが俺のやり方だ? 駄目か?」
島も器を受け取りながら
「いや、これはこれで団結に繋がるでしょうな」
「だろー」
と俺は頂きますと言って飯を食べ始める。
「島さん、島さん。美濃に戻れば又兵衛様の手料理を食べられるので期待しておいた方が良いですよ」
と菊八が言い、隣で食べていた霧丸が
「又兵衛様の料理は美味しいですからなぁ……私はウナギの蒲焼が大好物で」
「あはは、霧丸さんよだれ出てますよ」
「おっと、悪い悪い」
霧丸が島に蒲焼を紹介し、島は
「ウナギと言うと泥臭いあの?」
「そう、そのウナギですよ。又兵衛様のウナギの料理は泥臭くないんですよ」
「まぁ泥抜きって作業しているからな。あとウナギは蒲焼以外も美味いぞー……夏は茶漬けが美味い」
「茶漬けは普通に食うが」
島は茶漬けは食べると言ったが、この頃の茶漬けは猫まんまに近い。
もしくは冷や飯に湯をかけて食べる事を意味する。
水が貴重な場所では特に米を残さないために、湯飲みに入ったお茶や白湯を茶碗にぶっかけて米粒を集めて食べ、洗い物の水を少なくするという食べ方をしていた。
「いやいや、又兵衛様の茶漬けは絶品ですよ島さん。まず具が色々ある。瓜やたくあん、梅干しを細かく切って出汁の効いた汁を注いでかき込む。夏場にはこれが美味いんだぁ」
「干物を具としても美味いですよ。あと又兵衛様の料理は必ず一汁三菜以上出てくるんですよ」
島は目を見開き
「な、なんと贅沢な!」
「いやいや島、これには訳がある。島は食薬同源という言葉は知っているか?」
「いえ、初めて聞きました」
まぁそうだろうな……俺も昔の言葉だと思ったが、この時代には無い四字熟語だったし……貴族の連中はこの言葉を聞いて凄い納得していたし、信長様もそれを聞いてから食事に気をつけるようになった。
「食薬同源……日頃の食事を偏り無く食べることで薬にも成るという言葉だ。食えれば何でも良いと同じ食事ばかり続けていると寿命を縮める……で、俺はそれを研究した結果、武士の美徳とされている一汁一菜では体を健康に保つには足りない事が判明した」
「な、なんと!」
「ご飯、汁物、漬物、魚料理又は肉料理、それにもう一品……食い合わせにも気をつけながら体に取り入れることで強靭な肉体を作ることが出来る。俺自身もそうだが……菊八、上半身を見せてみろ」
俺に言われて菊八が服をはだけると、ムキムキの上半身が現れた。
周りの兵からおぉ~と歓声が上がる。
「元々菊八は体が細く、であった頃は刀すらまともに振ることが出来なかったが……」
俺は菊八に頷くと刀を抜いて、素振りを行った。
菊八の太刀筋は鋭く、風を斬る音が数メートル離れても聞こえてくる。
「今では猪を1人で倒せるほどに力を付けたからな。体を作るのに一番手っ取り早いのがよく動き、よく食べ、よく眠ること。そうすれば強靭な肉体になれる」
「なるほど……贅沢と言って悪かったですね。無知を晒しました」
俺は島に
「飢えが無くなれば、身分関係なくたらふく食える様になる。素敵だろ?」
「確かに!」
俺と島は笑うのであった。
面白いと思ったら高評価、お気に入り、コメントしてくれると嬉しいです!