【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
「うぉぉぉぉ!? 将軍暗殺事件2回目とか聞いてないんだが!」
「又兵衛様、とにかく弓で射抜いて敵兵を減らしてください!」
「島、わかってる! というか兵の指揮を頼む! 弓隊で出来るだけ狙撃するから!」
現在俺は京の本圀寺にて三好三人衆による襲撃を受け、それの防衛戦に駆り出されていた。
ちなみに総指揮は明智光秀殿で、幕臣一同もガチギレ。
本圀寺に立て籠もって迎撃していたのである。
遡ること2ヶ月前。
冬が始まる前に第2回のお祭りも終わり、皆冬支度に入った頃、将軍になった足利義昭様は現在住んでいる本圀寺の防御力増強を望まれた。
理由は京にて兄である足利義輝公が亡くなった事に起因する。
当日防衛施設として十分とは言えなかったが、今滞在している本圀寺より防御力のあった二条御所が三好三人衆や松永軍の襲撃で簡単に陥落したことを受けて、防御施設を整えたいと駄々をこね始めたのだ。
もちろん資金は信長様が出すことになるが、大規模な工事をすれば人夫を動かす金や材料調達費用などで京の住民にも金が落ちるという経済効果を見越して明智光秀殿に本圀寺の改修の意見具申をした。
明智光秀殿も祭りによって京に活気が戻ってきているし、織田軍の民からの評価を上げている俺の意見に耳を傾けてくださり、この意見は信長様にも入ることになる。
なかなかの出費なので渋るかもと思ったが、信長様は要望金額を出してくださり、いざ改修を行なおうとすると、幕臣の方々が口を挟んできた。
やれ人夫は税の一種なのであるし、御所の改修という栄誉を得られるのであるから、人夫に銭を支払うなど不要だとか、資材も商人に寄進として出させればよかろうなどという傲慢な考えが噴出。
結局のところ中抜きしたいのであろうが、俺も明智光秀殿もそんな企みは見え見えで、断ろうとしたが、足利義昭様の取巻き達に意見を押し切られてしまい、結局工事費は中抜きされるし、商人達に材料費を寄進させるわでやりたい放題。
俺も工事責任者として改修工事に参加したが、強制労働なので人夫達のやる気は全く無く、少しでもやる気を出してもらうために第3回の祭りの為に備蓄していた費用を人夫達の食費に充てて、せめて少しでも美味い飯を食べてもらおうと工夫をした。
人夫達からは俺の担当だと美味い飯が出るとありがたがられ、やる気を少し出してもらい、他の担当者よりも綺麗かつ早く仕事を終えることが出来たが、他の担当をしていた幕臣達からは嫉妬や成り上がりを警戒する良くない感情が当事者の俺にも分かるくらい噴出してしまっていた。
幕臣かつ貴族関係で友好的な関係である細川様や京では俺の上司である明智殿はだいぶ骨を折ってくれたが、それでも関係は日に日に悪化していってしまっていた。
そして基礎工事が終わり、内装の工事に取り掛かった年明けの正月早々、織田軍が京に上洛する際に蹴散らして四国に逃亡していたはずの三好三人衆が大軍を率いて本圀寺を襲撃したのである。
足利義昭様の悪い予感が当たった格好で、現場指揮は京の守護を信長様より命じられていた明智光秀殿が取り、それを幕臣や俺が補佐をしていく。
それこそ本圀寺の寺内の畳を引っ張り出し、盾として使う必死ぶり……俺は寺の屋根に登り、弓に自信がある者を集めて、狙撃を繰り返していく。
「見よ20連発!」
毎分20発の矢を俺は放ち、敵兵を確実に射抜いていく。
これには下賎な者として俺を馬鹿にしていた幕臣達も実力を認めなければならず、俺に負けじと矢を放つ。
特に凄かったのが明智光秀殿といつもお世話になっている細川藤孝様である。
明智光秀殿は自身の兵に大量に持たせていた火縄銃を巧みに使い、本圀寺の緩やかな上り坂を利用してキルゾーン……殺し間を作り出して、三好三人衆の軍勢が寺に近づくのを防ぎ続けた。
で、細川殿はというと……
「三好の連中は皆殺しじゃぁ!」
と普段は仏の様な教養人であるが、武将としてのスイッチが入ったのか、太刀を片手に戦場を暴れ回り、当初本圀寺に細川様は籠っておらず、囲んでいる三好三人衆の軍を周辺諸国の国人衆を引き連れて突撃。
三好三人衆側は前の足利義輝暗殺の時みたいに上手くいくと油断していたのか、鬼神の如く暴れ回る細川様に恐れて壊走し、1刻ほどで逃げていってしまった。
ちなみに足利義昭様は襲われる恐怖で、戦ってないにも関わらず失禁してしまっていた……武家の棟梁がこのざまだとなんとも情けなく感じてしまう。
結局、本圀寺に籠っていた味方の死者は流れ矢に当たった雑兵が十数名、勇敢に敵に突っ込んで斬り合いをした細川様率いる援軍が二百に届かないくらい、三好三人衆側は数百の死者を出して、襲撃側が多大な損害を負って撤退となるのだった。
翌日には浅井長政様が、その2日後には信長様も美濃から慌てて駆けつけて将軍足利義昭様の無事を喜んだ。
しかし、足利義昭様は本戦に参加できなかった信長様や浅井長政様を叱責し、本圀寺ではまた敵に襲われた時に守り抜けるか不安であると歴代将軍が本拠地としていた二条御所を再建し、更に要塞化することを要望。
信長様も思うところがあったのか、追加で幕府に献金を行い、二条御所再建費用を抽出。
ただ信長様より将軍様を守った事を明智光秀殿と一緒に信長様が浅井長政様のいる前で褒めるのであった。
浅井長政……がっしり……いや、どちらかと言うと俺のように相撲さん体型をしたぽっちゃり系の男性で、小麦色に焼けた肌をしている俺とは違い、色白のお坊ちゃんという感じがする。
ただ武力は本物で、六角からの独立する戦等で鬼の様に暴れており、浅井の棟梁として、そして信長様には義弟かつ同盟者として頼りにされている人物である。
ただ信長様の様に家中の完全統制が取れているかと言えばそうではなく、国人衆だったり重臣の力も強く、信長様がそういう者の力を上手くいなすのも大名の務めであり、義弟の長政ならできるであろうと俺と夜を共にする時に度々話題に上がっていた。
「どうだ長政! 余の自慢の部下達は凄いであろう!」
「ええ、寡兵ながら大軍に臆すること無く、将軍様を守り抜いたのも素晴らしいですが、何より味方に被害をあまり出さなかった……その手腕に驚きです。やはり明智殿の手腕が大きいですかな?」
「いえいえ、おじさんはやるべきことをやったまでで……あ、毛受又兵衛も凄かったですよ! 強弓の使い手で遠く離れた敵兵をズバズバと射抜くもので!」
「ほぅ……」
俺の方を向いた長政様は一瞬俺の事を睨んだ。
初対面のはずなのになぜ睨まれたのかよくわからないが……ありそうなのはお市様関連か。
お市様は長政様と結婚して既に茶々という娘を産んでおり、第二子もすぐ孕むであろうと噂されている。
夫婦生活が上手くいっているのであろうと思われるが、流石に大名の夫婦関係まで調査することはできず、子供が産まれていることによる推測になる。
ただ、それならなぜ俺の名前を聞いて睨んだのか……それがお市様関連じゃないと更によくわからない。
「毛受又兵衛であったな」
「は!」
浅井長政様より声をかけられた。
「このまま信長様の盾として活躍することを願うばかりだ」
「おいおい、長政。馬は盾で甘んじる男ではないぞ。その名の通り馬の様に動く存在だ。結構なじゃじゃ馬であるがな」
「信長様、時に暴れ馬は武士を傷つける存在になります。気をつけるようにお願いします」
「なに、馬が余を傷つける事はないであろう! 裏切りには慣れているから分かるが此奴は家族を傷つけなければ裏切ることは無い。分かりやすい奴だ」
な! っと信長様は俺に向かってウインクを飛ばす。
こういう茶目っ気のある所が俺が信長様を好むところである。
それを見ていた長政様は良い家臣なので羨ましくて少々強い言葉を言ってしまいましたと謝ったが、俺は彼の瞳にメラメラとドス黒い炎が宿っているのを見逃さなかった。
そこで気がつく。
彼も戦国大名であることに。
俺だけでなく明智殿も浅井長政様の違和感に気がついたらしく、俺に目配せをした。
互いに頷いてその場を下がったが、思いは一致していた。
「「浅井長政……奴は危険だ」」