【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
「どれだけ生き残った」
俺の問いに傷だらけの菊八が答える。
「主要な家臣は奇跡的に全員生存していますが、兵は残り400ほど……」
「とりあえず殿部隊が籠もっている金ケ崎城に逃げ込むぞ」
金ケ崎城に逃げ込んだ俺を、全体指揮をしていた明智光秀殿が労ってくれた。
「時間を稼いでくれて助かった。朝倉軍は」
「奇襲を仕掛けて千以上は倒しましたし、恐怖を植え付けたので、朝倉による攻勢の勢いは削ぎました。こちらに向かってくるかは分かりませんが」
「なるほど……信長様を無事に京に逃がすためにはまだ時間を稼ぐ必要がある。まだ戦えるな」
「ええ、1週間は時間を稼ぎましょう」
ただ金ケ崎城に籠もり、朝倉軍を迎え討とうとしていた殿部隊であったが、朝倉軍の進軍速度はゆっくりで、金ケ崎城近くに布陣した頃には5日が経過しており、既に浅井の裏切りによる混乱を立て直した後であった。
俺は他の部隊から兵を借りて、朝倉軍に対してゲリラ戦を展開。
夜襲、朝駆けはほぼ毎日行い、日中でもモザイク戦術による霧の中に隠れて弓を射掛けて攻撃し、直属の配下である黒鍬隊に落とし穴を大量に掘らせ、中に竹槍を設置することで、落ちた瞬間に串刺しになるか、足を持っていかれる凶悪なトラップで時間を稼ぎまくった。
トドメに忍び達が朝倉軍の荷駄部隊を襲撃し、人員を入れ替わって毒を仕込み、朝倉軍内で集団食中毒が発生し、士気はボロボロ、金ケ崎城から退却する殿の織田、徳川連合軍にろくな攻撃もできずに、見逃す結果になるのだった。
殿部隊達は俺の部隊以外は大きな被害も無く京に撤退することに成功し、京の守護をしている細川殿曰く、信長様は足利義昭様に朝倉討伐の失敗の報告を行った後に、直ぐ様動ける軍で京と美濃の連絡路の回復を行った。
浅井軍による妨害が懸念されたが、伊賀と甲賀の忍び衆が織田家に味方していたので、浅井家の動きを妨害し、交通の要所が占領される前に織田の諸将を街道沿いの城に詰めることに成功し、京と織田家本拠地との街道を確保した。
美濃に戻る際に浅井より放たれた刺客に信長様が狙撃される事件も起こったが、運良く無傷で済み、美濃に帰還した信長様は朝倉攻めでは動員を見送っていた地域からも兵を動員し、浅井もろともぶっ飛ばす反撃の準備を着々と進めていた。
俺が京から美濃に帰ったのはそれから3日後……道中柴田のオヤジ殿や丹羽長秀殿の守る城に立ち寄ると撤退戦で時間を稼いだ俺達は凄く感謝された。
「又兵衛、よくやった。織田家の殆どが無事に撤退できた事により、即座に反撃に移ることができる。恐らく信長様もお前達の活躍を高く評価していることだろう」
「オヤジ殿に褒められると嬉しいですね」
「いや、今回はそれほどの窮地であったが、主要な将を誰一人失わなかったのは大きい。何より朝倉が窮地の織田家を追撃できないほど弱っていると分かったのも朗報だ」
柴田のオヤジ殿の守る城、丹羽殿の城にそれぞれ宿泊し、美濃に戻った俺達殿部隊は直ぐに信長様に謁見した。
「金ケ崎の退き口では大儀であった」
まずはお褒めの言葉からであるが、明智光秀殿、木下秀吉殿の両名が、今回の撤退戦での武功筆頭は俺であることを報告する。
その報告を嬉しそうに聞いた信長様は諸将を更に褒めた後に
「金柑(明智光秀殿)と猿(木下秀吉殿)は浅井を攻めた後にしかるべき所領を与える。馬はこれより武将として活躍してもらう。後々城とそれに見合う領地を与える。これからも頼むぞ」
「はは!」
とりあえず褒美は一旦置いておいて、まずは浅井に反撃をしなければならない。
お市様を嫁がせていたのに裏切るとはどのようなつもりか……信長様も義理の弟である浅井長政の豹変に驚きの次に怒りが湧き上がっていた。
忍びから浅井長政とお市の夫婦仲が悪い事は判明していたが、土壇場で裏切ったことで、信長様の許容ラインを大幅に越えて、浅井一族は皆殺しモードに入っている。
「追って指示を出す。それまでは英気を養い、兵の回復に努めよ」
「は!」
というわけで、加茂村に帰還した俺は嫁達から心配されたが、まずやるべきことは葬式である。
加茂村から連れてきていた兵や下級の家臣が亡くなってしまったので持ち帰れた体の一部や遺品を遺族に送り、供養を行っていく。
残された遺族でも幼い子と奥さんしか残ってない様な家はお子さんを小姓として取り立てたり、奥さんを俺の家の赤ん坊を見てもらうお手伝いさんとして雇ったり、少ないながら遺族にお金を支払ったりと、後で信長様に請求するとはいえ、痛い出費となってしまった。
ただこれをケチると家臣達の信用を失いかねないので、丁寧に行っていく。
「お疲れ様です」
「島、手伝ってくれてありがとう」
「いえ、葬儀は本当に大切なことなのでね」
城持ちでないので、兵の補充は他所から充てがわれた人員を使うしかないが、直臣の一部が亡くなったのは感情的にも戦力的にも痛い。
一番古い家臣である猿飛、栗犬、高雉も今回の撤退戦で手足か肋骨のどこかを折る大怪我を負っていたはずなのだが、温泉に浸かって安静にしていたらくっついたらしく、葬式が一通り終わったら普通に鍛錬に参加するようになったのでコイツらも人間辞めた気がする。
菊八も可愛い顔しているのに下半身は凶悪になっているし、熊部は素手で大木を切り倒していたのでコイツらも人間辞めた気がする。
まぁコイツらが人間辞めたお陰で撤退戦を生き延びることができたと思うが……。
稲葉と島もだいぶ肉体が筋骨隆々のオークみたいになり始めているし……あれ? 俺ら魔王軍だったっけか?
「でも又兵衛今回の遠征で奥さん増やさなかったわね!」
「いや、毎回増やしてくるわけじゃないからな……雫」
「でも、一時期めちゃくちゃお嫁さん増やしたじゃない。嫁全員20歳超えているし、どうせ若い子連れてくるでしょ」
「……」
「黙るな! そこは連れてこないって言ってよ! もう!」
プリプリ怒っているが、雫は相変わらずツンデレだな。
最近はデレることも多いが。
「まぁまぁ、雫さん、又兵衛様が新しい嫁を連れてくるのは今に始まったことじゃないですから」
「玉……そうだけどさ……」
「又兵衛様、今夜も私達を可愛がってくださいね」
「ああ、勿論だ。今夜は遅くまで寝かせないからな」
夜の運動会がまた開催されるのであった。
「まったく、又兵衛も剛の者よのぉ」
加茂村にある信長様の別荘にて帰蝶様が療養の為に泊まっていたが、俺が金ケ崎撤退戦の話をしての感想が先程の言葉であった。
「朝倉の者もさぞ肝を冷やしたであろうな。まぁ織田にとって又兵衛の様な将が居ると心強いが」
「そう言って頂けると幸いです。今日も祈祷を行いますので手を出してもらってもいいですか?」
「ほれ」
「ありがとうございます」
俺は帰蝶様に気を送ると気持ちよさそうに帰蝶様の体が熱くなる。
「うむ、体の芯から温まるこの感覚よ。心地よいぞ」
「でしたら良かった……月物が来なくなったことによる体調の変化はどうです?」
「うむ、ここで療養するようになって、だいぶ落ち着いてきた。信長様も忙しい時期だし、妾が戻って奥を仕切らなければ」
「そうですね、帰蝶様に織田家の奥は仕切ってもらわなければ困るのでよろしくお願いします」
「うむ!」
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