【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
俺が撤退する浅井軍に追撃を仕掛けようとすると、浅井の老兵が立ち塞がった。
「浅井長政様、浅井久政様には生きていただかねばならぬ! 織田の将よ! ここは儂を殺してから進まれよ!」
俺は馬を降り、将の名前を聞く。
「今村氏直……しがない老将よ」
「私は毛受又兵衛……金精大明神の化身なり!」
「ほう、神の化身を名乗るとは……しかし、もっと良い化身があったのではないか? 豊作の神じゃぞ……」
「いいえ、私には金精大明神の加護が備わっているのです。無駄話はここまで……一騎打ちと致しましょうぞ」
「うむ、わかっておるのぉ……いざ!」
老将の今村氏直は太刀を手に俺に斬り込んでいくが、俺は刀の棟で受け止める。
「なに!」
「力量の優れた者の太刀を正面から受けていては刃が持ちませんからな」
今村氏直の太刀を俺は何度も受けるが、全て刃の逆側である刀の一番硬い部分の棟で受け止める、逆に今村氏直の刃が刃毀れし始めていた。
「ぬん!」
「老将よ、俺と戦えたことを誇るが良い!」
今村氏直の渾身の一撃を弾き飛ばすと、袈裟斬りを加える。
今村氏直の左肩から右腰までざっくり切られて、腹からは臓物がこぼれ落ちる。
「うぬぅ……老いもあるが……鎧もろとも斬られては言い訳もできぬ。すみません浅井久政様、先に逝きまする! 首を取れ! 毛受又兵衛!」
「おう!」
スパンと痛みが無いように首を刎ねる。
地面に落ちた今村氏直の顔はどこか満足気であった。
俺は追撃を続けようとするが、一騎打ちの勝負を次々に挑まれる。
「浅井政之……浅井長政の弟である!」
「浅井一門浅井政成!」
「同じく浅井一門の浅井政重! 我らを殺してから先にいけ!」
浅井家の中枢の首が次々に寄ってくる。
それは炎に寄ってくる蛾の様に……彼らは俺に近づいた瞬間に命を刈り取られていき、無念と口にしながら首を取られていった。
しかし、彼らの決死の時間稼ぎにより、浅井長政、浅井久政親子は撤退に成功。
ただ多くの有力家臣や一門衆を失い、近江における浅井家の影響力は大幅に低下してしまうのであった。
リザルトです。
濁流に飲み込まれた浅井兵約500、突撃して討ち取った首級1200、そのまま本戦に参加してうちの部隊が討ち取った首級1800……俺自身は今村氏直、浅井政之、浅井政成、浅井政重と大将首4つ、他足軽大将5人、侍大将4人、国人衆1人、雑兵150人以上を討ち取る軍功を挙げる。
論功行賞の席にて信長様より
「頑張り過ぎだ。余が出せる褒美が無くなるぞ」
と言われてしまった。
信長様から褒美として美濃の堂洞城を与えられ、堂洞城周囲の2万石を知行とすることを許された。
今まで住んでいた加茂村もそのまま領地として認められ、合計2万1千石の領地を保有することになる。
そして俺も遂に城持ちだ。
山賊崩れから始まり、足軽、足軽組頭、足軽大将、侍大将、武将を経由して遂に城持ち……。
しかも1万石以上の知行持ちはそう多くない。
城持ちである前田利家ですら今4千石の知行だし……。
それだけ今までの功績を評価されたことになるのだろう!
「これからも期待しているからな馬!」
「はい!」
信長様の期待に応えられるように頑張ろうと気を引き締めるのであった。
姉川は血川と呼ばれるぐらいに両軍多くの亡骸を晒すことになる。
それこそ川が真っ赤に染まるくらいに……。
浅井家は今回の戦で大打撃は受けたものの、致命傷までには至らず、今後も織田家に圧力をかけられるだけの力は残すことに成功した。
朝倉家は、金ケ崎の撤退戦から良いところ無しで、無様な姿を晒し続け、武名は失墜。
支配していたはずの若狭国もこの戦の後に片手間で奪われ、若狭国は丹羽長秀の知行として与えられ、織田家初の国持ち家老が誕生。
丹羽長秀の織田家内の家格を大いに引き上げることに繋がる。
援軍として来ていた徳川家は朝倉軍を一方的にボコボコにし、織田軍の窮地を救ったと、各所から高く評価され、後々朝廷から従五位の官位が贈られ、織田家の同盟者として名を各所に売ることに成功する。
織田家は金ケ崎撤退戦で広がり続けていた版図を一時的に縮小することに繋がったが、姉川の戦いでの勝利により、周辺諸国に織田信長は健在であることをアピール。
またこの戦い以降、浅井家には持久戦を選択し、定期的に城下や領土を放火することで弱体化工作を行っていくことに繋がる。
戦術目標であった横山城もこの戦いの後に陥落し、横山城代には木下秀吉殿が入れられ、秀吉殿も8万石近くの知行を信長様より与えられ、重臣の1人として活動していくことになる。
「おお、ここが堂洞城」
「お城……というより砦ですねこれは……」
嫁達を引き連れて、堂洞城に入城した時のはじめと玉の言葉がこれであった。
「ひろーい」
「大きい!」
子供達も大はしゃぎ。
堂洞城は中美濃にある城で、数年前の中美濃攻めの時に中核となる3つの城……加治田城と関城の城主達が三城同盟を結ぶ際に阻止した城の1つであった。
というか俺が落とした城でもある。
あの時は加治田城主の姫の輿入れを装って城内に侵入し、落城に追い込んだのだったか。
「懐かしいな……もうあれから6年も経過したのか……」
俺は数え年で23歳。
前世の年齢を合わせると還暦を超えている……そう考えると長く生きている気がするが、肉体はまだ20代……活力にみなぎっているし、種付けおじさんとしての能力も日々上がっている気がする。
そもそもこの城は信長様の命令により一度破壊されており、堂洞城跡地と言ったほうが良い。
一応城の機能を引き継いだ砦がそこにあったので、俺の仮住まいとして与えられた。
信長様曰く、浅井と朝倉が片付いたら、遠方に領地替えを行うから、それまでの仮住まいとして我慢して欲しいとのこと。
「これじゃあこの砦を整備するより、加茂村の屋敷を拡張したほうが良いな」
ちなみに加茂村と堂洞城跡地まで徒歩で45分ほどで行ける距離。
なので拠点を移さなくても政務をすることは可能である。
「しかし、城持ちとして役目を与えられているので、この堂洞城を再建しろというのが命令なのではないでしょうか」
島の発言に稲葉も同意と首を縦に振っている。
「めんどくせぇ……とりあえず黒鍬隊に城作りの練習をさせるか。最低限の城にしないと格好がつかない……よな……いや、それよりも兵を集めないと……」
城作りより優先すべきは兵を集めることである。
今までは信長様より兵を借りていたが、城持ちになったことで、自前で兵を募らなくてはならなくなった。
2万石なので千名以上の兵を集めたい。
「それに信長様、今度は摂津に軍を進めるって言っていたし……」
織田家の状況は姉川の戦いに勝利して以降、徐々に悪化していた。
金ケ崎撤退戦で殿をいきなり任されたことで不満が爆発した摂津国人衆の池田家が四国に逃れていた三好三人衆と手を結んで挙兵。
荒木殿と中川殿も池田家家臣なので寝返っていたが、俺と連絡を取り合って、時期を見て池田家をパージして織田に再度寝返ると約束していた。
なので摂津安定の為に信長様は休むまもなく軍を移動させて、京にて兵が集まるのを待っていた。
「うん、堂洞城を再建するのは後。今は兵を集めて摂津に行かないと……稲葉、菊八、熊部……兵を集めるの手伝ってくれ」
「「「はい!」」」
「島は兵の鍛錬をお願い、他の人達は広がった所領の村に挨拶と秋の年貢の取り立ての見積もりをお願い」
「「「は!」」」
こうして俺は休むまもなく次の戦に向かうのであった。
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