【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
「おおお……お市様!」
「はい、市です」
「ま、又兵衛これはどういう事だぎゃ!」
「いや、信長様からの密命でお市様を浅井から取り戻すように言われまして……任務を達成してきた次第で」
「堅城と名高い小谷城に1人で侵入したのか!」
「1人じゃないと足手まといになるのでね。秀吉殿も俺が1人で城を落とした話聞いたことあるでしょ」
「ああ、イチモツで城を落とした話か……あれ本当だったのか?」
「ほぼ噂通りですね」
「ほへぇ……」
秀吉殿の居る横山城に到着した俺は秀吉殿と面会を望み、お市様救出が叶った事を説明した。
秀吉殿もお市様をアイドル的な意味で好んでいた1人だったので、俺がお市様を連れてくると大喜び。
久しぶりに出会ったお市様は少女から女性へと成長しており、年齢も数え年で24歳。
子供も2人産んで、大人の魅力溢れる人物に変わっていた。
「秀吉殿の城が近くに有って助かった。お市様や娘さん達に長距離の移動は流石に応えるのでね」
「又兵衛、お子さんも連れてきたのか!」
「ええ、信長様の姪っ子である茶々様と初様の2人は救助しました」
「浅井長政はどうした」
「命を奪える位置には居ましたが、今回の任務はお市様の救出。ここで浅井長政を暗殺して家臣が反織田感情で高まるよりは、嫁も守れない情けない大名という風に吹聴した方が秀吉殿にとっては都合が良いと思いまして」
「おお、オイラの事まで考えてくれるとは……流石又兵衛。お主が信長様の直臣じゃなかったら、オイラの右腕にしたかったが」
「相変わらず口が上手いですね。でも秀吉殿の右腕は竹中半兵衛殿では?」
「アヤツはオイラの頭脳だ。左腕は弟の木下秀長だし……右腕は空いておるでな!」
「じゃあまだ空けておきませんとね。今後俺よりも秀吉殿に合っている右腕の方にきっと出会えますよ」
「そうかのぉ……」
「それに、今はお市様の救出を喜びましょう。お市様、夜中に連れ出してしまったので眠気も酷いでしょうし、一度お休みになられますか?」
「うーん、又兵衛、一緒に添い寝してくれないかしら。浅井長政の事を忘れさせて」
「……秀吉殿、部屋を借りてもいいでしょうか」
「うう、お市様の頼みじゃ! 又兵衛、お主……お市様にそれほどの好意を持たれているのだから、幸せにできんかったら許さんからな!」
秀吉殿は脳が壊れると呟いていたので、推しのアイドルに彼氏が出来た時の様な脳破壊が起こってしまっていたが、お市様の為に客間を用意し、寝具もなるべく良い物を借りることが出来た。
茶々様と初様の2人を近くに寝かせて、俺はお市様と添い寝しながら、お市様が眠るのを待つのであった。
お市様が眠った後に、俺は秀吉殿と今後の相談を行う。
「お市様を又兵衛が救出し、横山城にて休んでいることは比叡山延暦寺を囲んでいる信長様の元に書状を送った。又兵衛は今後どうする?」
「恐らく返書で信長様から命令が届くと思いますし、自分の部下を置いて活動していたので、俺の部隊をこちらに呼ぶ可能性が高いかと。そうなれば秀吉殿と協力して街道の一揆を鎮圧する事を命じられるのではないでしょうか」
「うむ、一揆は数が多いが武力だけで解決するわけにもいかんからな。田畑を織田軍が焼き払った腹いせに攻撃している奴らもいるが、坊主に扇動されて嫌々従っている者も大勢いる」
「とりあえず年貢を今年は下げるしかないでしょう。後は周辺国人に離反させていく工作でしょうか」
「うむ、離反工作はオイラが進める。又兵衛は甲賀の忍び衆に協力を依頼できないか? 甲賀衆が味方になれば一揆鎮圧は更に容易になると思うのだが」
「わかりました。ただ今回の任務は疲れましたので、命令が届くまでは休ませてください」
「ああ、お市様を良く救ってくれた。オイラからも感謝を」
「いえいえ、惚れた女を助けるのは男の務めですよ」
「なるほど……いい言葉だぎゃ!」
「調理場を少し借りても? 活力が付く食事を作ろうかと」
「お、又兵衛の料理か。オイラも食べて良いか?」
「家臣の皆さんの分も作りますよ」
「小麦粉に塩を少々、菜箸で混ぜて」
作っているのは餃子の皮。
せっかくなので、焼餃子と水餃子を作ることにしたのだ。
「餃子……饅頭の親戚ですか?」
横山城の厨房を預かる料理人が俺に聞いてくるが、小麦粉で饅頭も作られるので親戚と言えば親戚であるか。
まぁ饅頭は蒸すが、餃子は茹でるか焼くなので、ちょっと違うが。
菜箸でかき混ぜた生地を手で纏めて、よくこねる。
綺麗な布に包んで30分ほど寝かせる。
それを料理人達と協力して幾らか作り、休ませている間に俺は弓を持って獣を狩りに出かけた。
30分もしないで、近くの森で大きなイノシシを仕留め、肉に解体し、城に持ち込んだ。
肉の処理を料理人達に任せて、俺は寝かせていた生地を棒状に伸ばして包丁でカット。
それを手のひらで潰して棒で円形になるように伸ばす。
薄めに伸ばせば焼餃子用、厚めに伸ばせば水餃子用で、その中にイノシシのひき肉、細ネギ、ニラをベースに、変わり種としてレンコン、大葉、里芋をすりつぶしたものを入れると味が変わるので面白い。
具を包んだら鉄鍋で焼いていく。
別の鍋には水餃子にするためにお湯に入れて茹でていけば焼餃子と水餃子の完成である。
「おお、これは何処の食べ方ですか?」
「中華の食べ方と記憶しています。堺に行った際に大陸人に教えてもらいました」
まぁ嘘であるが、大陸の商人と出会っているのは本当なので、全部嘘というわけではない。
料理の準備を終えると、お市様達も起きてきて、木下家の家臣の皆さんと一緒に食事をすることになった。
メニューは餃子、ご飯、味噌汁、漬物……至ってシンプル。
「これまた随分と豪華な」
俺の家だとこれでも品数が少なくて質素の方であるが、一品が基本の武家だと焼餃子、水餃子、それに漬物と三品もおかずが並べられているのは豪華らしい。
「では頂きます」
まだ暖かい餃子に味噌を付けて俺が食べる。
うん、美味しい。
それを見た他の人達も口に運び、美味いや美味と喜んで食べていく。
茶々様は初めて食べる餃子に興味津々で、水餃子を侍女の方に手伝ってもらいながら食べさせてもらうと、手足をバタつかせながら
「美味! 美味!」
と大喜び。
初様は産まれたばかりなので、秀吉殿が乳母を呼んで、乳を吸っている。
お市様も餃子を食べると目を輝かせて
「美味しいわ!」
と言ってもらえた。
「又兵衛、この餃子? と言う料理は料理人に言えば作れるか?」
「ええ、作り方は教えましたし、獣の肉が手に入れば作ることが可能でしょう。獣の肉じゃなくても横山城は内海(琵琶湖)が近いので、魚の肉をほぐして入れても合うと思いますよ。ただ焼餃子よりは水餃子の方が魚の場合よく火が通りますから、食あたりを避けることができるかと」
「なるほどのぉ……色々考えられている料理なのだな」
「この餃子、中華では縁起物として食べられますので、お市様が無事に織田家に帰ってきた事を祝いましてこの料理にしました」
「ほぉ……それは目出度い料理じゃな」
秀吉殿も気に入ってくれたらしく、以後秀吉殿の領地では餃子が名物として広まっていくことになるのだった。