【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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お市の又兵衛領での生活 1

「ううーん」

 

 朝、私が起きると夜にあれだけ激しく動いたのに、疲れは綺麗さっぱり消えていた。

 

 全体的に体調も良く、冷え性の身体も芯から温まっている気がする。

 

「お市様、皆さんで体操をしますけど、お市様もしませんか?」

 

 側室の1人であるはじめさんが寝室に入ってきて、体操を皆ですると言い始めた。

 

 体を激しく動かすのは勘弁したいが……。

 

 ただどんなものか興味があったので、参加することに。

 

「1、2、3、4」

 

 八拍子の間隔を又兵衛が口にして、その音に合わせてまだ小さい子供達や又兵衛の嫁の皆さんも奇妙な踊りをしていく。

 

 簡単で、激しい運動というわけでは無いが、いつもは動かない場所を動かして、体をほぐすという感じか。

 

 終わってみると体がホクホクと温かくなり、それから皆さん朝食の準備に取り掛かる。

 

 台所に移動してみると、又兵衛が縦横無尽に動き回り、嫁の皆さんが手分けして料理を作っていく。

 

 他の嫁達は赤ん坊に乳をあげたり、おしめを変えたり、子供達の面倒を見たりしている。

 

 料理はあっという間に作り終わり、今日は卵焼きと呼ばれる鶏の卵を使った料理に、鶏の肉とネギの煮物、ぬか漬け、なめこの味噌汁に雑穀米という料理が食卓に並ぶ。

 

 横山城で又兵衛が料理番をする時はこれくらいの品数が出ていたが、基本一汁一菜が基本。

 

 なのに又兵衛は一汁三菜が基本と言う。

 

「頂きます」

 

 卵を食べるのは初めてだが、昔信長兄様が又兵衛の所で卵を食べて美味しかったと言っていたのを思い出す。

 

 箸でつまんでみると、豆腐よりも少し硬いが、それでも柔らかい感覚で、醤油というタレをかけて食べてみると、口の中に卵のまろやかさと醤油のしょっぱい味わいが広がる。

 

 これはご飯が進む。

 

「おかわり!」

 

 近くで食べていた子供がそう言うが、普通はおかわりなんかは無いのが基本

 

「はいはい」

 

 しかし、又兵衛の家ではおかわりが普通に出てくる。

 

 しかもご飯だけでなく味噌汁も! 

 

 これは驚愕に値する。

 

 私が食べていると初の姿が見当たらないので少し探してみると、鈴さんという側室の方が私の代わりに授乳してくれていた。

 

 大きな胸で、乳がよく出るのか、初も凄い勢いで飲んでいる。

 

 私も乳は出る方の体質だが……鈴さんの量には敵わない。

 

 鶏とネギの煮物は味噌ダレの鶏がテカリ輝いて見えた。

 

 程よい焦げ目のついたネギと一緒に食べると、鳥の旨さとネギの甘さ、味噌のしょっぱさがいい感じに口に広がる。

 

 これも美味しい。

 

 そして味噌汁を少し飲む。

 

 それは今まで味わってきた味噌汁に比べて旨味が段違いで、味噌だけでなく、昆布や煮干し……きのこの旨味が凝縮されていて、頭から眠気が吹き飛ぶ。

 

 はしたないと思いつつも、ご飯が進むので食べきってしまい、私はご飯のおかわりを所望すると、又兵衛は笑って

 

「市もいっぱい食べろ」

 

 と言ってくれた。

 

 お言葉に甘えてお腹いっぱい食べるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 朝食が終わればそれぞれの仕事が始まる。

 

 又兵衛は留守にしていた間の政務に取り掛かり、6歳以上の子供達は近くの寺にて家臣の方や住職が文字の読み書きや算術を教えているので、それを習ったり、武芸を磨いたりする。

 

 大きな子達は家畜の世話をと豚と呼ばれる猪の親戚みたいな動物や鶏に餌をやったり、牛や馬の寝床の掃除をしていく。

 

 側室の方も家畜の世話を行なっているのに驚いた。

 

 正室の雫さんも牛の乳を搾っているので、家臣の方にやってもらわないのかと聞くと

 

「私達は元々下級武士よ。偉くなって家臣が付いてもやることは大きくは変わらないわよ。お市様も絞ってみる? この子は大人しいから暴れたりしないわ」

 

 と言われ、恐る恐る牛の乳を搾ってみると、ジョボジョボと大量の乳が溢れ出した。

 

「上手いじゃない。コレを運んで又兵衛がちーずやばたー、よーぐるとっていう物に加工していくわ」

 

「聞いたことの無い料理ですね」

 

「牛の乳の料理はどれも美味しいのよ」

 

 牛の乳を搾り終えると、ニギニギし過ぎで手が痛くなったが、雫さんは私の数倍早く乳を搾ると、乳の入った桶を台車に乗せて運んでいく。

 

 大きな納屋に到着すると、中から良い匂いが漂ってくる。

 

「牛乳運んできたわよ」

 

 雫さんが扉を叩くと、中から白衣を着た男の人達が現れ、中に牛乳を運んでいく。

 

 中を見せてもらうと、そこには黄色い円形の物体が棚に陳列されていた。

 

 雫さん曰くこれがちーずという物らしい。

 

 牛乳を沸騰させて熱で邪気を取り除き、酢を入れて固まらせる。

 

 それを細かく切り刻み、撹拌させるとホエーと呼ばれる液体と固体に分離する。

 

 ホエーは別の料理で使うので取っておいて、水気を切ったら重石を置いて脱水。

 

 完全に水気を抜いたら食塩水で全体を濡らして棚に置いて成熟させる。

 

 2日に1回ひっくり返して手入れをすること1年でちーずが完成するのだとか。

 

「又兵衛様にチーズ作製を任されている者です。牛乳1斗でチーズ1升しかできませんが、他にもバターやヨーグルトといった乳製品を作らせてもらってます。信長様も好物であると聞いていますが……」

 

「私食べたことが無いのだけど……」

 

「お市様が嫁がれた後に本格的な生産が始まりまして……少し食べてみますか?」

 

「良いのですか?」

 

「ええ、日持ちしない方のチーズでしたらいくらでも」

 

 そう言って出されたのはもっつぁれらちーずと変な呼び名のちーずであった。

 

 白くて柔らかく、食べてみるともちもちした食感かつ、乳特有の甘さがほんのりする。

 

 食べていて飽きない味だ。

 

「気に入ってくれたようでなによりです。又兵衛様は様々な物をお作りになられているので、飽きることは無いですよ」

 

「なるほどね! ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 ちーず工房と呼ばれる場所を離れ、雫さんの後を着ける。

 

「着いてきてもつまらないわよ?」

 

「いえ、皆さんからしたら普通の日常でも、私には興味を唆られる物ばかりですよ!」

 

「ふーん」

 

 牛の世話が終われば家臣達が鍛錬している場所に移動する。

 

 雫さんは家臣の数を数えているみたいである。

 

 家臣の皆さんは四股踏みやすり足、柱に向かって張り手をしたり、相撲の稽古をしているようにも見える。

 

「武芸では無いのですね?」

 

「ん、ああ、ここにいる人達は武芸を身につける以前の人達よ。体をまず鍛えて、基礎体力? ていうのを付けているの。いっぱい動いて、いっぱい食べて、いっぱい勉強して、よく寝る。他の人達より体が大きいとは思わない?」

 

「確かに体の大きい人が多いですね」

 

「さっき言ったことをすると体が大きくなるんだって。又兵衛が言っていたわ。あと体が大きくなる食材を食べているとも」

 

「私の身体も大きくなります? もしかして」

 

「女は胸や尻に肉が付くわ。安産になりやすくなるらしいから気にしなくていいわよ」

 

「なるほど」

 

 雫さんは今度は馬に馬具を付け始めた。

 

「お市様は馬には乗れる?」

 

「はい、武家の女として乗れます」

 

「ちょっとまってね。別の馬具を用意するから」

 

「馬具ですか?」

 

「そう、これも又兵衛が作ったんだけど、馬に乗りやすくするための道具。ここにいる馬達は温厚だから振り落とす事は無いけれど、あった方が疲れないわよ」

 

 そう言われて大きな馬に馬具を取り付けると馬の腰に籠を2つ取り付けた。

 

「これは?」

 

「ああ、気にしないで、買い物するから荷物入れよ」

 

「買い物?」

 

 馬に乗って歩いていくと、とある屋敷の前に止まった。

 

「村長、買い物に来たわよ」

 

「おぅ、ちょっと待ってくれや」

 

 中から男らしい声が響き、男が出てくる。

 

「加茂村の現村長よ。前まで初老の男性が村長だったんだけど、2年前に代替わりして、こいつになったわ」

 

「は、初めまして」

 

「おう、又兵衛様の新しい嫁さんか? いやぁ、またべっぴんさんだな!」

 

「村長、今回は織田家に連なる姫様だから鼻の下伸ばしてると織田家の人に斬り殺されるわよ」

 

「ふう! おっかねぇ。で、何を買いに来たんだ?」

 

「前に頼んでおいた食材でしょ……獣の肉は入ってないの?」

 

「あいにく猟師がヘマして今回は入ってないな」

 

「そう。じゃあこっちからは醤油と味噌、それに漬物ね」

 

「おう。じゃあこっちはゴボウ、大根、葉野菜だな。梅干しは要るか?」

 

「今出せるの布くらいしか無いけど良いかしら?」

 

「おう、冬になるから布が欲しかったところだ」

 

 あっという間に取引が成立して、馬の籠に食材が入っていく。

 

「これでよしっと、お二人さん気を付けてな」

 

「ええ、あとは栗畑によって帰るわ」

 

「おう」

 

 

 

 

 

 

「商人を介して食料の調達をするものかと思ってました」

 

「勿論それもするけど、その食材は家臣達が食べるのに消化されてしまうわ。家で食べる食材が足りない時は各村の村長を頼るのよ。さっきの村長は家との付き合いが一番長いから色々融通が利くの」

 

「へぇ……」

 

 そんな会話をしていると、雫さんが栗畑と言っている場所に到着するのだった。

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