【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
どれだけ生き残れた……どれだけ死んだ……徳川家康様は生き残れたのか……それとも……。
俺は鎧を脱ぎ捨て、愛刀の村正だけを持って戦場から離脱し、走りながら浜松城に向かった。
走り続けること1時間、浜松城は負傷兵で溢れかえっていた。
「家康様は」
俺は浜松城兵に家康様は逃げ切れたのかと聞くと、無事に逃げることに成功したと報告を受けた。
次に俺の部隊がどうなったか確認していく。
「ま、又兵衛様……」
「島、撤退の指揮ご苦労」
鎧に矢を受けた跡が幾つも残る島を見つけ、治療しながら情報を聞いていくが、出てくるのは悲報ばかり。
まず俺の最初の家臣である猿飛と高雉が無念の戦死。
親族だと俺の義理の父親であるはじめのお義父さんが亡くなっていた。
他にも部隊指揮をしていた元忍びで、現足軽大将だった龍丸と虎丸が戦死、俺の領地から連れてきた千名の兵士のうち半数の500人が戦死し、1万の兵全体だと6千もの兵士が戦死もしくは行方不明になっていた。
「無念です……」
「傷が開く、島は安静にしていろ。他の奴らに声を掛けてくる」
俺は別の場所に移動すると、首だけになってしまったお義父さんに可愛がってもらっていた嫡男の高貞が大泣きしていた。
「父上……ご無事で……」
「高貞……怪我は無いか」
「はい……爺が守ってくれて……」
「首を取ったのはお前だったか」
「胸を射抜かれて爺は……爺は……」
「今日は泣いていろ……ただ明日より更に厳しい戦いになる。すまない高貞……初陣でこんな難局に連れてきてしまい」
「父上……菊八の所に行ってください」
「わかった」
高貞はお義父さんの首を抱きかかえて再び泣き始めてしまう。
菊八の所に行くと、熊部と栗犬も揃っていた。
「お前ら怪我は」
「僕らは大丈夫です……しかし猿飛と高雉が……」
「俺が……赤揃えの突破を許さなければ……」
「熊部のせいじゃなかろうて……」
「又兵衛様はお怪我は! 殿をしたと撤退最中に聞きましたが……」
「まだ悪運が残っていたらしい。無事生きて帰ってこれた」
「又兵衛様が戦死されたら津田家は崩壊してしまいます……」
「無理はなさらないでください」
「いや、無理をしなければならない場だったからな。3人と生きて会えただけでも良かった」
「「「又兵衛様……」」」
「傷があればこれを塗っておけ。傷が直ぐに塞がる」
「は!」
「又兵衛様、ご無事で」
「ああ、的場は大丈夫だったか」
「はい、早期に退かせてもらったので、鉄砲隊の被害は軽微です。恐らく現場で一番被害が少なかったかと」
「籠城となれば鉄砲隊の出番だ。もう俺も徳川軍も野戦できる兵力は残ってない。籠城して織田本軍の援軍が来るしか勝ち筋は無くなった」
「どれだけ耐えればいけますか」
「3ヶ月耐えれば冬が明ける。春になれば武田の兵站上一度帰国せねばならなくなるだろう」
「わかった。僕は僕なりに準備を進めておく」
「頼んだ」
家康様は脱糞しながら逃げたそうで、その姿をそのまま絵師に絵を描かせていた。
「家康様」
「無様な敗戦だ。多くの譜代家臣が討ち取られた……又兵衛の事を悪く言っていた加藤達も皆死んだ」
「……」
「だが……生き残った我々で武田に対処しなければならない。又兵衛が殿を務めてくれたおかげで追撃は来なかった。城の防備を整えなければ……」
「3ヶ月……3ヶ月耐えれば信長様が軍を率いて来てくれます。それまではどうか……」
「耐えるのは得意だ。三河武士の意地を見せつけよう」
しかし、武田軍は三方ヶ原で侵攻を停止し、数日動きが無かった後に甲斐に帰国を開始してしまう。
武田軍に異変が起こっていた。
まず武田信玄が吐血していたのは事実であり、病状が悪化したこと。
そして三方ヶ原の戦いで副将かつ四天王最強であった馬場信春が天から降ってきた槍に貫かれて戦死していたのである。
他の将達はこれ以上の遠征は不可能と判断し、三河、遠江から撤退を開始。
俺と徳川軍に追撃できる余力は残っておらず、武田軍は安全に甲斐に撤退する。
家康様は失った所領の回復に務め、俺には裏切った国人衆の対応を手伝って欲しいと言われ、俺はまだ動ける忍び衆を使って見せしめを敢行。
武田にこれからも付くようであれば暗殺すると書状を送りつけ、やれるものならやってみろと啖呵を切った国人の当主は翌日普通に暗殺され、武田に組すると言う重臣も暗殺。
こうすれば恐怖で徳川に付くしか無くなり、その国人衆は徳川に再臣従し、暗殺祭りの噂を各所に広めると、武田の加護を受けられないと知った遠江国人衆達は徳川に雪崩のように再臣従を誓い。
それが波及して奥三河の国衆も再臣従を誓った。
結果、徳川家康様は家臣を多く失ったが、武田侵攻前の所領に領地の広さは戻すことに成功。
武田は隠していたが、甲斐に撤退最中に武田信玄が病没。
馬場信春が戦死したことで頭と右腕がもがれた状態かつ、織田とも敵対したことで外交状況は大幅に悪化した。
一番泣きたいのは俺である。
信長様より預けられた兵のうち6割を消し飛ばしてしまっているし、譜代家臣の多くを失ってしまった。
軍として動くには時間がかかる。
「信長様、申し訳ございませんでした」
俺は徳川の援軍の任が終わると直ぐに岐阜城に向かい、信長様に謝罪した。
「馬、何をそんなに謝る」
「徳川の援軍として向かいながら無様な敗北をしてしまい……」
「いやいや、武田相手によく戦ってくれた。戦に負けたが、結果的に武田は撤退した。聞けば馬場信春を馬の部隊が討ち取ったらしいし、徳川の窮地を2度も救った……これは評価に値する」
「しかし」
「くどい、余が良いと言っているから良いのだ。馬にはこれからも色々活躍してもらわねばならぬ。1度の失敗で落ち込むな。気になるのであれば次の戦で挽回せよ!」
「は!」
「余はこれよりアホの将軍を叩き潰してくる。馬は裏切った松永久秀を説得してこい」
「え? 松永久秀殿裏切ったのですか……」
「あぁ、嫌な時に裏切りおって……土下座と茶器提出で許すと伝えよ」
「は、はは!」
俺は休む間もなく大和に向かうことになるのだった。