拡大Ⅰ:保須事件前夜
USJでのジャマグラの後、道長はもとの場所に戻っていた。報酬をくれと周囲のことをお構い無しに騒いだが、渡されず。イラつきながら帰宅すると、リビングの中央に黄色と黒の箱と一枚の通帳が置かれていた。
「報酬がどこに届けられるのかくらい言えよあの野郎」
恥ずかしい思いをした道長はため息をつきながら通帳の中を見る。報酬金の2000万円が記載されており、これで忙しくバイトをしなくてすむと、満足気な表情で通帳をしまう。
「んで、コイツか」
道長は箱を手に取り、蓋をスライドさせた開けると、中から緑を主としたカラーで中心に手裏剣とクナイの持ち手思わしき形状の起動スイッチがついたバックル、ニンジャバックルが入っていた。
「コイツが新しい戦力か・・・」
道長はニンジャバックルをバックにしまった。
「はぁ、これからめんどくさそうな日常が始まりそうだな」
神の気まぐれ、暇潰しに付き合わされることになった道長はため息をつきながら、バイト先へ辞める連絡を入れた。
時が流れ。
「なかなか面白いな」
道長は雄英体育祭をテレビで見ていた。さまざまなヒーローの卵たちが一位を競い争う。子供だけが出場しているからか、大人のスポーツのようにめんどくさいしがらみなどがなく、純粋な実力勝負が行われるオリンピック規模の大会は見ていて気持ちがよい。
「いろんな、個性があるんだなぁ本当に」
道長はこの世界の能力の多様さに、改めて感嘆の言葉を漏らす。超能力と聞くと、真っ先に思い浮かぶのがテレキネシスなのだが、そんなメジャーな能力はこの世界では少なく、寧ろテープを体から出したり、頭の球状のものをちぎって投げるだったり、体から闇の塊のような生き物を出現させたりといった、マイナーな力の方がほとんどである。
「でもまぁ、強くなれるのはやっぱりメジャーな能力っぽいけどな」
オールマイトしかり、No.2ヒーロー、エンデヴァーしかり、やはり表舞台で活躍できる、戦闘において戦科を出すことのできる個性は、やはりメジャーな能力だ。超パワー、炎を出す、羽を生やして空を飛ぶ等々だ。
「まだまだ知らないことばかりだな。ん?」
頭上に白い穴が開くと、中から一枚のカードが落ちてくる。
「ミッションか。なんて書いてあんだ?ヒーロー殺しからインゲニウムを救出せよ?アイツ、なんかヤバイのか?」
道長は立ち上がると、デザイアドライバーを腰に巻き付け、ゾンビフォームに変身する。
「おい、転送しろ」
前回のジャマグラと同じように、光と共に転移する。
光が明けると、そこはどこかの路地裏であった。
「どこだ?」
バッファはとにかくピンチであろうインゲニウムを探す。路地裏を回っていると、ところどころに急に走り出したような跡と、何かが突き刺さったような傷、そしてまだ乾いていない大量の血痕を発見する。
「こりゃまずいな」
バッファは急いでそのあとを追う。そして、曲がり角の先で、赤い手ぬぐいで目元から鼻までを隠し、様々な凶器を携帯している謎の男が、インゲニウムを串刺しにし、マウントを取っていた。
「おい、てめぇ何してやがる」
「貴様だな、近頃ヴィジランテ活動を行っているのは」
「ヴィジランテ?なんだそりゃ」
「知らないでやっていたのか、もしかしたら貴様は天性のヒーロー、本物、なのかもしれないな」
「なんだそりゃ。言ってる意味が分からねぇ、さっさとインゲニウムから離れやがれ」
イラつきながら、男を脅すバッファ。
「無理だ、こいつは偽物、粛清対象だ!本物であるお前ならわかるだろ?」
バッファは仮面の中でなんだこいつという顔をする。とにかく、この男が狂っているのがよくわかる。
「なに言ってんだお前?ソイツはインゲニウム、れっきとした「ヒーローとは!!」
「見返りを求めず、自己犠牲の果てにある称号だ!!コイツが行っているヴィラン退治や人命救助は、自身の利益のために行っているものだ!!コイツはヒーローの偽物だ!!」
ステインは目を見開き、血走らせながら狂ったように叫んだ。バッファはコイツには何を言っても意味がないと悟り、ゾンビブレイカーを振るう。
ステインは即座に反応し、インゲニウムから刀を引き抜きながら回避する。
「治安維持部隊であるこの世界のヒーローにどんな幻想を抱いてるんだか知らねぇが、殺すことしか能がないお前がインゲニウムを偽物呼ばわりなんざ出来ねぇよクソ野郎」
「ではこのままで良いというのか?」
「良い悪いの話じゃねぇ。やり方間違ってんだよ。お前がヒーローになって、ヒーローのあり方をお前自身が示せば良かったんじゃないのか?勝手に諦めて、偽物だと駄々こねてるのはお前だろうが」
『POISON CHARGE !! TACTICAL BRAKE!!』
ゾンビブレイカーのカバーを蹴ってスライドさせ、タクティカルブレイクを発動すると、ステインに斬りかかる。しかし、ステインは素早い動きで回避すると、脚の腱を狙って刀を振るう。しかし、ゴッズウォールの自動防御が発動し、ステインの攻撃はバッファに届かない。
「それがなんになる?」
「なに?」
ステインはバッファの論に異議を唱える。
「社会が、人々が、国が、ヒーローという職業に依存した上で成り立っている以上、草の根運動ほど無意味なものはない。言葉も行動も無力だ。効果を示すのは血で染まり、必要に駆られることだ。偽物によって築き上げられた歴史が長すぎた。そして、それに依存した社会情勢も」
ステインは、バッファを狙っても無意味であると判断したのか、標的をインゲニウムへと切り替え、素早い動きで接近していく。
「チッ!このフォームじゃ間に合わねぇ!」
『リボルブオン!!』
バッファはすぐさまリボルブオンをし、バーサクローが装着された右足を大きく踏み込む。
すると、紫色の毒々しいエネルギーが地面を駆け巡り、ステインを追い越すとバーサクローを模した巨大なエネルギーへと形を変え、インゲニウムを覆い隠す。
「うぐっ!?」
そのままインゲニウムをエネルギーで包むと、ステインを吹き飛ばしながらバッファの近くへと引き寄せる。
『ZOMBIE STRIKE !!』
バックルを操作し、ゾンビストライクを発動。後ろ回し蹴りのモーションでエネルギー攻撃を仕掛ける。
「ハァッ!」
三日月上のエネルギーが体制を崩しているステインへと迫っていき、爆発、土煙が舞い上がる。
土煙が晴れると、そこにステインの姿はなかった。
「逃げられたか」
バッファは忌々しげにそう言うと、インゲニウムへと駆け寄る。
「おい!おい!しっかりしろ!!目ぇ覚ませ!」
「う、き、君は」
目を覚ましたインゲニウムはバッファの姿を見ると苦しそうに声を上げる。
「とりあえず路地裏から出る。眠るんじゃねぇぞ。無理してでも起きておけ。じゃねぇと死ぬぞ」
「ま、待て、ヒーロー殺しが」
「アイツなら追っ払った」
「き、君、彼に勝ったのか?」
「勝ったんじゃねぇ、逃げられた。んなことどうでも良いんだよ。路地裏から出たら救急車を呼ぶ。救急車に乗るまでは居てやるが後の事は自分で何とかしろ」
「そこまでやってくれる、なら、十分だよ。ありが、とう、バッファ君」
バッファはインゲニウムを担ぎ、路地裏から大通りへと出ると、スパイダーフォンで救急車を呼ぶ。
「インゲニウム、アイツはなんだ?偽物だとかなんだとか言ってたが」
「あ、アイツはヒーロー殺し・・・各地回ってヒーローやヴィランを殺して回ってるゴホッ!ゴホッ!!に、偽者の意味は良くわからないんだけどね。うっ!」
「わかった、もうしゃべるなじっとしてろ」
バッファは救急隊の到着を待ち、インゲニウムが救急車に乗り込んだのを確認するとブーストライカーで自宅へと帰宅した。
病院にて
「兄さん!!」
飯田天哉、インゲニウムである飯田天晴の実の弟が病院に駆けつけ、涙を流しながら病室へと駆け込む。
そこには、手術が終わり、麻酔が切れかけ意識朦朧としている天晴の姿があった。
「天、哉、母、さん」
「兄さん、天晴兄さん!!」
「ごめ、んな、こんな優秀な弟が憧れてくれてるのに・・・」
「ごめんな、天哉。兄ちゃん、負けちまった」
「兄さん!」
「インゲニウムの活動範囲で有名なヴィジランテ、バッファが、ヒーロー殺しが止めを差すところに止めに入ったお陰で、見た目よりもかなり軽微でしたが、それでも重傷です。それに、肺と個性であるエンジン部分、脚に障害が残る可能性があります。ヒーロー復帰は、難しいでしょうね・・・」
「そんな!?」
医者の発言に、天哉と母親は絶望した表情を浮かべた。そして、小さな育ち盛りの復讐の炎が一人のヒーローの卵の中に産まれた。
ヒーロー殺しステインはインゲニウムの命を奪うことはできなかったが、ヒーローを行っていくための命であるインゲニウムの個性、肺、脚を潰すことに成功した。