片田舎の剣聖の一番弟子 作:剣術太郎
遠い異世界
広大なガレア大陸のレベリス王国
そこで剣の道を志す者たちの誰もが聞いたことのある『片田舎の剣聖』
数多くの有名騎士や冒険者たちの師匠であり、その実力は剣の頂にいると言う者も
そして、その中でも、もっとも名の通った弟子が1人いる
はじめはただの冒険者だった
しかし、彼は1つの目標のために、その腕を振るい、何時しか彼の名は王国中に響いた。
人々は彼を『隻眼の剣豪』と
同門たちは『ベリル先生の一番弟子』と呼んでいる
● ● ●
「いや、一番弟子って意味知ってるか!?今すぐ辞書で調べて来いよ!」
「師匠に最初に弟子入りした者、もしくは他の弟子よりも才能や実力が高い者を指すことを言う。分かってますよ」
「へぇ~、そうなんスか。私知らなかったっス」
王都バルトレーン
そのとある酒場
久々に同門の妹弟子である現騎士団長とその部下たちと飲みに来た
酒が進み、話が盛り上がってきたところで、ここ最近剣士たちの間に広がる『隻眼の剣豪』の話を出して、そこから剣豪こそが我らの先生の一番弟子と言ったのだ。
「だから貴方がそうではありませんか」
「そっスよ。ベリル先生も、先輩が弟子の中でも随一だって言ってたじゃないっスか」
「それは唯のお世辞だろ。俺なんて全然、師匠の腕前には届かないよ」
「ふふふ……そういうところは先生そっくりですね、アセムくん」
妹弟子の1人である現騎士団長から笑われる男。
彼女と歳は近く、髪はウェーブのかかった黒。その髪の下にある顔の片目、そこには黒い眼帯が見える。フード付きの蒼いコートを着て、左腰には2本の剣。
彼の名は『アセム・ガーデナント』
冒険者ランクの上位のオーシャンランクを持ち、国より特務騎士(普段は冒険者だが、国からの要請で騎士団の一員として働く)の称号を与えられている。
「そもそも、アセム先輩って、どういった経緯で先生の一番弟子になったんスか?」
「だから、俺は一番弟子じゃないって、クルニ」
まぁ、でも久々に思い出すとしよう。
と言っても、始まりは
ー ー ー ー ー ―
よくある話だ。
どこにでもいる、特に目立った特徴も無い人間。
朝起きて、仕事に行き、食事を取って、寝て、また起きて
それを毎日繰り返す人生。
年寄り臭いことを言うと、昔は良かった。
学校で友達と馬鹿なことを話したり、思いっきりはしゃぎながら遊び、ふとした事から始めた剣道の練習に性を出した。
将来のことなどまるで考えたことのない時間。
実に心地良かった。
だが、そんなのは永くは続かない。
それをもっと早く気付けば良かったのに………
そして、いつものように仕事を終えて、いつものように家に帰るつもりが
プップーーーッ!!
それが、俺が覚えてる最後の瞬間だ。
「きみ、なんでこんな所にいるんだ?」
「あう(誰)?」
次に目を覚ましたら、知らないおっさんが俺を見下ろしていた。
ベリルSide
「ふぁ〜〜〜」
俺の名は『ベリル・ガーデナント』。つい最近、おっさんと呼ばれてもおかしくない年齢になった。
故郷のビデン村で代々続く剣術道場の師範なんかをやっている
今日は稽古の日じゃない。だが日課である朝稽古には休みは無い。
だから今日もいつものように早起きして、庭へ向かおうと玄関を出た瞬間
「ん、なんだコレ?」
目の前に布で蓋された小さな籠と、また布に包まれた細長い物が置いてあった
ウチへのお届け物かな?
そう思い籠の布を取ったが、全く違った
「ん……あぅ……ばぶ?」
籠の中には、小さく触れれば傷付けてしまいそうな柔らかい赤子が入っていた
その赤子が、異変に気付き、目を覚ました
「きみ、なんでこんな所にいるんだ?」
「あう?」
「えっ、ちょちょちょちょっと待て!?誰きみ!?親御さんは!?」
慌てて辺りを見渡したが、誰もいない
つまり、捨て子ということか
「えっと……どうしよう(困)」
とりあえず、両親に相談だ
親父とおふくろからは、「ウチでしばらく預かるか」となった。まぁ、昔に女の子をウチで世話した事がある
そういえば、元気にしてるかな。スレナ?
念の為、村のみんなに赤子の事を聞いて回った。が、やはり誰も心当たり無かった
名前だが、親父とおふくろの
歳はだいぶ離れてるが、なんとなく弟が出来た気分だった
アセムは捨て子ということがあってか、村のみんなで可愛がった。もう使わなくなった赤ちゃん用の揺りかごや、赤ちゃん服、ガラガラなどの玩具をくれた
道場に通ってるみんなも、稽古終わりにアセムの顔を見に来て、いっぱい話しかけてくれたり、遊んでくれた
ホントに良い人たちに囲まれて良かったな、アセム(TOT)
それから、首が座るようになり、ハイハイも出来るようになったある日のこと
「ベリル。アセムちゃん連れてきてくれる?そろそろお昼ご飯にミルク飲ませるから」
「おう、ちょっと待ってな」
おふくろから頼まれ、俺はアセムがいるはずの揺りかごへと向かった。だが
「あれ……アセム?」
いるはずのアセムの姿がいない。まさか抜け出したのか?慌てて外に探しに行こうとした時、親父がコソコソと縁側を眺めていた
「親父!アセムが揺りかごにいな―――」
「ベリル、アレ見ろ」
親父が手招きをして、同じようにこっそりと縁側を覗くと
「あ〜う……あ〜う……うぅ?」
アセムが縁側に座りながら、小さな木の枝を振り回していた。いや、ただ振り回してるだけではなかった
何回か木の棒を頭上に振り上げ、振り下ろす。それを何回か繰り返しながら、首を捻り、振り下ろす角度を変えたり、木の枝を持ち直したり
「まさか……素振りをしてるのか?」
ベリルSideOut
「あ~う……うぅ(う〜ん、なんか違うんだよな)?」
揺りかごからなんとか抜け出し、俺を拾ってくれたベリルさんやその両親のモルデアさんやフレンさんに見つからないように縁側へと向かい、落ちていた木の枝でいつものように素振りをする
気が付けば、異世界へと転生を果たした俺。そんなの漫画だけかと思ったが、ホントにあったとは……
俺を拾ってくれたのは、片田舎で剣術道場をしている家
目を覚まして初めて見たおっさんは、そこの師範のベリルさん
気が弱そうに見えるが、なかなか優しそうで、老若男女問わず村の人たちに好かれていた
ベリルさんのご両親も優しく、愉快な人たちだ
何のゆかりのない俺を引き取り、我が子のように可愛がり育ててくれてる
村の人たちも、俺を家族の一員として可愛がってくれてる。ありがたいかぎりだ
そんな時、フレンさんに抱っこされながら、ベリルさんが稽古しているところを見た
一言で言えば、綺麗だった
ただ木剣を振ってるように見えて、身体の動かし方、剣の軌道、何より音を聞くだけでも無駄を感じさせなかった
前世では剣道をやっていたが、あんな綺麗な素振りは見たことが無い
それから、ハイハイが出来るようになってからは、こうやって木の枝であの素振りの真似をしてみる
だが、やはり出来ない。赤子の身体のせいもあるが、それ以外に何かが足りない
自分なりに試行錯誤を繰り返し、記憶を探りながら素振りをする。だがやはり違う
「うぅ……あう!」
あー!もう!早く大きくなりたい!ベリルさんの道場に通いたい!!
イラつきながら、それでも素振りを続けた
「ベリル、どう思う?」
「俺や道場の子たちの素振りを真似してる……よな?」
「ただ真似してるだけじゃねぇな。まだまだ基本はなっちゃいねぇが、赤子であそこまで出来るなんて見たことも聞いたことも無い……」
「もしかして……剣の才能がもう開花したとか?(なんてまさか――――)」
「ベリル、それたぶん正解だな」
「正解って……」
「あの子は、もしかしたら……とんでもない剣士になるぞ」