片田舎の剣聖の一番弟子   作:剣術太郎

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『レベリオ騎士団』。このレベリス王国で最強と名高い騎士団であり、国中の腕自慢から、更に選別された一握りの精鋭たちで構成されている。

騎士1人が、他国の騎士10人に匹敵すると言われるほどの実力を個々に持っている。

かつてアセムと共に戦った元副団長も、他国の騎士団長との模擬試合で圧勝したとの話もある。

その親戚にあたり将来有望と噂される若き騎士も、このレベリオ騎士団の上位に立つのも時間の問題と言われていた。

だが――――


「ハァ……ハァ……ハァ……!」

「うん、まだまだ荒削りだが、良い技だ。磨けば君の必殺剣になる。汰らず精進を忘れないこと。それが大事だ」

「ハァ……ハァ……」


返事が出来ない。今までこんなに疲れと敗北を味わったこと、そして格の差を思い知らされることを、彼は知らない。


「お見事です、アセムくん」

「せっかくだし、アリューシアも久々に1本やらないか?」

「そうですね……久々にやりますか」


そうして2人は木剣を構える。

その様子を、後のレベリオ騎士団副団長『ヘンブリッツ・ドラウト』は見てることしか出来なかった。

これは、アセムが特務騎士に任命されてから、すぐの事である。





レベリオ騎士団

 

ベリルの宿探しの翌日。アセムはレベリオ騎士団庁舎へとやって来た。

 

今日からベリルの騎士団への本格指導が始まるからだ。

 

師匠の指導を久々に見れる、あわよくば一試合出来るかも?なんて期待をしていた。

 

 

「あ、アセムせんぱぃ〜い!」

 

 

アセムの姿を見つけ、駆け寄って来た1人の騎士。

 

アリューシアよりも年下で、セミロングの金髪を頭頂部でウサギの耳のように結んでいる女騎士『クルニ・クルーシエル』。

 

彼女もベリルの弟子で、アセムやアリューシアの妹弟子。そして、アセムがビデン村で指導していたフィッセルとも仲が良い。

 

 

「おはよう、クルニ」

 

「おはようございますッス。先輩、今日は騎士団の訓練に参加するんですか?」

 

「あぁ、師匠の指導が今日から始まるからな」

 

「そうなんスよ!!ベリル先生の指導をまた受けられるなんて、すごく嬉しいッス!」

 

 

彼女がここまで喜ぶのは、久しぶりの師に会えただけではない。

 

クルニがベリルの指導を受けていたのは2年ほど。騎士団の入団試験に落ち、次こそは受かるためベリルに弟子入りしたのだ。

 

その頃アセムも休暇で帰って来ていたので、フィッセルと一緒にクルニの稽古も見ていた。

 

それからはクルニはメリメリ実力を付け、見事2回目の試験に合格。そのまま騎士団へ入団…するかは当初迷っていた。

 

まだベリルに教えを受けたい気持ちと騎士団へ入団したい気持ちが競り合っていた。しかしベリルが彼女を背中を押し、入団を決意したのだ。

 

そして現在、立派な騎士となり、アリューシアからも見込みがあると言われている。

 

 

「おはようクルニ。アセムも来たんだね」

 

「おはようございます、先生!」

 

「おはようございます、今日は師匠の初出勤なので見に来ました!」

 

「アハハ……やる事は道場でやってた頃と変わらないと思うけど。そもそも田舎のおっさんが指南役なんて務まるかな〜?」

 

「いいえ、先生なら大丈夫ッス!」

 

「堂々としてください、師匠」

 

 

ベリルもやって来た。3人はそのまま修練場へと向かう。そこでは既に結構な人数の騎士が鍛錬に励んでいた。

 

素振りをする者は当然のこと、木人を相手に剣を振るっている者も居れば、模擬戦を行っている者、筋力鍛錬に励んでいる者、休憩している者と様々だ。

 

 

「総員、傾聴!」

 

 

そこに団長のアリューシアの力強い声が響き、修練場に居る全員がその声に中てられ、動きを止めた。

 

 

「本来の予定を繰り上げ、本日よりベリル氏にも指南を頂く。総員、一層の鍛錬を期待している」

 

「皆さん、集中を解いてしまい申し訳ありません。本日より宜しくお願いします」

 

 

ベリルの挨拶後、騎士団皆の冷たい疑いの視線が彼に刺さる。いくら騎士団長や特務騎士アセムの剣の師匠とは言え、中年のおじさんに、国を護る騎士団の指南役なんて出来るのかと。

 

 

「(いや分かるよ。こんなおっさんが指南役だって困惑するのは当然だよ……)」

 

 

当の本人でさえこの調子だ。

 

アセムもこの空気に懐かしむ。

 

 

「(特務騎士になって騎士団と顔合わせした時もこんな感じだったな〜。そう言えばあのときは―――)」

 

 

そこに1人の若者が前に出る。

 

 

「よろしいでしょうか、団長」

 

「……ヘンブリッツですか。どうしました」

 

 

前に出てきたのは先程、木人を相手に黙々と鍛錬を行っていた男だ。

 

歳はアリューシアよりも少し上。やや褐色味を帯びた肌に高い鼻立ち、切れ長の目が特徴的だ。肌着から覗く引き締まった身体は、相当に鍛え上げられていることを示している。

 

 

「我々はこの国を護る誇り高きレベリオ騎士団。指南役にも相応が求められます。ベリル氏を疑うわけではありませんが……その実力が如何程か、是非ともご教示頂きたい」

 

 

ヘンブリッツと呼ばれた男の視線は、真っ直ぐにベリルを射抜く。

 

しかしその目は他の団員達のようなベリルを疑ってる目ではない。強い意志を感じさせる目だ。

 

 

「良いでしょう、先生の実力を示す良い機会でもありますね」

 

「えっ(なに言ってんの?)」

 

「胸を借りる気で挑むと良いよ、ヘンブリッツ」

 

「アセムまでっ!?」

 

「ベリル殿、失礼は承知しています。ですが是非ともお手合わせを願いたい」

 

「(これは逃げられないな…)分かった。やりましょう」

 

 

そう言ってベリルは、ヘンブリッツから木剣を受け取る。そのまま2人は修練場の中心へと移動し、他の団員達は壁際に寄る。

 

 

「では両者、準備はいいですね?」

 

「構いません、団長」

 

「俺も構わないよ」

 

 

審判はアリューシアが務めることに。アセムは内心ワクワクしながらクルニと壁際で手合わせを見ていた。

 

 

「副団長の試合を見るのは久しぶりッスけど、先生の剣を見るのはもっと久しぶりッス!」

 

「今更だけど、ヘンブリッツ代わってくれないかな……俺だって師匠と試合したい」

 

「(いや、むしろ俺と代わって欲しいよ……)」

 

 

アセムとクルニの会話が耳に入り、ベリルやる気が無くなりそうになる。

 

他の団員達からも、「団長やアセムの師匠でも昔の話」や、「副団長には敵わない」など聞こえてくる。

 

このヘンブリッツは生まれつき筋力が高く、その怪力っぷりはかつて木の棒で暴れ牛を倒したことも。まさに王国指折りの剣士の1人。

 

それら正しい答えだとベリルは考えている。片田舎の中年が、現役副団長に勝てるはず無いと。

 

だが、アリューシアとアセムは違った。

 

 

「(先生、この場にいる者たちに見せてやってください!)」

 

「(我らが師匠は、この国一の剣士だと!)」

 

「はじめっ!!」

 

 

アリューシアの号令が修練場に響く。

 

 

「ベリル殿、私は副団長として、貴方の実力を試す義務があります。もし、その資格が無いのなら――――」

 

 

同時、ヘンブリッツはベリルとの距離を一気に詰め、木剣で迫る。

 

 

「私が団長の目を覚まさせる必要があるのだから!」

 

「(上段突き…と見せかけてからの左胴打ちかな?)」

 

 

しかしベリルはヘンブリッツの僅かな目・腕の動きを見て迫りくる木刀を、上から被せるように迎え撃つ。

 

次の瞬間には、ヘンブリッツは膝をつき、背中を押さえていた。どうやらベリルの木剣が当たっていたようだ。試合が始まって一分も掛かっていない。

 

 

「うぐっ……!」

 

「あ、ごめん。大丈夫かい?」

 

「お気遣い無用!」

 

 

思ったより勢いがついてしまい、寸止め出来ず反省するベリル。しかしヘンブリッツは気にせず再び木剣を構える。

 

 

「おい、今1本取ったぞ……」

 

「偶然、だろう……?」

 

「てか今どうなった?」

 

「副団長が攻めて……あれ?」

 

 

団員達が口々に目の前の事に理解が追いつけてなかった。

 

勿論クルニも

 

 

「え?え!?今何が起こったんすか!?」

 

 

そこにアセムが解説する。

 

 

「やった事は単純さ。ヘンブリッツが師匠のガラ空きの脇腹に打ち込もうとしたが、師匠がそれより前に剣を被せて滑らせるように軌道を変えて、体勢を崩したヘンブリッツの背中に1本入れたんだ」

 

「はぇ〜〜……いや、今の一瞬で!?」

 

 

審判役のアリューシアは当然見えていた。そして確信した。ベリルの腕は衰えるどころか、また一段と上がったと。

 

それからヘンブリッツは果敢に攻めたが、ベリルはその先を読んでヘンブリッツの顎、肩、足、胴へと確実に木剣を当てる。

 

 

「(もし、相手が真剣だったら……私は何度死んだ……?)」

 

ヘンブリッツは思い出していた。こちらが攻めてるはずなのにこの全く手応えどころか、勝ち筋が見えない感覚。

 

違うのは相手が違う事と、その動きは彼の時よりもあまりに自然でこちらの認識が追い付けないこと。

 

 

「(これがアリューシア(騎士団長)アセム(隻眼の剣豪)の師!薄々分かっていた。この方はアセムさんは格上の剣士。自分など足元に及ばないこと)」

 

 

それでも勝負を挑んだのは副団長として、ベリルが指南役に相応しいか確かめるため。それにウソはない。

 

しかしなにより、見たかったのだ。自分よりも高みにいる者の実力を。

 

 

「いざっ!!」

 

 

ヘンブリッツは木剣をベリルの足元を狙う。しかしベリルは難なく交わすがそれは予定通り。

 

ヘンブリッツは片足を軸に回転をつけジャンプする。

 

団員達は今度こそ1本取ったと確信した。副団長の回転斬り(決め技)を中年おっさんが適うはずないと。

 

手元はヘンブリッツの背で隠され間合いが読めなくなる。それにより回避が1手遅れる。そこにヘンブリッツの剛力と遠心力で加速する剣は、敵の守りさえも斬り裂く。

 

 

ビュンッ!!

 

 

彼の剣は空を斬り裂いた。そこにベリルの姿は無い。

 

 

「えっ……」

 

 

トン…とヘンブリッツの首元にベリルが優しく木剣を当てる。

 

ベリルはいつの間にかヘンブリッツの背後に立っていた。

 

 

「ふぅ〜……まだ、続けるかい?」

 

「いえ……参りました」

 

 

ヘンブリッツの降参により試合は終わった。それと同時に団員達がワァーと声をあげる。

 

中年のおっさんと思っていた相手がこんなレベルの高い攻防を見せるとは思わなかったからだ。

 

そしてヘンブリッツも

 

 

「素晴らしいです、ベリル殿!!流石は団長とアセムさんのお師匠です!」

 

「あ、ありがとうね」

 

「あの回転斬りはどうやって交わしたのですか!?いつ私の背後に!?是非教えてください!!」

 

「アハハ……特に特別なことは……」

 

 

負けたはずなのにテンションの高いヘンブリッツに、勝者のはずなのにタジタジとなるベリル。

 

 

「ふふ!先生の手に掛かれば造作もない事ですよ、ヘンブリッツ!」

 

 

審判役のはずのアリューシアが自慢げになる。

 

そしてアセムからも

 

 

「お見事です、師匠。また一段と腕を上げたようで、超えがいがあります!」

 

「あぁ、ありがとう。アセム」

 

「よし!今日は師匠の指南役就任を祝って飲み会だーー!」

 

「「さんせーい!」」

 

「え、ちょっと!?そんな大袈裟に―――」

 

「ではいつもの店が良いでしょう。クルニ、店に予約を」

 

「お任せッス!」

 

「あ、どんどん話が進んでいく……」

 

 

試合後のテンションMAXの騎士団(+冒険者)を止められず、本人了承無しの飲み会開催が決定された。

 

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