片田舎の剣聖の一番弟子   作:剣術太郎

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「ベリル先生は本当に凄いですよね」


ある道場との出稽古から、少し経った日

アリューシアからそんな話をふられた


「当たり前だろ。俺たちの師匠なんだから」

「なのに、何故先生にはその自覚が無いのでしょうか?」

「あ〜……前に師匠から少し聞いたんだが、師匠は前に挫折した経験があるらしい。それから自分に自信が持てなくなったみたいだ」

「では、どうやったら自信を取り戻せますか?」

「う〜ん………例えば……王国騎士団あるだろ?」

「レベリオ騎士団のことですか?」

「そうそう。そこの剣術指南役に選ばれる人は国1番の剣士だって話らしい」

「国1番!」

「その剣術指南役に選ばれ、そこで活躍すれば、次第と自信を取り戻せる……はず」


もっとも、当騎士団の騎士団団長からの推薦と、国のお偉方の承認が必要になる。

騎士団にコネが無いベリルには縁遠い話だ。


「(この案は不採用だな……)」


それ以外の方法となると


「俺たち弟子が有名になれば良いのかな?」

「私たちが?」


もしも、アリューシアが騎士団に入り、そこで出世をするか、高ランクの冒険者として名を轟かせば―――


「アリューシアだけじゃない。その師であるベリル師匠も、自然と有名になっていくんじゃないかな」

「なるほど……」


言うのは簡単だが、騎士団に入る者たちは皆実力者揃いだと聞く。その中で活躍し出世などハードにキツく難しい。

冒険者の方は、高ランクに上がるためにはそれ相応の依頼の達成、強力なモンスター討伐の実績、厳しい審査を必要とする。


「(どっちも難しいな……)」

「なるほど……それなら……」

「ん、何か言ったか?」

「いえ、こちらの話です。それでは最後に―――――」

「なに?」













「先生の好みのタイプって、知ってますか?」

「はい?」





卒業試験

 

 

「ついに免許皆伝ですか、ランドリド兄さん」

 

「あぁ。けど、結局先生の本気から一本も取れなかったけどな」

 

 

アハハと笑うランドリド。その手には、一本の剣が握られていた。

 

ベリルの道場では、全ての技を修めた弟子には、免許皆伝の証として、選別の剣(村の鍛冶屋で造られた)が贈られる。

 

ランドリドはついに道場卒業の時が来たのだ

 

 

「俺としては、もう少し先生の元で修行したかったけど……先生から「もう教える事は無い」って言われたからな。これからは自力で頑張っていくさ」

 

「たしか、冒険者になるんですよね」

 

「あぁ、先生の剣がどこまで通じるか、試してみるさ」

 

「俺ももっと鍛錬して、兄さんに追い付きますよ!」

 

「いや――――」

 

 

そんな事はない、と言おうとしたが、口を閉じた。今言ってもアセムは信じないからだ。

 

 

「(お前はとっくに、俺たち兄弟子の腕を超えてるよ)」

 

 

そしておそらく、彼の剣は師の剣にもっとも近いところにいると

 

だが、それでただ納得するだけではない。冒険者として更に実力を付けて、弟弟子を超える。

 

だからそれまでは

 

 

「お互い、頑張ろうな。ライバル(アセム)

 

「はい。ご健闘をお祈りしてます、ランドリド兄さん」

 

 

 

ランドリドが卒業してから、アセムはより一層鍛錬に性を出した。

 

道場の稽古だけではない。モルデアとの()()()()()にも

 

 

 

 

 

そして、1年近く経った頃

 

 

道場が休みの日に、モルデアはベリルとアセムの2人を道場に呼び出した。

 

アセムの両手には、木剣が一本ずつ握られていた。

 

 

「どうしたんだよ親父。今日は道場休みだろ?」

 

「………」

 

 

ベリルの方は心当たりはさっぱりだったが、アセムだけは知っていた。

 

 

「ベリル。これからアセムと立ち合ってもらう」

 

「立ち合い?それは別に構わないけど……それなら稽古の時にでも―――――」

 

()()()()()()

 

「っ!」

 

 

モルデアは、こう言う時に冗談は言わない。そしてベリルも理解した。これは

 

 

「これより、アセムの免許皆伝のための試験を行う」

 

 

勝ち負けは特に合否には関係ない。使用武器は互いに木剣。持てるもの全てを出し切って立ち合う。

 

 

「ルールは以上。では―――――」

 

 

その瞬間、既にアセムは動き始めていた。

 

持っていた木剣の1つをベリルに向けて投げつけ、同時に一直線に斬りかかる。

 

 

「始めっ!」

 

「(ここだ!!)」

 

 

ガンッ!!

 

 

モルデアの開始の合図と同時に、アセムの木剣と、ベリルの木剣がぶつかり合い、鍔迫り合いの状態になる。

 

 

ギリギリ……ッ!

 

 

「………読まれましたか」

 

「俺でも同じ手を使うからね」

 

 

アセムは上段から斬りかかる、と見せかけ、直前にガラ空きだった胴に狙いを定めていた。

 

しかしベリルは投げつけられた木剣を掴み取り、最初っから胴に来る一撃を受け止める体勢を取り、アセムの一太刀を受け止めたのだ。

 

 

「それに、卑怯だーとか、言わないんですね?俺、大師匠に初めてコレやられた時、文句言いましたよ」

 

「親父が言ってたろ。これは()()だ」

 

 

そこに、ベリルはアセムの片足を引っ掛けた。

 

 

「ヤベ―――」

 

 

それにより体勢がグラついたアセム。押していた木剣の力も緩まり、ベリルは自身の木剣に更に力を入れて、押し込――――

 

 

「やっぱり、()()()()()()

 

 

倒れる瞬間、アセムは片手でベリルの道着に掴み、ベリルを引っ張りながら自身の身体を起き上がらせ、そこからジャンプするかのようにベリルから距離を取った。

 

ベリルの方は無理矢理倒れる方向に引っ張られながらも、片足に力を入れ、倒れるのを免れた。

 

 

「……ずいぶん無茶をする」

 

「実戦、なんでしょ?」

 

 

2人の顔に笑みが浮かぶ。そして――――

 

 

「「っ!!」」

 

 

2人は同時に動き出し、互いに相手の隙のある箇所を目掛けて木剣を振るう。そして互いにそれを防ぎ、今度は逆に攻める。

 

 

ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!

 

 

「「っ!」」

 

 

ただ攻めるだけではない。ところどころフェイントを混ぜながら、相手の隙を作り、狙う。

 

時には相手の足を引っ掛け体勢を崩させるか、道着を掴み投げるか、剣先へと引っ張るか。

 

そして相手はそれを読み取り、防いで反撃に移るか、わざと誘い込みカウンターを狙うか。

 

始まってから、まだ時間はそれほど経っていないはずなのに、2人の体力、精神力、集中力がかなり消耗した。

 

 

ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!

 

 

「(ダメだ、全部読まれる!一瞬でも油断すればカウンターを食らってノックアウトだ。この人……()()()()()()()()()()()!)」

 

 

ベリルを尊敬する理由の1つ、そしてベリルの強さの最大の要因は、彼の目だ。

 

相手の呼吸、視線、身体の重心、動き、太刀筋。針の穴よりも小さい僅かな隙を確実に捉える極限に近い動体視力。

 

ベリルは、ある種の未来視を持っているのだ。

 

 

ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!

 

 

「(………まったく、とんでもない剣士に育ったな。ここで学んだ事をここまで自分の物にして、ここまで高めるとは!)」

 

 

ベリルがアセムから感じ取る彼の才能。それは、学習能力の高さだ。

 

普通の弟子は1〜10を教えて、4か、5を物に出来る。天賦の才を持つアリューシアなら7までいくだろう。

 

だがアセムなら、10を物にして、そこから11へと上に昇華させるのだ。

 

実際アセムは道場で教えてる攻めと受けの型の全てをものにし、組み打ち稽古(直接相手と打ち合う稽古)で自在に使っている。更にそこから、それぞれの型を組み合わせ、受けから攻めの型に繋げたり、攻めから受けの型に持って行ったりと、ベリルが見たこともない戦い方をする。

 

今も、受けの型で防がれていて、少しでも隙を見せれば、即座に攻めの型で押して来る。

 

おかげで息をつく暇が無い。

 

 

ガンッ!!

 

 

もう何度目かの鍔迫り合いで、ようやく2人の動きが止まる。

 

 

「「〜〜っ!!」」

 

 

バッ!と、互いに後方に下がり距離を開ける。

 

ハァ…ハァ…と、2人の辛そうな息切れが道場に響く。

 

 

「(ここまで成長してるとは……正直嬉しいけど、想定外だ。勝ち筋がまるで見えない……)」

 

「(……やっぱり、師匠の知ってる技とやり方じゃ勝てない……なら――――)」

 

 

アセムは構えていた木剣を下ろした。

 

 

「っ!?」

 

「ほう……(アセムのヤツ、いよいよ使うか……)」

 

「スゥ~〜〜、ハァ〜〜〜……」

 

 

深く息を吸い込み、余分な空気を吐き出す。そして高まるアセムの集中力。

 

 

「(何か狙ってるのはたしかだな……それじゃ―――)」

 

 

ザッ……    バッ!!

 

 

道場の床に溜まっていた土を、アセムの顔目掛けて蹴り上げた。

 

 

「(この砂かけでアセムは更に後ろに下がろうとする。そこを攻め込む!)」

 

 

だが――――

 

 

「受けの型、()()―――」

 

「っ!?」

 

 

ヒュン―――――    バァンッ!!

 

 

アセムにかけられた砂は、一瞬にして更に細かなチリとなり、迫って来たベリルの剣は打ち返された。

 

 

「――――『凪』」

 

「っ!!」

 

 

見たことも聞いたこともない、自分の流派の技。それにより、一瞬だが、ベリルの意識に隙が出来た。

 

 

「(ここだ!)」

 

 

アセムは下ろしていた木剣を構え、ベリルに向かって突き出す。その剣先はベリルの胸を捉えていた。

 

 

「(取った――――!)」

 

「おお!(アセムがベリルを―――!?)」

 

「………」

 

 

 

 

道場には多く弟子が夢のために門を叩く。

 

だが、誰もが必ず叶う訳ではない。

 

志半ばに倒れる事はよくある話だ。

 

だからこそベリルは弟子たちに力や素早さよりも、負()()()()()()()()()()を教えている。

 

生きていれば、生き残れば再び戦える。どれだけみっともなくても負けない(死なない)ことが1番なのだ。

 

 

 

 

 

「(――――だからこそ教えなくちゃならない本物の死合い(しあい)を)」

 

 

グッと木剣を握る力を高める。

 

その瞬間、アセムの背筋が凍りつく。

 

ベリルからの、殺気を――――――

 

 

「きぃええああぁぁーーーッ!!!」

 

「っ!!」

 

 

咄嗟に木剣を受ける体勢を取ったのが正解だった。

 

ベリルから渾身の一撃が、アセムの木剣に叩き込まれた。もしあのまま突っ込んで行ったら、アセムの胴にモロに食らっていたからだ。

 

だが、威力まるで殺せず、そのまま道場の壁まで吹っ飛ばされ、ぶつかった。

 

 

「ガハッ!!」

 

 

空気と胃液が口から吐き出される。

 

ベリルは咄嗟にアセムの方へと駆け寄ろうとしたが、モルデアが視線でそれを止めた。

 

まだ試験中だからだと

 

 

「ぐっ……!」

 

 

全身に痛みが一気に流れ、身体の自由が効かない。

 

痛い。腕があがらない。目が閉じそうになる。足が震える。

 

怖い。逃げ出したい。

 

負ける

 

 

 

負ける?  これで終わり?  もう?

 

 

否、まだだ

 

 

まだ負けてない(死んでない)

 

 

心臓は動いてる

 

 

足で立てる

 

 

腕はまだ付いてる 

 

 

剣は折れてない

 

 

 

「(俺はまだ、戦えるっ!!)」

 

 

ザッ!と一歩、また一歩と。

 

ベリルの前へと進み続ける。

 

 

「まだやるかい?ここで終わっても俺や親父は合格を出すけど――――」

 

「……ない

 

「え?」

 

「もったいないじゃないか。ここで終わるなんて。俺はまだ、全部を出してない」

 

 

だから――――

 

 

「師匠、続けましょうよ。こんな楽しいこと、ここで終わらせるなんて、もったいないでしょ?」

 

「………なら――――」

 

 

スゥ…と、木剣を構えるベリル。そして再び、ベリルな殺気が木剣に集中する。

 

 

「全てをここで出し切って見せなさい」

 

「はいっ!!」

 

 

先ほどの『凪』では、威力は軽減出来ても、受け止めきれない。ならば

 

 

「勝負っ!!」

 

 

バッとベリル目掛けて駆け出す。

 

ベリルは避けようともせず、真正面から受けて立つつもりだ。

 

アセムも、もう小細工は考えてない。全力を剣に込める。

 

 

互いに間合いに入る。

 

 

そして感じ取る、冷たい殺気

 

 

「きぃええああぁぁーーーッ!!!」

 

 

ベリルの渾身の一撃が再びアセムへと放たれる。

 

だがアセムは引かない。むしろ更に一歩踏み出す。

 

 

意識を剣に集中し……自身を一本の刃そのものとして、“斬る”のではなく、()()()()

 

 

「攻めの型、奥義――――」

 

「っ!!」

 

「6番、『神避り(かむさり)』」

 

 

ガキンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お見事」

 

「いえいえ、やっぱり師匠は凄いや」

 

 

それだけ言い、アセムはその場に倒れ込んだ。

 

その手に持っていた木剣は鍔だけ残し、そこから先は粉々に砕け散っていた。

 

ベリルの剣も、綺麗に真っ二つになっていた。

 

 

「親父」

 

「おう……合格だ!」

 

 

 

 

 

 





「いやそうじゃなくて!なに9番とか奥義って!?ウチにあんな技あったっけ!?」

「先週完成した、出来立てホヤホヤのウチの流派の奥義じゃぞ」

「出来立てホヤホヤ!?」

「ちなみにアセム考案だ」

「マジでか!?」

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