片田舎の剣聖の一番弟子 作:剣術太郎
「先輩!しっかりしてください!!」
ザンアントの
既に他のベテラン冒険者が彼を介抱していたが、もう出来る事は無かった。
身体中血だらけで、呼吸も浅くなりつつあった。
「誰か、回復ポーションは!?」
出立前に、回復ポーションは支給されていた。しかし、予想以上の相手に、もう一滴も残っていなかった。
今から街に走って戻っても間に合わない。
なにより本人が1番分かっていた。
「もう………いい」
「ですが―――」
まだ何か手があるはず。そう言おうとしたが、他のベテラン冒険者がアセムの肩に手を置き、首を横に振る。
それにより、アセムはガクッと項垂れる。
「俺が……油断したから……すいません」
「ハァ…ハァ………何故、謝る?………言ったろ?………若者を護るのが……お、大人の義務だって……」
「でも!」
「お前さんだって……1人で
「それは、アレを放っておいたら……もっと命が失うから……」
「俺たちもだ………若い命を……散らしたく……なかった。だから……後悔は……ない」
すると、他の冒険者が彼に語り掛ける。
「あぁ、お前さんは良くやったよ」
「アンタはオレたちは冒険者の誇りだぜ」
そして、副団長も彼の身体に手を掴み
「私は騎士だが、貴方のような冒険者と共に命を守るために戦えて、光栄でしたよ」
「ハハハ……な、んだよ、みんな………恥ずかしい………だろう、が…………」
彼の身体から徐々に力が無くなっていくのがわかる。
「なぁ………若いの。最後に……名前を、聞いて………良いか………?」
そう笑いかけるベテラン冒険者に、アセムはグッと感情を抑え、まっすぐ彼に言った。
「アセム・ガーデナント。今はシルバーランクの冒険者ですが、いつか、世界一の剣豪になる男です!!」
すると、彼は嬉しそうに笑い
「世界一、か…………それは………凄い……な………その夢……………叶え…………ろ、よ………」
それだけ言い、彼はそれ以上何も言わなくなった。
笑いながら、彼の呼吸は止まった。
アセムは血だらけの彼の身体を抱き寄せた。
そして、嗚咽を抑えきれず、泣き出した。
血だらけの平原に、彼の泣き声が響いた。
ザンアントの討伐から数日が経った。
死者を労るのも束の間。ザンアントの死体を回収し必要部分を加工。その肉体構造を専門家に調査の依頼。
騎士団と冒険者の被害状況の把握。
多くの人間があちこち走り回るなか、アセムはギルドマスターから呼び出しを受けていた。
左腕にギプスを付けて、包帯を巻いてる状態だったが、そのままで良いと言われ、病院からバルトレーンの冒険者ギルドに来ていた。
ギルドの上の部屋。普段なら絶対入れないような場所。
扉も大きく、簡素だが装飾もある。そんな扉に軽くノックする。
「失礼します。シルバーランク冒険者のアセム・ガーデナントです」
「どうぞ」
中から返事が聞こえたので、入室する。
部屋の奥、窓近くの席に白髪の目立つ老齢の男性。
そして秘書と思われる眼鏡をかけた長身の男性が、そばに控えていた。
「さぁ、座るといい」
「失礼します」
そう言われ、来客用のソファに腰を掛けた。
「知ってると思うが、私が冒険者ギルドレベリス王国支部のギルドマスターの『ニダス』だ。隣のは私の補佐である『メイゲン』」
「メイゲンと申します。どうぞ宜しく」
二人からの挨拶に、軽く会釈をして返礼とする。
ニダスはおそらくモルデアと同じくらいの歳だろう。
真っ白に染まった頭髪と髭、更には顔に深く刻まれた皺がその年齢を教えてくれる。そして目を引くのは、片目近くにある大きな傷跡。
言葉遣いや表情は柔和なものだが、身体付きや歩調はしっかりとしており、相応に鍛えているのを感じさせる。
ギルドマスターを務めているのだ。過去は相当腕の立つ冒険者をやっていたのは間違いない。
一方、メイゲンと呼ばれた長身の男性は至極短い挨拶の後、実に分かりやすくアセムを観察していた。
「思ってたより、お若いですね」
「ハハハ!だが相当腕が立つのは確かなようだ。だからこそ、このあいだの討伐で、女王を討ち取れたのだろう?」
おそらくその事を労いに来たのか、それとも別の要件か。
なんにせよ、気は抜けないのは確かだ。
「俺は、冒険者として成すべき事をやっただけです。それに……あの人が居なかったら、俺も今こうしていられたか………」
「……ジルバの事か……アイツは良いヤツだったよ。ゴールドランクだが、後輩育成が上手くてな。冒険者引退後は育成機関の講師を頼むつもりだったよ……」
「ギルドマスターのお知り合いだったんですか?」
ニダスの言い方だと、ただのギルドマスターと冒険者の関係に思えなかった。
その問いにメイゲンが答えた。
「ギルドマスターとジルバ氏は、同郷でご友人だったんです」
「そうでしたか……申し訳ありません。俺が不甲斐ないばかりに……」
頭を深々と下げるアセムに、ニダスは慌てて顔を上げさせた。
「いやいや!ジルバの事で呼び出した訳じゃない!あの場の他の冒険者たち聞いたぞ。ジルバは自分の意思で君を助けた。アイツはアイツらしく最後まで生きた……羨ましいよ」
「ギルドマスター……」
「さて!暗い話はここまでだ!じゃないとあの世からアイツに叱られてしまう」
すると、メイゲンが数枚の書類をアセムの前に置いた。
そこには『アセム・ガーデナントをプラチナムランク昇格を推薦する』と書かれていた。著者はあの時アセムと共に殿を引き受けたレベリオ騎士団副団長の名前が。
他の書類も同じような内容でベテラン冒険者たちからの、アセムをプラチナム昇格推薦の書類だった
どれも『彼はシルバーやゴールドランク以上の実力を持ち、先日のザンアント特異個体を複数、女王の討伐を成し遂げだ。これらの功績はプラチナムランクに相当する』。
と言った推薦理由が書かれていた。
「もちろん、君があの場から先に逃がした冒険者や騎士の何人かも、昇格すべきと具申していてね。だが若手に、しかもいきなり2階級昇格は前例がない。はい分かりましたと簡単に言えんのだ」
「そこに王宮から、国の危機を回避した褒美として、2階級昇格が許されました」
そう言い、新たに1枚の書類を置いた。
先ほどの推薦書類とは、紙の質が見ただけで分かる。王宮からの冒険者ランク2階級昇格を認めたと記したものだった。
「それと君の偉業を称え、王宮から直接褒美を賜りたいときた。冒険者としてかなりの名誉だぞ」
「詳しい日程と段取りは後日改めて――――」
「申し訳ありませんが、それならお断りします」
「え?」
「なに?王宮からの褒美を?」
「それもありますが、2階級昇格もです。規定通りゴールドランク昇格なら受けますが、プラチナムにはまだ相応しくありません」
「相応しく無いって、女王を討伐したじゃないか」
「
そう言い、アセムは立ち上がる。
「申し訳ありませんが、自分はこれで失礼します」
そして扉に向かおうと
「なるほど、ジルバが命かけて君を護った理由がよく分かったよ」
ギルドマスターのその言葉に、アセムの動きが止まった。
「理由、ですか?」
「ジルバは確かに良いヤツで、冒険者としてお手本のようなヤツだった。そして人を見る目もある。そんなアイツが命をかけて護った君は人として、良い心意気を持っている。正直に言えば、昇格と褒美をここで受け取るようなヤツだったら、私は今後信頼を置くのは難しいと考えていた」
「えぇ、私もどう意見でした。即座に受けるようなら、まず私は貴方を信用出来ませんでした」
「だが受け取る前に君は突っ撥ねた。たとえ王宮からのものでも。そしてジルバたちの事を思い、それを無碍にしようとしたものを受け取らなかった。君はなかなか良い心意気を持ち、それに見合った実力も持っている」
「買いかぶりです。育ての親の教育の賜物です」
「なるほど。実に良い人たちに巡り合えたようだな」
そして、ニダスは推薦状を持ち、アセムの方へと歩み寄る。
「だからこそ、彼等からの思いと敬意を受け取ってほしい。君はそれ相応の功績を成し遂げた。実力も十二分にある。なにより、ジルバのためにも」
差し出された推薦状を見て、アセムは少し考えて、受け取った。
「昇格は受けます。ですが、褒美の方は……」
「分かってる。王宮には、私からそれとなく辞退を伝えておこう」
「それと、形式上はゴールドランクから、プラチナムランク昇格扱いになります。そのために、昇格試験としてあるダンジョン攻略を行なって貰います」
「ま、その前に療養だな。完治したら、試験を受けて貰うがいいか?」
「分かりました。医者からは最低でも半年は療養しろと言われてますので、半年後で宜しいでしょうか?」
「良いとも!せっかくだ、これを期に休暇をとりたまえ。ゆっくり身体を休め、試験に望むと良い」
「ありがとうございます、ギルドマスター」
アセムが部屋を後にし、ニダスとメイゲンは部屋に残っていた。
「流石は、ジルバさんが命をかけて護った人物でしたね」
「あぁ。アイツも誇らしいだろうな……」
そう言い、机の引き出しの奥から、高級そうな酒瓶とグラスを2つ取り出した。
それぞれに酒を注ぎ、1つをメイゲンに渡した。
「我が友に」
「冒険者に」
カンッと、グラスの音が部屋に軽く響いた。
「そうか、一気にプラチナムに昇格か!」
「えぇ、あっという間にランドリド兄さんと並んじゃいましたよ……」
病院の部屋で、ランドリドにギルドマスターたちとの一件を話したアセム。
ランドリドからのお見舞いの林檎を噛りながら、改めて推薦状を眺める。
「こんな若造がプラチナムなんて、嬉しいけど、やっぱり不相応に思えてくるよ」
「なに言ってる。ギルドマスターにも言われたんだろ。お前はそれ相応の事を成し遂げたんだ。そして、周りもそれを認めた。あとはお前次第だ」
そう言いながら、新しく切り分けた林檎をアセムの前に置き、1つを食べた。
「それに、それを辞退すること事態、推薦してくれた人たちに失礼だろう?」
「ですよね……」
ランドリドに痛いところを突かれ、もう受け入れるしかないと覚悟を決めたアセム。推薦状を丁寧にしまい、片手で荷物をまとめていた。
「なんだ、ここに入院するじゃないのか?」
「医者が大袈裟に言ってるだけ。入院するほどでもないから、療養は別のところでするよ」
「別のところって……」
「ようやく休暇が取れたんだ。そろそろビデン村に顔を見せに帰るよ」
ビデン村を出てからは、時折手紙を送っていたが帰る事は無かった。
たまには帰って来ると言ったが、村を出てから数年、ぜんぜん帰れてなかった。
冒険者としての活動が忙しかったと言うより、活動しながら剣の修行も行なっており、時間があるかぎりそれに勤しんでいた。
今回のような事がないかぎり、たぶん今後も帰りにくかっただろう。
出発の日、馬車にお土産をたくさん乗せたところ、とある人物が会いに来た。
「そうですか。ではベリル先生に宜しく伝えてください」
騎士団からアリューシアが見送りに来てくれたのだ。残念ながら彼女はアセム以上に忙しく、一緒に帰る事が出来なかった。
「あぁ、騎士団で立派にやってるって伝えておくよ」
「……やはり仕事など、他の人に押し付けて、私も村に行きましょうか………」
「こらこら、何馬鹿こと言ってんだ」
「冗談です(ニコリ)」
「目が本気だったぞ」
そんな軽口を叩き、笑い合う2人。それから、馬車は村に向かって出発した。
「やっぱり良いな……(ムス〜)」
「師匠や大師匠、フレンさん元気かな……」
返事の手紙にはみな元気だとあったが、やはり直に顔が見たかった。
ベリルはまた強くなったのか、道場にはどんな後輩たちが入ったか。
冒険者になってまだ数年だが、様々な事があった。
話したいことがたくさんあった。
ドキドキが止まらない。
腕の怪我が完治したら、手合わせ出来るかな。などと、まるで子供のように楽しみにしながら、村に着くのを待った。
そしてアセムはこの帰郷で、今後長い付き合いになる、とある少女との出会いがあった。
ただの趣味で投稿してるだけなのに、お気に入りが300を超えました。
投稿はこれからも不安定ですが、頑張っていきますので、宜しくお願い致します