片田舎の剣聖の一番弟子 作:剣術太郎
「頑張ってるんだな」
突如声をかけられた。
いつものように、誰よりも早く走り込みを終わらせ、道場の外で素振りをしてた。
前にベリル先生から教えてもらったように剣を振ってはいるが、なかなか納得のいく太刀筋が出来なかった。
そんな時、知らない男の人が声をかけてきた。
「俺はこの道場の卒業した者だ」
そう言う彼は怪我人だろうか、頬に絆創膏や、服の左袖に腕を通さず、肩から包帯で左腕を支えるように巻いてあった。
なにより、片目に眼帯をしていた。
そして腰には2本の剣をさしてあった。
「ちょっと木剣借りるよ」
「え――――」
そう言い、彼は私が持っていた木剣をあっさり取った。その動きに無駄はなく、まるで流れる水のように。
そして、彼はお手本として木剣を構えた。
それから目の前に落ちて来た葉っぱ目掛けて、剣を振るった。
その瞬間、何故か彼の姿とベリル先生の姿が被ったように見えた。
「………ま、こんなとこかな?」
綺麗、その一言に尽きた。
ベリル先生以外に、誰かの剣にここまで感動を覚えた事はこの先2度と無いだろう。
これが私『フィッセル・ハーベラー』と、兄弟子であり、後の『隻眼の剣豪』こと『アセム・ガーデナント』の出会いであった。
数年ぶりにビデン村の実家に帰って来たアセム。
そして早々
「「おかえりアセム〜!!」」
「た……ただいま……(苦しい……)」
義両親2人に挟まれるように抱き着かれていた。
「みんな心配したんだぞ〜〜!!ザンアントの群れの討伐で怪我をしたってぇ〜〜!!(泣)」
「こんなボロボロになってぇ〜〜!でも無事で良かったわ〜〜!!(泣)」
「いや、ボロボロになってはないかな。左腕の包帯も医者が大袈裟に巻いただけ――――」
「「アセムゥゥ〜〜〜〜!!(泣)」」
しばらく義両親からの熱熱な再会のハグを終えた後に
『ベリルにも顔を見せてやって』
『アイツもけっこう心配してたからな』
と2人に言われ、数年ぶりに道場に来た。中をのぞくとベリルが多くの弟子たちの素振りを見て指導している姿が。
その背中は、アセムが居た頃と何にも変わっていない。
稽古の邪魔をすべきではないと考え、休憩時間まで道場の外で待とうとした時
ブンッ! ブンッ! ブンッ!
道場の外、アセムが走り込みした後によく素振りをしていた所から、誰かが素振りをしている音が聞こえた。
見てみると、道着を着た短髪の少女が熱心に素振りをしていた。
道場の中でなく外でやっていると言うことは、おそらく走り込みメンバーの1人で、1番に終えてここで素振りをしてたんだろう。
少女はまだこちらに気付いておらず、素振りを続けているが、その素振りを見れば分かる、この子は筋が良い。
この年頃の子は、どうしても腕の力だけで剣を振ってしまう。身体の使い方がなってない。
だが目の前の子は、まだぎこちないところはあるが、身体の軸を意識して剣を振るようにしている。
「頑張ってるんだな」
「ん……だれ?」
ポツリと呟いたアセムの独り言で、ようやくこちらに気が付いた少女。
「おっと、素振りの邪魔して悪いな。俺はこの道場の卒業した者だ。今の素振り、けっこう筋良かったよ」
「ふ~ん……」
あまり興味なさそうな返事をする少女。
「けど、まだぜんぜん出来てない……先生みたいに身体を動かせない……」
表情にあまり出てないが、どうやら落ち込んでるようだ。
その気持ちはアセムにも分かる。幼い頃、ベリルの素振りを見様見真似でやっても、あの綺麗な太刀筋が出来ず悔しかった。
ならば、ここは先輩らしい事をするとしよう。
「ちょっと木剣借りるよ」
「え――――」
そう言いながら、彼女が持っていた木剣をスゥ…と手元から抜き取り、構える。
「ちょっと包帯邪魔だな……」
そう言い、アセムは左腕に巻かれていた包帯を外す。元々骨折はしていなかったのだ。左手をグーパーさせ感触を確かめる。
特に違和感が無かったので、両手で木剣を持つ。
「腕の力じゃなくて、腰で剣を振るうってベリル師匠から教わってるだろう?」
「う、うん……」
彼女が見えるように、また木剣が当たらないように構えを見せる。
「だからと言って腕の力を全く入れない訳じゃない。腕にはあくまで剣を落とさないように握るぐらいの力を入れておく」
「うんうん……」
「そして腰と言うより身体の軸を意識する。そして――――」
そこにちょうどよく軽い風が吹き、目の前に葉っぱが散る。その中の1枚に狙いを定めて
「剣と身体を一体させるイメージをしながら、振るう」
ブゥンッ!!
アセムが木剣を振るう。すると、目の前に落ちて来た葉っぱがパックリと2つに裂けた。
「………ま、こんなとこかな?」
少女の方を向くと、彼女の目はキラキラと煌めかせ、アセムを見ていた。どうやら満足してくれたようだ。
すると
「もう一回」
「え?」
「もう一回見せて!(キラキラ)」
「……よし!しっかり見てろよ!」
後輩にこんな目を向けられて、断る先輩などいるわけ無い。それからアセムは怪我の療養を忘れ、少女に素振りを見せ、指導を行った。
それから・・・
ビュンッ!
「……どう?」
「だいぶ良くなった、今の感覚を忘れるなよ。頭で記憶するんじゃない、
「えっと……素振りを続ける」
「正解。ただし、やたらめったらやるんじゃない。さっきの感覚を再現し、高める事を意識してだ。だから何回素振りをすれば良いか、なんて考えるな。自分の納得のいくまで、だ」
「分かった!」
「妹弟子と仲良くやってるね、アセム」
突如声をかけられ振り向くと、いつの間にかベリルが立っていた。その後ろには、息切れをする他の走り込みメンバーの子達もいた。
どうやら指導に熱中していて、気付かなかった。
「あ、ベリル先生」
「し、師匠!?すいません!ついこの子の指導に―――」
「あぁ、謝らなくていいよ。フィッセルも、いい勉強になっただろうし」
「凄く勉強になった」
「それと……おかえりアセム」
「はい……ただいま帰りました、ベリル師匠」
それから休憩時間に入ったので、アセムは後輩たちにお土産のお菓子を振る舞った。
アセムが卒業して数年、もう見知った顔はあまりいないが、それでも数人知ってる後輩はまだ居た。
帰って来た先輩に、後輩達は冒険者の話を聞いたり、昔のベリルの事を聞いてきた。
ただし、1人だけ剣の事をよく聞いてきたが……
そして、休憩時間が終わり、稽古再開となった。
皆が、型稽古や組み打ち稽古をしている中、アセムは道場の隅で腰を掛け後輩達の様子を見ていた。
「どうだい、今の後輩達は」
「年長の方は、まあいい具合に出来てると思いますよ。年少の子たちはまだまだ練習あるのみ、と言ったところですかね。1
「ほう……その1人って言うのは、フィッセルのことだね」
「えぇ、あの短い黒髪の子です」
「『フィッセル・ハーベラー』。今の道場の中じゃ、1番の負けず嫌いで、なかなか筋がいい」
「へぇ~、あの歳で師匠にそこまで言わせるとは……」
「そう言うアセムだって気付いてただろ?」
「えぇ……あの子、ただ筋が良いだけじゃないですね。物事を
「そう、
「ん、それだと前にも見たことあるような言い方ですね。前は誰だったんです?アリューシア?それともランドリド兄さん?」
「それは………いや、内緒にしとくよ」
「え、なんですか。気になりますよ」
「それよりも、今は稽古時間だからね」
そうはぐらかされ、そのまま後輩達の指導に行ってしまった。
その日の夜
アセム帰郷とゴールドランク昇格を祝って、ご馳走が振る舞われた。
モルデアも、アセムに滅多に出さない高いお酒をすすめた。
前世の常識だと、まだ酒が飲める歳ではなく、この世界でもまだ飲めないが、せっかく義父が用意してくれたのでありがたく飲ませてもらった。。
「(う〜ん……前世じゃ飲み会でしか飲まなかったけど、酒ってこんな味だっけ?)」
「お、良い飲みっぷりだな!どんどん飲め、アセム!」
「親父、あんまり無理に飲ませるなよ……」
食事が終わり、モルデアは顔を真っ赤にさせ、大いびきをかきながら眠ってしまい、フレンは台所で洗い物をしている。
アセムは縁側に出て、淹れてもらったお茶をすする。
その隣に、ベリルが腰を掛けた。
「手紙を読んで元気そうにしてると思ったけど……そうでもなかったのかな?」
どうやらベリルにはお見通しだったようだ。
「師匠………強くなるって、難しいですね。言葉以上に………」
「そうだね……俺も、それを散々思い知らされたよ……」
「それに……強くなっても、救えるものは、限りがあるんですね………」
「俺たち剣士、と言うより人間は神さまじゃない。俺たちが救えるのは、手の届く範囲だけ。それ以上は出来ない」
「そうですか………」
月明かりが照らす中、アセムとベリルはただ黙って外を眺めている。
僅かに吹いた風で草木が微かに揺れ、虫の鳴き声が遠くから聞こえる。
「それでも、俺は足を止めません」
スゥと立ち上がり、空に向かって手を伸ばす。
「剣の頂に到達して証明してみせます。貴方が救った事は間違いではなかったって」
「アセム………」
「ま、その前に怪我を治さないとね」
「………いつまでいるんだい?」
「まぁ……医者が言うには半年は療養しろって言われてるんでそのくらいは。でも、稽古には参加させてください。療養してる間に身体が訛ってしまうんで」
「おいおい、あんまり無茶はするなよ。休むのも大事な稽古の1つだからね」
「ハイハイ、ワカッテマスヨ(棒読み)」
「………昔、高熱を出したにも関わらず、稽古をして更に病状を悪化させたのは誰だっけ?」
「うぐ……しばらく素振りだけにしておきます」
「体力付け優先」
「うっ……はい、分かりました……(しょんぼり)」
見るからに落ち込むアセム。その姿は、彼が幼い頃とぜんぜん変わっていなかった。
そして、その姿はとある少女ともよく似ていた。
「(本当にアセムとフィッセルは似た者同士だな……)」
せっかく帰って来たことだし、似た者同士で稽古させれば、お互いに良い経験になるだろう。
そう考え、ベリルはアセムに後輩への指導もお願いしたのだった。