片田舎の剣聖の一番弟子 作:剣術太郎
バルトレーンにあるレベリオ騎士団の庁舎。
そのとある1室にて、2人の剣士が向き合って座っていた。
「いや〜、驚いたよ。まだ入団して数年のはずなのに、もう騎士団の副団長になってたとは。前の副団長さんは元気か?」
1人はつい最近プラチナムランクに昇格した冒険者のアセム。
「ザンアントの討伐で負傷しまして、私を後任に推薦して、必要な引き継ぎをした後、退職されました。今は故郷の田舎で静養してるそうです」
もう1人は副団長になった同門のアリューシア。
久々に同門が揃ったのには訳がある。
「そうか。今度挨拶に行こうかな……って、そんな話をしたいんじゃないんだよ」
そう言い、アセムは先日ランドリドから受け取った手紙を取り出し、机に置いた。
それは、アリューシアから騎士団の特務騎士として承認されたと書かれたもの。
「コレ、どういうこと?」
するとアリューシアは、薄い綺麗な箱を出し、さらにそこから1枚の紙を取り出し、アセムの前に置く。
「コレ、なに?」
「見ての通りの国王御璽印章付きの任命書です。要するにアセムくんをレベリオ騎士団の特務騎士として正式に承認を許可する書類です。ちゃんとギルドマスターの捺印も入ってます」
「だ・か・ら、何なんだよコレ!?なんで一介の冒険者が騎士団に入る事になってんだよ!?俺ついこのあいだプラチナムランクになったばっかだぞ!?」
「
「え、どれ?」
「冒険者になって僅か数年でプラチナムランクに昇格。しかも、この国で最年少らしいです。そして、それに見合った実績を残してます」
「ザンアントの群れの討伐か?あれは俺1人じゃなく――――」
「それは上の人間も重々わかっています。問題は、それが
「え、まぁ……そうだな……師匠と比べると動きが単調だし、硬いならそれを踏まえて力を入れて斬れば良いだけだし」
それが出来れば、他の者たちは苦労しない。
もちろんアセムは他の人たちを悪く言ってる訳ではない。
その他が出来ない事をやってのけたのだ。
「そして、先日のダンジョンアタックで、ロックオーガキングを討伐したそうですね」
「あぁ。あのダンジョン攻略が試験合格の条件だったからな」
「あそこのダンジョンのボスは双頭の岩ヘビと言う事は聞いてましたか?」
「聞いてたよ。でもなんかロックオーガキングがボスの座を奪ってたみたいだがな」
「そのロックオーガキング討伐に、最低でもプラチナムランクのパーティーが必要なのはご存知で?」
「え、なにそれ知らない……」
そこまで聞くと、なんとなくだが、アセムは悟ってしまった。自分が騎士団入りになった理由を
「つまり、アセムくんの実力は一介の冒険者の枠に収まりきりません。国としては、是非ともレベリオ騎士団に入って貰いたいんです。貴族の重臣の一部は、貴方をこの国から出させないように騎士団に縛り付けようとも。中には貴方を自分の派閥に入れるために強硬手段(自分の娘の婿にさせる)を取ろうとする者も……」
「マジか……だがそれは困る。俺は師匠を超える剣士、いや剣豪になる。呑気に騎士団に入ってる訳にはいかないし、縛られる訳にもいかない」
「わかっています。それに優秀な冒険者を騎士団に引き抜くと、国と冒険者ギルドの間に亀裂が入る恐れがあります。国王陛下もそれは望みません。そこで、私は騎士団長に提言し、結果として特務騎士として入団して貰うことになりました」
「なぁ、その特務騎士ってなに?」
「要するに―――」
ー ー ー ー
『特務騎士』とは、本来騎士団に所属していたが、何らかの理由で定年前に退職した者に、国の有事の際には予備騎士団員として協力してもらう役職。
表向きには騎士団から退団扱いになっているが、その有事には一時復帰扱いとなる。
もちろん本人の希望次第になる。
ー ー ー ー
「―――ですが、アセムくんの場合は少し違って、冒険者として活動を優先し、国からの要請があった場合のみ騎士団員として働いて貰うことになります」
「おいおい良いのかそれ?」
「そうでもしないと、重臣たちがどんな手を使うか分かりません。これでもかなりアセムくんの為に色々(裏)工作をしたんですよ」
「色々って?」
「……聞きます?(ニコニコ)」
「イエ、ケッコウデス」
「それと、アセムくんには騎士団と冒険者の仲介者もお願いしたのです」
「仲介者?」
「アセムくんも薄々感じているでしょう。表向き騎士団と冒険者は協調が取れていますが、一部は敵対視していることに」
アリューシアの言う通りだ。
騎士団と冒険者たち、双方互いに表立ってあれこれ敵対していることはないが、内心では『お高く留まってるエリート集団』や『礼儀を知らない無法者』と言ったイメージを持つ者が多少存在する。
かく言うこのアリューシアも、とある冒険者との仲が不仲だと言う話も聞く。
そこで、双方の架け橋としても、アセムに白羽の矢が立ったのだ。
「……俺に務まるかな〜?」
ピラピラと任命書をプラつかせるアセム。
そこまで評価してくれるのはありがたいが、自分には荷が重い気もする。
どうにかして断ろう。そう考えた時――――
「これは
「ん?チャンスって、何の?」
「決まってます。ベリル先生の名を高めるチャンスですよ」
「何故ここで師匠?」
「アセムくんが言ってたじゃないですか」
『俺たち弟子が有名になれば良いのかな』
『アリューシアだけじゃない。その師であるベリル師匠も、自然と有名になっていくんじゃないかな』
「アセムくんの名が高まれば、自然とベリル先生の名も国中に広まります。これはチャンスなんです」
「つまりアレか。騎士団と冒険者の仲どうこうじゃなくて、師匠の為にこの任を引き受けろってか?」
「……そうです」
彼女には、彼女なりの思惑を聞いて、アセムの表情はやる気の無さそうな顔から、一気に強張る。
要するに師の名を広める為の踏み台になれと言っているのだ。
「任せとけ(ニヤリ)」
「あなたそう言うと思いましたよ」
ガシッと、2人は握手を交わした。
その顔は野望に満ちていた。
「まさか覚えていたとはな」
「その為にここまで来ました。私は、先生をあのままにしておけません」
「………その気持ちは、よく分かるよ」
「それに、いつか先生とゴニョゴニョ……///」
「え、最後なんて言った?」
「いえ、なんでもありません」
それから、アセムは正式に冒険者初の、騎士団特務騎士として任命された。
それから暫くは、一部の冒険者からは出世コースを選んだ恥さらしと陰口を言われたが、ある事件をきっかけにそれは消え去った。
その活躍と功績により、彼のランクは更に上へと上がった。
そして周囲から、アセムはこう呼ばれるようになった。
『隻眼の剣豪』と
因みにアセムをどうこうしようとした貴族たちは、何故か過去の汚職や不正が一斉に明るみになり、表舞台から姿を消した。
「………アリューシア、色々工作したって言ってたけど、なにしたの?」
「聞きます?(ニッコリ)」
「イエ、ケッコウデス」
それから更に数年の時が経った。
とある依頼を終え、バルトレーンの街に戻った彼が目にしたのは
「え、なんで師匠がここにいるの?」
ベリルが2人の美女に挟まれ困っていた。