緑谷出久に転生したドクター・オクトパス、こっちの世界でもヴィランになるってよ
アメリカから日本行きの飛行機に乗り、フライトをすること14時間後....私は今、故郷である日本の地に降り立っていた。
しかし、故郷に戻ったとしても別に私は感動することもクソもない。
無個性と言うだけで白い目で見られ、人として扱われない国のどこが故郷なのだ?
まぁ、それを言うならアメリカも一緒だが......どちらかと言えば、無個性への風当たりの強さは日本の方が強い。
それに私は故郷である日本に戻ってきたのは、オール・フォー・ワンが率いるヴィラン連合なる組織と合流するためだ。
ヴィラン連合は死柄木弔という男を筆頭にした組織らしく、現段階ではまだまだ発展途上な組織という評価だった。
そして、そのヴィラン連合を支援しているのがオール・フォー・ワンという男らしく、どうやら彼は死柄木弔を自身の後継者として教育しているからなのか、彼に相応しい装備を作る人間を探していたのだと社長は語った。
つまり、私は日本のヴィラン界の重鎮から白羽が立ったというわけなのだ。
「やぁ、初めまして。僕はオール・フォー・ワン。よろしく頼むね」
長時間のフライトの後にとあるバーで出会った彼は写真よりもとんでもない威圧を放っていたが........彼の話し方がとてもフランクだったので、少なくともオール・フォー・ワンは人心掌握術に長けているのかもしれない。
そういう奴ほど、厄介だと昔から相場から決まっているからな。
そう思いながら私は視線を彼の方からその隣にいる男、死柄木弔の方に向くと....彼は作り物の手で顔を隠すように覆っていたが、その隙間から私を見定めるような目で見つめていた。
見ず知らずの人間を警戒するのは生物としての本能とはいえ、こうも警戒されると逆に悲しいというか何というか。
「こちらこそ、今後ともよろしくお願いします」
そう言った後、オール・フォー・ワンから差し出された手を握る私。
その握手はヴィラン連合と私の契約を意味していて、オール・フォー・ワンは君には期待しているよと楽しげな声でそう言った。
そして、死柄木弔は相変わらず私を警戒しているので....とりあえず私は声をかけることにした。
「そんなに警戒しなくても良い、別に私は君の先生を殺すつもりも裏切るつもりもない。それとも、私の言葉には信憑性がないのか?」
私がそう言うと死柄木弔はピクッと反応したかと思えば、どこからか舌打ちをする声が聞こえた。
....彼もまだまだ子供だな。
とか何とか偉そうなことを言ってるが、そういう私自身も年齢的には子供の部類に入るがな。
そう内心思いつつ、私は死柄木弔に近寄ると彼を上から下までマジマジと見つめながらこう言った。
「死柄木弔、とりあえず君のリクエストはある程度叶えるつもりでいますが....何か希望はありますか?」
「.....特にない」
「そうですか、では何かリクエストがあればいつでも連絡してください」
そんなことを言った後、電話番号を書いた紙を彼に手渡す私。
死柄木弔はその紙を乱暴に取ると、ジッと私を見つめていた。
....オール・フォー・ワンが呼び寄せたとはいえ、私は彼よりも年下な上に未知の存在。
だからこそ彼は私のことを警戒しているのかもしれない。
それに昔から人間は未知のモノにはとことん警戒し、異常に恐れる性分を持っているからそうなるのも無理はないがな。
「.....アンタ、科学者ってことは論文を書いたことがあるのか?」
「えぇ、一応は」
そういった後、バーカウンターの席に座っている死柄木弔の隣に座る私。
そして彼の方を向くとニコッと笑顔を浮かべながらこう言った。
「あなたもご存知のように....私は無個性と呼ばれるタイプの人間です。ですから例え声を上げたとしてもその声はこの世界の誰かに届くことはなく、ただ街の騒音にかき消されるだけ」
「.......」
「ですが....例え無個性だとしても圧倒的な実力・経験・知識さえあれば話は別ですけどね」
私がそう言うと、死柄木弔はピクッと反応したかと思えば....いつの間にか私の話に聞き入っていた。
そういえば、彼もかつて無個性だったはず。
そんなことを思いながら、私は続けてこう話した。
「どの業界も結局は実力主義、力や知識さえあればどんなに立場が弱くても上に立つことが出来る。それはあなた方にも言えることではないのですか?」
「っ!?」
私のその言葉に対し、思わず目を見開く死柄木弔。
.....結局のところ、この世界も私の世界と同じように社会の不満からヴィランと化す者も少なくない。
彼らはヒーローに期待するがヒーローは助けてくれない。
だから、全てに絶望した彼らはヒーローを恨むのだ。
ヒーローが力でねじ伏せるのなら、ヴィランだって力を使って屈服させればいい。
どちらも同じ意味合いの行為であるにも関わらず、ヒーローの行為だけが賞賛される現実。
そしてヴィランはヒーローの人気取りのための道具として使用され、悪として断罪される。
....彼の反応を見る限りだと、死柄木弔という人間もそういった世界の犠牲者なのかもしれない。
「私はヒーローが好きではないし信用してもいない。だからあなた方のサポートをすると決めたのです」
「......そうかよ」
そう言葉を吐き捨てた後、チラッとこちらを向く死柄木弔。
その顔にはとりあえず信用してやるよという顔になっていて、その顔を見た私は彼から信用されたことに対し、とりあえず安堵するのだった。
「フフフ、やはり君はシュミットの言っていた通りの男だね」
「そうですかね?」
社長....オール・フォー・ワンに一体何を伝えたんだ?
絶対ろくでもないことには間違いないだろうが....まぁ、いいか。
「そうだとも、だから僕は君に期待しているんだ」
オール・フォー・ワンは楽しげな様子でそう言ってはいるが、彼の声からはまるで私の頭を握り潰そうとしているような雰囲気が出ていた。
.....日本のヴィランの親玉なだけに頭もイカれてるってわけか。
そう思いながら、圧を放つ彼の方をジッと見つめる私。
すると、その様子を見た死柄木弔は何故ビビらないんだ!?と驚いた様子の顔になっていた。
いやまぁ、だってそういうのは前世で慣れているしな。
「ところで........君はアメリカでヴィランとしても活動していたみたいらしいね」
「あぁ、そのことですか。アレは装備の動作確認のために行ったことです」
私がそう言うと、装備?と具合に不思議そうに呟く死柄木弔。
そんな彼を尻目に私は黒霧からホットコーヒーを貰うと、そのコーヒーを飲みながらこう言った。
「さっきも言った通り、私の本業は科学者です。ですが......時と場合によっては装備の機動性を確かめるためにヴィランとしての活動もしているので、ヒーロー側から自然とそう認識されているのですよ」
「へぇ、アンタにもヴィランとしての名前があるのか」
私の言葉に対し、意外だと言わんばかりにそう言う死柄木弔。
その顔には、私を警戒しつつもどんなヴィラン名なのかが気になるという表情が映っていた。
「もちろん、ありますとも」
そう言った後、彼らに向けてニコリと笑う私。
ヴィラン名、か。
一応、この世界のヒーロー達からは『アーム男』と呼ばれてはいるが......その名はどうも気に食わない。
やはり、名乗るとすれば
「ドクター・オクトパス。とあるヒーローからはドック・オクと呼ばれていますが......まぁ、とりあえずはあなたの呼びやすい名前で構いません」
ドクター・オクトパスを名乗る者として、ドクター・オクトパスは外せないな。
▼出久(ドック・オク)は死柄木弔と少しだけ仲良くなった!!