妹に兄と呼ばれたい。   作:any

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紫の視点もそろそろ書きます。


兄は避けられない。

 

「俺はまだ死にたくないですよ」

 

 

そう即座に言えば、西行寺様はあっけに取られたような表情を見せ、少し硬直した後に吹き出し、笑い出した。

いつもの上品な笑いではなく、心の底からの少女らしい笑い。………そんなに愉快なのかは知らないが、こちらの心情も理解してほしいものだ。

というか、冥界に魂以外に肉体も同時に持っていけるのか。だめなら本当にただのお迎えではないか。

 

 

「ふふふ……!いつあなたが死ぬなんて言ったのよ?いったとおり、ちゃ~んと、地獄の死神様か………もしかしたら、あの頑固な閻魔様が直々に来てくれるわよ」

 

 

「普通冥界の管理人が来たらお迎えなんですよ………それに、俺みたいなただの人間をわざわざ多忙な閻魔様が迎えに来るはずないでしょう」

 

 

「あら、そんなことなくってよ?あの方、結構自分で動くもの。」

 

 

相変わらず冗談が好きだなぁ………その冗談をすかせない俺は、いつも振り回されているわけだが。

友人である紫に対しては、冗談をすかされたりいじられたりするためからかうことはあれど冗談はあまり言わないらしい。

だから、ひっかかりやすい上に冗談に乗ってくる俺はお気に入りのおもちゃ扱い。

 

抗議も込めて責めるような視線を向ければ、手に持っている桜模様の扇子で口元を隠して、またもや楽しそうに笑う。

「そんなにからかうのは楽しいですか」、と聞けば「案外単純な若者で遊ぶのは楽しいのよ?」と返される始末。

この人に口で勝つのはいつになるやら………

 

 

「それで本題なんだけど、前に見せた桜、あるでしょう?あれがもうすぐ咲きそうだからお花見したい、って思ってね。紫は冬眠中だし、貴方を呼ぼうと思ってね。一人のお花見じゃちょっと寂しいでしょう?」

 

 

「あれって咲くものなんですか」

 

 

「ちゃんとお世話したら立派に咲くみたいよ?」

 

 

 

確かに、どんなに異様だろうと桜は桜。

正しい育て方や手入れをすれば、美しく咲きほこることに違いは無いはず。

あの桜の手入れなんてろくにできたものではないと思うが……まあ、この人が選ぶような従者なら可能なのだろう。

 

 

それで……あの桜とは。

前提として、生き物以外にも植物や果てには意思を持たぬ物ですら妖力をもって生まれることがある。

それが力をつけ、自我を持ったものが「花の妖怪」や、「付喪神」といった妖怪や神の1種と変貌する。そして総じて、そういった変貌した物はたとえ、付喪神となっていない状態でも、他の同じ物より遥かに特異な性質を見せる。

 

それは植物もそうで、その場合異常な進化を遂げ、様々な形へ変貌することがほとんど。

しかし、稀に植物でありながら自我を生み出し、元の形を保ったまま成長する個体がいる。

 

 

 

それが、西行寺様の言う桜。

 

 

普通の桜というものは、基本的に少し大きめの家程度の大きさなのだが、あの桜はまるで違う。

小さな山とすら表現出来る大きさを誇り、枝は無数に別れていた。

以前一度見た時にはその枝の先につぼみを付けていたが、それが今、何らかの普通とは違う「手入れ」を経て、開花するらしい。

 

 

 

 

かつて咲いた記録は何百年、もしかしたら何千年前。

西行寺様が幽霊となった時から存在しているらしい。

 

 

 

「それはそうとして、なぜ俺を呼ぶ必要が?あまり酒は飲めませんし、自分が食べる分が減るのは嫌でしょう?」

 

 

 

「あら、失礼しちゃうわ。招いた客人に出すためのご飯と私の為のご飯はちゃんと別に作ってもらうつもりよ?それに、やっぱりいざと言う時に頼れる人って必要じゃない?」

 

 

 

花見でいざと言う時、というのが皆目検討がつかない状況である。

前々から紫からは西行寺様は興味本位で様々な問題や異変を起こし、冥界の管理者であると言うのに魂を現世に放出したり、閻魔様の決定に逆らえないのかを実験していたらしい。

 

はっきり言って倫理観に欠けている気がするが、残念ながら相手は人ではない。妖怪や例の類にこちらの常識は通じないのだから何を言おうとも意味は無いのだ。

 

 

「頼れるって言いますけど、俺なんぞ西行寺様の手にかかれば10秒持つかどうかでしょう。貴女でダメなら無理ですよ」

 

 

そう言い切ると、西行寺様はカラッとした笑顔から一転して口をとがらせ、抗議の視線を送ってくる。

なんでそう子供っぽいのか。

まあ、そこがこの人の魅力だと紫も言っていたが………

 

 

「貴方、自分のこと低く見すぎよ。謙遜っていうのは人の美徳っていうけれどあなたは行き過ぎ。別にもう私じゃあなたに勝てないわ」

 

 

「御冗談を」

 

 

西行寺様に勝てる生物、というか特に人間はほとんど存在しない。

”死を操る能力”ーーーまあ、つまるところ対峙すれば息を吹きかけるように手軽に目の前の生物の命を無慈悲に奪う力。

こうして当たり前に仲良くしているが人里では特に恐れられている者たちの一人で、ご機嫌を損ねれば即冥界送りである。本人はそんなことしない、といっているが気分屋の言うことを信じるのはいささか厳しい。

 

 

ちなみに、西行寺様はその死を与える権能を付与した弾幕を張ることができる。

その死からは霊夢を除いて逃れることができる人間はいないだろう。月の人間ですら死という自然の摂理の逸脱に至っていない。

蓬莱の力による不死は実現こそしているが、その使用は禁じられているようだ。まあ、西行寺様の能力は運命をねじ曲げられるので、蓬莱の力による不死も、レミリア・スカーレットによる運命への干渉も無意味だろうが。

 

逃れるには閻魔様の権限によって死を認めず現世に戻ってくることかもしれない。定められていない死に限り、閻魔様の力は大きな効力を持つ。

 

 

そのせいでこの方は閻魔様と少し不仲なわけだが……………

 

 

瞬間、空間が裂ける。

 

 

「あーあ、少し話しすぎちゃったわね。お腹がすいてきちゃったわ。()()()にご飯用意してもらってるし、まあいらっしゃい?」

 

 

有無を言わさず突如開いた冥界との門へ引きずり込まれる。

 

 

当たりを見回せば、暗く、果てしない闇の広がる空。

 

 

 

そして、朱色に塗られた美しい灯篭と、桜の模様の入った立派な城壁のような壁が脇にある長い長い階段。

 

 

 

久しぶりの冥界。

生身の肉体で来たのは二度目。

横を見れば、俺を引きずり込んだ張本人は消えていた。

 

 

………消えていた???

 

 

 

「置いていかれた………???」

 

 

 

散々客人といっていた仕打ちとは思えない。

思えないが、これが冥界の主。大人しく階段を上り、西行寺様の屋敷………”白玉楼”へと向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い階段を上り続ける。

何度目の踊り場かはわからないが、すでに体は限界である。

とっくのとうに足が悲鳴を上げているので、魔法による飛行を開始する。突然引きずり込まれたせいで札もほとんどなければほかの道具もない。

 

だから魔力はできるだけ残しておきたいのだが……休み休み、なんてしていたら先に俺が魂だけになって白玉楼送りである。

俺は、残念ながら魔力が自然に回復できる量が少ない後天的な魔法使い。

そのため、魔理沙ちゃんのようにスピードを出し続けることは難しい。

 

 

 

ゆっくりと上へ上へと飛んでいるとき。

西行寺様にきちんと文句の一つも言わなければな、なんて考えていると。

 

 

 

頭上から何かが飛んでくる。

落ちてくる、というより意思を持ってこちらに()()()()()近づくにつれ、放たれる隠す気のない殺気を肌で感じる。

フランドールや、レミリア・スカーレットほどではないものの、剣士や侍特有の妖怪とまた違った冷たさと覇気。

 

 

静止して構えると、ついにそれが飛んでくる。

それは、”刀”。おそらくは短刀、先ほどまで感じていた殺気は人から放たれるものだったが、おそらくその人物が俺に向けて投擲している。

 

 

意思を持たないものなら、対処は単純。

拳を緩く握り、手の中に火の玉を生成する。

 

 

それを握り潰し、光があふれ出したところで前を腕で薙ぎ払いつつ手を開く。

 

すると、爆発による風が前方に発生し、その威力で飛来する短刀を受け止め、はじく。

 

 

 

土煙が舞い上がり、突風が巻き起こる。

刀の飛んできた方向を見ると、先ほどまで感じていた肌に突き刺さるような殺気が消えている。

それに気づくと同時に、その殺気が真後ろから放たれることに気づく。

瞬時に、後ろを振り向く。

 

白い髪に、緑色の洋服を着ている少女。

その瞳はこちらをまっすぐと、殺意に満ちた眼光で見据えている。その殺意を示すように足を大きく開いた低姿勢な居合の構えを取り、二尺ほどの刀を抜き放とうとしている。

そして、目があった瞬間声が放たれる。

 

 

「ーッ殺った!(獲った)

 

 

そして刀が振り抜かれる。

最初の殺気による陽動、そして投擲した短刀による無視すれば命を奪える囮。

極めつけに、確実に一撃で殺せるように、大振りでかつ居合の中でも特に初速が速い低姿勢、大きく足を開いた踏込による一撃。

 

 

感嘆、である。

 

しかしまだ甘い。

おそらく首を目掛けて振るわれる刃。低姿勢からの振り抜きでは、上半身の逆袈裟斬りか、首のみしか狙うことができない。

 

その弱点をつく。

 

 

「何ッ?!」

 

 

魔法は、遠隔ならば高度な座標計算を必要としている。

しかし、視界の中なら、必要ない。

詠唱破棄によって生まれるペナルティ、激しい頭痛で視界をブレさせながらも生み出した強い風の流れで美しく空を斬るように振るわれた刀の軌道をそらす。

 

大ぶり、低姿勢の居合は振りぬいた後、大きな隙をさらすのが弱点。

だからこそ、一撃必殺に最も適している業だといえるだろう。

 

 

しかし、驚きつつもその少女は刀の勢いそのままに後ろに跳躍し、壇上に立つ。足をつけると同時に右に飛び、壁に着地し、そのまま加速、斬りかかってくる。

それをふわりと左に倒れこむように重力に体を従わせ、回避。逆側の壁をけり、またもや加速する少女を見て咄嗟に数歩下がり、木でできた灯籠を無理やり火のついた上部を捥ぎ取り、こちらへ突っ込む少女へと投げる。

 

 

驚いて構えていた刀で切り払った少女。

切り払うためについた片足をはらい、バランスを崩す。倒れこみながらも鋭く地を這う様に振られ、斬り上げられてくる刀を再び数歩下がることで回避。

 

 

ただでさえ崩れた姿勢で刀を振りぬき、防御の取れない姿勢となっている少女に向けて腕を突き出し、揃えた人差し指と中指を向ける。

そして、その二本の指の先に霊力を集中させていく。

集中させ、練り上げていった霊力は光を放ち、次第に七つの球となる。

 

”夢想封印 集”

 

札を用いない不完全な技。

しかし、その威力はこの少女には過剰でもある。

 

 

それを悟った少女は観念し、刀を振りぬいた姿勢から手を緩め、刀を落とす。

 

 

「………完敗です。まさか、私が侵入者………それも、ただの人間ごときに遅れをとるなど、一生の不覚。鍛錬不足でした」

 

 

悔しそうな顔でこちらをにらみつけ、勝手に反省会をしている少女。

 

 

「さあ、止めを。不意を打ってまで負けた以上、主に名誉に泥を塗るも同じです」

 

 

そういう少女と一度目を合わせ、霊力を霧散させる。

すると、驚いたような表情をする少女。

 

 

「殺すのはルール違反だ。君を殺す必要はない」

 

「けど………!」

 

「敗者は勝者に従うべきじゃない?ほら、文句あるなら道案内頼むよ」

 

 

そう言いつつ、刀を二本とも返してやると、「くっ……!」と葉を食いしばり、何かに耐えるように思案した後、ふぅ、とため息をついて刀をしまい、こちらへ向き替える。

その表情は先ほどとは少し違い、殺意ではなくいろいろと複雑な感情を押し殺した仏頂面となっていた。

 

 

「いいでしょう、案内します………」

 

 

「うん、ありがとう。君はなんて呼べばいい?」

 

 

「私ですか。…………魂魄、妖夢。魂魄でも妖夢でも好きにしてください」

 

 

名前を聞けば、そうぶっきらぼうに返される。

不愛想なのは素なのかそうじゃないのか。霊夢と年が近そうだし、仲良くしてくれるといいな、なんて思っていると冷たく言われる。

 

 

「名乗らせるだけ名乗らせて、自分は言わないんですか?」

 

 

「それは失礼。俺は、”伊織”。別になんて呼んでくれてもいいよ」

 

 

そう言うと、妖夢ちゃんはこちらを驚いたように見つめて固まっている。

そして、妖夢ちゃんの口から、小さく言葉がこぼれ出る。

 

 

 

 

 

 

「………客人……………名前………花見…………い、おり………?」

 

 

 

 

みるみる顔が青くなっていく。




あなたの感想で救われる命があります。
あなたの感想が私のやる気を刺激します。


その感想の輝きが私の欲求を刺激したァ………

君たちは最高の読者だぁ!


ちょっと雑でごめんね。


霊夢たち側はもう少し後かも。

兄上の戦う頻度は?(この先の異変でどれくらい戦うか)

  • 進み続けろ、曇らせタグに報いるために
  • 少なくして
  • お前がやりたいようにしろ
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