吸血鬼の館、紅一色の紅魔館。
その上空に大きな光の玉が顕現している。
俺と三人のフランを囲むようにして虹色とも、光色とも表せるような輝きを放つ札が結界を構成し、辺りを埋め尽くしていく。
結界としての外殻はすでに出来上がっているため、三人とも捕縛できているようだ。指を組む手印を作り、練り上げた霊力を札に流し込む。
博麗に伝わる霊術の一つ、『夢想封印』。
自分の霊力を特殊な回路を刻んである札に流し込み、大きな7つの弾幕を生み出してぶつける技で、基本的に札を基盤として強固な結界を構成し、その中に相手を閉じ込め、攻撃する。結界は基本的に破れず、札こそ大量に必要なものの初見殺し、奇襲ができる技。
さすがの対妖怪として作られ、継承されてる技なだけあり、俺自身何度もこの技を用いて妖怪を祓っている。
フランの能力であれば結界を外の殻ごと破壊して外に出られるだろうが、すでに作られた結界を一瞬で破壊することはさすがにできないだろう。
札に練り上げた霊力を流し込むと、札が次第に燃え尽き、俺の背後に7つの大きな弾ができる。それぞれが魔を退ける力を秘めている。
たいていの妖怪は触れれば蒸発、浄化するような代物だが、吸血鬼のような高位の種族や、一定以上の力を持つ妖怪にはぶつけるだけでは倒せない。
それに、結界越しに触ればいい。
そもそもとして、上位の妖怪どころか、知性の高い妖怪はたいてい自分の身を守る防御幕を自身の力で張れるような技術を持ち合わせている。
それが結界術という、空間を操り、隔てるような高等な技術でなくとも薄い壁一枚挟むだけで、弾の退魔は通らなくなる。
実際今フランは炎の剣を消し、三人がかりで自分の妖力を使って幕を張っている。
そのため、自分で結界を張れる相手、知性のある妖怪相手にはもうひとひねりが必要となる。
霊夢といった宝具を受け継ぐ歴代の巫女は、陰陽球を依り代とすることでそれぞれに物理的な威力を持たせて結界を貫く。
しかし、その手段は俺には取れないものである。
俺はほかの手段を用いて結界の対策をした。
右手の手印を解かずに、左手をフランたちに向かって翳す。先ほどのフランの能力による爆発で皮膚はところどころ裂け、焼けただれていた。
それに加えて絶えず血が滴っているという見るに堪えないものとなっているが、幸いにも神経はまだ生きているようで動く。
こんな状態になっても千切れていないのなら、治すことは可能である。
今までの戦いに比べれば、まだまだ軽傷といってもいい。もはや慣れている皮膚が針に刺されるような激痛を無視して、開いていた手を徐々に握りしめる。
結界術のコツは、自分のとらえ方、と藍さんは俺に教えた。操作ができないのなら、自分の考えや想像を体に投影する。
そうして、札の結界が俺の左手に連動し、フランを中心に収縮し始める。
そして手を完全に閉じ切ると、光の玉は収縮しきり、フランの張った防御幕は完全に俺の結界に包み込まれた。
俺のとった手段は、結界の中和。
自分で張った結界で相手の結界を包み込む。俺の霊力を用いていて、博麗の札を使っている以上、結界にも強い退魔の力がある。
すると、妖力を基として張られた結界、幕は俺の霊力と打ち消しあい、結界が消失する。そしてそこにすかさず弾を打ち込む。
七つの弾は螺旋状の軌道を描きながら、光る結界の球体に向かって飛んでいく。
そして、衝突。
光の奔流があたりを包み込んだ。
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光が収まると、そこにはところどころ髪や服がみだれたフランの姿があった。
そのフランは三人ではなく一人に戻っている。
「驚いたよ」
フランはそうつぶやくように声を漏らした。
あれでかすり傷なのは本当に恐ろしい、としか形容できない。こういうやつはたまにいるが、この吸血鬼はこの種族の中ではまだまだ幼く、鬼の四天王のように戦闘狂いでも、花の妖怪のように長生きで戦い慣れているわけでもない。
末恐ろしい才能である。
「結構危なかったかな」
「結構本気だったんだけど、そんなに平然とされてると人からしたら絶望かな」
「いやいや、本当に。まあ舐めてたし、油断もしてたけど分身を犠牲にするほどだなんてね。お姉さまが今まで殺した人間もこうだったのかな?」
「どうかな?吸血鬼と戦うのは初めてだし、五百年も生きてないからわからないね」
その瞳に宿っていた狂気はいまだ健在ながら、先ほどまでなかった冷静さと、爬虫類、虫や蛇のような無機質な冷たさ、冷徹さを携えている。
その深紅の目からは一切の感情が読み取れないのと対照的に、口はいまだに嗤ったままで、吸血鬼らしい鋭い牙がのぞいている。
「ほら、まだまだやれるでしょ?」
そう言葉を放つと同時に、フランはこちらに飛翔する。
左手が使えない以上、これ以上の近接戦はあまりしたくない。かわし続けるのにも限界はあるし、体力的にも厳しい。
飛翔してくるフランと逆方向に逃げて、距離をとる。
それを見たフランは自分の後ろから先ほども放っていた熱線を六本放ち、こちらを狙ってくる。熱線を放ちつつも、フランはこちらへ飛んでくる。
熱線を放ち続けている魔法陣を見て、回避を続ける。あまり激しく動くと魔力の消費が激しくなるため、ここも最低限で回避。
そして、魔法陣とフランに向かって弾幕を放ち、魔法陣を破壊する。
魔法陣は爆発し、消滅した。
それと同時にフランは先ほどよりも大きい炎の剣を生み出し、こちらに向かってくる。
吸血鬼の力を生かして剣をふるうが、さっきまでとは異なり炎の大剣を振った軌道上に弾幕を放っている。その弾幕は大剣を振る勢いも相まって鋭く、速くこちらに飛んでくる。
それらを札によって結界を形成し、受ける。
札を宙に並べて、盾のように扱う。
さすがに剣を受ければ結界は破られるから、剣自体は回避する。
よける動作の中から、少しづつ空中に札をばらまく。
撒いた札たちは撒いたそばから、重力に従いひらひらと下へ下へと落ちていく。札にはそれぞれあらかじめ俺の霊力を少しづつ込めていて、自由に飛ばすことができる。
回避を続けてフランが隙を見せるまで札をばらまき、攻撃の準備を続ける。剣を振る動きがコンパクトになっている以上、守り続けるのが最適。
しかし、あまり長続きすれば少しづつ不利になる。
幸い、フランはしびれを切らし、大振りで俺の結界の盾を砕いた。
その瞬間、撒いていた札に込められている俺の霊力を呼び起こす。札が青白く輝きを放ち、空中からフランに向かい何十枚、何百枚の弾幕となって飛んでいく。
「嘘……!」
フランは剣を横にして防御の姿勢をとる。
そして轟音とともに煙が立ち込める。
煙を見つめていると、フランが地面に落ちていった。
「………………ふぅ」
死んでいないだろうこと、無事に戦いが終わったことに安堵してため息を漏らす。
「戻るか」
そしてはるか下に見える紅魔館、そして霊夢のもとへと移行と下降を開始する。フランを追いかけるようにして下に向かう。
心の中に何か違和感が残る。
目の前の脅威は消えたというのに体の緊張は解けず、警鐘もやまない。いつものように、妖怪との戦闘を終えた時とは何かが違う。
まるで、まだ何かがあるかのように。
それに気づいた瞬間、突然、落下するフランが消えた。
ハッと後ろを振り向くと、フランが目の前に浮いていた。
「ばぁ!」
フランは俺の返答を待たず空を突っ切って先ほどと比べ物にならない速度で接近してきた。
瞬きの間に、距離を詰めてくる。
そしてその威力のままにこちらに向かって拳を振り抜いてくる。かろうじて視界にとらえたそれを反射的に避けようとする。
すると、フランは俺の前で止まり。握りこぶしを俺に突き出す形で静止する。
それに驚き、体が一瞬硬直する。
「ひっかかったね」
フランの笑みが深まる。
すると、フランがその手を突然
フランの能力の発動条件。
目の前で爆発が起こる。
とっさに張った結界を軽々と貫き、熱風と爆風を至近距離で浴びる。熱風自体はあまり大したことはないが、爆風によって俺は吹き飛ばされた。
熱風は大したことはないと言っても、それは服の下の話。熱によって体は痛むし、至近距離の爆発による爆風と衝撃波は体を拳で打ち抜かれたような衝撃を伝えてくる。
赤色、橙色、黄色の閃光と火花が俺の体を殴りつけ、ミシリという軋むような音が俺の体から鳴る。
後ろに吹き飛ばされるが何とか制動する。
「アハハ、引っかかったね!」
嬉しそうにフランが少女らしく、かつ吸血鬼らしく笑う。
嬉しそうに。
楽しそうに…………愉しそうに。
「なんで私がこんなに元気かわかる?」
「残念ながら」
「さっきあなたが撃ち落としたのも、私の分身っていうこと。一人だけ夢想封印?っていう技から逃れてるでしょ?」
「駄目だよ~、ちゃんとトドメ刺さなきゃ。人間はちゃんと殺さないと、逃げようとするんだもの。私たちだって、ちゃんとやらないと騙すのよ?」
フランは嬉々として語る。
どうやら、さっき撃ち落としたフランは俺が最初に陰陽球を模した弾幕で倒したと思い込んでいた分身だったらしい。
本体がどこにいたのかは知らないが、はじめての戦いとは思えない頭の良さに、出し抜かれてしまった。
「まあ、私の分身を3人も消せたのは褒めてあげるわ」
先ほどの夢想封印で優位に立ったと思ったが、一瞬でひっくり返る。
妖怪との戦いではよくあることだが、今はフランの若さ、未熟さを俺が侮っていた面もあるのだろう。そのツケが今俺に来ているわけだ。
相手は少女だがそうである前に吸血鬼であることを失念したのかもしれない。
しかし、まだ死んでいない。
それに、そもそも俺がすることは、そもそもフランの無力化ではない。
霊夢が来るまで持ちこたえればいいのだ。
「ふぅ………ちょっと残念よね、貴方があんなに頑張って私の分身を消したのに。もう形勢逆転、ってやつよ?」
「これが妖怪と人の差なんだよ、人は傷がすぐ直るわけじゃないんだ」
「へぇ……まだやる気なのね、そんなに
「美味しそう、ね」
確かに皮膚がところどころ焼け、血がにじんでいる今の状態は美味しそうかもしれない。焦げているのだから余計に香ばしいのだろうか。
そんなことを考えながら、上機嫌にこちらを見るフランと目を合わせる。
「私そろそろおなかすいたのよ?これ以上やる?」
「もともとそのつもりだろう」
「よくわかってるね。勿論、私はあなたを殺して食べるつもりよ?」
どうやら希望はないらしい。
構えをとる。
フランは舌でぺろりと唇をなめる。その仕草からは、完全な捕食者と被捕食者、弱肉強食の断りを示す如く、なかなかの絶望と同時に、吸血鬼の中でも最上位の貴族の娘としての高貴さ、少女らしからぬ妖艶さすらもを感じる。
「アハッ」
フランが嗤い声と同時に突進してくる。
これまで以上に速さを増したフランの攻撃。それを見て、俺は構えを解き、目を閉じる。
フランが驚いたような表情を見せる。
フランの爪が俺に近づき、突き立て、切り裂こうと迫る。
今触れる、その瞬間。
「死ね」
フランの体が吹き飛んだ。
聞きなれた声を聴いて安心する。
目を開ければ、そこにいるのは霊夢。
「伊織、もういいのよ」
こちらを見る霊夢の表情はどこか悲しそうで、いつもの優しい霊夢と同じとは思えないような冷たさを感じる。
そんな霊夢は傷があるどころか、まったく消耗していない。
うちの妹はさすがだなと今まさに死にそうながら思う。
霊夢を見つめていると、あることに気付く。
………………なんか怒ってない……?
兄上の戦う頻度は?(この先の異変でどれくらい戦うか)
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進み続けろ、曇らせタグに報いるために
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少なくして
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お前がやりたいようにしろ