妹に兄と呼ばれたい。   作:any

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”滅び、堕ちゆく前に。”


兄は隠したい。

 

 

止めを刺そうと札を構えた私の前に、一人の人間が立ちはだかる。

その女は疲弊を見せながらも、体に目立った傷はない。両手にどこから取り出したか銀のナイフを五本ずつ持ち、今にもこちらを殺そうかと睨んでくる。

しかし、今更刃物、ね………。

 

 

「アンタ、誰?邪魔するなら容赦しないけど」

 

 

「従者が主の首を大人しく渡すとでも?私を殺してから、お嬢さまの首を獲ることね!」

 

 

そう言い終えると、メイドは銀の懐中時計を器用に手で持ち、止める。

 

 

 

瞬間、ナイフが私に()()()()()

 

 

 

見下ろしていたはずの私が上から攻撃を受ける。魔法を使われた時のような力の流れの歪みや、結界への効果が見られない以上転移に近しい能力。

しかし、ただの人間が、紫のスキマのように転移したとして、私の勘が反応せず、認識できない速度でナイフを投げられるか?

 

 

答えは、否。

 

 

相手が兄さんだとか、鬼だとかの常軌を逸した強さを持つなら、納得できる。

でもこのメイドはそれほどの強さを持っているように見えないし、兄さんほどの戦いの経験などあるはずもない。

それなら、加速する能力だろうか。それならばここまでの挙動に辻褄は合う。しかしそれだったら、時計に手をかける意味。

 

単なる手癖か?

 

それとも、予備動作?

 

一先ずの攻撃に対する対応。………といってもそれは単純。

降り注ぐナイフに向けて、霊力を込めた腕で振り払い、込めた霊力を風のように、波にして飛ばす。

所詮は只人の力で投げたナイフ、風に呷られた木の葉のようにバラバラと地に落ちていく。それを見たメイドは再び、時計に手をかける。

 

 

 

それと同時に、夢想天生を発動。

私はあらゆることから解放され、常識と理から逸脱する。

 

 

「あぁ………アンタ、珍しいいい能力持ってるのね。どう、私の手伝いで働かないかしら?そうするならあんただけは見逃してやるけど」

 

 

後ろを振り返ってやると、目があったメイドが驚きの表情を浮かべる。

しかし、その表情も一瞬で消し、不敵な笑みを浮かべてくる。

 

 

「ふ、私の忠誠心を甘く見すぎよ。それとも、私に勝てないからって命乞いまがいかしら?」

 

 

夢想天生によって、メイドの能力を看破する。

加速ではなく、”時を止める能力”。いや、ナイフの速度からして”止める”ではなく”操る”の方が正しいのかもしれないが。

まあどちらにせよ、変わらないこと。

 

今の私には時が止まっていようが動いていようが関係はない。

 

 

「いってみただけ………………アンタの返答がどうあれ、私はアンタも、アンタのご主人様も、その妹も、全員ルールに則って処分する。」

 

「言ってくれる………!させるわけ、ないでしょう!」

 

 

メイドが再びナイフを放つ。

しかし今やそのすべてが私には届かない。すべてが私をすり抜けていく。

それはすでに先ほど見ていたのだろうメイドは動揺せずに、こちらへ瞬時に肉薄してくる。

私から攻撃するときには、触れないといけないのが夢想天生の弱点らしい弱点。遠距離の打ち合い………。まあ、弾幕ごっこでは無敵。

 

 

しかし、的確にカウンターを合わせられれば攻撃も食らうものだ。

 

 

このメイド風情ができるかは別として。

 

肉薄してくるメイドにこちらからも突進。

急制動してとどまるメイドを無視してすり抜けて背後を取り、振り向いたメイドに右足を軸として移動の勢いを載せた一撃。

殺しきらないように手加減をした一撃で吹っ飛ばす。一瞬でどうにか片手の防御を挟んだメイドは、戦闘こそ継続可能だろうがあの左手はすでに使い物にならないだろう。

 

 

辛うじて立ち上がろうとしているメイドに再び近づき、攻撃をすり抜けさせて、右手で顔をつかみ持ち上げる。

苦悶の声を漏らしつつも、その瞳から闘志は消えない。

 

 

「もう終わり?それで守るだなんて………笑わせる。そんな強さで何を守るっていうの」

 

 

「ぐ、うぅ……っ!お嬢様は、私が………!」

 

 

「守る?冗談言わないでよ。私だって、守らなきゃいけないの。その為にはアンタ等みたいなルールを破る危険因子は、潰さないと、ね?」

 

 

「咲夜、逃げて………!」

 

 

後ろから声が響く。

目を覚ました吸血鬼のようだ。顔をつかみあげられているこの状態から逃げるなんて、何の冗談か。そもそも、私が逃がすわけない。

甘いことを。

 

吸血鬼に向かって手を伸ばしたメイドを、そのまま無造作に吸血鬼の方向へ放り投げる。

まぁ、敬愛する主となら本望でしょう?

陰陽球を出して、刻まれた術式に霊力を練りながら込めていく。

 

 

陰陽玉の光の先で吸血鬼が立ち上がる。

 

「さ、くや……。私があなただけは助けるから、フランと、パチェと……美鈴を、お願いね?」

 

「お嬢様!私が盾とならねばならないのです!お逃げください!」

 

「私に逃げるだけの体力はもうない、分かるでしょう?貴女にはその力が残ってる。最後まで、けじめつけさせて頂戴?」

 

 

そう言い放つと吸血鬼はこちらに向き直る。

すると、表情を毅然としたものに直した。

そして、再び笑みを浮かべる。

 

 

「さあ、人間。私の……レミリア・スカーレットの首をとること、光栄に思いなさい?人には有り余る偉大な名誉、噛みしめることね」

 

「くだらない妖怪のくせに、最期はずいぶん立派なのね」

 

 

そう吐き捨て、霊力を込め終わった陰陽球を構える。

そして、結界を構成して、奴らを確実に消し飛ばすため威力を外に逃がさないように。

さっきからルールと口では言っているが、本当はただただ憎い。兄さんを傷つけておきながら、私の大切なものを壊そうとしておきながら。

 

自分は壊されたくないなんて。

 

 

許さない。

 

憎い。

 

 

……殺す。

 

 

陰陽球は私の心情と逆に、美しくまばゆい光を放ち、回転する。

その軌道は私の背中の後ろに光陣を作り出し、そこからいくつもの大きな七色の弾幕を生み出す。その一つ一つが奴らを消し飛ばせる熱量と力を放っている。

 

 

「じゃあ、死んで」

 

 

吸血鬼が息を飲み、構える。

そして、弾幕の制御を手放す。

 

 

 

 

 

すると、弾幕たちは結界へと飛んでいき、すり抜け、その秘めた暴威を辺りにまき散らし、光が世界を包み込む……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ことはなかった。

 

 

 

制御を手放した弾幕はその場にとどまる。

 

 

「ダメだよ、霊夢。それは、霊夢の仕事じゃないし、兄として、認可できない」

 

 

後ろから声をかけられてはっと振り向く。

そこに立っていたのは、伊織。

右腕は焼け爛れてみるに堪えない悲惨さ、左腕もズタズタで、とてもあの弾幕を制御できる余裕があるようには見えない。

 

腕だけでなく、その体には所々傷がつけられ、焼け焦げている。

幸いその整った顔に傷はないが、とても、とても。私にとって耐えられるものではない。私が早く、片付けておけば、こうはならなかったのだ。

 

 

そう思うと、自分への怒り、自分への憎しみが。アイツ等への怒り、憎しみが。ふつふつと、とめどなく、あふれそうなほどに沸き上がる。

その激情を無理やり押さえつけて、奴らへと向き直る。

こんなゆがんだ表情、とても兄さんには見せられない。

 

 

「なんで止めるの」

 

 

「祓うのはルール違反………霊夢がやることじゃない。霊夢がそんなつらいこと、する必要ないんだよ」

 

 

「伊織、処分の邪魔をしないで」

 

 

そう突き放すように言うと、兄さんは私の前に出て奴らを閉じ込める結界を解除する。

今も、兄さんは優しい笑みを崩さない。

 

 

まさか……殺すのが、辛いわけが。ない。

辛いのは兄さんのほうだろう。そんなに傷がついて、苦しんでもなお。

なぜそんな優しさを与えられるのか。

 

駄目だろう、そんなの。

私が兄さんに愛されたいんだ。傷つけているお前らばっかりがいつだって優しくされて、いつも兄さんは傷つけられる。

 

 

殺してやりたい。

兄さんに害をなすすべて。

 

 

「彼女らは殺そうとしたわけじゃないさ。そうだろう、現に俺は死んでない。吸血鬼である彼女らが本気だったら、俺はとっくに死んでいるさ」

 

「だから、彼女らは無罪だ。………後始末は、俺と紫がやるよ。今回もお疲れ様、霊夢。」

 

 

そう言って兄さんは吸血鬼のほうへと歩み寄り、自分の腕を差し出す。

そうして、何かを囁くと吸血鬼は兄さんの腕に噛みつき、血を吸い出す。

 

その行為を脳が認識した瞬間、私の体が反射的に奴を消してしまおう、始末しようと反射的に動く。

飛び出す寸前で抑え込み、代わりに唇をかむ。

上手く加減ができなくて鋭く鈍い矛盾した痛みととみに、口に血液の味の気持ち悪さが広がる。

 

 

ああ、嫌いだ。

 

 

 

正直に兄さんに伝えられない私も。

 

 

 

自らを顧みない兄さんも。

 

 

 

それに甘えているばかりの奴らも。

 

 

憎い、憎い、憎い憎い憎い。

なんで奴は、奴らは兄さんにあんな事をしておいて、怪我をさせておいてのうのうと兄さんから血を奪える?

だめだよ兄さん、そいつらは敵なの。

 

祓わな(殺さな)きゃ、消さな(殺さな)きゃダメ。

でも、それはできないのに。

 

 

その葛藤のうちにも兄さんから血を吸い取り、ずたずたになったもう片方の手からは真っ赤な血液が流れ落ちる。

また、兄さんが傷ついている。それを自覚して、また黒い感情が出てくる。

守れなかった。

もっと私が、私が。

 

効率よく始末できていれば、あんな奴らが今兄さんから血を奪うこともない。

 

 

祓って(殺して)おけば、今兄さんが奪われる必要はなかったはずだ。

次からはちゃんと、祓わ(殺さ)ないと………。

 

 

 

そうすると兄さんが悲しむだろうか?

 

 

それでも、兄さんのためだ。

守るために、もう手段は選んでいられない。

 

 

 

 

 

 

内で燃える感情をひた隠しにし、音もなく飛び去る。

 

 

 

 

飛びながら額を抑え、感情を落ち着ける。

暴れる殺意を抑えるうちに、言葉が漏れ出す。

 

 

「殺、さ、なきゃ。」

 

 

その言葉がついに出る。

驚いて、のどを抑え、目を見開く。

スルリ、とハマった。

 

 

何度も殺す、と心の中で思っても、ずっとできなかった。

 

口に出してしまえば、躊躇もない。

兄さんが悲しむからと、今までどこか躊躇っていた。だから、止めをさしきれなかったのか。兄さんはそれを優しさというけれど………

 

 

 

 

兄さんを傷つけるやさしさなんて、いらなかったのだ。

 

 

「…………はは」

 

「そう、そうよね……!」

 

 

 

 

もう優しさなんて、必要無い。

 

 

 




どうしても書きたい話があって。
ちなみに、異変の間の話はなしで次の異変入ります。


次は幕間。

「吸血鬼が本気で殺すつもりならもう俺は死んでる(本心)」


んなわけない。

兄上の戦う頻度は?(この先の異変でどれくらい戦うか)

  • 進み続けろ、曇らせタグに報いるために
  • 少なくして
  • お前がやりたいようにしろ
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