そこで彼女はお守りとしてある物を持っていくが…。
トレジャーハンターであるガンド・シーフォリアは様々な噂がある遺跡へ「お宝」を探しに向かっていた。
そこで彼が見つけたのは…。
そして、2つの世界で形の違う狂気が動き出していた。
「──大丈夫、約束するから」
「──その内じゃダメなの!」
※こちらは読み切り版です、連載版とは多少変動がある事をご了承下さい。
ある時、2つの
その2つは魂も、姿も、そっくりだった。
それぞれの世界はその2つに役割を求め、与えた。
そして、その2つは──
昼食の後の休み時間。
教室の自分の席の机の上で軽く両腕を上下させたまま、自分の腕に顔を乗せて昼寝している生徒が1人。
濃紫の髪をホーステールのツインテールにした、前髪部分に白い細めのカチューシャと羽を思わせるヘアピンをつけた彼女はもうすぐ5限が始まるかもしれない時間だというのに少し寝息を立てていた。
教室の両扉から校庭や図書室などから、同クラスの他の生徒達が戻ってくる。
尚も気づかない彼女に準備を終えたらしい薄桃の髪を黄色いリボンで一つ結びにした緑色の目の生徒が彼女に近づき、次の授業で使う予定のノートを丸めたそれで多少加減はしたものの、思いっきり彼女の頭を叩いた。
その痛みで目が覚めた彼女は寝ぼけなまこで自分の頭を叩いた生徒を見る。
準備をしていた他の生徒達も、その音に遅れて気づいたのか、少し2人を見ていたものの、そう経たずに準備に戻った。
「いっ……?!」
「おはよう、
「
「これでも手加減したんだから。ほら、用意する」
「ねむい…」
濃紫のツインテールに青い目をした少女──
「次、教室移動。音楽室ね」
「!…じゃあ、
「急に目覚ますじゃん」
「あの人の授業、好きだから」
無音達のクラス担任であり、音楽の担当教師。
教職になる前は世界的に有名な声楽家だった為、教師になると本人が現時点での最後のコンサートでそれを明言した時はネット上も含めてざわついていたが。
「おーい、お前ら。そろそろ鐘鳴るぞ」
「今日は歌の歌唱テストの日だし、なるべく万全で受けたいよな」
「
まだ準備に手間取る無音となんとも言えない顔をしていた絢に声をかけたのは、薄紫の髪に水色の目の男子生徒──
「そりゃ、2人が何かと遅くなりがちだからな」
「無音がマイペースなのは今に始まった事じゃないし」
「あれ、
「彼奴等ならもう着いてるだろ」
「おっけー。…ほら、行くよ!」
「首の辺り引っ張んないで〜」
絢に首根っこを掴まれつつ半ば引きずられて音楽室に向かう無音の後を直人と龍馬は多少早足で追いかけた。
*
──別の世界
足場の悪い山道を進む男性が1人。
紺色の髪に水色の目の男性──ガンド・シーフォリアはある程度進むと適当な場所に座り、荷物から水筒を取り出して水を飲む。
「…こーんな
彼はトレジャーハンターである。
今回は冒険者やハンターなどから噂として回っている場所に彼は向かっていた。
その名をソヌス遺跡。
金銀財宝がある、霊が出る、とんでもなく強い怪物がいる、一度入ったら抜け出せなくなって最後には死ぬ、などなど上げればキリがない。
この遺跡に関する噂だけで1本なにか書けるんじゃないかと思いながら、水筒をしまい立ち上がって進む。
どれくらい進んだのか忘れるほど歩き、山を超えた頃にそれらしきものが見えてきた。
だが、よく見ると入り口は塞がれている。
「どうしたもんか…いや待てよ」
彼は入り口近くにまで辿り着くと一度荷物を置いてから、入り口を塞ぐ岩のようなものを見つつ、それに向かって人差し指を向ける。
指先に熱量が溜まり、それはやがて小さな弾丸のような形になる。
が、彼はまだ大きくしようとしているのか、形成を止めない。
少しすると、指先の
形成が止まり、まだ熱を纏ったままの弾丸を彼は躊躇いなく眼前に向かって放った。
放たれたガンドは岩を容易く砕き、多少壊れてしまってはいるものの、扉が開いていた。
彼はそのまま奥へと足を進める。
道中、怪物やそれらしいものにも遭遇せず、意外なほどあっさりと彼は最奥部に辿り着いた。
そこにあったのは。
「…棺?」
しかも遺跡なら石棺かと思っていたのだが、棺の中にいる存在が見えるようなガラスにも近しい素材だった。
疑問が残るものの、彼は棺へゆっくり近づいた。
「──っ?!?」
棺の中で眠っていたのは濃紫の髪をした少女。
幸い、彼女の体には首の下から足にかけて白い布がかけられていた為、目に毒な事態は避けられている。
が、彼女が目覚めれば色々と面倒な事になる。
何か服はないかと荷物を確認したものの、流石に女性に近しいシルエットのものはない。
そもそもサイズが合うかすら怪しい。
ふと、棺の下の方に当たる位置に宝箱のようなものが置いてある事に気づき、開けようと試みる。
が、何をやっても開かない。
先ほどのようにガンドを弱めの威力でぶつけてみたり、適当な属性の魔法攻撃を鍵穴部分に直撃させたり、ルーン文字を当てたり、物理攻撃をしたりしても。
「…とりあえずどうしたものか…」
少女をどうにかする方が先かと思い、おもむろに棺に触れる。
同時に棺にヒビが入り、それは少しずつ広がっていく。
そして、ヒビが割れて人1人が起き上がれるほどの穴が開くと棺の中にいた少女は起き上がり、辺りを見回した後にガンドを見る。
その目はぼんやりとした、光の薄い赤い目をしている。
「?」
「あー、まあそんな反応にもなるよな。…?」
少女が見たのは右側にある少し大きな鏡。
鏡面が僅かに揺らいだのを見た少女は再びガンドに目線を移して話す。
「びっくりしてる?」
「…なんで分かった…???」
その問いに少女は答えず、棺から出るとかけられていた白い布を軽く羽織り、先ほど彼が苦戦していた宝箱を難なく開ける。
中にあったのは表面に虹色の虹彩がある紫がかった大型のアイテムと、簡易的な服。
彼女は服を着た後、アイテムを持ちつつガンドをじっと見る。
「…なんだ」
「……おとーさん」
「待てって?!」
少女の言葉にガンドは困惑しつつも考える。
一番可能性が高いのは鳥の刷り込み現象で自分を
ガンドが頭を悩ませているのを気にも止めず、少女は自分の足元にあった棺の破片を1枚手に取る。
幾ら服を着たとはいえ、素足で素手だ。
「おい、あぶね──!?」
破片が鏡のようになり、それに映ったのはガンドが遺跡に来るまでの足取り。
それを見終えた少女はガンドに近づき、彼の顔を見上げる。
「…ここまで来たの?」
「あぁ」
「1人で?」
「そうだが」
「何のために?」
その質問に少し口を噤んだものの、ガンドは口を開けた。
「ちょっとしたお宝探しだよ。俺はトレジャーハンターだからな」
「…お宝…」
「…そう言うお前は名前あるのか?俺はガンド・シーフォリアって言うんだが」
「名前…」
その言葉に少女はふるふると首を振った。
どうやら名前が無いらしい。
「ん〜…なら……」
棺の右側にある少し大きな鏡を見つつ、宝箱の近くに生えていたブルースターに気づく。
「──ミラージュ・ブリュースターとかで、どうだ」
その言葉に少女は頷く。
少女が持っていたアイテムを荷物入れの一番上に一旦入れ、少女──ミラージュ・ブリュースターを抱える。
「?なんで?」
「幾らなんでも、俺が来た道を素足で歩かせるわけにはいかんだろ。町に着いたらちゃんとした服買ってやるから」
「…ん、うん」
ガンドに抱えられたミラージュは彼と共にその場を後にした。
*
一方、無音達の世界。
5限目が終わり、帰りのホームルーム前。
「無音〜。今度星歌達と一緒にちょっと話した曰くつきのとこ行こうかって話になってるんだけど、どう?」
「…動画のネタ?」
「そーそー」
無音に話しかけている緑色のアンダーツインテールに紫色の目の生徒──
ユリアは顔出しこそしていないものの、演奏系の配信者としての顔もある。
本人も噂好きな為、演奏以外の動画のネタ探しも兼ねて色々と調べているとか。
「音声加工は後でするつもりだし、ガヤ担当欲しくてさ」
「ん〜…今日行くわけじゃないよね?」
「うん、予定合わせて行くつもり」
彼女曰く、決まっているメンバーは
そこに無音を入れて6人。
「…分かった、お父さんに相談しとく」
「よろしく。…記憶の事とか、私ら気にしてないから、ね?」
「…うん」
無音は記憶喪失である。
見た目こそ高校生であり、こうして通えてはいるものの、養父である
無音達が通っている双音高校は普通科高校ではあるものの、倒れかかっていた私立の音楽制作系の専門学校を接収した為、音楽に関するカリキュラムが多い。
近年ではそれ目的で入学を考える親や生徒もいるらしい。
「…なんで私には本当の親も、記憶もないんだろ」
ホームルームが終わるかと思われた頃、ユリアが黒いミディアムヘアに桃色の目をした女性──担任である皐月に対して
「それじゃ、みんなから気をつけて帰るように」
皐月の言葉とほぼ同時にチャイムが鳴り、生徒達が帰って行く。
無音も同じように帰ろうとするも、星のヘアピンを前髪の左側に着けた茶髪のロングヘアに青い目の生徒──
「無音〜」
「?」
「帰り、ちょっと寄り道してかない?」
その言葉に無音は頷いた。
星歌と共に来たのは帰り道にあるゲームセンター。
星歌がその中にある音ゲーの
「なんで、急に?」
「なーんか浮かない顔してたから」
「…出てた?」
「無音、分かりやすいというか顔に出やすいし」
彼女が躊躇いなく選んだのは
少しの
「そりゃ勿論」
「あんまり気にしてないつもりなんだけどなあ」
「考えすぎはよくないよ〜」
会話をしながらも、彼女の指先は画面の上から流れてくるリズムパネルをタップする。
その判定の悉くが「PERFECT」と出る。
「それに直人達や絢だって、別に無音が記憶喪失だから一緒にいるわけじゃないだろうし」
「それはそう、なんだけど…」
「私だって本当は別の事したいけど、親の判断で双音に来てるしね。今はどうにもなんなくても、その内なんとかなるって」
「そういうものかなあ…」
話している内に星歌は1曲終える。
画面に映る評価は当然のように
彼女は2曲目を選択し、操作を始める。
「そういえば、ユリアの言ってたやつって行くの?」
「お父さんに相談してからだけど」
「…もしかしたら記憶に関する何かが見つかったりするかもだし、行ったら?私も行くつもりだし」
「ん、うん」
その後、星歌に自販機で買ったコーラを奢り、帰路に着いた。
「ただいま〜」
「おかえり」
無音を出迎えたのは茶髪に赤縁の眼鏡をかけた紫色の目の男性──
無音の養父であり、個人経営の雑貨屋をしている。
「今日はどうだった?」
「いつも通りだよ?…ユリアに動画にする撮影のガヤ担当してって言われたけど」
「撮影?」
「なんか曰くつきの所に行くつもりだって言ってた」
「行く分に構わないが、気をつけてな。…あと」
「わっ」
紫水が無音に渡したのは灰色がかったカセットテープ。
「お守り代わりに持って行きなさい。君が店先で行き倒れていた時からずっと持っていた物だし、あれば多少は落ち着くだろうから」
「ん、分かった。ありがとう」
「明日も早いし、用意を済ませたらお風呂に入っておいで。その間に夕飯を作っておく」
「はーい!」
カセットテープを持ちつつ、自分の部屋に行った無音を見て、紫水はキッチンへと向かった。
*
──ミラージュの世界
ガンドの自宅で、ミラージュは町で買ってもらった服一式に改めて着替えていた。
と言っても薄い赤の長袖ワンピース、白い靴下に紫色の運動靴という、本人なりに考えられる範囲での服装。
ミディアムとロングの中間の長さをしていた濃紫の髪は上で一纏めにした。
「…どうだ?」
「ん、いいかも」
「そりゃ良かった。幸い、手持ちの金がそこそこあって俺としても良かったよ」
彼女が持っていたアイテムは彼女の傍に置かれている。
よく見るとそれには2つの装填スロットと、全体的に薄らと五線譜のような模様に近しいものが見える。
「ミラージュ、なんでお前あんなとこにいたんだ?」
「…分かんない」
「それもそうか」
さっき彼女に聞いた事も気になったが、それよりも気になっていたのは彼女が遺跡にいた時から使っていた能力だった。
「なあ、あの能力って一体──」
ガンドが聞こうとしたタイミングでドアをノックする音がした。
それに気づいたガンドはため息を吐きつつ、そちらへ向かう。
「ちょっと待ってろ」
「分かった」
ベッドの上に座るミラージュを一旦一室に任せ、玄関先へ。
ドアを開けると赤い髪を下の方で結んだ黒い目の男性がいた。
「…なんだ、ダン。支払いなら先月分
「君が例の遺跡に行ってたって聞いたから、それと…今月分の支払い催促」
「あのなあ、こっちは職業柄収入安定しないんだぞ?そんなすぐに出せねえって」
「それは後で詰める。…サポートデバイスは持ってるの?」
「俺が魔術を扱えるからこそ、それは扱えないって分かって言ってんのか」
「…魔術と科学技術は相性悪いんだっけ?」
「俺に聞くな、俺に」
赤い髪を下の方で結んだ黒い目の男性──ダンと話つつ、ガンドは居間へ。
ダンはガンドと懇意にしている武器商人であり、同郷の出身。
「何も催促と揶揄いに来ただけじゃないだろ。…本命は遺跡に関する事だろうが…」
「そうそう。で、どうだったの?」
「あー…」
ふと居間の扉の少し大きめに開いた隙間からミラージュが2人を見ていたが、少しすると部屋に戻ったように見えた。
「…可愛い子じゃないか」
「お前なぁ〜…!」
「でも、遺跡にいたって事は何かしらの事情があったのかな」
「まあ、多分そうだろうな。…でも」
「何?」
「…彼奴…。ミラージュって俺が名付けたんだけど、どうやら俺の事を親だと思ってるらしくて」
「刷り込みってやつ?」
「そうだろうな」
そんな会話をしていると、恐る恐るミラージュが入ってくる。
「どうした?腹減ったか?」
ガンドの問いを気にせず、ミラージュはダンの近くに行くとダンの心臓の辺りに触れる。
「?」
2人が困惑しているとミラージュは2人を交互に見て言った。
「2人とも、楽しそうな音楽が聴こえるね」
「!?」
ミラージュは少し笑みを見せた後、再び部屋へと戻っていった。
それを見たダンはミラージュの出ていった方を見ながら言った。
「なんというか…不思議な子、だね?」
「俺は初めて会った時からそう思ってるよ…」
その後ガンドはダンに支払いに関して詰められたものの、それを躱してダンを帰したのだった。
*
──無音達の世界
─夕方
公園で泣いている子供が1人。
子供はスーパーで玩具付きのお菓子をねだったのだが、母親にいらないと無理やり元の売り場にそれを戻された挙句、周囲に聞こえる声でそれに関して怒鳴られたのだ。
その後子供は機嫌が悪くなった母親にどうにか必死についていったものの、途中で見失ってしまい、混乱やら何やらで泣き続けている。
子供にとっては理不尽な怒りであり、何故母親にあそこまで責め立てられたのかが理解出来なかった。
「だいじょーぶ?」
「…?」
子供に声をかけたのはプラチナブロンドの髪をかなり上の方で一つ結びにした黄緑色の目をした女性。
「泣いてたから、どうしたのかなって」
「おかあさんにおこられたの…。おかあさんみうしなっちゃったし、うぅ…」
「怒られちゃったから泣いてるの?」
そう言うと女性は子供と同じように泣いているような動きを見せる。
それに多少の親近感を覚えた子供は涙を服の袖で拭って女性に経緯を拙いながらも話始める。
経緯を聞いた女性は子供の話に相槌を打ちつつ、笑顔で言った。
「──じゃあ、そんなに辛いなら1回忘れちゃおっか」
「ぇ?」
子供が答えるより早く、女性は子供の胸を思いきり自分の腕で貫いた。
いや、正確に言えば
現に子供は驚きつつも、僅かに意識が残っている。
「ん〜…えいっ」
女性が子供の胸から自分の腕を抜くと子供は倒れる。
と言っても、亡くなっているわけでなく一時的な意識喪失と部分的な記憶喪失が起こるだけ。
「…フリオーソ…。激情的に、とかだっけ」
女性はそう言いつつ、手元に発生した曲想記号「
女性は世間一般ではテロ組織として扱われている組織「アタナシア・ペルペチュア」の幹部格。
指名手配もされているが、彼女にとってそれは
そもそも幹部格の顔が世間に割れていないのは
女性は少し移動し、ある男性を見る。
目線の先にいたのは苛立った様子のスーツを着た男性。
彼は部下の進捗が遅い事が原因で苛立っており、部下のいるプロジェクトグループ全体を叱りつけたばかりだった。
「きーめたっ」
女性は男性の背後に音もなく近づき、先ほど
同時に男性が悲鳴を上げる暇もなく変化していく。
全体的に馬を思わせるディテール、全身には五線譜のようなものが見え、片足には「Furioso」の筆記体が見える。
男性が変化した異形──フリオーソリフレインを見ながら女性は呟いた。
「それじゃ、怒りのままに思いっきりやっちゃって?」
その言葉を聞いたフリオーソリフレインは馬のような声を上げ、思いっきり地団駄を踏み、地面に大きなヒビが入る。
それを皮切りにフリオーソリフレインは周囲の人間を襲い始めるが、女性はそのまま姿を消した。
*
──ミラージュの世界
ミラージュのいたソヌス遺跡の近くで双眼鏡で遺跡を見ていた女性はその手を下ろし、ため息をつく。
女性は長らくソヌス遺跡を学術的に研究していた人物であるものの、戦闘能力があまりない為、内部に入る事も出来なかった。
が、無理やり遺跡の内部に入った
女性にとって、その光景はある種の屈辱だった。
自分が長年研究してきた遺跡にあった
「私にも戦える力があれば…」
そんな彼女の肩を突っつく男性が1人。
「っ?!」
突然の事に動揺した女性が背後を振り返るとそこには少し長めの銀髪に紫色の目をした、多少貴族のようにさえ見える服を着た男性がいた。
「やあ、何か悩み事?」
「だ、誰ですか貴方!?」
「今はそんな事いいでしょ?それより、悩み事があるなら聞こうか?」
「あ、貴方のような人に話す事なんて…」
「いいからいいから」
男性の雰囲気に押され、女性はいつの間にか少しずつではあるが話してしまっていた。
「ふーん、なるほどねえ…」
「私にも、もっと力があれば……」
「研究者なんだっけ?…じゃあ──」
男性が女性に対し、手の中に発生した光球を女性にぶつける。
「ぁ、ぐっ…?!」
「貴女に植え付けたのは記憶と言葉の女神、ムネモシュネーの因子。研究者である貴女には馴染みやすいかと」
そう言っている男性の声は最早女性には聞こえておらず、その姿は変わっていた。
胸部中央には木星に似たコアがあり、全身はパピルスにも羊皮紙にも見える。
頭部には悪魔の角のようなものが見え、全身には細かく書かれすぎて読みきれないが様々な文字が書かれている。
「ムネモシュネーゴッデス…ってところかな。それじゃ、頑張って〜」
男性はそう言うとムネモシュネーゴッデスを少し見てから指を鳴らして姿を消した。
*
──無音達の世界
─数日後
放課後、それぞれ準備を終えた無音達が集まったのはとある古びた屋敷。
撮影担当のユリアはスマホを撮影アイテムにしたようだが、本人曰くこれでも演奏の撮影とは別のいい画素数のものらしい。
万一の際、メンバーの中では比較的動ける方である龍馬が出来る範囲で対処することになった。
屋敷の中に入る際、無音は紫水から渡された灰色がかったカセットテープを持ちながら、他の面々と共に先に進んでいた。
「にしても、本当にこう…雰囲気があるというか…」
「何、びびってるの?」
直人の言葉に絢が反応するが、直人はそれを否定するように少し語気を強める。
「別にそういうわけじゃない。…ただペルペチュアの事もあるし、あまり暗くなりすぎない内に帰れるのがベストだと考えてはいたが」
「あー、なんだっけ…。指名手配されてる…」
「言っても今のところは日本だけらしいけど…活動してるらしいって言われてるのは」
アタナシア・ペルペチュア。
どちらも永遠や不滅を意味する単語ではあるものの、その実態や足取りも含めて一般に伝えられている情報は制限されている。
ただ、それと関連していると言われているのが。
「怪物の噂?」
「なんか聞いた事あるな〜それ」
ペルペチュアの所属員が生み出していると言われている怪物の噂と、それに関連しているらしい部分的な記憶喪失や一時的な意識喪失の噂。
最も、無音達のような学生の身の上で知る事が出来るのは大抵真実を謳ったガセのようなもの。
真相は未だに分かっていない。
「…?」
「どしたの?」
無音がふと不思議そうな顔をした事に気づき、星歌が話しかける。
無音がお守り代わりに持っている、紫水に拾われた日から持っていたあのカセットテープが薄らと光を纏っていた。
流石にこれは他の面々も反応する。
「幽霊探知的な?」
「それはない」
「多分違うと思うだろ」
「これくらいで出て来られても…」
「それはそう」
ユリアの言葉に突っ込む
「…幽霊なら幽霊でありじゃない?」
「おいサラッととんでもない事言ったぞ」
「もしかして、そう言うの平気なタイプ?」
「ネタ的にはあり」
無音の爆弾発言に困惑する直人、思わぬ方向からの発言になんとも言えない反応を見せる星歌、それに明るめの反応を返すユリア。
その後も多少騒ぎつつ、一行は奥まで進んだが特にそれらしいものに遭遇する事はなかった。
ユリアが一度、スマホの録画ボタンを止めようとしたその時。
大きな一撃が近くの窓ガラスを壊す。
全員驚きながら慌てて回避するが、割られた窓ガラスから現れた馬のような姿をした怪物にユリアは別のスマホのカメラを向けようとするも、録画用スマホの録画を咄嗟に直人が止める。
「気持ちは分かるが、撮ってる場合じゃないだろ!」
「…っ!」
怪物に龍馬が攻撃を仕掛けるも、怪物はびくともしない。
龍馬が怪物相手に粘っている間、直人は他の面々を移動させようとする。
が。
「…なに…?」
無音の持つ例のカセットテープの纏っている光が、先ほどより遥かに強くなっていた。
*
──ミラージュの世界
ガンドがミラージュを保護してから、1週間ほど経った頃。
外の世界に慣れさせる目的も兼ね、近くの広場の中にある市場に2人は来ていた。
売られているものをガンドが説明しつつ、時々購入し、ミラージュがそれに相槌を打つ。
購入の際、彼が贔屓にしている精肉店の店員から聞いたのはある噂。
人々の記憶に不自然な
それと前後して、女神のような姿をした怪物を目撃した噂があること。
「このイニティウムは
「言ったってもハンターの連中もいないわけじゃない、基本的に彼奴等がなんとかするだろ。…ん、金な」
「あいよ」
購入を済ませたガンドは近くに待機させていたミラージュを呼ぼうとするが、2人の間を狐のような
そのデバイスをミラージュが拾い、辺りを見回す。
「ごめん、その子…」
「ん、どうぞ」
黒いリボンと同色のカチューシャをつけた、茶黒のツーサイドアップに黄緑色の目の少女。
その少女を後から白銀の髪に赤い目の青年が息切れしながら追いかける。
少女にミラージュは狐のデバイスを返し、不思議そうに2人を見る。
「同じ班なんだから、先に行かないで…」
「2人行動が前提なんだから、そんな心配しない」
「けど…」
「?見ない顔だな」
「学校の校外学習というか、そんな感じのです…」
「どっから?」
「日本から。2泊3日で」
「ご苦労さん、気をつけてな」
青年を多少引っ張りつついなくなった少女を見送り、ガンドはミラージュの方を見る。
「大丈夫だったか?」
「うん」
「お前はデバイスに触れてもなんともないって事は俺より魔術の適性は低いのか…?」
「?」
「いや、こっちの話だ。…さっきの2人が学生なら、学校側がイニティウムを選んだのは無理もないか」
「そうなの?」
「この間教えてやった事は覚えてるか?」
「ん、うん」
2人がいるイニティウムの他にラピス、ラクリマ、インサニアと呼ばれる3国があり、これら4つの国がある大陸をオーリス地方と呼称する。
イニティウムは周辺の3国と取引こそしているものの、不可侵条約を結んでいる為に国家戦争になるようなものは国として有していない。
代わりに3国からそれぞれ技術提供や食糧支援、パスポートの緩和措置などを受けており、住民であればその恩恵に預かる事が出来る。
特にラピスからはイニティウムに有事があれば国家として防衛を行うという取引をしている為、国民からラピス側に対する信頼は他の2国と比較して高い。
国としての立地は3国に囲まれる形であるものの、イニティウムが比較的安全と言われる所以がこれである。
ラピス。
オーリス地方では一番土地を多く持つ国であり、4国の中では軍事的にも強い力を持つ。
ラクリマとは政治面で、インサニアとは水面下で牽制し合っている為、イニティウム以外の国とは折り合いが悪い。
エルフが多いのもこの国ではあるが、戦争の火種になる可能性も0ではないらしい。
ラクリマ。
ラピスに次ぐ規模を持つ国で、主に寒冷地に土地を持つ。
その為、育つ作物に限界があり、イニティウムから貿易で農作物を得ている。
が、代わりに工業が発展しているのもあってか、製造業にはかなり強い。
土地柄も影響してなのかは不明だが、獣人やそれに近い種族が多い。
ラピスの政治的腐敗を4国の中で指摘する事が多いそうだが、それはラクリマ自体に主義思想として存在している騎士道が由来らしい。
インサニア。
ラピス、ラクリマ、イニティウムに比べて土地が少なく、いわゆる亜人と呼ばれる種族が多い。
人間に近しい見た目の亜人が殆どが住民である為、そう言った法律も整備されている。
貴族制かつ盟主政治体制ではあるものの、
最北には昼夜逆転したも同然の危険な土地もあるとの事だが、そこはガンドも行った事がないと言っていた。
「大体覚えてるみたいだな」
「うん。おとーさんが魔法をべんきょーしてたのは違うところ?」
「それは追々話す。…なんだ?」
広場の入り口の方から、悲鳴が聞こえた。
2人とも慌てて其方へ向かう。
そこにいたのは悪魔の角のようなものが見える、女神のような怪物。
「来い!
ガンドの詠唱と共に現れたのは内側に燃え盛る炎を持つ、無数の枝で構成された
見方によっては巨人のようにも見えるそれは怪物に攻撃を仕掛ける。
それとほぼ同じタイミングで、ガンドの荷物の中にあったあの大型アイテムが勝手にミラージュの手元に飛んでいく。
ミラージュがそれをキャッチすると、彼女の手元に2つの音楽記号が発生する。
発生したのは
その2つの記号は僅かながらに光を纏っていた。
「なに…?」
怪物と戦っているウィッカーマンを見ながら、ミラージュは困惑していた。
*
──無音達の世界
どうにか龍馬が怪物に応戦して時間を稼いでいたが、それも限界を迎えようとしていた。
「…っ!」
「龍馬!」
怪物に吹き飛ばされた龍馬を直人が咄嗟に支える。
受け身を取った為、ダメージは抑えられたものの、誰かに支えられなければ逃げるのは間に合わない。
それを見ていた無音は例のカセットテープを片手に持ちながら、怪物に蹴りをぶつける。
「無音!?!」
「2人は今のうちに逃げて!」
「何言ってんだ、お前まともに心得もないだろ…!」
「でも、直人が龍馬を支えて逃げてたら多分追いつかれる!」
幸い、絢と星歌は先に逃げ出せていた。
ユリアは自分が計画者という事もあり、全員が逃げ切るまで入り口で待機している。
だが、負傷している龍馬はそう上手くいかない。
それならと無音は自ら時間稼ぎの囮になる事を選んだのだ。
「死ぬ気か?!」
直人の言葉に無音はまるで当然の事のように返した。
「──大丈夫、死なないよ。約束する」
──ミラージュの世界
ミラージュは怪物に攻撃するウィッカーマンを見ながら、自分に何が出来るかを考えていた。
ウィッカーマンと交戦しつつも、逃げ惑う人々を糸で拘束しては目も当てられない姿にしていく怪物。
それを見ている事しか出来ない自分に、彼女はどうしようもなく
何も知らない、何も分かっていない自分は見ている事しか出来ないのか。
空っぽのはずの
「…おとーさん」
「ミラージュ、お前は離れとけ!せめて、時間稼ぎ出来ればハンターの連中がその内…」
「──その内じゃダメなの!!」
「っ?!?」
今までとは打って変わった様子のミラージュに流石のガンドも驚愕した。
明確な強い意志のこもった光が見える、赤い目。
最初に出会った時とは明らかに雰囲気が違う。
それに動揺した事もあり、一瞬集中力が途切れてウィッカーマンが僅かに崩れてしまい、同時に怪物の攻撃が重なってウィッカーマンの姿は霞と消える。
*
無音の持っていた例のカセットテープの光が弾け、青みがかったそれに変わり、どこからともなく発生した青みがかった磁気テープが彼女の腰元に巻きつくとそれは虹色の虹彩がある紫がかった大型のアイテムの形を成し、そのまま青い帯が装着される。
ミラージュは持っていた虹色の虹彩がある紫がかった大型のアイテムを躊躇いなく腰に当てると同時に赤い帯が装着される。
そして、同時に音声が響く。
《ラベリングドライバー》
そのまま無音は青みがかったカセットテープを、ミラージュは透明なト音記号と藍色のフォルテッシモをそれぞれ装填した。
《
《
無音の周囲を青みがかかった磁気テープが、ミラージュの周囲を音符のない五線が飛び交う。
2人はドライバーにあるリールを操作し、回転させる。
操作の直後、同時に2人はその為の言葉を無我夢中で言った。
「──変身」
「変身っ!」
《
《
無音の周囲にある磁気テープが、ミラージュの周囲にある音符のない五線が。
それぞれの元に集束し、それは
無音は青いアンダースーツを纏い、その上に指揮者を思わせる濃紫色の装甲を装着。
ミラージュは赤いアンダースーツを纏い、その上に歌姫のドレスを思わせる藍色の装甲を装着。
それぞれ、無音は濃紫色のカササギのような仮面、ミラージュは藍色のセイレーンのような仮面が装着。
最後に、無音の仮面にある複眼は睡蓮のような形状となって虹色に近い色に光り、ミラージュの仮面にある複眼はダイヤモンドのように白に近い色となって光る。
《──
《──
《──
《──
*
──無音達の世界
無音が変身したネレスは馬のような怪物──フリオーソリフレインに蹴りを食らわせ、フリオーソリフレインは大きく後ろに吹っ飛ばされる。
「無音、なんだよな…?」
「…今のうちに!」
「っ、分かった…!」
直人は龍馬を支えながら、ドアの方へ。
3人が遅かった事を不審に思ったのか、3人の様子を見に来ていたユリアが直人や龍馬と合流し、他の2人がいる場所まで送った。
が、直人と龍馬を送った後、ユリアは無音が来ていない事に気づき、普段使いのスマホの録画カメラをオンにしたまま、2人の来た道を戻っていた。
「っ?!」
カメラと彼女の目線の先には。
ネレスとフリオーソリフレインが拮抗する、攻防の光景。
ネレスはそれを受け身を取る事でダメージを抑えつつ、迫ってきたフリオーソリフレインの鼻に当たる部分を片手で押さえつける。
フリオーソリフレインはジタバタと
その後を追い、その場からいなくなった
「本当に、無音…?」
*
──ミラージュの世界
「…なんだ、あれ…?」
ガンドが困惑している中、ミラージュの変身したネレスは女神のような姿の怪物──ムネモシュネーゴッデスに向かって駆けていく。
ムネモシュネーゴッデスは口部を僅かに動かし、「クルナ」「イナクナレ」の文字が見える光球をネレスに放つが、それを避けられて光球は近くの地面や建物に衝突。
光球が衝突した場所はクレーターや崩壊が発生している。
「嘘だろ…。…っ!」
ガンドはその光景に動揺はするものの、ムネモシュネーゴッデスと戦っている
石に書かれているのは
火のルーン石から展開された炎がムネモシュネーゴッデスを襲い、ネレスは一瞬ガンドの方を見る。
「アシストくらいはやる!思いっきり突っ込め!」
ネレスはその言葉に頷き、再びムネモシュネーゴッデスに回し蹴りを食らわせた。
*
「というか無音はどうしたの?」
「それが彼奴、急に様子が変わって…」
星歌の問いに直人が答える。
どうにか無音以外の面々は入り口付近で集合する事が出来ていた。
その直後、どこからか転がされたフリオーソリフレインが星歌達を視界に捉える。
「っ?!」
「やば──」
フリオーソリフレインは一声鳴いて襲い掛かろうとするが、その前に
「無音、なんだよね…?」
絢の問いに
「本当にしつこい…」
だが、あまりダメージは与えられていない。
その状況に
「流石に決定打がないと…」
「──あっ」
異なる世界で考えが
それぞれドライバーのリールを操作する。
それを手に取り、それぞれ先攻を取った。
*
──無音達の世界
《
「え、武器…っ?!」
「マジか…!」
驚いている星歌と龍馬の横でユリアは普段使いしている録画モードのスマホのカメラでネレスとフリオーソリフレインの戦いに
武器形成に動揺したフリオーソリフレインへ、ネレスのレイピアによる刺突攻撃が直撃。
連続して繰り出される刺突にフリオーソリフレインは思うように攻撃も防御も出来ず、明らかに押されていた。
フリオーソリフレインは隙を見て近づこうとするも、その際に腹部に蹴りを食らい、地面に倒れる。
*
──ミラージュの世界
《
「杖…?」
多少困惑するガンドを気にせず、ネレスはムネモシュネーゴッデスに向け、軽く持った武器を動かす。
武器の先をムネモシュネーゴッデスに向ければ音符型の光弾が飛び交い、少しの間を置いてムネモシュネーゴッデスにそれが当たる。
今度は武器を4拍子の指揮の振り方で動かした。
武器の先から現れたのは音符のついた五線譜のエネルギー。
それをネレスはムネモシュネーゴッデスに向けて放つが、ムネモシュネーゴッデスは回避しようと糸を展開する。
が、それを五線譜のエネルギーが全て切り刻み、ムネモシュネーゴッデスをそのエネルギーが拘束する。
*
どうにか起きあがろうとするフリオーソリフレイン。
五線譜のエネルギーに拘束され、脱出を試みるムネモシュネーゴッデス。
が、
《
10回ほど回した後、それぞれの足先に濃紫色と藍色のエネルギー、青みがかかった磁気テープと五線が集束していく。
持っていた武器を右腰に
そして、
《
《
爆発が起きた後、リフレインとゴッデスになっていた人物は気絶した状態で倒れる。
フリオーソリフレインになっていた男性から赤みがかったカセットテープが出てくると
「Furioso」は抽出されていた子供に戻り、子供はぼんやりと目を覚ます。
ムネモシュネーゴッデスだった女性から、青灰色の「
それを確認した2人はそれぞれ変身を解除した。
*
──無音達の世界
フリオーソリフレインになっていた男性を近くのベンチに寝かせた後、星歌達は人の多い場所に移動していた。
「助かったのはいいんだけど…無音、さっきのって何?」
「いや、私にもさっぱり…」
絢の問いに無音が困惑しながら答える。
先ほどまで着けていたドライバーはいつの間にか青みがかったカセットテープの中にテープとして収納されていた。
「ていうか、龍馬は大丈夫?」
「若干挫いたとは思うが、病院行くほどじゃない」
「それならいいんだけどね」
星歌の言葉に龍馬は自分の足首の方を見つつ返した。
出来れば先ほどの怪物も含めて状況を把握したかったが、時刻は19時前。
翌日にはいつも通り授業がある。
あまり遅くまでいるのは無理だろう、うっかりすると補導されかねない。
「とりあえず、細かい事は明日学校でいいか?」
「さんせーい」
「…ユリア、お前はメッセージで
「優しくお願いしまーす…」
直人の言葉にユリアは軽く震える。
その後解散し、無音は自宅の自室に帰った後、ベッドの上で
一度青いカセットテープをベッド脇に置き、赤いカセットテープを見る。
「…なんで、あの時はあんな風になってたんだろ…」
怪物と戦っていた時の状況を思い出しながら、無音は赤いカセットテープを顔に近づけつつ、少し強めに持った。
同時に何か、声のようなものが聞こえたような気がした。
『──…いいね、君は──』
『─の為に……──を…』
聞こえた声はすぐに聞こえなくなってしまった。
「っ?!」
今のは一体なんだったのか。
もし、自分の記憶と関係しているなら──
「…っ」
おもむろに起き上がり、向かったのは紫水のいる部屋。
「?…どうした、無音」
「…お父さんはなんで私に無音ってつけたの?」
「唐突だな。強いて言うなら、俺と妻が親しくなるきっかけになった有名な画家からだが」
「?…お母さん、いたの?」
「まあ、今の無音からすればそういう呼び方になるか…。最も、随分昔に亡くなっているがね。それで、名前の由来…だったか」
「うん」
無音が頷いたのを見て、紫水は続けた。
「クロード・モネ、印象派で有名な画家だ。作風の特徴から、『光の画家』や『外光派』とも言われる事があるな」
「光…」
「あぁ。その
「ん、うん。そうする。…おやすみ、なさい」
「ん、おやすみ」
*
ムネモシュネーゴッデスになっていた女性を近くにある木に寝かせ、ガンドは変身解除したミラージュを見る。
ドライバーは音符のない五線譜になり、恐らく任意で取り出せるようになったのだろう。
「…ミラージュ、大丈夫か?」
「?うん」
戦闘の時とは異なり、遺跡で拾った時のような目になっている。
本人は気づいていなさそうではあるが。
「…気のせいだったか…?」
「おとーさん」
「なんだ」
「…お腹空いた……」
「あー…そうだよな」
小さくではあるが、彼女の腹の虫が鳴いている。
初めて外に出るだけでなく、本人にとって慣れない戦闘をしたのだ。
無理もないだろう。
「…多めに買い込んで帰るか」
「ん、うん」
コクコクと頷くミラージュを見つつ、彼女の頭を軽くわしゃわしゃと撫でる。
一通り買い物を済ませ、家に帰り、一緒に昼食を食べた後にミラージュが居間で3つの宝石のような音楽記号を見ているのを、ガンドはなんとも言えない顔で見ていた。
ミラージュが透明なト音記号に触れ、それを顔に近づける。
同時に声のようなものが聞こえた気がした。
『…今度こそは──……な██を……』
『前代の……ように──ないように…』
「?!?」
「おい、どうした?」
「大丈夫…なんでもない」
「…無理すんなよ」
「うん」
ガンドの言葉にミラージュは少し曖昧な笑みで返した。
*
──無音達の世界
ある廃ビルにて。
桃色の髪に紫色の目をした女性がケーキの入っているらしい箱を持ち、中に入る。
紫色のロングヘアに
「ドルチェ、またケーキ買ってきたの?」
「多少は息抜きがいるでしょ。レジェロは嫌?」
「別に嫌とは言ってないけど。それともカノンの分?」
「ちゃんと全員分あるよ〜?」
「まあまあ。…噂をすれば、ですね」
「ただいま〜」
紫色のロングヘアに紫色の目をした女性──セイレーンがそう言った直後、プラチナブロンドの髪をかなり上の方で一つ結びにした黄緑色の目をした女性──カノンが入ってくる。
桃色の髪に紫色の目をした女性──ドルチェと銀髪の短めなツインテールに桃色の目をした女性──レジェロが広げている幾つかのケーキを見て、目を輝かせる。
「ん、カノンはケーキ食べる?」
「食べる〜」
半ばオウム返しのように返す彼女にドルチェがケーキを選ばせる。
そんなカノンを見つつ、レジェロはカノンに聞いた。
「そういえば、リフレインに関してはどうだったの」
「私にとっては成果は悪くなかったよ〜?あ、でも」
「どうかしましたか?」
「なんかね〜リフレイン倒しちゃった子がいたね。どうしよっか」
その言葉を聞いた他の3人が僅かに反応する。
特にドルチェとレジェロは明らかに動揺した様子で聞き返した。
「ちょ、それ本当に言ってる?!」
「リフレインをどう動かすかも今後は考えていかないとねえ…」
「?」
しかし、カノンは気にせず選んだケーキを食べている。
が、セイレーンが軽く手を叩いて2人を止める。
「今は落ち着きなさい、2人とも。私達の
「はーい…」
「ま、憶測で脅威と見るのは少し早計か…」
「分かっていただけたようで何よりです」
セイレーンは各々の様子を見る。
「元より、私達の目的は──」
──ミラージュの世界
ある遺跡の地下にて。
ふらりと帰ってきた少し長めの銀髪に紫色の目をした、多少貴族のように見える服を着た男性は周囲を見回す。
目線の先にはソファで寝ている金髪に似たような服を着た男性がいた。
銀髪に紫色の目の男性は軽く彼の頭を小突く。
「ん…なに…イテル…?」
「ソムヌス、また寝てたの?レナトゥスには何か言われてない?」
「なにも…。フォルトゥナは抽出出来る因子探ししてるから、もうすぐ戻ってくるはず…」
「そっか、りょーかい」
銀髪に紫色の目の男性──イテルは薄らと緑色の目を開けた金髪の男性──ソムヌスの言葉に気怠げに、眠たげに返す。
数刻して、2人が話題にしていた黒髪に赤い目の男性──フォルトゥナが戻ってくる。
「あ、おかえり〜フォルトゥナ」
「イテル。…成果は」
「今まで現れなかったんだけど、日本で話題になってたやつ。…仮面ライダー、だっけ?」
「其奴がどうかしたのか」
「…イニティウムに現れちゃった。系統はまるっきり違うみたいだけどね」
「レナトゥスに報告は?」
「ん〜?これから。俺達が主に動いてる地方に早々来るとは考えられないし」
「お前という奴は…」
イテルの言葉にフォルトゥナは呆れたように溜め息を吐く。
その直後、奥から銀髪に糸目の男性がやってくる。
僅かに3人を見た際、一瞬金色の目が見えた。
「イテル、お疲れ様でした」
「あー、もしかして今の聞いてた?」
「はい。…その方は女性でしたか?」
「ん〜…そだね」
「そうですか、なるほど…」
レナトゥスは暫し考えた後、口を開く。
「それなら──」
同時に異なる世界で、形の違う悪意とも、狂気とも取れるものがシンクロした。
「原初の音を見つけ出す事なのですから」
「その方は
Treasure.0
私立共学校。
普通科高校ではあるものの、音楽系のカリキュラムや製作/制作系のカリキュラムが多く、そういった道に進む生徒も多い。
元は普通科高校だったが、倒れかかっていた音楽・製作/制作系の専門学校を接収・合併したという背景がある模様。