ある魔王が倒されてから、約3年後。
陽の当たらない、夜の世界。
そちら側に属する組織「血約機関(ちやくきかん)」の下部組織であり、日本の支部にある「東の弔い場」にて、新人の哀悼師(あいとうし)の青年である葦原一眞(あしはらかずま)はその弔い場で一番御付きの代替わりが激しい華装騎士(かそうきし)──マンダラの御付きとして就任する事に。
その矢先、弔い場から2人が一緒になってから最初の依頼が届く。

「──お前を弔いに来た」

※こちらは読み切り版です、連載版とは多少変動がある事をご了承下さい。

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──1500年ほど前
月明かりが差し込む、ある屋敷の一室では外の静けさとは対照的に、剣撃の音と共に血飛沫が舞っていた。
「セラーナ、あの子を頼む」
「っ、でも…!」
「まだ子供を産んでからあまり経っていない君では満足に戦えない。…せめて、逃げるだけでも」
「大人しく渡せば、そうはならんと忠告していたはずだが。女王の縁者」
血のように赤いロングコートを着た、灰青色の髪に青目の男は「Calendula(カレンデュラ)」の銘が見える西洋剣の剣先を赤髪赤目の男に向ける。
が、黒いロングヘアに赤い目の女性──灰青色の髪に青い目の男性からセラーナと呼ばれた彼女は、そのどちらにも首を振る。
「……この子は私が守る、逃げたりなんてしない」
セラーナは赤子を抱き抱えたまま、白いレースの手袋から小型銃を呼び出そうとする。
が、その()()()()を赤髪赤目の男は見逃さなかった。
「…ふっ!」
「っ?!」
血で作られた鞭が彼女(セラーナ)の体を嬲り、貫いた。
「ぁっ、ぐ…」
「…貴様!!」
数刻遅れて彼女に抱き抱えられていた赤子が泣き出す。
灰青色の髪に青目の男は赤髪赤目の男性に再び攻撃するも、血の槍で受け止められる。
白金術式(しろがねじゅつしき)鉄壊蔓(てっかいつる)!」
青目の男の言葉と同時にどこからともなく鉄の蔓が赤髪赤目の男の元に向かっていくも、それを回避される。
赤髪赤目の男は未だ泣き続ける赤子に目を向けるも、青目の男は構わず剣撃と蔓による攻撃を展開する。
そして。
「──熱爆術式(ねつばくじゅつしき)鉄華開花(てっかかいか)…っ!」
赤熱した鋼鉄の蓮(アイアンロータス)が赤髪赤目の男性を貫く。
同時に彼の心臓に血の槍の先が刺さる。
「っ、ぐ…!」
「はっ、ははは…」
「なにが、可笑しい…っ!」
赤髪赤目の男が目を向ける泣き続ける赤子の口に少しずつではあるが、彼の血が入っていくのが見える。
「っ、っ…!!」
それを見た青目の男は辛うじて剣を赤髪赤目の男に突き刺す。
しかし、青目の男は限界を迎えたのか床に倒れ込み、泣き続ける赤子を僅かに見ながら呟く。
「…ごめん、な……」

──その夜、1つの戦乱が終結した。


Cremation.0 落ちる椿

 

千年ちょっと生きていると、似たような事を言ってくる奴が大勢いる事ぐらい分かってくる。

それでも殺した、弔うという言葉で取り繕った私怨で。

繰り返しの中で体の痛みや傷はなんでもないものになった、つまらない痛みだ。

人としての感情の出し方はいつの間にか忘れた。

それでいい、復讐の枷になるだけだから。

オレの体をこんなにした奴らの、オレの親を奪った奴らの、その自由を奪う為に。

(しるべ)になったのは師匠、父さんの称号とその武勲だった。

血に塗れておいて、英雄に憧れるなんて度が過ぎるだろうか。

…分からない。

それでも父の事だけは、オレにとって捨てきれなかった。

乾いた心でいた方が楽なのに。

 

──最後に笑ったのは、いつだったか。

 

 

人々には知られていない、葬儀場のような場所の更に最奥にて。

金髪赤目の男性は茶髪に黄色い目の男性に幾つかアイテムを渡し終えた後、口を開けた。

「今日で正式に御付(おつ)き就任だけど…緊張してる?」

「クルースニクさん、僕はそんなに緊張してないつもりだったんですが…」

「いや、思いっきり顔に出てるから。…一応言っておくね、君が御付きとしてつく華装騎士(かそうきし)の子は君が初めての御付きの哀悼師じゃない。だから、前代の哀悼師と比べられる可能性もあるかもしれないけど、何かあったら無理しないで弔い場に連絡して」

「わ、分かってます。僕で15代目、なんですもんね」

一眞(かずま)君も分かっているみたいで良かった。…茅颯(ちはや)ちゃーん」

金髪赤目の男性──クルースニクは茶髪に黄色い目の男性──葦原一眞(あしはらかずま)の言葉を聞き、濃緑の髪を二つ結びにした黄緑色の目の女性が、2枚の封筒を手にしつつ一眞の元へ。

「はいはい、言われなくても分かってます。どの道彼女に伝えなきゃいけない事はありますから〜」

木矩(きのり)さんも来るんですか?」

「今日は貴族層から依頼が来てるから、別の華装騎士と一緒に行動する事になるだろうし」

「なるほど…」

濃緑の髪を二つ結びにした黄緑色の目の女性──木矩茅颯(きのりちはや)がそう言いつつ一眞に渡したのは2枚の内、黒い封筒。

「じゃ、行こうか!」

「えっ、ちょ…?!」

黒い封筒を受け取った一眞は茅颯に連れられるまま、外へ。

「気をつけるんだよ〜」

クルースニクは手を軽く振りつつ2人を見送る。

「……オーロラは今日別の任務で動いてるから、上手くやってくれるといいんだけど…」

クルースニクはそう呟き、一度奥へと入っていった。

 

 

カーテンを完全に閉め切った部屋にあるソファーの上で横になりながら、うたた寝をする女性が1人。

黒い前髪とロングヘアの毛先は赤いグラデーションになっており、右手中指には狼を模した純銀の指輪が着いている。

玄関口のチャイムの音に先に気づいたのは()()の方だった。

『おいツバキ、客が来てる』

「まだ怠くてしょうがねえのに……。なんでこんな真っ昼間から…」

『例の新任の御付きは確定だろうな』

うたた寝をしていた、指輪にツバキと呼ばれた黒髪に赤いグラデーションの見える黒目の女性はソファーから立ち上がると軽く服装を整え、玄関先へ。

「どうも、マンダラさん」

「茅颯か。んで、そっちが……」

「貴女の御付きになりました、葦原一眞です。…よ、よろしくお願いします」

「…とりあえず一眞(お前)は入れ。茅颯は用済ませたら帰れ」

「相変わらずだな〜。依頼の紙は一眞君に渡してあるから、私が持ってきたのは他の弔い場に関してと宿に関してね。…それじゃ、頑張って〜」

茅颯はツバキにもう1枚の白い封筒を渡すと、少し一眞を見やってから帰っていった。

『ともかく入れよ、小僧。今日が初めてだろ?』

「は、はい」

ツバキは一眞を中に入れると、屋敷の適当な一室に入ってから、白い封筒を開ける。

「北の弔い場のとこの奴が一時引退ねえ…まあ割と悪くないみたいだし、気にする事でもないか」

それに対して疑問を口にしたのは一眞だった。

「結婚で引退?…哀悼師と?」

「華装騎士と哀悼師は御付き制度の都合上、死線を共に潜り抜けてきてる奴が多い。その過程の結果としてこうなるのは、まあ少なくない話ではある」

「ツバキさんはそういう人、いなかったんですか?」

「お前が15代目な時点で察しろ。縁無いし、そもそも興味無いしな」

「なんでです?」

「……お前がまだ知るにはまだ早い、それだけだ」

「っ…」

『おいおい、そんなビビらせてやるな。今日から組むんだぞ?』

「師匠は1回静かにしてくれ」

東の弔い場で一番御付きが代替わりしている華装騎士。

それが一眞が御付きとなった華装騎士──ツバキ・オルロック。

華装騎士としての偽名(コードネーム)はマンダラ。

ランクは現役の華装騎士でも数えるほどしかいないとされるブラッディゴールド。

何故10代以上の代替わりをしているのかは、上層部に当たる血約機関(ちやくきかん)しか知らないらしいが。

「…依頼の紙、出せ」

「すいません、直ぐに出します!」

一眞は茅颯から渡されていた黒い封筒をツバキに渡す。

ツバキが中身を読んでいる間、目についたのは先ほどからずっと動いている指輪の方だった。

「……あの、その指輪って?」

「オレの師匠。元々純粋な血花族(けっかぞく)だったらしいが、色々あってこうなってんだと」

『カイアだ』

「分かりました、よろしくお願いします」

『律儀な奴だな。嫌いじゃあない』

「…なるほど」

「依頼の内容はなんだったんです?」

一眞の再びの質問に、読み終えたツバキは手紙を置いて告げた。

 

「──貴族層の血花族が主催する、ある記念パーティーの護衛任務だ。内容からして、相当数の人間も招かれてるだろうな」

 

 

路地裏の一角で、千鳥足で歩きながらどうにか進む赤い髪に橙色の目の青年が1人。

青年の様子を心配した男性が彼に駆け寄るも、青年は男性に対して半ば狂気的な橙色の目を向ける。

男性がそれに違和感を僅かに感じたが、次の瞬間。

ぶすり、と首筋に牙が突き立てられていた。

男性はジタバタと必死に抵抗しようとするも、青年の力の方が見た目に似合わず上だった。

「ん、ぐ…?!」

青年が男性の血を吸いつくし、口を離すとその姿が枯れ果てるかのように見えたものの、顔や両手足が醜く歪んでいく。

その姿は屍食鬼(グール)とほぼ同じだった。

それを気にも止めず、青年は再び歩き出す。

「血、が…足りない…!」

 

 

ある研究所にて。

「アンナ、パーティーの手筈は大体出来たよ」

「漸く完成したから…。血花族(私達)の吸血衝動を減らす薬…」

赤いショートヘアに水色の目の女性──レナは黒いポニーテールに赤い目の女性──アンナに向けて笑顔を向ける。

「必ずしも衝動を抑えられる子達がいるわけじゃないからさ。なんとか完成させられて良かった」

「そうだね。…人間の人達も呼ぶんだよ、ね」

「うん。と言っても私達の事を知ってる人達だけだけど」

「そっか」

アンナの近くにある携帯電話が鳴り、彼女はレナに断りを入れてから一旦離れた場所へ。

「…はい、もしもし」

『進捗はどう?』

「…エストリエ様」

電話口の声の主を確認したアンナの声色が、どこか蕩けたものに変わる。

『あら、久々だからってダメよ?』

「分かっています。…言われた通り、特質持ちの()()の一部をレナ(彼女)の屋敷の地下に一部移してあります」

『いい子。…今の貴女は私が居なくなったらどうなるか分からないものね』

「はい。…例のパーティー当日に関してなのですが──」

 

 

ツバキが出発までの時間は暫く寝ていると伝えてきた為、一眞はそれまでの間、華装具(かそうぐ)を整えておく事にした。

蝶魂灯(ちょうこんとう)瘴香炉(しょうこうろ)火象旗(かそうはた)

戦闘に関わるかどうかに関係なく、どの哀悼師も持つ、謂わば基本の3つ。

「…でも、なんでツバキさんは()()を?」

整備の手を止め、一眞が手に取ったのはある小瓶。

ツバキ(マンダラ)曰く、今回の任務の為には必須との事だが中身は教えて貰えなかった。

「…香水ですかね」

どの道、出発するのは夕方からだ。

細かい事は出発前に聞いても大丈夫だろうと思い、整備を再開した。

 

 

──パーティー当日

ツバキ(マンダラ)と一眞が案内されたのは主催者であり、依頼人であるレナの屋敷にある一室だった。

依頼は当日を目安として来ていた彼女への暗殺予告とそれに関連する護衛。

最悪の場合、戦闘になる可能性も覚悟しなければならないと来るまでにツバキ(マンダラ)は言っていたが。

「瘴香炉、焚いとけ」

「分かってます。…とと」

一眞は部屋に入ると一番奥に香炉を置き、その中に灰と乾燥した赤い花弁を入れた後、花弁に僅かな火をつけ、少し燃えたのを確認してから火を消し、香りを(くゆら)せる。

花とも血とも異なる香りが部屋の中に少しずつ回っていく。

「後はこれですよね」

事前にツバキ(マンダラ)から渡されていた小瓶を開け、瘴香炉から香るものに近い香りの香水を軽く手首につける。

『別口で来てる奴もいるが、其奴らと合流すんのは後だ。今は情報収集を優先するぞ』

「僕は火蝶と蝶魂灯でも情報を集めてみます」

「…気をつけるんだぞ。お前、戦闘が得意な方でもないみたいだから、何かあったら直ぐに火蝶で連絡しろ」

「はい」

 

 

──屋敷内 庭園

ツバキ(マンダラ)と一眞が屋敷内をそれぞれ調べている間、庭園の入り口から屋敷に入る男女がいた。

1人は銀色の生地に灰銀の飾り糸がついたロングコートを着た、茶髪に紫色の目の男性。

もう1人は肩までかかる赤い髪に茶色い目の女性。

「マンダラさんとその御付きの人が招待された方々に接触して情報収集。俺達は開場までに不自然なポイントがないか、人の少ない場所を探索っと」

「気は抜かないように。万一屍食鬼(グール)だけじゃなくダンピールまで出てきたら、一般人の避難を優先。OK?」

「分かってる分かってる。…っていうか、陽毬(ひまり)さん」

「何、()()()

「なんで今回、マンダラさんと?」

「東の弔い場自体の決定が半分、残りは都合のつく他の華装騎士が別任務でいないから」

「いや、だとしても俺に回します?!…マンダラさんの御付きも、無茶振りされてないといいけど」

「むしろ、その歳でシルバーランクになれてるのに、あの人に連敗続いてるアンタはなんなのよ……」

「それは触れないで貰えます!?!」

「うるさ」

茶髪に紫色の目の男性──ローザは肩までかかる赤い髪に茶色い目の女性──月影陽毬(つきかげひまり)の言葉に多少大きめな声で返す。

「ともかく、パーティーが始まる前に何かないか…。とっとと探索に行く」

「まあ、それもそうですね。騒ぎにならない内に、急ぎましょうか」

 

 

──屋敷内の一室

レナが他の参加者と話している間、アンナが向かったのは彼女の屋敷の地下。

「…ふぅ」

ポニーテールにしていた青いリボンを解くと、彼女が見つめる先にいたのは檻の中に数えきれないはど入れられた、蠍のような姿をした屍食鬼(グール)に似た異形や、屍食鬼(グール)

そして。

茶色のロングヘアに赤い目の女性が彼女の前にいた。

「よく隠し通してこんなに入れたわね」

「エストリエ様、これでいいんでしょうか?」

「ええ。…そういえば、会場に華装騎士が2人ほど来てるみたいだけど」

「…レナが呼んだんでしょう。彼らは血花族内部のバランスを保つ役割もあるので、依頼として受けたのだと……」

「そう…。まあ、いいけれど」

「っ、あ…?!」

茶色のロングヘアに赤い目の女性──エストリエは軽く笑みを浮かべるとアンナの体に少し触れる。

「華装騎士に関しては今はいいわ。開場するまで、少し()()()あげる…♪」

「あ、ぁあ…おね、お願いします…っ!エストリエ様…!」

その言葉を聞いたエストリエはアンナにキスをした後、抱き寄せる。

そして──

 

 

──会場内

ツバキ(マンダラ)が合流するより先に一通りの参加者と接触を終えた一眞は会場内のビュッフェで幾つか料理を取り終え、一度席に料理を置いてから、再び会場内を見回っていた。

「マンダラさん、遅いですね…。…わっ?!」

「っ!?」

一眞がぶつかったのは高校生くらいの背丈の茶色いショートヘアに茶色い目の少女。

「あっ、す…すいません。ちゃんと確認してなかった僕が悪かったですよね」

「いえ、私もちゃんと周りを見てなかったので…」

少女の顔を見た一眞は暫し考えて思い出す。

「…もしかして、佐渡製薬の娘さんですか?」

「は、はい。両親から、こういう場に慣れておく歳だからと連れられて…。勿論、私も自分の意思で来たので」

「そういう事でしたか。ご両親を探しているところで?」

「はい。でも、こういうところって人が多いですから…」

佐渡製薬。

陽の当たる世界(世間一般)ではかなり有名な老舗製薬会社であり、CMも打ち出している為、幅広い世代に認知されている。

彼女──佐渡柚美(さわたりゆみ)はその一人娘だと聞いた覚えがある。

「一眞、どうした」

「マンダラさん。この子、ご両親を探しているみたいなんですけど、会場が広いのと人が多いからか中々見つからないみたいで」

「…人間か」

「?何か言いました?」

「こっちの話だ、気にすんな。一眞、こいつ手伝うぞ」

「…もうすぐ始まるのに会場離れて大丈夫なんですか?」

「どうにも()()。オレの予感が当たらなきゃいいが」

『いーや。マンダラ、存外正しいかもしんねえぞ?』

「…当たらないに越した事はないんだがな……」

ツバキ(マンダラ)とカイアが何か話していたが、それは一眞と柚美には聞こえなかった。

 

 

一方、ローザと陽毬。

2人は人が出払っている場所を重点的に調べていた。

陽毬の近くには火を纏った蝶──火蝶が数匹飛んでおり、その内の一匹が彼女の指先に止まると羽部分に映像を僅かに映し出す。

「やっぱり()()が薄いとはいえ、残ってる。早いところ潰しとかないとまずいかも」

「…って事は弔い場がわざわざ俺とマンダラさんを別々に行動させたのは──」

ローザが次の言葉を言おうとした瞬間、唸り声と共にグール達が現れ、2人に襲い掛かろうとする。

が。

ロジエ(Rosier)!」

氷檻術式(ひょうらんじゅつしき)展開!」

ローザの手元にどこからともなく「Rosier(ロジエ)」の銘が打たれた双剣が現れ、そのまま襲いかかってきたグールを斬り裂く。

陽毬の展開した術式が即座に残りのグール達を氷の檻に閉じ込め、急速凍結。

この先は屋敷の地下に通じる入り口がある。

とすれば。

「ここから先は要注意、って事ですね」

「あんな形で利用されるなんて…。いつ見ても、気分のいいものじゃないわ」

「……せめてグールにされた彼らの魂が少しでもいいところに行けている事を祈りましょう。今は先に進まないと」

「…そうね」

陽毬の近くを飛んでいた火蝶の中で、先ほど彼女の指先に止まった一匹とは別の蝶が2人より先に飛んでいく。

その蝶が止まった地点は。

 

──鍵が()()()緩められた、地下室の扉だった。

 

 

ツバキ(マンダラ)、一眞、柚美は会場内から離れ、屋敷内を探索していた。

探索前に一眞が開場前に放っていた火蝶の一部を蝶魂灯に入れ、映像を確認したものの、それらしい姿は見当たらなかった。

探索の最中、口を開いたのはツバキ(マンダラ)だった。

「…お前、ここのパーティーがなんで開かれたのかは知ってるのか?」

「両親の知り合いである研究者というか…薬の開発者の方が、新薬を開発したのと安定供給の見込みが立ったからだと聞いています。お二方は?」

「オレ達はちょっとした要人(ようじん)に護衛依頼されてな。それで来た」

「そうなんですか」

「あぁ」

ツバキ(マンダラ)と柚美の会話に一眞が小さくツッコミを入れる。

「いいんですか、それ…?」

『嘘は言ってねえ。ちょっとした誤差みたいなもんだろ』

「……一眞、()()()渡せ。気配が近い」

「あっ、はい!」

一眞がツバキ(マンダラ)に渡したのは血のように赤い生地に金色の飾り糸がついたロングコート。

所々生地に()()があるが、今は深く聞かない事にした。

ツバキ(マンダラ)はそれを受け取り、慣れた手つきで袖を通す。

鞘に入れていた西洋剣を取り出し、そのまま警戒体勢に入る。

「一眞、何かあれば其奴連れて逃げろ。お前は戦うのが得意じゃないらしいが、最低限守る事は出来るだろ」

「…分かりました。貴女の頼みなら」

『だいぶ嫌な気配が強くなってきたな。気をつけろ』

「言われなくてもそのつもりだ」

「柚美さんは僕の後ろに」

「は、はい」

次の瞬間、襲ってきた人影の攻撃をツバキ(マンダラ)は剣の刀身で受け止める。

が、その直後に人影は目線を動かすと何かに気づいたのか、即座に姿を消した。

「……逃げたか」

「…な、なんだったんですか?」

「平民層の血花族だ。()()から分かる」

「なっ?!」

「恐らく貴族層に雇われたか何かだろう。だが、オレを見てすぐに逃げたところを見るに、狙いはオレのような華装騎士ではないと…」

「???」

『あー、嬢ちゃん。詳しい話は後で……だな』

「マンダラさん狙い、って…」

「たまにいるんだよ。オレをどうにかして殺そうとする連中が」

「…それって、マンダラさんの異名が関係してるんですか?」

「異名?」

一眞の言葉に疑問を浮かべた柚美に説明したのはカイアだった。

『コイツは血花族殺し(ナイトキラー)なんて異名があってな。グールやダンピールより、純血の血花族を殺した数の方が多いからってよぉ』

「まあ、そういう訳だ。策謀を巡らせる連中にとってはオレのような奴はある意味目の上のたんこぶなんだろうよ。これ以上の手がかりがない以上、先に進むか、戻るか…」

「!マンダラさん!」

「なんだ」

「会場の方で、悲鳴が辛うじて聞こえました。…多分ですけど」

「…戻る方が先決みたいだな」

『嬢ちゃんはどうする?』

「私も行きます、両親が会場にまだいるかもしれないので」

「決まりだ。急ぐぞ」

 

 

会場内ではグールや、それとは異なる姿の異形に襲われている参加者達が見えた。

「一眞、其奴と一緒にまだ襲われてないやつを避難させろ。いいな?」

「マンダラさん1人でなんとかなるんですか?!」

「伊達に1()5()0()0()()も戦って来てねえからな、並でやられるつもりはねえよ。分かったか?」

「…分かりました。柚美さん、僕と一緒に避難誘導を」

「は、はい!」

自分から離れ、避難誘導に向かった2人を確認するとツバキ(マンダラ)は再び西洋剣を取り出す。

「……カメリア(Camellia)

同時に銘が西洋剣にはっきりと現れ、一瞬刀身が光る。

『いいのか?わざわざ離して』

「哀悼師だって柔な肉体強度じゃない。心配はいらないだろうし…まず令嬢の方が今からやる事に耐えられなくなりそうだったからな」

その言葉と同時に駆け出すと、会場内にいるグール達を剣撃で倒していく。

血の花が舞う中、自分に迫ってきたグールをバク転で避けて刀身に熱を纏わせる。

赤熱術式(せきねつじゅつしき)血熱斬波(けつねつざんぱ)!」

僅かに血を纏った熱斬波が周囲のグールを一掃し、その返り血が少し服に着く。

が、彼女は気にせずグールとは異なる姿の異形を見やる。

「…特質持ちのダンピールか?ここ暫く現れてなかったってのに」

『ありゃなんだ、蠍かあ?』

「やる事は変わらん。とっとと要因を見つけて叩くまで」

彼女はそう言うと目の前にいる数匹の蠍に似たダンピール──スコーピオンダンピールに目線を向けながら、背後から襲いかかってきたグールをノールックで斬る。

「これだけの数だ。早めにかたをつけないと、屋敷の外に逃げ出すぞ」

『んじゃ、特質持ちに関して細かく考えるのは後にして此奴等しばくかあ!』

「最初からそのつもりだ!」

 

 

一方、地下室では。

「なんなんですか、この数…?!?」

「人為的に増やしていたとしか思えませんね…っ!」

ローザと陽毬は地下室にいたグールとスコーピオンダンピール達に対処していた。

最も、陽毬の格闘術とローザの双剣(ロジエ)による斬撃で大半は撃破出来ているのだが。

それでも、体力の消耗は少ないとはいえある。

「…一度回復をしておいた方がいいんじゃない?」

「俺はそこまでじゃないんですけど…」

「違う。…()()()()()()が入り口からする」

「!」

陽毬は血花族と人間の混血(ハーフ)

それ故か、気配は感じ取りやすいのだろう。

「…分かりました、一旦上に戻りましょう。君の直感は当たりますし」

「素直に信じるのね」

「そりゃ、陽毬さんは俺の御付きですからね」

2人が地下室を出た後、地下室の鍵を閉めたとほぼ同時に飛んでくるも、それぞれ回避する。

「っ!」

2人の眼前には赤い髪に橙色の目をした青年がいた。

「なるほど、雇われですか」

「今はなるべく()()()()で捕縛優先。何か情報は引き出しておきたいし」

「っ!!」

青年の攻撃をそれぞれ回避し、ローザが双剣の片方をブーメランのように投擲する。

青年は避けようとするも、陽毬が展開した術式がそれに追撃する。

「支援術式、鎌鼬廻風(かまいたちえんふう)!」

それと共に投擲されている双剣の片方の勢いが増し、青年を追うかのように勢いづく。

青年は間一髪で回避したが、投擲されていた双剣の片方は衝撃音と共に壁に突き刺さる。

その剣先は深い跡と共に、壁に僅かながらめり込んでいた。

「なっ……?!?」

「俺達は()()()()()ですから。…どんな事情があっても、容赦は一切しませんよ」

「…出来れば素直に吐いてくれたら、助かるんだけど」

 

 

一方、ツバキ(マンダラ)

一眞から避難が一通り済んだと連絡を受けたものの、斬ったグールやスコーピオンダンピールの数は数えきれない。

「結構な数をやったが…大元を叩いている感じはしねえな」

『マンダラ、今まで以上に邪気の強い気配がする。いけるか?』

「1人で戦うのは、慣れてるからな」

彼女が見据える先にいたのは今まで姿を現していなかったアンナだった。

「……血花族か。グールや特質持ちのダンピールをここに放ったのはお前か?」

「私はただ言われた事を……」

「…あ?」

「私は、ただあの子に……っ!!!」

同時にアンナの姿がトリカブトの絡みついた狼のような怪物へと変化する。

「…ヴァンプか」

 

同時刻、ローザは青年に陽毬と共に応戦していたが、一度双剣をしまう。

 

「陽毬さん、ちょっと離れてて貰えますか。()()()()()の方法に切り替えます。…どうやら、何も吐く気はないようなので」

 

『だがコイツにはそこまでの資質は無さそうに見えるが?』

「やる事は変わらん。…いつも通り()()だけだ」

 

ツバキ(マンダラ)とローザが取り出したのは中央部分に椿の蕾と薔薇の蕾が見える透明な十字架と、銀と金をメインカラーとした赤い宝石のようなボタンが見えるバックルのようなもの。

2人はバックルを腰部分に装着し、ツバキは金色、ローザは銀色の帯が自動的に装着。

CREMATIO GOFFIN(クレマティオコフィン)

そして、ツバキ(マンダラ)は中央部分に椿の蕾が見える透明な十字架、ローザは中央部分に薔薇の蕾が見える透明な十字架をバックルに装填。

SYMPATHY FLOWER(シンパシーフラワー):Camellia(カメリア)

SYMPATHY FLOWER(シンパシーフラワー):Rose(ローズ)

そのままバックルの赤い宝石のようなボタンを押し、ツバキ(マンダラ)は手首、ローザは首筋を軽く斬りつける。

Garnet(ガーネット)

Ruby(ルビー)

2人の足元から夥しい血がオーラのように発生すると、2人は同時にその為の言葉を告げた。

 

「「血鎧華装(けっかいかそう)」」

 

「──変身」

「変ッ身!!」

 

十字架の中央にある蕾が開花し、椿の花弁と薔薇の花弁が舞いながら、血が2人の周囲に集まり、それぞれを包み込み、凝固していく。

同時に全身の凡ゆる箇所から()()()()()()感覚と、並大抵ではない痛みが2人を()()()()()()()襲う。

「っく、ぅ…がっ、ぁぁ…ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛っ!!」

「はぁっ、ぁ゛あ゛…っ!あが…ぁああっ!?」

GRAVE(グレイブ)GLAIVE(グレイブ)CRAVE(クレイブ)…》

凝固していた血が砕け散ると、所々に血のように赤い宝石がつき、黒いアンダースーツに金色の西洋甲冑のような装甲を纏い、狼を模した仮面がついた騎士と所々に紅色の宝石がつき、赤いアンダースーツに銀色の西洋甲冑のような装甲を纏い、龍を模した仮面がついた騎士が現れる。

そして、狼の仮面(マンダラ)の複眼は紅く、龍の仮面(ローザ)の複眼は紫に光る。

《──KNIGHT(ナイト):GRANA(グラナ)

《──KNIGHT(ナイト):MANIK(マニク)

最後に西洋剣(Camellia)双剣(Rosier)をそれぞれ構え直し、眼前の対象を見据える。

「華装騎士グラナ」

「華装騎士マニク」

 

「──お前を弔ってやる」

「──さぁ、死ぬ用意はいいですか!」

 

 

アンナが変化したヴァンプ──アクナイトヴァンプにグラナは先制攻撃を仕掛ける。

アクナイトヴァンプは血の矢を飛ばすも、グラナはそれを剣で弾く。

『華装騎士…?!』

『ただの血の矢じゃなさそうだ』

「それに幾ら貴族層とはいえ、ヴァンプ態を有してる奴は少ないはずだが…。何か仕込まれでもしたか?」

グラナはアクナイトヴァンプに接近し、斬りかかるもアクナイトヴァンプはそれを回避する。

が、グラナは壁を軽くかけ上がり、高さをつけて上から斬りつける。

『っ?!』

「オレはお前らみたいな連中の()()()()()だからな。並じゃ死なねえから、安心してかかってこい」

アクナイトヴァンプは爪で攻撃するも、グラナは蹴りで押し戻す。

「──マンダラさん!」

ふとした声に意識がいく。

少し目線を移した先には一眞がいた。

「どうした、避難は終わらせたんじゃなかったのか」

どこからともなく椿を象り、熱を纏った弾丸がアクナイトヴァンプを襲う。

()()()でグラナが発動させた術式による攻撃だった。

『ぐぅ…!?』

「柚美さんがご両親を探しに行くと言って別の場所に行ってしまって…!」

「っ、待機させられなかったのか?!」

「ごめんなさい!…すぐに戻ります!!」

一礼し、再び会場から走って離れた一眞を見送りつつ防御。

「…手のかかる新人だな」

『いいんじゃねえの?』

師匠(カイア)の一言を聞き流し、アクナイトヴァンプに赤熱した刀身による攻撃を食らわせる。

「ならとっとと済ませるか」

 

 

ローザがマニクに変身した直後、青年から赤黒いオーラが発生し、苦しみ始める。

「なっ…?!」

「伝播する()()の類い?それとも、既に仕込まれていた何か?…どっちにしても…!」

口封じ。

仮に青年が庶民層の血花族だとして、彼を差し向けた存在がそこまで念入りにするとは考えにくい。

とすれば。

「フリークス…!」

低位の血花族や、血花族の血に()()()()()()()が持つ戦闘形態。

それでも本来は意識して変化する事が多く、青年のように苦しみながら変化するケースは少ない。

青年の変化したフリークスは特質こそ有していないものの、赤黒い蝙蝠に似た姿をしていた。

「ローザ!」

「言われなくても承知してますよ!」

フリークスに向かって薔薇の蔓が複数本伸びていき、拘束しにかかるもフリークスはそれを回避。

大きくうねった蔓から茎の合間に葉と棘が発生し、葉が刃のように分離して飛んでいく。

刃となった薔薇の葉はフリークスの体に切り傷をつけ、一瞬ではあるが怯ませた。

マニクのアイコンタクトを確認した陽毬は軽く印のようなものを手で組む。

周囲に冷気が立ち込め、近くにいたグールやダンピールも凍らされていく。

マニクは双剣の一振りを天高く投擲し、そのままフリークスに接近して斬撃を食らわせる。

「支援術式・氷結…」

そのままフリークスの足元も凍りつき、一時的とはいえ銀世界のそれへと変わる。

滅技(めつぎ)!」

更に蔓がフリークスの上半身を拘束し、地面に張られた根元は瞬間凍結に巻き込まれ、強固な拘束具となる。

落下してきた双剣のもう一振りをキャッチし、それをクロスさせながらマニクは落下しつつフリークスにそれを食らわせた。

 

「──茨木!/白銀世界(茨銀世界)!」

 

瞬間凍結と共に、落下エネルギーの影響を受けた二振りの斬撃を食らったフリークスは僅かな間の後に爆散。

銀世界が溶け、青年であったフリークスのいた場所には僅かな血痕と身分証らしき物が残るのみだった。

マニクはバックルからフラワークロスを外して変身解除し、身分証を拾う。

「ルークさん…一部に血がついてしまっているのもあって完全に情報は確認出来ませんが、この感じだと庶民層ですかね。…華装騎士である以上は少なからず目にするものとはいえ、これではあまりにも……」

青年──ルークのいた場所に暫し手を合わせ、祈りを終えた陽毬はそっとローザの手にある身分証を取る。

「あっ、ちょ」

「…ともかく、マンダラさん達と合流。細かい推測はその後でいい」

「それはそうですけど……」

()()しばかれたい?」

「遠慮しときます」

そう言うローザの首筋には薔薇のような紋章が見えた。

 

 

一方、一眞。

どうにか柚美の姿を見つけ、声をかける。

「柚美さん!」

「…!」

「良かった、そこまで遠くに行ってなくて…。…見つかりましたか?」

一眞の問いに柚美は小さく首を振る。

それに一眞は一瞬口を噤んだものの、思い出したように口を開く。

「マンダラさんが会場になっていた場所でまだ戦っているので、せめて保護をと思いまして。…僕の近くにいて頂けますか?」

「…分かり、ました」

「ありがとうございます。…こんな状況なのに無理を言ってすいません」

「いえ、そんな…!」

近くの安全を確認した一眞は柚美の手を引いてマンダラのいる場所へと急いだ。

途中、似たようなルートを走っているレナ(依頼人)が見えたが今はマンダラとの合流を優先する事にした。

 

 

『おいおい、どうした。いつにも増して手間取ってんな?』

「久々のヴァンプだ。多少は大目にみろ、師匠」

『へいへい』

グラナはアクナイトヴァンプを見つつ、床に何本か刺さっている赤黒い矢に目をやる。

仮に変化した存在が貴族層か、それなりに実力がある対象であった場合、花樂能(からくのう)血花術(けっかじゅつ)によるものである事を想定する必要がある。

そして、それによる影響や効果も。

「──アンナ?!?」

「!」

ドアの方からした声は依頼人であるレナだった。

今日のパーティーの主催者であると同時に目玉であった血花族の衝動を抑制する薬を友人と作成した人物だと事前にある程度聞いてはいた。

とすれば。

「……これだから血花族(彼奴等)は嫌いなんだ」

頭に浮かんだ考えは今は片隅に置いて、落ち着いてから弔い場に報告すればいい。

だが、彼女と友人は──?

レナに攻撃の標的を変えようとしたアクナイトヴァンプの攻撃を防御体勢で受け止め、蹴りで床に転がす。

「っ、何が……?!」

「…今はこいつを()()事に集中させてくれ。オレと違って、こいつはまともな戦闘経験はない筈だ。つまり──」

目線をまたドアから少し離れた地点に移すと、一眞と柚美が近くに来ているのが見え、それから数刻遅れてレナのいる場所まで2人がやってくる。

「マンダラさん!!」

「見つかりはしたか。…っ!」

『オマエの……血ィィ!!』

アクナイトヴァンプはグラナよりも消耗していたのだろう。

この中で()()()()()()()()一眞の血を吸おうと、血の矢と共に攻撃を仕掛ける。

アクナイトヴァンプの攻撃はグラナが防いだものの、血の矢は一眞に僅かに掠る。

「っ?!」

それに反応したのはレナだった。

彼女は一眞の掠った箇所に手を当て、小さく呟く。

「花樂能、白鈴鳴(しろすずなり)

柔らかい白い光と共に掠った箇所が癒える。

「礼を言う、今ので隙が出来た」

「マンダラさん、何を…」

柚美の問いに答えるより先に、グラナが手に持つ西洋剣の刀身が赤熱していく。

一気に駆け出し、()()()()()()を口にする。

「奥義」

狙うのは首ではなく、上半身。

()()()()首を狙うところだが、今の彼女にとってそれは誤差だった。

縮地のような足取りの後、西洋剣では本来あり得ない()()()()()()が接近して斬った瞬間に発生した。

 

「──椿落とし」

 

赤熱した刀身による複数の太刀筋。

それは既に消耗していたアクナイトヴァンプ(アンナ)の体が(くずお)れるには十分なダメージだった。

斬られた箇所から血を噴き出しつつ、アクナイトヴァンプは倒れる。

同時にアクナイトヴァンプの姿は黒いロングヘアに赤い目の女性──アンナの姿に戻る。

「っ、アンナ!」

「ぁ、ぅ…ぅう……っ」

レナは急ぎ足でアンナに駆け寄り、アンナを支える。

「レナ、ごめん…ごめん……」

「な、なんでアンナが謝るの?ヴァンプになっても、ちゃんとした所で治療して貰えば……」

「私が、私がやったの…貴女が羨ま、しくて…」

「!」

「……そいつが(くだん)の暗殺予告を寄越したんだろう。そして、屋敷に放たれたグールや特質持ちのダンピールを用意したのも、恐らくは」

「っ、え…?」

グラナの言葉に絶句したのはレナか、それとも一眞か。

どちらにしても、普通に生きていれば考えられるような発想ではない。

レナへ謝り続けるアンナを見つつ、グラナは一歩ずつアンナへと近づく。

「オレ達、華装騎士の役割を知らないわけではないよな?」

「っ……」

その問いにアンナは小さく頷いた。

華装騎士や哀悼師がいるのは、基本的に個として強すぎる血花族内部の均衡をある程度保つ為。

純粋な人間(人類)を守っているように思えるのは結果論に過ぎない。

『なら選べ。弔われるか、生き足掻くか』

大抵バランスを崩す(こういった)事をした血花族は華装騎士が()()のが事実上の暗黙の了解となっている。

そうしなければ、()()()()()になりかねないからだ。

「ころ、して…ください……。なんであんな事をしたのか、してしまったのか…分からない…。その事に私が耐えられない……」

「ダメ、それは──」

「……承知した」

グラナはレナに目線をやる。

彼女は必死に別の手を考えているが、本人が決めた事だ。

他人がそれを変える権利は無い。

グラナの持つ西洋剣の刃先がアンナの心臓部へ。

そして。

 

「──どうか、次の世では平穏に」

 

その言葉と同時に西洋剣がアンナの心臓を貫き、大きな血飛沫が上がった。

 

 

「…なん、で…」

柚美は目の前でグラナ(マンダラ)が行った事が信じられなかった。

更生出来たかもしれないのに、変われるかもしれなかったのに。

変身解除したマンダラの目が冷めているようにも、乾いているようにも見える事に気づいたのはその時で。

アンナのいた場所には同じ大きさの新鮮な血痕が残るだけだった。

「…血吸華(ちすいばな)出せ」

「っ、は…はい!」

一眞が取り出したのは透明なガラスのような蕾のついた茎が5本ほど。

それを一眞が血痕の場所に置き、手を合わせて祈るとゆっくりとではあるが蕾に色がつき、開花する。

赤黒い花が開花したのは2本、紫色の花が開花したのは3本。

開花を確認したマンダラはそれを拾い、紫色の花が開花した内1本をレナに渡す。

「っ…?」

「…餞別(せんべつ)みたいなもんだ。持っとけ」

レナは恐る恐るそれを受け取ったものの、それを抱きしめながら小さく泣く。

一眞も柚美も、それを見て何も言う事が出来なかった。

「……あー、お前。ちょっと今いいか」

「はい?」

マンダラはそのまま一眞に近づく。

「…思いの外反動がデカかった。吸わせろ」

「今ですか?!初日は家でやるって聞いてたんですけど──」

「…ちとしんどいだろうが耐えろよ」

その直後、マンダラは一眞を抱きしめるようにしながら首筋に噛みついた。

少ししてマンダラは一眞の首筋から口を離したが、零れた血が着ている服の肩部分を汚す。

「ちょ、大丈夫ですか?!」

「っ、っ…!?!」

その光景に頭が耐えきれず、柚美はそこで意識を失った。

 

 

柚美が意識を失った直後、2つの足音が。

ツバキ(マンダラ)が視線を移した先にはローザと陽毬がいた。

ローザの様子を見たマンダラは呆れた顔をしつつ、口を開く。

「…なんだ、来てたのかお前」

「来てたのかってなんですか?!?こっちだって弔い場の任で来てたんですよ!?…最も、助けはいらなかったみたいですけど」

「たり前だ、ブラッディゴールドがシルバーに助けられてたら世話ねえだろ」

言いつつ、マンダラは軽く服についた汚れを払う。

そういえば、ランクとしてはツバキ(マンダラ)の方が上だったなと一眞は思い当たる。

「普通は100年()クリムゾンかラスティレッドが限界なんですよ…」

「逆だ、100年()だ。あと80年ちょっと、全部華装騎士に投じたらどうなると思う?」

「っ…」

「……流石にそこまでの覚悟はねえか」

「…その子はどうするの?」

陽毬が目を向けたのは意識を失っている柚美。

それに返したのはカイア。

『まあ、グールもダンピールもヴァンプも目撃してるとなると…保護は必要だろうよ。選別派閥に狙われないとも言えねえし』

「それはオレも同意だ。…お前らはコイツを東の弔い場に連れてけ」

「え、俺達が?」

「オレはオレで依頼人と話をある程度済ませなきゃいかん。あんな精神状態の奴なんて、ごまんと見てきてはいるがな。…あと、お前は弔い場で輸血しとけ。どうせ鎧の無駄な稼働増やしたんだろうし」

「無駄って〜…!!」

「はいはい、話は後。ローザ、やるよ」

「分かりましたよ。…依頼人に関しては任せますからね」

陽毬は一礼した後、意識を失っている柚美を抱きかかえてその場からいなくなったローザについていった。

『どうした新入り、ぼけっとしてんなあ』

「あっ、すいません…。見習いとして習ってはいた事なんですけど、改めて見ると衝撃が大きくて…」

「ま、対象が人の形に戻っても尚()()事を選ぶのは血約機関(うち)くらいなもんだろうが…その内慣れる」

ツバキ(マンダラ)の少し哀愁の混ざった目は未だに泣き続けているレナを見ていた。

「…慣れ、る……」

それに一眞はどう返せばいいのか分からなかった。

 

 

──それから暫くして

─東の弔い場

柚美が目を覚ましたのは葬儀場のような場所の一角だった。

毛布のような物がかけられている事に気づき、恐る恐る起き上がる。

「クルースニクさん、起きましたよ〜」

「ん、顔色も良さそう」

「千鶴君も陽毬ちゃんも様子見ありがとう。…ツバキちゃんと一眞君が来るまで、もう少し待ってて貰える?」

「はーい」

銀色の生地に灰銀の飾り糸がついたロングコートを着た茶髪に紫色の目の男性───暁千鶴(あかつきちづる)と、肩までかかる赤い髪に茶色い目の女性──月影陽毬(つきかげひまり)は、金髪赤目の男性──クルースニクの言葉を聞いて柚美の近くから少し離れた場所に席を変える。

「一眞さんはともかくとして……ツバキさん?」

「マンダラさんの事ですね。華装騎士は恨みを買いやすい仕事なので、組織全体でコードネーム制度が使われてるんです」

柚美の問いに千鶴が答える。

未だに頭上に疑問符を浮かべている彼女に千鶴と陽毬は幾つか説明を続けた。

千鶴やツバキは柚美が遭遇したグールやダンピールだけでなく、血花族(けっかぞく)と呼ばれる、世間一般に知られる吸血鬼の元になったらしい存在のバランサーとして戦える力である華装騎士の力を持っている事。

華装騎士には10個のランクがあり、その中でもツバキは比較的高位の華装騎士である事。

華装騎士と、騎士をサポートする哀悼師(あいとうし)がセットで行動し、互いに助け合う「御付き」と呼ばれる制度がある事。

グールやダンピールは人間が変化した存在だが、ツバキの対処していたヴァンプは基本的にかなり力の強い血花族である事。

血花族は吸血鬼のような存在である事。

華装騎士や哀悼師はあくまでも血花族内部の均衡を保つ為の存在であって、人間を守っているのは結果論に過ぎない事。

遥か昔(1500年ほど前)に血花族内部で2つの派閥分かれが起きた大きな戦乱──血袂戦乱(ちかいせんらん)があり、それをきっかけに華装騎士と哀悼師が生まれたらしい事。

華装騎士や哀悼師などは各国の東西南北に存在する弔い場と呼ばれる支部と、全ての弔い場を統括している血約機関(ちやくきかん)に属しており、ツバキ(マンダラ)千鶴(ローザ)は日本にある東の弔い場(関東地方支部)に所属している事。

そして。

「恐らくですけど、君の両親はもう亡くなっている可能性が高いと思います。グールになっているにせよ、グールに襲われて亡くなっているにせよ…あれだけの数がいたので……」

「そう、ですか…」

「ごめんね、色々とまとめて言っちゃって」

「いえ、むしろ色々と教えて頂いてありがとうございます」

直後、少しのノックの後にツバキ(マンダラ)と一眞が入る。

勿論、彼女の右手中指に着いているカイアも。

「来たぞ」

『なんだ?今日はオーロラの奴はいねえのか』

「遅れてすみません、出るのに時間がかかってしまって」

「大丈夫、気にしてないから。とりあえず座って〜」

クルースニクの言葉を聞き、ツバキはため息を吐きつつ、リングスタンドにカイアを置いてから席に着き、隣に一眞が座る。

『そいで、情報はまとまったか?』

「一通りはね。特質持ちダンピールの出元は少なくとも依頼人の友人だった子でほぼ割れてるし、庶民層の青年を暗殺者として雇ったのもその子だと思う。…ただ」

「ただ?」

「その特質持ちを作り出した技術の出元が割り出せてない。少なくとも血約機関(上層部)は選別派か、その派生派閥による物だとは考えているみたい」

その言葉に目線を鋭くしたのはツバキだった。

が、クルースニクは彼女の様子を気にせず続ける。

「今回の事件でヴァンプになってた子も、血花術は持っていたのは調べがついてる。でもヴァンプになれるほど、強い子ではなかったって」

「庶民層はともかくとして…貴族層でも、個としての強さはピンキリですもんねえ。幾ら血花族が何の戦闘技能も無い状態の人間よりも相当強いとはいえ」

「なら、フリークスに変化した青年と同じように外部要因で無理やり力を引き出された可能性は?」

千鶴と陽毬の言葉にクルースニクは少し考えるような素振りを見せた後、口を開く。

「可能性は0ではないけど、証拠が足りない。そもそも血花族の王は3年前に一度倒されてるし…仮にそれ以降に動いたんだとしたら、遅すぎて不自然でしょ?」

『それはそうだが、王は転生を繰り返す。選別派や派生派閥が短いスパンで復活させようとしてもおかしくはねえ』

「王?」

カイアの言葉に再び疑問符を浮かべた柚美に、一眞が説明する。

「種族全体を取りまとめられるぐらい強い力を持つ存在の事です。王は転生を繰り返すんですが、内外における影響力が洒落にならないので弔い場と機関含めて、選別派共々目を光らせてるんですよ」

「…それに王の血は人間や他種族を同族化する力もある。選別派とその派生の連中にとって、人間を体良く襲える名分が出来るようなもんだからな」

ツバキの言い方はどこか重々しい実感が篭っているように聞こえた。

「でも3年前に倒された王は何代目なのか追えてない。…中近世以降は王やその関係者が人間社会に意図的に混ざるケースが増えてて、捉えるのが間に合ってないのもあるけどね」

「ともかく、血花族の王は世間一般で言われる魔王みたいなもんだと思っとけ。…用件はそれだけじゃないだろ」

「うん。柚美ちゃんの処遇に関してかな」

クルースニク曰く、両親と繋がりがあったパーティーの主催者は貴族層の血花族である事。

結果論とはいえ、血花族だけでなく屍食鬼(グール)やダンピールにも遭遇してしまったため、仮に日常に戻ったとしても選別派とその派生派閥から狙われる可能性が高く、リスキーな事。

そういった点から、今後は日常生活を行えるように弔い場も配慮するが、華装騎士や哀悼師にある程度の保護を受けるのが現時点の最善策である事。

「で、問題は誰が君を守るのかって話になるんだけど…」

「オレがやる」

「はい?!ツバキさん、本気ですか…?」

「お前みたいな()()()()には荷が重いだろ。…第一、御付きの哀悼師に負けてる華装騎士なんてお前くらいだ」

「は〜い〜?!これでもブロンズから数ヶ月で上がったんですよ!?」

「うるせえ、大声出すな。そんなんだから、シルバーから上がんねえだよ」

「なんですか、決闘しますか???」

「オレに負け続きなのによく言う」

「木系統の術式に火で返してくるんだから相性悪いのは当然ですよね!?!」

「相性悪くてもそこから打開策見つけられねえと詰むぞお前」

「そもそも武器の数としては俺の方が多いと思うんですが!?」

「お前の主軸武器はオレより扱いにくいだろうが。せめて刺突攻撃を上手く使え阿呆」

「それは分かってるんですよ!でもブーメランみたいに使ってもいいでしょう?!」

「その戦法でどんだけ(ほふ)れた?…つか、お前は真面目に華装騎士としての自覚あんのか」

「ありますって!」

「だったら少しは御付きの哀悼師の手を借りずに滅技で倒してみろ」

「陽毬さんは木に弱い水や氷の術式をメインで扱える人だからですよ」

「哀悼師の術式に頼るな、自分の術式の練度を少しは上げろ。御付きを守らなきゃ本末転倒だろうが」

「代替わりを繰り返してるツバキさんがそれ言います?!」

「決闘挑んできても返り討ちにするぞ」

「そもそも貴女、俺と決闘する時に全く本気出してないじゃないですか〜!」

「お前相手に血駆武器(ちくぶき)使ったのも、最初の1回だけだし」

「いつか本気で勝負して貰いますからね!!」

「お前が本気のオレを相手取って、いい勝負出来る時が来たらな」

「ああ言えばこう言う〜!」

「事実を言っているだけだが」

千鶴の突っかかりから始まった機関銃のような口撃に、一眞と陽毬(御付きの2人)はため息を吐き、クルースニクはなんとも言えない曖昧な笑みを見せる。

「えぇっと…」

「気にしないで大丈夫。日常茶飯事だから、このやり取り」

「それもそれでどうなんですか…?」

困惑している柚美に陽毬が淡々と返すが、クルースニクは一旦手を軽く叩いて2人を止める。

「じゃあ、それで決まりだね。うちの組織の息がかかってるところで安全な住居を新しく用意しておくから、落ち着いたらそっちに引っ越して」

「は、はい」

「…オレは帰る。今回の件に関しては師匠から詳しく確認しといてくれ」

「もう帰るんですか?」

「こちとら慣れねえ真っ昼間からの行動で色々しんどいんだよ。ただでさえ、面倒な衝動がついて回ってるのにな

「何か?」

「いや、なんでもねえ。…じゃあな」

『……今日は相当きついみたいだ、ありゃ』

ツバキが弔い場から立ち去った後、入れ替わるように紅色のロングコートを着た、赤いショートヘアに眼鏡をかけたエメラルドグリーンの目の女性と茶髪に青い目の男性が入ってくる。

「ただいま戻りました〜…って、あれ?ツバキは?」

「さっき帰りました」

「入れ違いかあ…。任務終わったから、いいお酒渡そうと思ってたのに」

「オーロラさん、あの人あんまり飲まないって聞いたんですけど…?」

「えー、あの子飲む時は飲むよ〜?」

千鶴の言葉に紅色のロングコートを着た、赤いショートヘアに眼鏡をかけたエメラルドグリーンの目の女性──オーロラ・ノーマンは笑いながら言いつつ、適当な場所に座る。

「今回の成果物です、確認して貰えれば」

「葵君もありがとね。後でちゃんと休みな」

「分かってます」

茶髪に青い目の男性──鈴矢葵(すずやあおい)が渡した資料をクルースニクは軽く確認してからラックにあるファイルに入れる。

「任務?」

「そ、ガサ入れ。共存派、元選別派の血花族とその関係者含めて色々調べてた」

「お疲れ様です…」

「オーロラさんは研究者出の純血の血花族です。…自分で調べたい事があるという事で、華装騎士の道に進んだ人ですね」

「えっ」

「純血って言ってもそんな強くないよ〜。花樂能も血花術も使えないし」

陽毬からの説明を聞き流しつつ、相変わらず笑って済ますオーロラ。

「でも良かった。普通の人間の子がいる前であの子、自分を律する事は出来たんだ」

「え?」

『彼奴は戦乱が終わった夜にちと色々あってなァ。その時から体の殆どが血花族になっちまってて、常日頃から酷い衝動に(さいな)まれてんだ』

「彼女が御付きの哀悼師の血を…文字通り数えるほどしかいない稀血の血を全部吸血しないのは()()()()()()理性がそれを止めてるからだよ」

「人間としての理性?」

『それに彼奴はずっと王に復讐しようとしていてな、戦乱の夜に両親を失ったと思ってるのが大きいとはいえ。けど、さっき話に上がった通り、この時代における王は3年前に一度倒されてる。…だから、無理強いな復讐なのは本人も分かってんだ。でも、それだけじゃどうしようも出来ねえんだろうよ』

 

 

「っ、はぁはぁ…っ」

何故、自分はあんな選択をしたのか。

そんな考えを片隅に置きながら、ツバキは自宅である屋敷の一室の扉に鍵をかけ、ベッドの上で必死に()()()()を抑えこんでいた。

放っておけないから?

過去の自分と重なったから?

 

──増ヤセッ!増ヤセッ!

──モット血ヲ…!血ヲ寄越セェェエエ!!

 

「黙れ、黙れ…っ!!」

()()()に血を注がれてから、血花族の本能()はずっと内側から暴れ続けている。

幾ら稀血の哀悼師の血を吸っても、理性がそれを止め、必要な分を飲みきれない。

だが、必要分を飲みきる事は自分の人間性(理性)が拒絶する。

完全な血花族にはなりたくない(同じところに堕ちたくない)

声と共に内側で反復するのは自分が殺して(弔って)きた者達の感情と記憶。

謝罪、悲嘆、苦痛に対する拒絶、赦し、激情。

「ぐぅ……くっ、ぅぅうう…っ!」

ツバキは着ていた服を軽く開け、少しでも楽になろうとする。

彼女の胸部中央から両胸にかけて、大きな椿のような紋章が見える。

「…クソが…っ」

そう毒づいた彼女が再び苦しみ出すのに時間はかからなかった。

 

 

──ある廃墟と化した聖堂

「戻りましたわ」

エストリエが入ってきたのを確認した紫色の髪に赤い目の男性は白ワインを飲んでいた手を止め、赤いミディアムヘアに桃色の目の女性が彼女に抱きつく。

「おかえりなさい、エストリエ。成果はいかがでした?」

「そこそこといったところです。彼女に作らせたダンピールの一部は鹵獲(ろかく)出来ましたし。クドラクも、アイカの面倒を見て頂いて助かりました」

「華装騎士の子達も見てきたんだよね?どうだった?」

「気になりますか?」

「うん!」

紫色の髪に赤い目の男性──クドラクと赤いミディアムヘアに桃色の目の女性──アイカの問いにエストリエは僅かに笑みを浮かべながら答える。

「人間の方は哀悼師と共に戦っていましたわね。この時代では珍しいかと」

「私が動いていた頃とは違って、今は哀悼師と華装騎士が互助し合うようだからな」

エストリエの報告にそう返したのは灰色の髪に赤と青の目(オッドアイ)の男性。

彼の目元には窓から僅かに暗い影が差し込んでいる為、顔をしっかりと見る事は出来ない。

「あら、騎士様もそう思いで?…彼女はきちんと成長していました、貴方と()()する時が楽しみですわね」

「…私がお前達に協力しているのは彼女を()()()()()為だ、お前達の思想に賛同しているわけではない」

「分かってる、分かってる。なら、なんで()()()()()()()()()を持ってるんだろうね?」

「…はぁ」

アイカの言葉にため息を吐いた男性は聖堂の奥へ姿を消す。

「怒っちゃったかな?」

「ですが、彼女が器として有用なのは事実です。…最も、私は彼女の奥底にある女性性()としての姿を見る方が楽しみなのですが」

「貴女の場合は彼女が快楽に堕ちるのを見たいだけでしょう?」

「あらあら、バレてしまいました」

クドラクの指摘にエストリエはくすくすと笑いながらも、彼の反対側に座り、白ワインを一口飲む。

「ねークドラク〜。ウピールは?」

「彼なら()()探しをしているのでは。…まあ、暫くは帰って来ないでしょう」

「そっかあ…偶には遊んで欲しいんだけどな」

「私個人としては椿の華装騎士が王の器になろうと、女王になろうとあまり気にしていませんので」

「とか言って〜。クドラクは女王あんまり興味無いでしょ?」

「なんの事やら」

アイカの言葉にクドラクはわざとらしく(とぼ)けつつ、ワインを飲む。

「ですが」

「?」

 

「──椿の華装騎士の理性(ブレーキ)を壊し、目醒めさせる事が出来るのなら、話は変わってきますがね」

 

そう言いつつ再びワインを飲んだクドラクの口元には歪な笑みが浮かんでいた。




Flower.0 華装騎士(かそうきし)/異名
血鎧華装(けっかいかそう)を行う事で、血約機関及び各地の弔い場所属の騎士達が変身する存在。
血花族内部の均衡、人間・血花族の均衡を保つ為に存在する。
高い順にブラッドレッド・インペリアルレッド・ブラッディゴールド・ラスティレッド・スカーレット・クリムゾン・ヴァーミリオン・カッパー・シルバー・ブロンズの10ランクが存在(最高位がブラッドレッド、最低位がブロンズ)。
現時点で存在する騎士達はブラッディゴールド〜ブロンズまでのランクを持つ者が殆どで、インペリアルレッドやブラッドレッドを持つ者はいない(いたとしても、それは伝説的な人物に限られる)。
仕事着として羽織っているコートの色と装飾を見る事により、一目で対応するランクが分かるようになっている(ツバキ:ブラッディゴールド→赤地に金の装飾、千鶴:シルバー→銀地に灰銀の装飾、オーロラ:スカーレット→紅色)。

華装騎士の異名について
現時点では唯一の血花族での内部戦乱「血袂戦乱(ちかいせんらん)」の最後の夜に王を討ったインペリアルレッドの華装騎士は「鋼鉄の蓮(アイアンロータス)」という異名があり、その夜に相討ちとなるまでは「不敗の華装騎士」と呼ばれていた(この人物は華装騎士見習いや哀悼師見習いが必ず全体の歴史を知る際に出てくる為、知名度・実力含め相応のものであったと考えられる)。
その為、こういった事情から一定ランク以上かつ実力のある高位の華装騎士には何かしらの異名がつく事もあるが、大抵は非公式なものである(マンダラの「血花族殺し(ナイトキラー)」も、その1つ)。

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