貞操逆転世界に転生する→ハーレムができる→しかし身体は闘争を求める。 作:よろしい、ならば闘争だ。
「な、なんじゃあこりゃぁっ!?」
静かな病室に、トルクの怒号が木霊する。
普段であれば病院だからと言う理由でそれを諌めるシグルイもトルクも、机の上に置かれた財布や金目の物を文鎮にして置かれた手紙には、衝撃を受けざるおえなかった。
そこに書かれていたのは……「俺より強い奴に会いに行く。」と書かれた1枚の紙切れだった。別れを告げるにしてはあまりにも簡素で雑な紙の切れ端だ。
朝起きたらこれまで旅を共にしてきた仲間の一人……しかもリーダー格が忽然と消えて、代わりにこんな紙切れと金が置かれていたのでは、そりゃあ怒号の一つも発すると言う話だ。
「アマトさん……!!なぜこんな……?」
「くっそ!訳わかんねぇ!前々から何考えてんのかわかんなかったが、今回はマジで訳がわかんねえ!」
確かに、アマトはトルクにとっては異世界からきた人間だ。違和感のある行動は数え切れない……だが、今回は違和感が云々なんてそんな話ではない。
こんな事をされれば、嫌な予想の一つや二つも出てくる。それを真っ先に思いついたのは、この世界に来たアマトと初めて出会い、一番アマトとの付き合いが長いはずのシグルイだった。
「……怖気づいたか?」
「あっ?」
トルクがその言葉に疑問符を浮かべる。シグルイは手紙を片手に目を細め、数日前の出来事を思い出しながらつぶやく。
あの惨状は忘れることも出来ない。アマト達は、それまで無敵と言えるほどに目の前の障害を打ち破ってきた。言わば無双……もはや敵無し。そう思い込んでいた。
しかし、世界を広い。広すぎる、その広い世界のほんのどれくらいを人はその短い一生で認識できるのか?きっと、那由多の内の1にも満たないのだろう。
アマトが、シグルイが、トルクが、ヘテロが築いてきたプライドや自信や力は、たまたま現れたたった一匹のドラゴンにズタズタに引き裂かれたのだ。死への恐怖と言うおまけも添えて。
「……死ぬのが怖くなって逃げたんじゃないのか?」
「シグルイ!テメェ!!」
シグルイの言い草にトルクの怒りは有頂天になり、思わず掴みかかる。トルクはそのまま思いの丈をぶつける。
「アイツはそんなタマじゃねぇ!アイツは何にも物怖じなんかしねぇし、山賊の長なんてロクでなしだったアタシに手を伸ばしてくれた奴だ!!逃げるなんて……んな弱い事する訳がねぇ!」
「落ち着け!私は別に逃げる事が弱い事だなんて思っていない。だが、現実的に考えてこんな事をされたらそう考えるのが自然と言う話だ!」
シグルイはそう弁明するが、トルクには寝耳に水なのかその胸ぐらを使む手の力は弱まらない。
シグルイとトルクは元々馬が合わなかったが、今まではアマトが間に入ってくれていたから何とかなっていた。だが、一人いなくなった瞬間にこれだ。
二人の喧騒はエスカレートしていき、今にも外に出てゴーレムを持ち出してきそうな勢いだ。
「テメェは前から気に食わなかったんだよ、斜に構えて気取りやがって…………表出ろ!」
「はぁぁぁ…………断固拒否だ、一人で行くと良い。」
「や、やめてください!!!」
それを引き止めたのは、普段大声なんて全く出さないヘテロだった。ヘテロは、服の裾を握りしめながら、瞳に大粒の涙をためて堪えている。
「……アマトさんはきっと、修行に出たんです。」
「修行……?修行ってなんの……」
「考えてたんです私、本当にアマトさんが逃げたのかって……」
「な、何言って……」
2人の疑問に答えず、ヘテロは自分の考えを言葉にしていく。言葉を遮ろうにも、言葉が止まる気配はない。
「確かに、この状況。シグルイさんの言う通り怖気づいて逃げたのが普通なのかもしれません。」
だが、それを信じたくないし信じられないのはヘテロも同じだった。そして、
「でも、本当に逃げただけなら、態々こんな置き手紙やお金だって置いていく必要無いじゃないですか。」
「……確かに。」
テンパっていたのか、先ほどまで余裕な下げだったシグルイも少しずつ顔色が変わってきた。
「そして、この俺より強い奴に会いに行ってくる。……これって、武者修行に行くって意味なんじゃないんですか?」
「「!!」」
トルクとシグルイの顔が納得に染まっていく。確かに……俺より強い奴に会いに行ってくるなんて言葉、早々置き手紙に描くものでもない。確かな意味が込められて居ない限りは。
「……私も、修行の為に飛び出してきた身だから分かるんです。自分の力が届かない時の無力さとか。それを何とかしたいって思う気持ち。」
それは、同じ様に修行の為にでてきたヘテロだからこそわかる気持ちだ。「こんなやり方ででてくなんて言うのが、アマトさんらしいけど)なんて付け加えたりはしたが。
「……だが、そうだとしたらアタシらはどうしてやるのが正解なんだ?」
それは、トルクから出た疑問だった。
「……アイツを連れ戻すのか、アイツにとっての修行が終わるまで待ってやるのか……どっちが良いんだ?」
トルクにとっては、アマトは今すぐに帰ってきて欲しい人だ。それだけ大事な人だ。自分をまっとうに表を歩けるようにしてくれたのだから。
シグルイにとっては、自分で発見した謎のゴーレム。α-BETシリーズに、それに乗り込んでいた男と言う創作で見るようなシチュエーションを見て、ずっと共に旅をした者。
ヘテロにとっては、非力で未熟な自分の力を見込んで共に行こうと誘ってくれた者。それにどれだけ救われたかは、ヘテロ自身もわかりきっては居ないほどだ。
だが、皆同時にだからこそアマトの修行を邪魔したくない気持ちを持っている。それは、シグルイやヘテロも同じなのか、少し俯いてしまう。
シグルイはベッドに座り込み、考える。
「……アマト。」
シグルイのか細く小さな言葉が、こぼれていくのであった。
―――
「っ!」
馬車に揺られる中、アマトは寝落ちから目を冷ます。少し体を伸ばすと、そこはまだまだ森の中。向かい側には、ハルジオが恍惚とした目でこちらを見ていた。
「……見過ぎだ。」
「済まない、君のような男の子と馬車で二人っきりなれるなんて稀だからね。つい、興奮してしまったよ。」
ハルジオは、声も仕草も顔も一一がいけ好かないほどに優雅だ。だとしてもかき消せない気持ち悪さがそこにはあった。
だが、この程度の視線アマトは既に慣れっこだ。夜中にどれほどトルクやシグルイやヘテロがベッドで自分の寝顔を見てきたのかは覚えても居ない。
少しでも隙があれば犯して来そうなほど興奮している時もあった。アマトはよく貞操を守れていたものだと、自分で自分を褒めてやる。
歩けば暴行、仲間といても気は抜けず、こうして明らかにした心アリ気なイケメン女子と同じ場所になって若干後悔することもある。
アマトにとってら、愛機があるからこそこうして余裕で居られるってものだ。
それに、目の前のハルジオが、この前のドラゴンほど強かったら終わりだ。
そう考えてしまうほどにこの世界には、在野の強敵がたくさん居るということだ。アマトも、きっとその内の一人に数えられる日が来るのだろう。
すると、ハルジオが馬車から少し顔を出すとそこには幾つかの民家が盾並ぶ村が見えた。ハルジオは少しニッコリして、自慢げに村を指さした。
「アレが私達の村。ジストだよ。」
「ジスト……か。」
目に映るのは、近くに大きめの病院がある街の近くにあるとは思えないほど寂れている村だった。そんな街が近くにあるから寂れているのかは知らないが。
だが、アマトにとっては些細な問題だ。野宿もこの世界に来てからはやりなれている。宿になりそうな場所があればそれだけで十分だ。
「な?何もない村だろ?」
「何もなくたっていいさ。別に。」
出来るなら、腕試しできるような強いやつがいれば一番嬉しいが。まぁ、贅沢は言わない。自分から火を付けるまでもしなくていいだろう。
ハルジオはそう語るアマトをみて、軽く微笑みながら呟く。
「なら、君は村に着いたら何をしたい?」
アマトは、少し考えて言った。
「腹が少し減った、飯が食いたい。味が濃い目のやつ。」
病院食にはアキていたし、味の濃い肉にかぶりつきたい気分だ。すると、ハルジオは軽くほほ笑みながらアマトに提案する。
「なら、私の家でご飯を食べてくかい?賃金は取らないよ。」
「マジか……有り難いが……」
「警戒することはない、お金なんて結構さ。」
アマトの渋り沙汰にそういう警戒を感じと中、アマトにハルジオは優しく微笑みかけた。
(……他のモノは要求するかもだが、ね。)
そう言って、ハルジオはココロの中で気味悪く舌なめずりをした。目の前の上等な獲物へとかぶりつくために……
だがこの時点で彼女は間違いを犯してきた。
ハルジオが間違えたのは、その獲物がとんでもない狂犬で、それをつなぐ手綱を持っていなかったことだ。