貞操逆転世界に転生する→ハーレムができる→しかし身体は闘争を求める。 作:よろしい、ならば闘争だ。
馬車に揺られること30分。たどり着いたのは、森林に囲まれた何もない村だった。あるのは民家やちょっとした畑等……病院なんてものは見当たらないし、娯楽施設も何もない。
そんな深夜のジストのとある民家では、一人の青年が差し出された料理へと手を伸ばしていた。肉を齧り、野菜を貪り、パンを食い千切り、牛乳を飲み干す。
味気ない病院食を続けていたアマトの舌に、強めの味が染み込んでくる。悪くない感覚だ、身体には確実に良くないのだろうが……そんな事を気にして食事するほど、アマトは神経質ではない。
そんなアマトを、ハルジオは微笑みながら見つめている。美味そうに食べる人間には、つい見とれてしまうものだ、こと男についてはなおさらに。
「うまっ……うまっ!」
「ふふっ、よく食べるねぇ。まだあるから、いくらでも食べると良いよ。」
「ありがてぇ、頂くぜ。」
アマトは差し出された飯を何の躊躇もなく頬張り、胃袋の中に収めていく。その警戒心の無さは、ハルジオも心配するほどだ。
どうやってこの世界で生きてきたのだろう……そんな考えがハルジオの頭をよぎる。今までは他の仲間が番犬としてアマトを守っていたし、そもそもアマト自身がこの世界に来てから数年も経っていない。
元々は貞操逆転とは無縁の世界にいたからしょうがないであろう……いや、助けられたとは言え、よく知らない人の飯にがっつくのはどの道問題があるのだろうが。
「いや、マジでうめぇ。結構良いモン使ってんな?」
「まぁね、でもこの家には私一人しか住んでないから持て余してて助かった所さ。」
そう言って、ハルジオも自分の分を口に運ぶ。すると、不意にアマトが窓の外に目を向けていることに気づく。
その窓の向こう側に映るのは、一体のゴーレムだ。西洋甲冑をそのまま巨大化させロボットにしたような見た目をしている。
「……あのゴーレムが気になるのかい?」
「あぁ、それなりに使い込まれてるからな。」
その損傷や修復加減からそれなりに長い間使われてるのがわかる。
「あれはアンタのか?」
「そうだね、特に珍しくもないゴーレムだけど私にとっては大事な仕事道具さ。」
「仕事道具?」
「私の家系は、代々ジストの防人をやってるんだ。」
「防人?」
「そう。」
ハルジオはそう言って、手元のお茶を一口飲むとぽつりぽつりと語り始めた。
「私の母も、母さんの母さんも、母さんの母さんの母さんも。この村を守るためにこのゴーレムを使って戦ってきたんだ。山賊やモンスターから村を守り続けてきた防人、それが私の一族。」
「はへぇ。」
アマトにとっては楽しそうな務めだが、ハルジオにとってはそうではないらしい。その顔には陰りが見えた。
「まぁ、私も急に母が亡くなって最近役目を継いだばかりなんだけどね……」
「……そうか。」
少し間を開けて、アマトはそう呟く。
「っと、湿った話をしてしまったね。」
「いや、構わねぇよ。」
「次は、きみの話も聞かせておくれよ。」
「俺の話?」
そうは言われても困る。もともとこの世界におけるアマトの過去はないようなものだし、転生者だと叫んでも信じてもらえるわけがない。
オマケに、食べ終えた後で血糖値が上がってるのか頭がフワフワしてきた。
アマトは、虚ろになりかけた頭で何とか言葉を紡いでいく。
「特にねぇよ、ただ行きてぇ場所があってな。そこに行く方法を探すために旅をしてるってだけだ。」
「行きたい場所?それは、特別な方法を使わないといけない場所なのかい?」
「まあな。」
このときにアマトが喋る行きたい場所……それは果たして、元の世界のことを話しているのか、闘争の極みという戦いの道の先を話しているのか……それには、誰にも分からない。
「へぇ……その場所はどんな所なのかな?」
「…………さぁな。退屈な場所なのかもしれねぇし、飽きの来ないような場所無のかもしれな。」
だんだんと、アマトのレスポンスが鈍くなってくる。その様子を見て、ハルジオが軽い笑みを浮かべながら語りかける。
「ん、眠くなってきたのかな?」
「……んあ……おう……」
段々と、更にアマトのレスポンスが悪くなっていく。すると、ハルジオは軽く笑みを浮かべて反応の薄くなってきたアマトの頭を軽く撫でる。
「大丈夫かい?いいよ、ゆっくりと眠りな………」
「……んっ。」
アマトは虚ろな目でそう頷いて、カクンカクンと首を降ろす。やがて、スヤスヤと心地よさそうな寝息が響いてきた。
アマトは少しして、バタンと机に突っ伏して完全に眠りの世界へと入っていった。ハルジオは冷や汗とともに笑みを浮かべてアマトの身体をそっと撫でる。
「はぁ……はぁ……ちょ、チョロいなぁ……こんな簡単に引っかかるなんて……」
ハルジオはそう言って頬を赤らめ、段々と息を荒げていく。ハルジオはポケットから一つの薬瓶を取り出した。
中身は近くの野草を調合して作られた睡眠薬だ。本来は不眠症解消の為に作られた品物だったが、当然あればこんな真似にも使われる。まぁ売る側に売れれば何でもいいのだ、どんな用途に使われようが。
予め語っておこう。今までのハルジオの言葉に嘘偽りはない。彼女が防人としてこの村を守ってきたのも本当だし、最近母が亡くなり後を継いだのも本当だ。
防人としての使命感も持ち合わせている。それはそれとして、彼女自身が相当性に奔放な人物だったと言う話だ。
防人としての使命感?そんなモノが性欲に勝てる訳が無いだろう。少なくとも、ハルジオは勝てない側の人間だったというだけの話だ。
「ふふっ、少し勇ましすぎる顔付きだけど悪くないじゃないか。さて、楽しませてもらおうかな……」
そう言ってハルジオはアマトの服へと手をかける。布が肌と擦りあってその肌が顕になる。そこには、突然平穏な現代社会から鬼畜な異世界へと飛ばされた男の生傷が無数に刻み込まれていた。
ハルジオはその傷をみて目を丸くする。
この世界では、男はお淑やかにいるべし……それが常識だ。それなのに、こんな傷の数々……どれ程の修羅を潜ってきたのか想像に事足りる。
「……可哀想に。」
ハルジオの口から出たのは、そんな同情の言葉だった。旅をしていると言ったが、それは裏を返せば頼れる人がいない……天涯孤独の身ということなのではないか?(ある意味あってる。)
そんな男を善意をエサに釣り上げて、薬を飲ませて犯す。実に淑女の道からは外れた行為だ。
こんな傷を見せられては、何か手を出す気持ちも薄れかけてくる。ハルジオは脱がした服を下に戻してどうするか考え込む。
「……このまま、寝かせて上げるか?」
それは、性に奔放なハルジオの中に残っている絞り粕の良心が起こした行動だった。性には勝てないが、防人として、淑女としての誇りはかろうじて残っているようだった。
ハルジオがアマトを横にさせようと手を伸ばす……すると、突然地響きが鳴りだした。
「っ!?なんだ……!?」
ただの地震ではない、その音はだんだんと近寄ってきている。ハルジオが外を飛び出すと……そこには、多脚と両手に巨大な火器を持ったゴーレムがジストの待ちへと脚を踏み込んでいた。
「ご、ゴーレム!?」
ハルジオとしては信じられない光景だ。近くの山賊や蛮族は先代の防人達が斬り伏せてきたはず……実際、母の代の頃には蛮族なんて出てこなかったのに。
その多脚のゴーレムから、人の声が流れる。女の声だ。
『アタシはグル、コイツは愛機のデストロイヤー!悪いが最近資金が少なくってね、景気づけに襲わせてもらう。逃げたきゃ逃げるといいさ!待ってはやらんがね!』
その言葉を最後に、デストロイヤーの火器からは魔法陣生み出された、魔力を媒体としたレーザー砲が村へと放たれる。
ほんの先程まで平穏に、静寂に染まっていたジストの村は、ほんの一瞬で焼けた建物に広がる地獄絵図へと変化していった。
「……ぐっ!……」
ハルジオは不意に眠りにかけているアマトを見る。彼に仕込んだ薬はそれなりに強い代物だ。この騒動でも起きていないのがその証拠。彼を背負って逃げ出したい所だが、本当に出来るのか怪しい。相手が一機なら、いっそ……
ハルジオは、自身の受け継いだゴーレムを見上げる。旧式だが、あいても山賊。たいそうな装備を持っているわけでもない……それならば、やれるのかもしれない。
「……やるしか無い。」
ここで一人だけ逃げおおせて、アマトを見捨てるカスの極みのような真似は、さすがのハルジオも出来なかった。
ハルジオは大急ぎでゴーレムへと向かい、そのコクピットへと乗り込む。旧式なだけあって、中はレバーやある程度の感覚同期しか行えないポンコツだ。だが、やるしか無い。
ハルジオは意を決して、起動の呪文をつぶやく。
「ナイツ、START UP」
次の瞬間、兜の奥からモノアイのような光が一瞬灯ると、その15mの巨人は地面に足をつけて立ち上がる。その手剣と盾を携えて。
「……防人としての初陣、やらせてもらう……!!」
『へぇ……そのゴーレム、ただのお飾りじゃないって訳かぁ!』
月が、雲に隠れ始める。それは、拮抗していたゴーレム同士の戦闘開始の合図になり得たものになるのだった。