剣道少年ビターエンドアフター ~後日談はデンドロで~   作:砂漠谷

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卑劣な術

 ここで少し、黒羽家現当主、黒羽影宗という男の話をしよう。

 

 幼い頃から蝶よ花よと育てられ、容貌のみ精悍ではあるが、傲慢にして幼稚な男。そのような読者諸氏のプロファイリングは外れていない。

 

 しかし、彼は才があった。【隠密】系統と【武士】系統という、重なることが稀な二つのジョブへの適性と、それをカンストまで鍛えることができる才能と向上心が。

 

 そして、運もあった。【隠密】と【武士】、そして、【殿兵】のカンストを必要条件とする希少職、【影武者(シャドウ・サムライ)】への就職に成功。

 黒羽家当主としての地位を確固としてからは、天地でかつて猛威を振るったテロ集団<天誅殺>に秘密裏に資金援助を行い、見返りとして【征夷大将軍(コンクエスト・ジェネラル)】の護衛であった当時の【大将影(ジェネラル・シャドウ)】を暗殺させた。

 そして、混乱に乗じて、自らが超級職【大将影】に就くことに成功する。

 

 実体のある分身を大量に喚び出し統率する【大将影】の能力。

 その強力な広域制圧能力を用いて、隣接する土地を少しずつ切り取っていった。幾つかの零細領地は全て併呑することにも成功したのだ。

 

 黒羽影宗は、領土監視・配下統制・反乱鎮圧能力に長ける【大将影】の能力を十全に用い、黒羽家を大きく栄えさせた。

 

 ――それが、<謀神(ザ・タクティクス)>と呼ばれるある男の誘導の結果とも知らずに。

 

 

 

「儂が譲った【大将影】、そろそろ返してほしいのよ」

 

「は、はは……北玄院、藍牙、殿。どうしてここに……」

 

 黒羽影宗と北玄院藍牙。かつて、黒羽家と北玄院家が相互不可侵の契約を結んでいた頃、文通する仲だった。

 希少職、【影武者】の情報。テロリストクラン、<天誅殺>の紹介。それらは、北玄院藍牙によって手に入れたものだ。

 昔は頭が上がらなかったが、今や黒羽家は飛ぶ鳥を落とす勢いの成長勢力。もはや当主個人は警戒するに能わずと、北玄院藍牙を軽視していた。

 

 ――しかし、一人の広域制圧型超級職と、二人の個人戦闘型超級職。この状況では、あまりにも戦力の差は隔絶していた。

 

「……もう、用済みだ、ということじゃ。儂の北玄院が、天下に武を敷く踏み台として、黒羽家は、貴様は十分仕事をしてくれた。感謝する。影宗よ」

 

「な、何を仰って……?」

 

 碧乃が憐れんだ表情で視線を逸らす。

 

「もう、いいでしょう。疾くこやつの首を刎ねるのが、武士の情けです」

 

「しかし、種明かしはしたいものよ、碧乃。くく。儂が貴様を自由にした理由。まあ幾つかあるが、当ててみよ、影宗よ」

 

 黒羽影宗の頭は未だ混乱していたが、即時には殺されない雰囲気はなんとか悟り、冷静さを取り戻すことに成功した。

 

「藍牙、殿。御戯れもほどほどにして頂きたい。我は元々黒羽家の領主であり、人々を統治する身分よ。貴殿に不自由にされたことなど一度としてない」

 

「ふむ、ほう。たしかに人間の自由意志というものをどう定義するかにもよるな。神の手の上で踊っている人は、はたして自由なのか」

 

「何を……言っている!? 気でも狂うたか、藍牙!」

 

 刀を抜こうとして折れていることを思い出し、脇差の柄に手を添えてじりりと引き下がる。

 自分の得意な戦闘距離に持ち込もうとしたのだろうが、それは【薙神】北玄院碧乃が背後に回ることで阻止された。

 

「種明かしじゃ。理由としてもっとも大きいのは、カムイの森周辺の有象無象を征服させるためよの。あの森の資源は惜しいが、儂らが直接侵略支配すると恨みを買い過ぎる。貴様は随分圧政を敷いておるらしいではないか。そこで儂らがズバーンと現れ、バカーンと貴様を誅し、シャラーンと四公六民の低税率で統治する。これで統治がうまく行くという寸法よ」

 

 ――黒羽家は、カムイの森周辺の零細領主や独立村はほぼ全て、武力により併合していた。

 併合して、しまった。それで、黒羽影宗の運は、既に尽きていた。

 ここまで説明されて、理解しないほど黒羽影宗の教養は低くはなかった。

 

「で、貴様はもうお役御免、という訳じゃ。最後に、最近現れた<マスター>共の試金石となってくれて、とても感謝しておる」

 

「おのれ藍牙……全て貴様の掌の上には、ならぬぞ!」

 

 《瞬間装備》を用いて、黒羽影宗は鉄砲を取り出す。火縄銃というよりは、西洋のマスケット銃に近い形状。しかし、その銃床は草で覆われ、異様な匂いを香らせていた。

 逸話級特典武具、【酔髄砲煙 ガンギマワリ】。植物の種を弾丸として放ち、掠るだけでも昏倒させる強烈な麻薬効果を発揮させるマスケット。

 それを構え、藍牙に向けて引き金を引――くことは、できなかった。

 

「か、身体が――」

 

 動かない、と言うことすらできない。藍牙は、指を少し動かしただけで、影宗の動きを止めた。

 

「おっと……糸くずがついておるな、とってやろう」

 

 藍牙は、ゆっくりと影宗に近づき、その頭に触れ。

 

 そこから、一筋の糸を、ずるりと引き抜いた。

 

 まるで、その糸が、肉体の奥深くにまで沈んでいたかのような音だった。

 

「十数年前、手紙に付けた糸くずが随分成長したものよ。《縦の糸はあなた(ユア・ヴァーチカル・スレッド)》」

 

 どさり、と影宗は力なく倒れ。

 二度と、彼が目覚めることはなかった。

 

 

 

【刀巫】ミルキーウェイ・アンティプライド

 

 敵は全て去った。味方も多くがデスペナになったり、逃散したりした。

 残ったのは、俺と、断佐。そして、裏切り者ガンニバルが残していった封印済み<UBM>だけだ。

 

「ふぅ……、終わった、な」

「ええ、ミルキさん。なんとか、生き延びることが出来ました……まさか、この戦が、我が主君の計略で起こったとは……巻き込んでしまい、申し訳ありません」

 

 断佐が、懐から水筒を出して水を一口飲む。死線を潜り抜けた結果が、主人が起こした茶番だと、断佐は途中から察していた。

 

 ビッグマンの忠告、身元が明らかなはずの自軍<マスター>の裏切り。それらから、この戦の目的が有望な<マスター>の選別だと理解してしまった。

 

 そのような目的のために、彼、藤山断佐は戦争に赴くはめになったのだと。

 

「なぁ……おまえは。主人を、北玄院藍牙を憎まないのか?」

 

 俺なら憎む。目的を伏せて、下らない選別のために自分を死地に追いやったのなら。

 しかし断佐は首を横に振った。

 

「いえ、僕は主君を信じていますが、主君は僕を信じる必要はありません。敵を騙すにはまず味方から。味方を騙すにはまず忠臣から。主君からそう教わっています。御恩はすでに頂いています。ならば僕は奉公するだけ。これからも」

 

 そうし続けます――と。

 言葉は、続かなかった。

 

 森の奥から銃声もなく放たれた弾丸が、断佐の頭蓋に命中した。

 俺が戦闘中に与えた【救命のブローチ】が砕け、ダメージを無効化する。

 まだ、彼は生きている。攻撃をこれ以上受けなければ、生き延びられる。

 

「断佐、伏せろ! 残党だ!」

 

 俺は弾丸の放たれた方向に飛び出し、断佐への弾道を遮る。

 断佐はしかし、伏せることがない。

 

「あ、しゅくん、しゅくんがみえる……」

 

 ふらふらと、弾道が通る方向に歩いていく。彼を無理やり押し倒し、ステータスを確認する。

 

 【幻毒】!? クソ、デバフか!

 

 ヒーラーはいない。仕方なく、剣の柄で彼を殴り、昏倒させて地面に伏せさせる。

 銃弾が放たれた方向に視線をやると、馬にのった女と老人。そして、虚ろな目をしてそれに付き従う黒羽家の当主が森の影から出てきていた。

 

「誰だ!?」

 

 【クロサワ】を抜き、遠距離攻撃にも対処できるように警戒する。

 老人は、馬上から手を叩いて喜ぶ。

 

「よくぞ生き残った、勇士よ。儂は北玄院藍牙。お主を食客――否、家臣として迎えたい。幾つかの村の統治権を与え――」「そんなことはどうでもいい!」

 

 北玄院藍牙。つまり、断佐を騙した主君。

 そいつが、なんでここにいて、敵対している黒羽家当主を従えている?

 

「なぜ、断佐を撃った!」

 

「それは、ここにいる影宗が――という言い訳は、通じぬか。そうじゃ、儂が撃たせた。一度放った矢を回収して使うほど、儂は貧乏性ではない。回収して歪んだ矢を放つとな、竹とんぼのようにこちらに刃が向きかねんのよ」

 

「――! 断佐は、人は矢じゃねぇし。お前は弓手じゃねぇ!」

 

 藍牙は俺の言葉を受け、なるほどと頷いた。

 

「なるほどのぉ。"りある"というのは随分と豊かなのじゃな。人を人としてのみ、扱うことが許される。なんとも素晴らしい。――しかし、この天地では通用せぬ思想。儂の天下布武が為され、三百年も経てば通用するようにもなるか」

 

 藍牙は天下統一をしたいのだと言う。だからといって、この所業が、裏切りが許される訳はない。

 

「断佐は忠臣だった! いや、今もそうだ! 三百年も経たなくても、忠臣を切り捨てることは――許されない、違うか?」

 

「時と場合による、とだけ言っておこうか」

 

 隣にいる女が、俺から眼をそらし藍牙を見る。

 

「ふにゃ……はっ、主君!?」

 

 昏倒していた断佐が目覚める。随分と早い。

 

「くく。まあよい。お主は我が北玄院に降るなら、断佐は生かしてやろう。随分と情が移ったようではないか」

 

 コイツの手下になるのは受け入れがたいが、断佐は失いたくない。彼はもう、俺の中で戦友になってしまった。

 

「――分かった」

 

「主君? ミルキ殿も北玄院の家臣となるのですか! やったぁ!」

 

 断佐は銃撃したのが藍牙だと気付いていないのか。それとも直近の記憶を衝撃で失ったのか。

 

「契約成立じゃの。では、《縦の糸は(ユア・ヴァーチカル)……》ぐっ!」

 

 何かの目論みが成功したかのように、ニタリと笑いスキルを発動する。

 

 一瞬だった。その顔が、鋭痛に歪む。

 女は、《瞬間装備》で取り出した薙刀を、振り下ろしていた。

 老人は、【救命のブローチ】を砕かれていた。




大将影(ジェネラル・シャドウ)
 『シルエット使役型(量)』超級職。
 モンスター種族ではなく、転職クエストや<修羅の奈落>で現れるNPC、「シルエット("影"とも呼ばれる)」を使役する超級職。ぱっと見《分身の術》を極めた先にある――ように見える。
 《軍団》の最大レベルが1であり、千人以上を率いることはできない。
 だが、【大将影】のレベルと同じ合計レベルの、『自分が持つ非超級職をコピーしたシルエット』を低コストで・武装コミで即時生産することが可能である。そのため、黒羽影宗のジョブ構成は【鉄砲武者】【砲兵】などで多くが占められている。

糸神(ザ・ストリング)
 糸系統スキル特化型超級職。北玄院藍牙の場合は、傀儡師系統から派生したものであり、《糸繰り》スキルを対人用・長期潜伏用に特化させた各種スキルを開発・保有している。
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