剣道少年ビターエンドアフター ~後日談はデンドロで~   作:砂漠谷

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本日から五日間連続更新です


サメとカリバー

隻剣王(キング・オブ・シンギュラーソード)】ピーチハンディ・キャップ/萌々手純

 

 海を往く。

 包帯に巻かれて浮く右手が、剣でなく、駕籠を持ち。

 駕籠には、少年と老人、二人のティアンが乗っていた。

 

 包帯に巻かれた右手の正体は俺――【隻剣王】だ。

 現在はAGI10000ほど、ギリギリ超音速で駕籠を持ち、飛行している。

 駕籠は符がべたべたと張られており、それが生成する結界ゆえに、内部の二人は風圧で吹っ飛ぶことはない。

 藍牙が、名目上は黒羽家の食客である【封姫(シール・プリンセス)】ガンニバルに、秘密裏に作成させたものだという。

 

「のう、【隻剣王】よ。雇い主である儂に義理を立てた、というワケじゃなかろう」

 

 ティアンの一人――北玄院藍牙が、俺に問う。

 包帯の隙間から、口を開いてそれに返答する。

 

「あァ、天河――ミルキーウェイの頼みさ。感謝するならアイツにしてくれ。……今から黄河に行く。異論はないな?」

 

 上級職パーティでも航海は困難な、<境海>を超えた先。大陸の東部分を支配する大国、黄河。

 異国に今から行くというのに、二人に不安の表情はない。

 

「ええ、ありません」

「儂もじゃ。碧乃のやつは、後顧の憂いを断つために儂に追手を差し向けるじゃろうが……海の向こうでは、それも届かんだろう」

 

「数時間の船旅だ。もっとも、海面にこの駕籠が接することはないが――おっと」

 

 右手の少し前方で浮遊する、双つの虹色水晶の眼球型アクセサリ。広大な空間把握能力を持つその瞳は、深海から高速で迫る海竜――最上位純竜に近い――を感知した。

 

 特典武具である一対の名は――【視宙彗瞑 パロール】。

 魔眼や邪眼の類ではない。ただ、頑丈さと視覚系スキル、そして飛行系スキルを兼ね備えた伝説級特典武具だ。スキル特化型で、ステータス補正はない。

 《閉覚硬化》というスキルにより、視覚系スキルをオフにして飛躍的に硬度を高めることもできるが――それは今ではない。

 

 深海に焦点を定め、【パロール】に内包される《個体解析》スキルを起動。

 最上位純竜よりも上――その海竜は、竜王の域に立っていた。

 

 【鮫竜王 ドラグジョーズ】。おそらく、浅瀬の海岸に住まい、時折砂浜を襲撃する知能の高い鮫のような竜、【鮫竜(シャークドラゴン)】種の竜王だろうか。

 

「あと二秒で水中から鮫型UBM。捕まってろォ!」

 上空へ向けて一気に加速――10以上のGが駕籠に乗る二人に掛かる。

「ぐ、っぅ!」

「ん、むぅ」

 

 断佐のジョブ、【穢者頭(トップ・オブ・エモノ)】はSP特化型ジョブ、他のステータスは通常の上級職と大差はないため、いきなりの加重に少しHPが削れる。【(ザ・ワン)】である藍牙は問題なさそうだ。

 

 【鮫竜王】は、海面から飛び出し、駕籠に向かって顎を開く。だが、俺――【隻剣王】の方が速い。

 駕籠の底に、ほんの少し【鮫竜王】の鼻先が触れる。だが、結局のところ、【鮫竜王】が与えられるダメージはその程度だった。

 

『おのれぇ、貴様! 北玄院の爺だろう! 我が妻を、返せ! その匂い、へどろのような性根がこびり付いた血は、皺だらけのその皮の内側に秘していても分かるぞ』

 【鮫竜王】は、思念による言語で吼える。同時に、《デスヴォイス・ブレス》が放たれ、ステータスの低い断佐は昏倒した。海中に落下しないように藍牙が少年の身体を支える。

 

「おい、藍牙。お前の客だぞ」

「しかしのぉ……竜王の知己がおれば、以前の儂なら手駒にせぬ訳がないわ」

 

『ふざけたことを! 我が妻オイカジキを洗脳し、攫ったのは貴様だろう!』

 

 《竜王気》が怒声と共にあふれ出す。【鮫竜王】はお怒りのようだ。

 

「オイカジキ……? あ」

 

 黒羽家領土が拡張しすぎないように、そんな名前の<UBM>を捕獲し、黒羽家近くの湖に放流しておいた記憶がある――そう言おうとして、口を閉じたのだろう。

 コイツに雇われていた俺も、事情は聞かされている。

 

 同情するが、所詮はモンスター。結局は殺すしかない。

 なんと惨めなことだ。本当に――同情するよ。

 

 かつての婚約者を思い出す。樫宮流の嗣子候補として、まだ扱われていた頃には、そんな女もいた。

 俺から婚約解消を言い出した。高校を中退した頃に。真剣の死合の道に入るにあたって、絆しはなくしておきたかった。

 女は、俺を平手で殴って、その後、去って行って連絡は途絶えた。アイツは、元気だろうか。

 

 ま、魚畜生と一緒にされたくはない。《瞬間装備》、水晶の直刃剣を、【クー・フー】の包帯の内側に装備している、腕輪型アイテムボックスから取り出す。駕籠は空中に放置。推力装置はないが、空中にホバリングする機能はあったはずだ。

 

 【屠私淀切 ダム・デュラック】。特典武器唯一のスキルを発動せずとも、かなりの攻撃力・耐久力を持っているため使い勝手が良い。

 だが、その本質は、自身の肉体の任意の部位を消失させ、その分攻撃力と攻撃範囲を向上させるスキルを持つ、古代伝説級の刀。今の俺の主武器だ。

 呼吸循環器は当然必要だ。逆に、デンドロでの食事は栄養注射で済ませているから、胃腸は不要。両脚も当然、不要だ。

 消滅した部位は【欠損】すると同時に、断面からは当然【出血】の状態異常が起こる。問題はない。【クー・フー】は元々包帯型エンブリオ。包帯の本来の機能である【止血】のスキルも、おまけ程度だが十分高性能だ。臓器消失時の内出血も防げる優れものである。

 今回は、右足の膝から下を選択する。こいつ相手なら、これで十分だろう。

 

「《既に捧げた苦悩の剣(ダム・デュラック)》」

 

 水晶の剣の内側に、赤黒い煙が薫る。俺の生命の本質(エッセンス)だ。

 一振り、それで十分だった。十分な膂力と、過剰な速度、そして適切な技量によって。

 俺の剣から放たれる淀んだ斬撃は、【鮫竜王】をそのオーラごと、鼻先から縦に両断した。

 

 【<UBM>【鮫竜王 ドラグジョーズ】が討伐されました】

 

 【MVPを選出します】

 

 【【ピーチハンディ・キャップ】がMVPに選出されました】

 

 【【ピーチハンディ・キャップ】にMVP特典【鮫牙契環 ドラグジョーズ】を贈与します】

 

 小さな宝柩が海中に落下するのを、二つの水晶眼で()()、アイテムボックスに収納する。

 

「さぁ、行こうか」

「お、おう……」

 

 気絶した断佐を抱えた【糸神】は、俺を見直したようで、少し気分がいい。

 その後の海旅には、大したモンスターは――少なくとも中位純竜級程度までしか――出没しなかった。運が良かったわけだ。

 

 ――天河。お前はここまで来れるだろう、きっと。

 だが、そのためには、いくつかの修羅場を潜り、いくつかの絶望を味わうだろう。ティアンを大事にするお前ならなおさらだ。

 その果てで、俺と対面して。

 仮想の強さの代償として、惨めさを味わったお前と。俺のようになったお前と、逢いたい。




【鮫竜王 ドラグジョーズ】
 血の匂いを感知したり、咆哮をブレスにしたり、鮫肌鱗で削ったり、《竜王気》を纏ったりできる。
 伝説級下位。愛妻家。
封姫(シール・プリンセス)】ガンニバル
 餓鬼道戯画丸さんみたく、戦闘においてエンブリオ(【セイテン】)とあまりシナジーのないジョブを持つ。だが、それを踏まえても余りあるほどの、「封印」というものの政治的有用性により、北玄院に重宝されている。
【視宙彗瞑 パロール】
 虹色の観測眼を持つグレイ型エイリアン染みた妖怪の<UBM>が特典武具になったもの。広範囲高出力の「看破」を持ち、看破が通った相手のHPを割合で減らしていく伝説級UBMだったが、看破が通る前に超音速で飛来した刀に貫かれ死亡。名前の語源はケルト神話の魔眼持つ巨人種フォモール族の王バロールのもじり。バロールほど強大ではないため半濁音。

【屠私淀切 ダム・デュラック】
 怨念の染み込んだ湖沼に佇んでいたエレメンタルの<UBM>が特典武具になったもの。元は湖沼に沈む怨念を吸い上げ、水晶に封じ込め、それを素材に『魔剣』を鍛造し支配する怪異。実はレジェンダリアからアクシデントサークルでやってきたが、怨念が沈む湖沼を見つけられないまま、妖刀で十七分割されて死亡。名前の語源はアーサー王伝説における「湖の貴婦人」のフランス語「ダーム・デュ・ラック」。
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