剣道少年ビターエンドアフター ~後日談はデンドロで~   作:砂漠谷

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奈落攻略一気に行くぞ

刀巫(シャーマニック・ソード)】ミルキーウェイ・アンティプライド

 

 目の前には、土下座している女性がいた。

 よく知る女性だ。

 ぶっちゃけると、師匠だ。

 

「すまない! 藍牙殿の策略だとは――あの人は家臣を駒として見る傾向にあったが、しかし、それでも使い終わった駒を潰すようなお人とまでは思わなかった……」

 

 師匠の依頼で、俺は断佐を護衛した。しかし、依頼主の上司は、事が終わった後に断佐を処分しようとしていた。

 一行でまとめると、そんな感じだ。この場合、『依頼主』は俺にかなりの不義理を働いた、そういうことになるだろう、理屈上は。

 

「いや……そこまで謝られなくても。特典武具も手に入ったし、断佐君も、藍牙も守って、クーデターを起こした碧乃さんの手の届かない黄河にまで連れて行ってもらったんで」

「お前にはどう詫び、どう感謝したらいいか……そうだ、【夜刀神(ザ・ルナティック)】を譲るというのは……」

 いや、無理だろう。【(ザ・ワン)】系のジョブに才能があるとは自分には思えない。

「いえ、良いですよ。クーデター後の北玄院家からは『お咎め無し』とも言われましたし、それに……」

 特典武具も得られ、さらには、自分が得られる超級職の座も見えた。

 

 黒羽影宗は死んだ。当然、彼が就いていた【大将影(ジェネラル・シルエット)】も空座になったのだ。

 そして、それを知るのは、今の天地にいる人間の中では、北玄院家新当主、北玄院碧乃と、俺だけだ。

 多分阿舎利さんあたりは彼の死を察していると思うが……明確に知っているのはこの二人だけ。

 そして、碧乃さんは俺にこう伝えてくれた。

『刃を向けてきた相手に、味方することはできません。――しかし、護衛を果たし、さらには外道と見なした護衛対象の主君も守るその姿勢は、讃えたい。ゆえ、【大将影】の死は秘匿しておきましょう。あなたに私ができることは、これだけです』

 

 その言葉の意味することは一つ。【大将影】に就け、と彼女は言ったのだ。

 

 転じて、リアル。その日は休日であったため、デンドロの攻略Wikiを覗く。

 【大将影】に関しては、『就職条件不明』とあった。まあこれは仕方がない。黒羽家が、ひいてはそれを裏から操る北玄院藍牙が秘匿していたのだろう。

 しかし、その系統と思われる上級職、【影武者(シャドウ・サムライ)】については、就職条件が分かっていた。

 さすがはwiki編纂部、と賞賛しつつ、俺は再度デンドロにログインし、前提条件であるジョブ、【武士(サムライ)】、【隠密(オンミツ)】、【殿兵(リア・ソルジャー)】の三つを取る。もっとも、【武士】に関してはすでに取っていたが。代わりにリセットしたジョブは【教師】など、非戦闘系職業が主だ。

 まずは、この三つ――正確には後者二つ――をカンストさせる必要があった。<修羅の奈落>の浅層が適正な難易度だったため、パーティメンバーを誘ってダンジョンに出かける。

 

 <修羅の奈落>その入り口付近にて。

「俺は最近この<修羅の奈落>で主に活動してる、つーわけで、後輩だな!」

 スタイリー・ピーカブーは緑のバンダナを外してその赤髪を露わにし、さらにマンバンスタイルにしている。若干の輩感はあるが、よく似合っている。

 その隣には、いつものようにTYPE:メイデンwithアームズの<エンブリオ>、【再醒令嬢 フェネクス】が佇んでいる。

「んでミルキ。お前、超級職を目指してるんだってな。そういうワケでも、俺は――俺様は先輩だ!」

 ミルキのステータスを閲覧すると、そのメインジョブが表示されていた。

 【超博徒(オーヴァー・リスクテイカー)】――明らかに、超級職の名称である。

「おめでとうスタイリー。ま、それはいいとして」

「おいおいおい、それはいいとして、じゃなくね!? そこは。もっと自分事のように喜んで……へぶっ」

 調子に乗ったスタイリーが、隣のフェネクス嬢に頭をはたかれる。スタイリーの身長は170弱だが、フェネクス嬢もその程度はある。彼女は高身長のモデル体型なのだ。

「すまないミルキ、ウチのスタイリーが無礼で」

「まあいつものことだしいいよ」

「ちぇ、まあいいか。<修羅の奈落>について教えるぞ」

 切り替えが早いのも彼の美徳だ。

「ああ、頼む」

「このダンジョンは、常に三つ巴だ。モンスター、<シルエット>、そして探索者。ダンジョンにポップするモンスターと、同じくポップするかつてのティアン強者の<シルエット>が戦っているところに、俺たち探索者が乱入して漁夫の利を得るのが主な攻略法だ。だが、それは逆の現象も起こりうる。モンスターと探索者が戦って、消耗したところに<シルエット>が首を取りにくる、のような状況もありうるっつーことだ。<シルエット>に高度な知性はないが、その程度のハイエナ戦法なら取れる。モンスターが乱入することもあるから、注意だ」

 

「――なるほどな。乱入が基本。万全の状態の敵とは戦うなってことか」

「もっとも、二対一の場合に、一人が回りを警戒、一人がタイマン、をすれば、乱入は避けられる。今回はソレで行こう。警戒担当とタイマン担当は一戦ごとに切り替える。どっちも近接型だし、それでいいだろ?」

「ああ」

 

 頷く。フェネクス嬢は、赤い紋様が刻まれた黒革の指ぬきグローブに変じ、スタイリーの両手に宿る。

 俺は、鞘に納められている【クロサワ】の柄を握る。【クロサワ】は言葉無く、ただ僅かに震えた。

 二人で、ダンジョンに足を踏み入れた。

 

<一日目>

 

 シルエット五体、モンスター七匹討伐。

 適正レベルとはいえ、タイマン前提だとかなり疲れる。<修羅の奈落>の浅層は、十坪程度の部屋がいくつも連なっている領域と、ちょうど迷宮のように折れ曲がった回廊が続いている領域とがあった。

 回廊の幅は広く、数十メートルほどある。そのため、そこで戦闘をしているプレイヤーやティアンも目にした。

 俺たちのメインは前者、十坪程度の部屋に、『部屋のヌシ』たるモンスターやシルエットが配置されている領域。ここでヌシと戦闘する。時折、壁をブチ破ったり、複数ある入り口から堂々と入ってくる乱入者と戦ったりもする。

 

<二日目>

 

 あの戦で得た特典武具、【迫威走駆 オイカジキ】を試してみた。これは、相手との距離を縮める時に限り、高倍率のAGIおよびSTRバフを自分に掛ける黒い革製の足袋だ。足音を消す効果もあり、【隠密】のジョブスキル《気配操作》などと併用すると、高い確率で初撃の不意打ちに成功する。その代わり、通常時のステータス補正はあまり高くないが。

 

<三日目>

 

 少し深層にチャレンジして潜ってみたところ、<UBM>に遭遇。

 名称は【舞踏喰鬼 カニバルリズム】。非常に洗練された日本舞踊風のダンスを一人で踊っている、仮面の鬼だ。

 青い肌に細く長い四肢。その上に薄く筋肉がついている。金属の仮面は、笑った獅子、否、龍のような意匠。

 遭遇直後、踊っている鬼に呆気に取られ、反射的に【クレグレ】から抜刀、延伸させ刀を薙ぐが、刃が空気に絡みつく奇妙な感覚の後、容易く弾かれる。

 直後、鬼の舞の速度が数段増す。ギアを一気に上げたように。

 スタイリーが『オラァ!』と拳を突き出したが、しかし。

 鬼は攻撃の線上にいるはずなのに、まるで蜃気楼のように揺らめき、拳は空を切る。その流麗な動きは攻撃を避けているというより、スタイリーの猛攻すらも舞の一節に取り込んでいるかのようだ。

 一瞬の硬直を突かれ、スタイリーの腹部に吸い込まれるような掌底が叩き込まれた。そこから瓦解するように、スタイリーの調子が悪くなった。その後何合か拳脚を喰らい、スタイリーはデスペナ。その後も<UBM>は穏やかに踊り続けていた。

 俺は撤退し、浅層の回廊でモブを何体か狩ってダンジョンを後にした。

 

<四日目>

 スタイリーがデスペナ中のため、浅層の回廊でモブ狩り。【隠密】はカンストした。

 

<五日目>

 スタイリー復活。彼は【舞踏喰鬼 カニバルリズム】をどうしても倒したいようだ。

『ヘラヘラと笑いながら軽快にダンスしやがって、ムカつくぅ~!』らしい。

 というワケで、再度挑んでみる――前に、少し作戦を練ることにした。ダンジョン近くの個室酒場で顔を突き合わせ、頭を捻る。

 

「まず、相手の能力の整理だ。俺の延伸抜刀は、明らかに普段より鈍かった。多分、遠距離攻撃を減衰させる能力がある」

「あぁ、それに十中八九、時間経過で『自分は速く、相手は遅く』するスキルもあるだろ。相手の動きはみりゃ分かるし、自分の動きも明らかにデバフが掛かってた。デバフが掛かるにつれて<後悔(リグレット)>ゲージが溜まっていったのも奇妙だが……」

 

 首を捻り、一つ思い付いたことを口にする。

「なあ、確かお前の<後悔(リグレット)>ゲージって……」

 

「ああ、俺のゲージは、『ミス』を判定する。つまり、アレは回避か防御かが可能なデバフなはずだ」

「というと、デバフを与えるための条件があるってことか?」

「……多分な。一定時間踊りを止められなかったら、とか……」

 

「……わからん」

「……だよなぁ」

 

 沈黙がしばらく流れる。数分ほど経った後、スタイリーの黒革グローブが光り、女性の形へと変化していく。

 フェネクス嬢だ。

「――本当に、あの鬼に勝ちたいのか? 無視して進んでもいいんじゃないか? <UBM>とは言っても、多分伝説級止まりだぞ?」

 彼女が、この作戦会議の意義を問う。

「それも一理あるが……やっぱ腹立つんだよなぁ。あの仮面、すっげぇ不吉な感じがしたし――それに、あの踊り、な~んか嫌な予感がするんだよなぁ」

 そうスタイリーが答えると、フェネクスは深く頷いた。

「そう。一つ、スタイリー、お前に提案がある。TYPE:メイデンの<エンブリオ>には、特別な機能がある。――『進化の前借り』とでも言うべきか。正式な名称は■■■機能――ああ、認識できないのが正常だ。その前借り機能を起動させれば、アイツ、【カニバルリズム】に勝てる可能性はぐんと上がる」

 スタイリーは、少し眼を瞑って考える。

「――前借りってことは、リスクが伴うんだろ?」

「ああ、無論。一度機能を起動させると、次の進化までの期間が非常に長くなる。今私は第Ⅴ形態、つまり一度起動させてⅥになると、第Ⅶ形態になるのはまず不可能だと思ってもらって構わない、少なくとも、ゲーム内時間で十年以上は進化できないと見てもらった方がいい」

「<超級(スペリオル)>への道が、完全に断たれるってワケか……」

 <超級(スペリオル)>。要は、上級<エンブリオ>のさらに向こう側。プレイヤーを、強者から圧倒的強者に押し上げるキー。最近、ぽつりぽつりと、現実味のある噂話を聞くようになった。

「――創意工夫で、なんとかすべきじゃないか?」

 スタイリーが進化できなくなる――というより、進化するための、"希望"が潰える、というのは……あまり望ましくはないだろう。

 最終的には本人の選択とはいえ、それを勧めたくはない。

「ま、そうだな。俺も最強への道を歩む者の一人だから……なんつってな!」

 ひとしきりスタイリーは笑ってから、作戦会議は続いた。

 

 

 

 会議は踊る、されど進まず。そうならなかったのは、ひとえに俺の<エンブリオ>、【クロサワ】が念話で知らせてくれたからだ。

 

『我が主。【カニバルリズム】のモーション解析に関して報告があります。解析した結果、【カニバルリズム】のスキルの基点は、ほぼすべて、ダンスの"ステップ"に起因することが発覚。一ステップごとにステータスが微量増加し、そのステップの足跡を踏む度に、スタイリー氏の動きが鈍くなっていました』

 

 そうと分かれば話は早い。その旨をスタイリーに伝えて、作戦をイチから練り直した。

 

 

 

 ――この策で。【舞踏喰鬼 カニバルリズム】を倒す。

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