剣道少年ビターエンドアフター ~後日談はデンドロで~   作:砂漠谷

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ただこの国に■いあれ

【舞踏喰鬼 カニバルリズム】。ソレが生まれた時の話をしよう。

 ソレはかつて、天地に生まれた。しかし、当時の天地は不作だったために、名も付けられず、口減らしで奴隷として売られ。

 結果として、カルディナの踊り子奴隷に行きついた。

 しかし彼女には、天性の才能があった。踊りの才能だけではなく、原始的な肉体言語(トシュカクトウ)も、そして手話などに関しても。

 身体表現分野に限定されたハイエンド。彼女は才能を見出され、齢十三にして当時空座だった【舞姫(ダンシング・プリンセス)】に就かされる。

 彼女は舞った。ありとあらゆる富豪・貴族の目を喜ばすために踊った。

 

 その果てに、一人の古龍人――黄河の皇族の下へと辿り着いた。

 

 灰龍人亜(フイロンレンヤ)、と名乗るその古龍人の男は、皇帝でもないのに四字の名を持っていた。

 何処を見ているのか分からない男だった。

 彼女を、【舞姫】を見る時にだけ、世界に焦点が合っていた。

 かつては継承権を持っていたらしく、今の皇帝が気に食わない人間が周囲に侍り、おべっかを次々に口にする。

 それを右から左に聞き流し、ただ【舞姫】の舞を見ていた。

 人からは、痴呆とみられることもある。だが、日常生活は人の手を借りずに行えていたため、寡黙なだけだと見なされた彼は、過激化する取り巻きを振り払うこともせず、ただ、【舞姫】を見ていた。

 一度だけ、灰龍(フイロン)は【舞姫】と床を同じくした。そこで生まれた娘を、龍幻(ロンフアン)と名付ける以上の干渉を、男は行わなかった。

 娘に名付けた時、初めて、【舞姫】が名を持たないことに気が付いた灰龍(フイロン)は、彼女にも名前を与えた。

 幻女(フアンヌ)。そう名付けられた彼女は、この男にはじめて人間性を見出した。

 そして、命を代えても、自分の娘、龍幻(ロンフアン)を守ると。そう決意した。

 

 古龍人が、尋常の人間と子を成した。それは、黄河帝国において大罪であると、彼女は知らなかった。

 

 龍幻(ロンフアン)の存在は、危険因子である灰龍人亜(フイロンレンヤ)と、その取り巻きを処刑するのに十分な口実だった。

 娘の存在は、出生の数年後に【猫神(ザ・リンクス)】によって暴かれたのだという。

 彼らの殲滅を、当時の黄河皇帝は命じた。

 

 古龍人である灰龍(フイロン)、超級職である幻女(フアンヌ)、そして取り巻きにも多くの強者がいた。

 しかし、一瞬だった。数多の封印珠を計画的に運用したその奇襲は、瞬く間に多くの取り巻きを殺した。

 灰龍(フイロン)は、手元にあった神話級金属の高級貨幣に魔力を流して捻じ曲げて仮面とし、最後の贈り物として幻女(フアンヌ)に与えた。

 娘龍幻(ロンフアン)を抱きしめる幻女(フアンヌ)は逃げた。

 逃げて、逃げて、逃げて――しかし、彼女の娘の正体は、皇帝の殲滅部隊に露見した。

 故に彼女は舞った。母として、【舞姫】として。

 武装の鉄扇が砕かれれば、素手で。

 徒手が砕かれれば、天地にいたころに身に着けた陰陽術――《禹歩》で。

 何度日が沈んだだろうか。その果てに――娘を残し、彼女はその場から消失した。

 

 実のところ、それは転移系スキルによる放逐だったのだが。

 【舞姫】を手に負えなかった部隊は、当時の【天仙(マスター・トップ)】と【地仙(マスター・ボトム)】に指示して、彼女を地下密室に閉じ込めたのだ。

 

 密室から脱出しようともがく彼女は、しかしそれが叶わないことを悟る。

 娘と二度と会えぬことを悟った彼女は、ただ舞った。

 

「皇帝に■いあれ、ただこの国に■いあれ」

 

 そう願い、舞い続ける。

 彼女が創った舞の名は――《■■神楽(――――カグラ)》。【巫女】の《神楽舞》、【陰陽師】の《禹歩》、その他さまざまなスキルの要素を抽出、純化させて作ったオリジナルスキル。

 効果は三つ。

 一つは、舞っている間の、術者の生命維持。酸素も食物も水分も要らず、ただ舞い続ける。

 一つは、舞によるリソースの生産貯蔵。舞がリソースを生み出し、舞そのもの(・・・・・)がリソースを蓄える。ジョブレベルにも、魔力や魂力、生命力にも還元されず、ただ舞そのものが厳然たるリソースと化し、それは加速していく。

 最後の一つは、舞の終了時に■■■■である。

 

 舞い続け、舞い続け、舞い続け。

 年月は経つ、幾星霜。

 彼女の肉体は、限りなく《■■神楽(――――カグラ)》に適合していった。ジョブの器は、肉体と融合し、もはや原形を留めていない。笑顔の仮面――《偽・字伏龍面》は顔と融合し、内包する魔力は僅かだが、竜王気に近しいものとなっていた。

 舞からあふれ出た余剰のリソースは、生命の維持の他には、肉体を純化させることに注がれていった。

 思考は舞には不要だった。切り捨てる。

 意識は舞には不要だった。切り捨てる。

 性別は舞には不要だった。切り捨てる。

 

【条件解放により【踊神】への転職クエストが解放されました】

【条件解放により【巫覡姫】への転職クエストが解放されました】

【条件解放により【夜刀神】への転職クエストが解放されました】

 彼女の、否、ソレの耳に、アナウンスは聞こえない。その機能は、すでに切り捨てられていた。

 いつしか、アナウンスすら届かなくなった。人型範疇生物の枠から、外れていた。

 

 数百年が経っただろうか。外の世界では新たなる【龍帝(ドラゴニック・エンペラー)】が誕生していたが、彼女はそれを知る術もなく。

 

 世界に、誰の耳にも届かぬように、アナウンスが響いた。

【(<UBM>認定条件をクリアした人型範疇外生物(モンスター)が発生)】

【(履歴に類似個体なしと確認。<UBM>担当管理AIに通知)】

【……】

【…………】

【(<UBM>担当管理AIより承諾通知)】

【(対象を<UBM>に認定)】

【(対象に能力増強・死後特典化機能を付与)】

【(対象を伝説級【舞踏喰鬼 カニバルリズム】と命名します)】

 

 ソレは、生きたまま、ティアンから<UBM>に変成した。

 舞は、それでも停まらず。オマケのように、舞いながらも、条件反射で戦闘ができる能力が与えられたが、それでもソレの舞は、洗練され、リソースを蓄え、純化し続けているだけだ。

 さらに数百年が経ち――<マスター>が数多、世界に現れ。

 ある一匹の、猫のような獣が、ふとそこに現れた。

 

「お邪魔するよー。うっおすっごいリソース、ジャバウォックこんなの認定したんだったら共有してよ~、ま、<イレギュラー>に至るにはあと千年は掛かりそうかなー? <UBM>としてお役目を果たしておくれー」

 

 そういって、ソレは、ある迷宮に転移させられ――数か月が経った。

 今この瞬間、二人の<マスター>と相対する。

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