剣道少年ビターエンドアフター ~後日談はデンドロで~   作:砂漠谷

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死と孵化

 刀都である。

 ……刀都である。

 地面に無衝撃で落下し、右往左往している俺を助け、【剣士】ギルドに案内してくれた少年に感謝を。彼もNPCなのだろうか。

 

「ありがとう、少年!」

「うん! じゃあ、元気でね、おじさん!」

 

 おじさんという年齢ではないのだが。今月末までは大学生なんだよ(泣)。

 

 剣士ギルド内では、帯刀している和装のNPCらしき人々が、だいたい十数人。刀ではなく布を巻いた斧やら槍やらを背負っている人が五、六人。その世界に息づく戦士たちの装いだ。

 丸腰は俺一人だった。何か持った方がいいのかと思い、アイテムボックスから木刀を取り出す。

 

 ギルドの中の数人が、ややギョッとするような表情。笑うのではなく、狂人を見るか憐れむ表情がいくつか見られた。

 いや、笑うNPCもいた。

 帯刀している剣客らしき女が一人、俺を見て吹き出し、隣のツレらしき男に肘でつつかれていた。

 

「……すまん、何かおかしかったか? 来たばかりで何もわからないんだが」

 NPCに問う。郷に入っては郷に従え、だ。文化のズレは直した方が良い。

 

「いえ、ブフっ、ご、ごめんなさい。わざわざアイテムボックスに大切に入れているのが、ただの木刀だったのが面白くて。えぇと、<マスター>さんかしら?」

 意外と物腰が柔らかかった。質問には是と答える。

 

「武器は常に帯刀しておいた方が良いわよ。刀都は安全な方だけど、それでも辻斬りや野盗の類がいない訳じゃないわ。<マスター>の世界には『武器と防具は装備しないと効果がないよ』って警句があるらしいわね。その言葉にある武士の精神はとても重要よ」

 

 その警句を発したのは武士ではなくゲームキャラの兵士だった気が……まあ良いか。

 

「助言ありがとう。ジョブに就職したいんだが」

 

「【剣士(ソードマン)】よね? あそこの書類を取って、必要事項を記入して受付に申請すれば良いわ。剣士として、精進しなさい」

「押忍!」

 おっと、つい反射的に押忍が出てしまう。剣道部員の性だ。

 

「おっ、意外と良い気迫ね。才能ありそうだわ、ツバ付けとこうかしら」

 

 どう反応すれば良いのか。

 

「……やめろ」

 

 隣の男性がボソリと呟く。寡黙そうな彼でも流石にライン越えだったようだ。

 

「ともかく、ありがとうございます」

 

 感謝を述べ、書類を取って受付に渡す。必要事項? 文字が分からない。

 代筆をしてもらい、左手の甲にある宝石卵を見せる。

 しばらくして手続きが完了したようで、奥の部屋に案内され、ジョブクリスタルに触れる。

 無事【剣士】Lv1になれたようだ。ほんの少し身体が軽い。これがステータス加算か。

 

 ジョブに就職し、早速、攻略サイトで調べた初心者向けの狩り場に行く。萌々手を捜索するためにも、ある程度の強さを身につけなければ。

 

 <刃稲穂自然水田>、文字通り、野生の稲が生えている水田だ。水田が自然に出来ているのもゲームならではである。

 しかも、ただの稲ではなく、日本刀のように鋭い葉を持つ稲。畝や道路から水田に叩き落されると、身体はずたずたになることうけあい。収穫期は葉が柔らかくなり、稲を刈ることができるようになるのだとか。

 

 畝や小路があるので、そこを慎重に歩く。周囲にモブモンスターは見当たらない。初心者狩り場だと聞いたのだが。

 慎重に歩いていると、襤褸を身にまとい、編笠を頭に乗せ、刀を佩いた男が、あぐらをかいて十字路の中心で座っていた。

 編笠で顔はあまり見えない。

 

「やぁ、そこのご老人。どうした?」

 

 不気味な老人。だが、敵ではないかもしれない。まずは質問から。

 

『儂はぁ、喃。誰だったかぁ、喃。ああ、野盗じゃよ、野盗ぅ。【剣聖】の職についておる。追いはぎ、辻斬り、なんでもしたぁ、喃。野盗で、ええわい』

 

 掠れた声。彼の口からではなく、腹から喋るような声。喉を震わせているのではなく、腹に蟲を飼ってそれが鳴いているような錯覚を抱く。

 だが、彼の自称は野盗だった。野盗といっても、あきらかに異常な出で立ちだ。

 

 ゆらり、と彼は立ち上がる。

 瞬間。俺は過去のあらゆる記憶を探っていた。あの立ち居振る舞いは何だ? 何と似ている? 見覚えはない、だがこの感じは知っている、否()()()いる。

 確か。かつて見せてもらった、萌々手の祖父の立ち姿に似ている。

 いや、似てはいない。思い起こさせるだけだ、それを。

 

 これは、()()()か?

 

 瞬間。ぬるりと刀の間合い(シャテイキョリ)に踏み込まれる。

 速いし早い。なにより迅い。とっさに木刀を構える。

 抜刀を視ることはできなかった。

 納刀される、直前。

 

【邪刃操乱 クレグレ】

 

 一瞬の表示が見えて、首から下の感覚がなくなる。

 頭が地面に落下し、口の中に土が入り、土の味を感じた。

 直後に、視界は暗転。

 

 現実のベッドの上に、戻ってきた。

 

「――マジかぁ」

 

 プレイヤー、ミルキーウェイ・アンティプライド。ログインして二時間足らずでデスペナルティ。

 いや、マジかよ。

 

 

 

 久々にリアルでも木刀を振ってみたり、途中だった引越し作業のうち、荷物の梱包を終わらせたりして、デスペナルティであるログアウト禁止期間の24時間を潰して。

 

 もう一度、ログインして戻ってきた。ログイン地点は、刀都に落下した場所だった。

 

 今の俺には実力が足りない。高校時代より剣の腕はかなり鈍っているし、ゲーム的なレベルアップも必要だ。武器も木刀よりは良いものにしたい。

 

 手っ取り早いのはレベリングだが、それと並行して、剣の腕も磨き上げたい。そのためには、道場に行く必要がある。

 

 ――強くなって、あの妖刀の持ち手を、倒せれば。

 思い出す。滑らかな踏み込み。目で追うことはできなかったが、剣の閃き、その残像だけは視界に入っていたこと。納刀の残心。

 そして、俺の首が落ちる瞬間。地面に頭が落下した衝撃。土の味。

 

「……悔しいなぁ、でも」

 

 綺麗だったなぁ。

 

 そして

 

「……できるようになりたいなぁ」

 

 ああ、アイツなら。萌々手なら目で追えて、すぐに真似できるのだろう。

 俺はできない。剣道の秀才であっても、剣の天才ではないから。

 だから、鍛錬するしかないのだ。あいつの隣に並べなくとも、あいつの背中を見ていられるように。

 強く誓う。瞬間、左手の甲が、熱を帯びる。

 

 そこを見ると、すでに熱はなく、甲に埋まっている宝石もなかった。

 あるのは、インスタントカメラが、刀の写真を出力しているような紋章。

 そして、左手の甲から零れ落ちたように、地面に太刀が突き刺さっていた。

 

 太刀の外見は、鍔の部分が、レンズ部分をくり抜いたカメラのように太く、四角く。

 そして、刀身に金属光沢はなく、白と黒、そして灰色で構成されたモノクロの刃紋がうねっている。

 銘は【残照録刀 クロサワ】と、表示されていた。




初手死亡こそデンドロの醍醐味

【残照録刀 クロサワ】
TYPE:アームズ
紋章:日本刀とその持ち手の写真を出力しているインスタントカメラ
能力特性:モーション記録&再現(詳細は次話)
モチーフ:戦後日本の伝説的映画監督"黒澤明"。
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