剣道少年ビターエンドアフター ~後日談はデンドロで~   作:砂漠谷

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ネットミームマシマシ、シリアススクナメです。


啜る~! 殺すぞ~!

大将影(ジェネラル・シャドウ)】 ミルキーウェイ・アンティプライド

 

 黄河帝国に渡り、スタイリーと別れてしばらく後。俺は、首都<龍都>で、遅めの昼食のために料理店を探していた。

 料理店や屋台が並んだ、まさに中華街といった風情の街道。香辛料の匂いも香る。

 

 帝国の土壌などが中華料理に使う香辛料栽培に適していること、国民の気風が麻辣味などの中華風の味付けを好むこと、数百年前の<マスター>であるクッキング・キャット(おそらくテストプレイヤーだろう)がリアルの料理文化を輸入していること。

 この三つの要素によって、黄河帝国では本格的な中華料理が食べられる。【厨師(チューシー)】など、黄河特有の料理系ジョブの影響もあり、「デンドロで食事を楽しむなら黄河」という目的で黄河を拠点とするプレイヤーも多い。

 

 ふと、黄色い看板が目に入る。特に飾り気なく、ただ「Ziro」と、黒字の英語で看板に書いている。

 しかし、列は外にいる人だけで十数名。それほどまでに食べる価値があるのだろうか。気になってくる。

 期待しながら、俺は最後尾に並んだ。

 

 待つこと三十分ほどだろうか。ぐぅと腹が鳴る頃、ようやく席に着けた俺は、注文しようとしてメニューがないことに気が付く。しかし、目の前で調理は進んでいく。店内は狭く、専業のウェイター・ウェイトレスはいないようだ。

 違和感。

 水は先に出されたので、それを飲んで喉を潤していると、隣の席の男性にラーメンが届けられた。

 そのラーメンは、大きな器に、麺が見えないほどもやしがこれでもかと載せられ、その上に背脂が掛けられていた。

 男性は、鉱夫のように器の底から麺を発掘し、もやしの上に載せてから啜り始める。

 

「ああ、そういうこと」

 

 看板と内装に感じていた違和感に気が付いた。「そういう」のもデンドロ内で楽しめるのか。メニューがないのも、種類が一つしかないなら不要であるということを意味している。

 

 大して待たされることもなく、望みの質問が来た。

 

「お客さん、ニンニク入れますか?」

 

 ここでは、こう答えよう。

 

「全ナシで」

 

 腹は減っているが、最近は胃にいきなりモノを入れることに快楽を覚えるタイプではなくなってきていた。

 

「……<マスター>のお客さん、店の奥に来てもらっていいですか」

 

 え?

「え?」

 

 手の甲にある紋章を見られ、ニンニクについて尋ねてきた女性店員に左手を掴まれる。何が何だか分からないままに、厨房の奥……そのさらに奥にある、鉄の扉の前に連れて行かれる。

 

 どういうこと?

 

「あの……ここ」「分かっていると思いますが、今の時点で質問は一切お受けできません」

 

 有無を言わせぬ口調だ。彼女はそれ以降口を閉ざした。

 

 扉はすぐに開いた。中は暗い。おそるおそる扉の中に足を踏み入れると、ガシャンと扉は閉じた。

 不味い、閉じ込められたか。喉が鳴る。反射的に、紋章の中から【クロサワ】を顕現させ、鞘【クレグレ】に納刀する。

 手は柄と鞘に、いつでも抜けるように……と思っていると、ライトが付き始める。

 明るい部屋は十坪ほど、かなり広々としている。内装はコンクリートの打ちっぱなしの、近代的な部屋だ。その最奥には、異形の人影が。

 本来の腕が生えている部分のやや下、脇下あたりに、それぞれもう一つの腕が生えている。

 全体的には、女性的な丸みも感じさせる。サラシで包まれた胸部の上にそのままオーバーオールを着用した、長身の筋肉質。ただ、副腕だけが異彩を放っていた。

 その体表には、呪術的な紋様があり、それは顔にまで及んでいた。美しいが凶暴な相貌。ある意味でキラースマイル。

 

「ようこそ、我がクラン、<ジロリアン・オールウェイズ>に。加入試験の希望者ということで、よろしいな?」

 

 ……何やら、重大な誤解が生じているようだ。

 ここはきっぱりと否定する。

 

「違いますけど……」

 

「え?」

 

 ピタリ、と四腕を持つ女性の表情が硬直する。

 俺を連れてきた女性店員の動きも止まった。

 

「……シアリス」

「ごっ、ごめんなさい! 確定だとばかりに……」

「あ~、いや、私のミスだ。『全ナシ』を普通に注文する客が、いる可能性を思い付くべきだった」

 シアリスと呼ばれた彼女は、俺の視線から目をそらし、半歩下がる。

 

 ――推測するに、『全ナシ』を合言葉にしたクラン加入試験がここでは行われていた、ということだろうか。

 

「概ね、君の推測通りだ。"我らの門戸を叩く者は、我らが嘲笑うような注文をせよ"。店内のチラシに書いていたのだが……もしや、無関係な<マスター>か?」

 どうやら、嘲笑に値する注文方法だったらしい。あまり愉快ではない。

「何度かこういう店はリアルで行ったことがあるが、全ナシも快く受け入れてくれたぞ」

「まあ、資本系はそうだろうな……いやいい。こちらとしても失礼した。出て行ってもらって構わない」

 

 こんな些事に構ってはいられないのだが。

 少し、ほんの少しだけ、苛つきがあった。腹が減っていたということも要因としては大きい。

 

「待てよ。30分も並ばせておいて、何も出さずに帰れって? あまりにも客を、いや他人を舐めすぎじゃないか」

 

 鯉口を切る。自分でも、天地の喧嘩っ早さに随分と親しんでしまったものだ、と呆れるが。この女性店員も、目の前のクランマスターらしき四腕の女性も、左手に紋章があることは確認している。

 空腹によって理性が萎びていく音を聞きつつ。切ってしまった鯉口を戻す訳にもいかない。何とか、理性的に剣を振るう理屈を立てる。

 

「俺は天地から来た。野良試合でもどうだ。アンタが勝てば、そうだな。アンタのために一度だけ剣を振るってやる。負ければ、人探しを手伝え」

 

「ウチはそんなサービスやってない。……と、言いたいところだけどね。私のクランは今、絶賛戦力募集中だ。君も相当やり手だろうが……"勝てば"いいんだな?」

 

「応。いざ、尋常に」

 

 《影の軍団(シャドウ・ウォーリアーズ)》を、自分の影の内側で待機状態にさせる。妖鞘【クレグレ】にSPをチャージ。

 準備は万端。

 

「勝負ぅ、おっと!」

 

 抜刀。しなるムチのような怨念金属の刃が四腕女に迫る。出刃包丁を取り出していた店員の女に、《影の軍団》で生成した戦闘タイプの影分身が殺到する。

 四腕の女は、左上腕の紋章から生み出した大剣を右上腕で握り、それを弾く。店員の女は出刃包丁で影分身らの首筋を切り裂く。

 

「随分急じゃないか!」 スクナは笑う。

「常在戦場ォ!」 俺は吼える。

 

 怨念金属を刀剣本体から振り剥がし、四腕の女に走り寄る。【迫威走駆 オイカジキ】のスキル、《襲歩威迫》で、対象に迫る時の速力膂力を跳ね上げる。

 

「速いね!」「お生憎様!」

 

 相手の大剣と俺の【クロサワ】の鍔迫り合い。同時に、相手の影と俺の影が重なった。

 今。

 相手の背後、地面からぬるりと現れる、三体の奇襲タイプの影分身。その手には、複製された【クロサワ】。

 師匠直伝、<殺冬>には、スキル《背向殺し》が乗っている。

 

()った!」

「いんや」

 

 大剣の一部が縦に割け。右の脇下の副腕でその割れた大剣を背後に遣っていた。

 三つの【クロサワ】、三つの<殺冬>、三つの《背向殺し》。それを、副腕一本で、微動だにもせず防いでいた。むしろ、分身の方が姿勢が崩れるほどだ。

 

「改めて名乗ろうか。【巨剣王(キング・オブ・ギガントソード)】、量麺スクナ。呪いとかは使わないから安心してくれ」

「――【大将影(ジェネラル・シャドウ)】、ミルキーウェイ・アンティプライド、随分なSTRだな」

「ま、剣を持つのに困らない程度にはある」

 

 さらに四体の分身を生成。今度は腕を切り落とす狙いで放たれる小手落とし<失秋>は、四つに別けられた大剣に弾かれる。

 否、もはや長剣と呼ぶべきだろうか。四つの長剣を携えた、女鬼神。俺が抱く印象はそれだった。

 

「こちらも無礼をしたが……少し場所を変えないか? 私たちの実力じゃ、壊してしまいそうだ」

 

 女鬼神からの提案に、少し頭が冷える。空腹から来る怒りに身を任せて抜刀って、天地でもよほどのやくざ者しかやらないぞ。

 周囲を見ると、抜刀の斬撃跡がコンクリートに刻まれている。怨念金属は怨念に還元されているが、それでもやや空気が悪い。

 自らの振る舞いを振り返ると、恥の感情が湧き出てくる。それでもポーカーフェイスのままに、刀を収める。

 

「……いや、いい。短気が過ぎた。こちらも謝罪したい。野試合は……続けるなら、腹が膨れてからでいいか?」

「ふふ、いいとも。今度は全ナシとは言わないでくれよ。腹もかなり空いているだろう」

「ああ、全マシで頼む。高校時代に戻ったつもりでドカ食いしてやる」

「シアリス! 頼む!」

「あっ、はい!」

 

 店員の女は、厨房の方に駆け込んだ。

 

「……量麺、スクナさん、だったか。アンタはラーメンを作らないのか?」

「作れなくはないが、戦闘ジョブで埋まっていてね。センススキル持ちに味では負ける。もっとも、回転率の話になると、この四腕に敵う者はいないけどね!」

 

 センススキル持ちに、調理速度では勝てるというだけでバケモンだと思うが……口には出さない。

 ラーメンが来るまで、スクナさんの話を聞いた。キャラメイクで副腕を理論上動くように付けたが、最初はほとんど麻痺状態で苦労したのだという。

「いや、副腕でラーメンを啜れるようになるまで酷く手間取ったものだよ」

 リハビリを経て、ようやく副腕が動くようになったら、<エンブリオ>の分割数が増えたとか。

 二郎好きのメンバーを集めてこのクランを作ったら、案外大きくなったとかなんとか。自分は食材調達担当だとかかんとか。

 

 興味深い話を聞いているうちに、全マシのラーメンが届いた。スクナさんが店の表に出ると怖がられるとのことで、机と椅子ごと持ってきてくれた。

 二杯分だ。一杯はスクナさんが啜るらしい。

 では。

 

「「いただきます」」

 

 割り箸を割り、黙々と啜る。

 ニンニクの匂いが鼻に刺さった。

 彼女は八分。俺は十分強で、暴力的に太い麺を啜り、暴力的に多いヤサイを貪り切った。

 満腹感が脳を刺激し、苛つきは砂上の楼閣の如く崩れ切った。

 

「いやぁ……申し訳ない。誤解による事故を無礼だとするほど堪忍袋の緒が短いとは、自分でも思っていなかった」

「こちらこそだ。待たせた挙句帰れは、確かに無礼ではあった。シアリスの不意打ちは戦術の範囲内だとしても……全ナシのコールを馬鹿にするのも身内の悪ノリすぎて良くないね。あの合言葉は変えよう」

 

「……で、やります?」

 満腹で、戦闘意欲も失せたのだが。

「いや、フレンド交換さえしてくれれば。依頼があれば手紙アイテムで連絡する」

 

 正直、それが助かる。まず、萌々手を探すのが優先である。

 彼と連絡は付かない。しらみつぶしは効率が悪い。何か黄河で名を挙げたら、向こうから近づいてくれるだろうと考えている。

 決闘の約束はしているのだ。萌々手が、俺の居場所に気づいてくれればいい。

 

 スープだけ残る丼(スクナさんは完マクしたようだ)に向かって、両手を合わせる。

 

「「……ごちそうさまでした」」

 

 その後、彼女はふと気が付いたように俺に尋ねる。

 

「……そうだ、ウチのパトロンが、例の噂の正体を調べているらしいんだけどね」

 

「例の噂……? ああ、あの『流れの治癒師』ですか?」

 

 流れの治癒師。黄河の各都市の、特に貧民窟スラム街の類に現れ、『無料で治癒する』と称して、光を浴びせる。

 すると、<流行病>が一日も経たずに治るという、あの噂。

 正直、俺は胡散臭いと見ているのだが。

 

「特に、情報は知りませんね。友人にも聞いてみます」

 

 そうして、一旦ログアウト。タイムラインには、<流行病>の解説動画がちょうど流れるところだった。

 SNSのDM(ダイレクトメッセージ)で流れの治癒師について尋ねてみると。

 

 ウミネコ曰く。

「知らないです! 今お医者さんのお爺ちゃんと、お孫さんとその護衛の<マスター>さんと一緒に各地を放浪中です! お金を取ってるので確実にお爺ちゃんではないです!」

 

 ウミネコは随分面白げな珍道中をしているようだ。会う機会もあるかもしれない。

 

 スタイリー曰く。

「それ、たぶん俺だわ。特典武具のスキルで治癒してる」

 

 え?




量麺スクナさんは某呪いの王とは全く関係ないキャラクターです。
裸オーバーオール四腕古代紋様美女は性癖ですよ。

【巨剣王】(キング・オブ・ギガントソード)
剣巨人系統超級職。スキル特化型ではそんなにない。【破壊王】ほどではないがレベル上昇時のSTRの上がり具合がかなり高い。

エンブリオの名前はまだ出ていないが、あらゆる側面から装備コストを上げ、その分攻撃力・攻撃範囲を向上させる狂気のエンブリオ。
【剣巨人】の《ジャイアント・マニピュレーター》と【闘士】系統の《装備枠拡張》で増やした武器装備枠を、本気出せば全部食い尽くせるリソースイーター。
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