剣道少年ビターエンドアフター ~後日談はデンドロで~   作:砂漠谷

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「おまたせ!一話更新しかなかったんだけどいいかな?」



剣客、皇子、悪役令嬢の三者。
武者は、未だ居らず。


三者三様武者無用

【隻剣王】ピーチハンディ・キャップ

 

 <流行病>が黄河で流行っている。

 その事実を重く受け止めた藍牙は、断佐、俺、ついでにウミネコを連れて、黄河の各地域を巡っては人々を治療していった。

 符呪による治療ではうまく行かないのが<流行病>。黄河は、【薬剤師(ファーマシスト)】そして【医師(ドクター)】がそこまで多い国ではない。専業の医師ではない藍牙でも、引く手あまただった。

 

 金のない貧民には数リル程度で。金のある富裕層には十万リル前後で治療を提供し、旅の資金を稼ぎながらであるが。

 

 ここは、黄河の地方都市。首都<龍都>から、馬車で一日も掛からない程度の距離にある鉱山都市だ。

 

 スラムに近い場所の道端で、天幕を広げ、簡易的な診療所を設置する。ここらへんは俺とウミネコの仕事だ。

 藁のベッドには、咳き込み、痩せ細る患者が横たわる。薬草と消毒用の蒸留酒の匂いが混ざって、マスクの上から鼻をつまみたくなる。

 

「はいはい、お薬ですよ~」

「げほっげほ、苦……」

 

 断佐が、調薬した漢方を患者に無理やり飲ませている。苦い薬は皆嫌なのか、診療所では一番の嫌われものになってしまった。

 とは言っても、看護師役をしているウミネコ、無免薬剤師をやっている断佐と違って、俺は会計係。大して忙しくはない。

 

 ……面倒な客が来なければ。

 

「では、3万リルになります」

 

「はぁ!? なんでだよ。さっきの患者は百リルだったっつーのに」

「支払い能力に応じて価格を調整しています、ご了承ください」

「んだとぉ!?」

 

 身の程を知らない輩だ。面倒だ、斬っちまおうか……そう考え、水晶の剣の鍔に手を掛け、殺気を出すと、それだけで面倒な客は金を置いて退散してくれる。

 この手が効かなかった相手はあまりいない。やはり、殺気への感度が<マスター>より鋭い。危険が溢れるファンタジー世界で生きている人々だ、と実感する。

 

「ふむ、これは……」

 

 診察室にやってきた患者は、珍しいことに<流行病>の患者ではなかった。すでに『流れの治癒師』に治された後に、鉱山での事故で骨折した患者だった。

 

「そうなんだよ。治癒師様は、俺のことを治してくれてな、しかもタダで! ……ここをタダにしろって言ってる訳じゃねぇよ」

 

 俺の一睨みで、ティアンの患者は黙る。

 しかし、患者を診察するにつれて、藍牙が首を傾げた。

 

「傷の治りが早い。それに……何か、妙な力を感じる。のう、ピーチ殿。お主、【ドラグジョーズ】討伐時の特典武具持っておったよな。少し見せてくれんか?」

 

「ああ、いいぞ。装備はできないと思うが……」

 

 そういって、左手の中指に装着している。【鮫牙契環 ドラグジョーズ】を見せる。

 これは【鮫竜王】からドロップした特典武具故に、《竜王気》の気配に、嗅覚的に反応する力が宿っている。

 

 藍牙は、俺の左手を患者の脈に近づけさせ、その状態で患者に《触診》を行う。

 牙環の内側が、かすかに熱を持つ。

 

「血の巡りが良い、というより……」

 患者の血の巡りはよいが、それだけでは、この内側からせりあがる力は説明がつかない。

「バフにしては永続的に過ぎるの。内部から発生しているものじゃな。この【鮫牙契環】が反応している、すなわち……」

 

 処置を終え、患者を帰す。その後、「本日の診療は終了」と天幕の入り口に看板を立てかけ、調薬中の断佐を除いた三人で顔を突き合わせる。

 藍牙は、俺とウミネコにようやく口を開いた。

 

「あの患者、《竜王気》を持っておるようじゃ」

 

「やはりか」「は、え、どういうことです!?」

 

 助手代わりのウミネコは、俺の代わりに驚く。

 何せ、相手は特筆すべきジョブなどには就いていなさそうな、一般のティアン。竜王由来の特典武具なども持っている訳はない。

 

「――おそらく、『流れの治癒師』。それによる治療が、極微量の《竜王気》を与えるものなんじゃろう」

「……まずくないか? それ」

 

 深く考えなくても分かる。《竜王気》、それは黄河にとって特別な意味を持つ。

 なにせ、その力を振るえるのは、国の象徴であり最大戦力でもある【龍帝(ドラゴニック・エンペラー)】だけなのだから。

 神聖で不可侵な、権威の源。《竜王気》は、国民からそう認識されている。

「皇帝の勘気に触れれば、治療を受けた患者は投獄もありうる。下手すれば処刑されかねんじゃろうなぁ」

 

 倫理観はやや近代寄りとはいえ、この黄河帝国は未だに専制君主制。皇帝の公的な意志表明であれば、それは絶対だ。

 

「助けた人まで、罰されるんですか? 『流れの治癒師』だけじゃなくて?」

 ウミネコの素朴な疑問。それはまさに道理なのだが。

 

「罰さねばならん、と思うものが出てくるじゃろう」

「ああ、権威ッてのはそういうもんだ。皇帝が動かずとも……」

 俺は、さっき百リルを払って帰った母親の背中を思い出した。

 あれも、断頭台に乗るのだろうか。それとも、民衆の手で木にでも吊るされるか。

 

「じゃあ、『流れの治癒師』を止めないと!」

「それは無理じゃろ」

 焦るウミネコの問いに、藍牙が統治者としての経験を以って答える。

 

「『流れの治癒師』は、おそらく<マスター>じゃ。このような特異な能力を持つ<マスター>を止める方法は……」

「ああ、『指名手配』しかない。そして、指名手配されたなら、すでに患者たちの存在が皇帝の勘気に触れた後、ということ。もう止める意味がない。――まあ、俺たちが指名手配されることを覚悟で、患者たちを匿えば話は別だが」

 

 ウミネコは、頭を抱える。このような事態の対処への経験はないだろう。

 俺は、藍牙という雇い主の下で、そして、リアルでも剣客時代に何度か、直接の殺人ではないにしろ、似たような仕事をしたことはある。その経験から、この老獪な男はこういう事態に対処ができると知っている。

 

「儂に策がある。何、黄河皇室には少しコネがあっての……、ま、ホットラインが生きていればの話じゃが」

 

 藍牙は手紙を取り出して、万年筆ですらすらと文章を書いていく。それが終われば、封蝋をして封筒に入れた。印章は、北玄院家のそれだった。

 次に、彼は【ジュエル】を取り出す。ジュエルから解放したのは、一羽の蝶。

 

「【ストレージ・タイリクアゲハ】。この手紙を収納して、"例の場所"へ行け」

 

 藍牙の"糸"が仕込まれ、従順になったモンスター。藍牙はこういう手段を常套的に用いる。

 蝶は、手紙をスキルで収納し、空に飛んでいく。

 ひらひらと羽ばたいて、俺たちの視界から消えていった。

 

 

 

【???】 紫龍(ズィロン)

 

 ズゾゾ、と麺を啜る音が暗い部屋に響く。

 符呪式の卓上ライトの灯りだけが、人影を映し出していた。

 

「……うむ。スクナたちの新作、これは良い。醤油ベースとアブラに。柑橘系の酸っぱさはかなりいい。すだちの酸味の立ち上がりが、スープの後味と同時に来て、新しさを感じさせる。スープの乳化も素晴らしい。攪拌がしっかりされている。――このレシピには満点をやらないといかんな」

 

 カロリーの暴力を啜っているとは思えない、痩せた体躯に、ややこけた頬。

 その瞳は、縦に細く、部屋の暗さに比して黄金に光り。彼が古龍人であることを示していた。

 

 ヤサイまで貪り終えた彼は、外気を吸おうと窓を開ける。

 ぼんやりと月を眺め、ズィロンは物思いに耽った。

 

ファロン(・・・・)よ……。なぜ俺たちは、自由になれないんだろうか。俺の不手際で、心だけでなく身体まで檻に……クソ、食い過ぎた、頭が回らん」

 

 ひらひらと蝶が舞い、窓に近づいてくることを悟ったズィロン。手で払いのけようとするが、その蝶の翅模様に見覚えがあった。

 

「……満腹感を台無しにしてくれた。久方ぶりだな、天地の老狸」

 

 蝶を無造作に握りつぶす。そして、その蝶からドロップした手紙を、もう片手でつかみ取る。

 

 封蝋を剥がし、中の手紙を通読する。

 縦に裂けた瞳孔が、さらに細まり、呼吸が一瞬だけ止まった。

 彼は、手紙を握りつぶし、マジックアイテムで火を点け、灰へと変じさせた。

 地面に落ちた燃えかすを足で踏み潰す。彼は、息を深く吐いた。

 

「《竜王気》、探していたものが、最悪の形で見つかってしまったな」

 

 部屋の明かりを付ける。

 そこは、皇族の部屋とは到底思えぬほど、金属部品や呪符が、大まかにだけ分類されてそこかしこに積み上げられていた。

 

 その中央には、明らかに完成途上に見える、巨大な黒鉄の筒。見方によっては砲にも見えるが、ところどころに接続された、人の手首ほどの太さの黒いコードは、黒鉄の筒を粒子加速器のような実験機材に思わせた。

 

 コードを掴み、彼は呟く。

「だが、こいつに臣民の血肉を食わせる訳にはいかない。安全な抽出方法を探すしかないな。――少しだけ待ってくれ、ファロン。こいつで、【ズィークフリート】で。俺たちは自由になれるはずだ」

 

 コードの端子は、三つ首の竜のような針だった。

 彼は、紙に何かを書き綴った後、それを機械の鳩の足に結ぶ。

 この城から出ることは許されていないが、それでも彼にできることはあった。

 

 

【???】 華龍(ファロン)

 

 小さなシャンデリアで照らされた部屋で、布団をかぶる。なぜこうなったのかを、思い出す。

 おばあ様は、いつも私にこう語りかけた。

 

「私たちが座しているのは幻の楼閣。いずれ、私たちは真なる楼閣を奪還するのよ」

 

 皇族でなく、しかし古龍人であるという矛盾。その苦しみは、"あってはならない"。

 本来、あるべき姿に戻らなくてはならない。そう、教えられてきた。

 

「だからこそ、今の皇族は殺し尽くさなければいけない。私たちが、真なる古龍人として認められるために」

 

 そういうものなのだろう。言葉の意味を理解せず、受け入れてきた。

 疑問が生じたのは、彼と出会ってから。

 

 黄河首都、龍都には、五年ほど前から、『鋼の鳩』が飛ぶ。

 西の国、ドライフ皇国から輸入した技術を用いた、式神のようなものらしい。

 その鳩には、紫龍(ズィロン)、第二皇子の名前が刻まれていた。

 おばあ様に黙って、鳩にこっそりと語り掛けた。すると、驚くことに、その鳩は言葉を返してくれた。

 

『その瞳……君は皇族かい? 俺の姉妹に、君のような娘はいなかったように思うんだけど』

 

 私は、返答することができず、咄嗟に鳩を壊してしまった。

 しかし、彼は怒ることなく、再度鳩を差し向け、私について尋ねてきた。

 

「どうして、私のことを通報しないの?」『君は悪いことをしていないじゃないか。鳩は……いきなり話しかけた俺が悪い』

「これから、悪いことをするかも」『その時は、俺が君を叱るよ』

「どうしてそんなに親切なの?」『普段はそこまででもないさ。君が他人とは思えないだけ』

「そう。――実はね。おばあ様が、私に"悪いことをしなさい"って言うの」

 

 自分の正体を濁しながら、祖母について、身の回りのことについて、相談や雑談をする。

 風の噂を聞くに、第二皇子と私はそう年が変わらないのだという。

 それなのに、声色や喋り方が、そして価値観が大人びていた。

 少しずつ、私は、顔も知らない少年に、惹かれていった。

 調べようと思えば、彼は私の正体を知れる立場にいる。それでも、私のことを問い詰めることなく。

 ただ、一人の少女として、私のことを扱ってくれた。

 それが、とても嬉しかった。幸せな時間は、暦が二十回ほど捲られるまで続いた。

 だけど最近。ほんの数週間前だ。

 私と彼の関係が、おばあ様にばれてしまった。

 

 いつもの路地裏で、膝を曲げて鉄の鳩と語っていたあの日。

 背後から、肩を叩かれた。

「何を……しているのですか? お嬢様」

 【牙神(ザ・ファング)】、(ルオ)さんの声だった。超級職の気配遮断に、気が付けるはずもない。

 咄嗟に鳩を隠そうとするが、その前に彼に奪われた。

「そっ、それは……!」

「香主様に、お伝えしておきます」

「……っ!」

 

 私は、何も言えず。

 鳩の届かない地下に、ここ数週間は軟禁されている。

 ごはんは美味しい。布団は柔らかい。そんなことは何一つ、私の心を癒さなかった。

 気分は最悪だった。私と彼の関係を、おばあ様が利用しない訳はない。私を人質に、内通を迫るくらいはするだろう。

 クーデターの計画もかなり進んでいるらしい。『流れの治癒師』という輩のお陰で計画に進展ができたのだとか。

 

 私は、何をしたらいいのか分からない。

 頼れる教育係だった【大霊道士(グレイト・ソウルタオシー)】の(チャン)さんは、私に甘すぎるとされ、カルディナ支部に左遷された。

 私をここに閉じ込めた切っ掛けとなった【牙神(ザ・ファング)】、(ルオ)さんは、当たり前だが頼れない。

 他の有象無象は……正直頼りない。自分の懐具合か野心を満たすことに注力している奴らばっかりだ。

 

「……死なせたくないよ。私の、皇子様」

 

 枕を被って囁いた言葉は、誰にも届かない。




華龍に関してはがっつり原作改変入っております、ご了承ください。
1年半以上も見逃してたのは教育係・張の節穴なのか、意図的な見逃しなのか。ドッチナンダロウネ

就活と修論構想で蟲滅しておりますので、更新速度はご期待なさらず。この話も書き溜めの修正です。
Codexが設定を整理してくれていますが、それでも月一あるかないか、程度で見ておいてください。
本編執筆は基本手作業でやっておりますので、AI利用のタグは本作には付けません、これもご了承ください。
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